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H4-3



「そう言えば、大事な資料があるから入るな!って、姉上に言われていた部屋がある。森の中にぽつんとあったんで、俺の秘密の遊び場にしようとして怒られた部屋だ。調べてみるかい?」


そう言いながらクリシュナは、道無き道を歩いて行く。


「アイツが本物の姉上だったら、もっとこの森を大事にした筈だ……」


メグミはクリシュナの言うことが理解出来た。精霊の姿が見当たらないのだ。


「森が怯えている……」


そう呟くと、悲しそうな目をした。


しばらく進むと、蔦が茂る中にそれはあった。石の壁には苔が産し、人が立ち入っていない事を示している。錆び付いた扉を開けると、黴の臭いが充満していた。


「酷いな……」


まどかは火魔術を灯す。壁には火山噴火前の、まだバラバラだった島の地図が貼られている。壁の書棚には同じ背表紙の本が並び、その全てが、島の歴史書だった。皆は手分けしてその本に目を通す。その全てが同じ筆跡のようだった。


「姉上の字だ……コレ全て姉上が調べたり、書き写したりしたものか……」


クリシュナは少し懐かしむような表情を浮かべ、その文字をなぞった。


しばらく読むと、メグミが気になる一冊を見つけた。それは幻の島の話……


それは漁師達に伝わる話。魚を求めて海に出て、普段誰も近寄らない海域に入ると、瞬く間に大漁で、舟は魚で埋まった。この海域の話が漁師達の評判となり、その漁場を目指す者達が増えたという。

ある霧の立ち込める早朝、男達は連れ立って舟を出す。何時ものように大漁で、島へ戻ろうとした時、霧の向こうに見たことの無い島があった。男達はその島に漕ぎ着け、霧が晴れるまで上陸して休憩をとることにした。


男達はこの島を 名も無き島と呼んだ。

朝日が登り始め、一人の男は、村で用がある……と、先に帰った。その日の夕方、名も無き島に残っていた男達から、不思議な話を聞く。


島の奥から、美しい女性が現れて、手招きをしたと。それは言わば人外の美しさ、妖しく光る唇に、興奮と恐れを抱いたと言う。その場は舟で逃げ帰り、村に戻って来たが、あれは魔物に違いない!と、口々に言った。


話はそこで終わらなかった。男達はその日から、名も無き島に通いだしたのだ。次第に窶れていく男達。だが表情は夢見心地という感じで、名も知らぬ美女について語るのだった。

それからひと月の後、とうとう男達は村に戻っては来なかった。それ以降、名も無き島に近付く漁師は居ない……


「クリシュナ、漁師ギルドに、立ち入りを禁じている海域はあるの?」


「あぁ、そう言えば、島の裏手になるんだが、年中霧が深く、岩礁が多くて禁漁にしている場所ならば……」


「それは……この地図で言うと、どの辺?」


「そうだなぁ……丁度この辺りか……」


クリシュナは、壁の古地図を指差す。よく見るとそこには、印を付けた跡があった。


「おそらく、その美女というのはサキュバスじゃないかと思う。そう考えると、司祭が島を出て潜伏するならば、その島の可能性が高いな。」


「そんな、まどか、昔の漁師の、酔った勢いの作り話かもしれないんだぞ?」


「クシナがこの話を資料として残そうとしたんだ。必ず意味があると思わないか?」


「うーん……」


「まぁ、調べてみて、何も無ければ、それでいいじゃないか。」

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