H4-2
そこには、見覚えのある顔があった。
「わたくし、以前お世話になりましたメイと申します。町でカフェを営んでおりますが、この度、店を若者に譲る事になりました。
楽隠居も考えましたが、やはりわたくしは、骨の髄まで奉公人であるようです。どうか此方でご奉公させては頂けないでしょうか?」
おそらくは嘘だろう……まどかは思った。屋敷を王に譲り、その執務をする者を探している……その噂を聞き、恩を返すために店を手放し、屋敷に仕えることを選んだのだ。
それを恩返しと言わなかったのは、メイなりの気遣いだ。わざわざ店を捨ててきた……などと言われても、まどかが困るかもしれない。それを見越しての配慮だった。
「メイ!ホントに良いの?せっかくのカフェが……」
「はい。どうやら漁師町には、カフェは不釣り合いでございました。若者が大衆食堂をするようでございます。雇って頂けますか?」
「では、テストをしましょう。」
ジョーカーが言う。メイの仕事振りは知っているはずなのに……と、まどかは思ったが、
「ここに本日集まった者達がおります。貴方なら、この者達をどう使いますか?」
と続けた。ジョーカーの言葉を聞き、メイはみんなの話を聞きながら、それぞれの手を見ている。料理人は持参したナイフを前に出した。
「なるほど。では貴方に料理長を 貴女にメイド長をお願いしたいと思います。貴方と貴方にはその補佐として……」
と、それぞれに役割を振った。それを見ていたジョーカーは、
「ほう。よく見ておられますね。わたくしもそうしたでしょう。しかし二人ほど役目を言われませんでしたね。この者達はどうなさいますか?」
「はい。お話を伺ったところ、お屋敷勤めの経験は無いようでした。町の市場で働いておられたとか。」
「それで?」
「この二人には、食材の目利きと仕入れを担当して頂こうかと。」
「良いでしょう。合格です。」
ジョーカーは、メイの人に対する目利きを試したのだ。前職や身分で差別することなく、その人物の能力に応じた役目を与える。それが出来るメイならば、使用人達も従うだろう……そういう考えがあったのだ。
「まどかお嬢様、これでわたくしも、司祭探索に集中出来ます。」
冒険者ギルドに依頼しているとは言え、やはり気掛かりだった。まどかも、結界の祠の件はリンドーに任せて、自分は探索に専念するつもりでいた。
蔵の管理も杜氏とその家族に任せている。これでようやく、屋敷に思い残す事は無くなった。まどかはジョーカーに頷き、教会周辺、魔女王の屋敷と周辺の森の探索を始めるのだった。
教会周辺の探索を ハンスとメイド達に任せ、まどかはメグミとジョーカーを連れて魔女王の屋敷に来ている。思念リンクを全員で繋ぎ、情報の共有をしながら森に入った。
探索には、クリシュナも同行して貰った。クシナがまだ生きていた頃、クリシュナもまたこの屋敷に居たのだ。見落としがちな所をクリシュナに話を聞きながら、くまなく捜査する。途中まどかが気になっていたことを聞いた。
「クリシュナも、言わばクシナの正統な継承者だろ?エミリオみたいに王になる気は無いの?」
「あ?俺は無理無理。魚を獲るくらいしか能が無いし、漁師ギルドをまとめるのも苦労してるんだぜ。出来る訳が無い。」




