H3-3
「マ、ダ、だ……」
蝙蝠はマナを求めてフラフラと飛ぶ。
「誰ガ輪廻など……神の言いなりにナど、なっテたまるカ……」
「理から外れたら、魂の消滅しかないんだよ?……」
「言いなりになるよりマシだ……生命を削ってでも、神になど……」
マナの切れた蝙蝠は、生命エネルギーを消費してナイフに姿を変える。
『……リュウジュ……竜のマナが吸えれば……』
ナイフは神速とも言える速度で、精神力を使い果たし横たわるエミリオの胸に突き刺さる!
「しまった!」
一瞬の隙を付かれ、全員が動けなかった。
『まだ戦える……コイツのマナを……』
その時、ナイフとなった魔女王の魂に、直接言葉が響く。
『我が子には指一本触れさせぬ……お前の魂、その全てを我が糧としてやろう……』
エミリオの胸元に炎が灯る。カランと落ちるナイフ。その刃先は、リュウジュの樹皮に刺さっていた。まどかがくれた形見とも言える樹皮を エミリオは大事に胸にしまってしたのだ。
メグミの樹木魔術で発芽を試みた時、マナ不足で出来なかったが、魔女王の魂を糧に発芽を始めたのだった。まどかは、苗となったリュウジュを大事に抱えると、
(お前は勝手に生き過ぎた……もう眠れ……)
と祈りを捧げる。眩い光に包まれると、まどかは元の姿へと戻った。
「みんな、帰ろう。」
そう言ってまどかはエミリオを抱きかかえる。メグミをジョーカーが抱きかかえ、それぞれ無言で立ち上がると、まどかの屋敷へと帰るのだった。
-屋敷に戻り、メグミとエミリオを寝かせると、まどかはハンスと森の池の畔に来た。
「ここなら結界も精霊の見張りもあるしな。」
ハンスがリュウジュの苗を植えると、まどかは池の水をたっぷりと注ぐ。
(親の愛ってやつなんだろうな……)
孤児のハンスも居るので、口には出さなかったが、元の世界で父親だったまどかには、思うところがあった。
「よし、ご飯にしようか。」
ハンスは無言のまま後ろを歩く。ずっと心にモヤモヤする感情が膨らみ、とうとう口に出す決心をした。
「……まどか様は、女神様だったんっすね……」
「ん?違うよ。」
「え?だって、戦乙女って……」
「あぁ、あれは言うなら、借り物だ。私はタダの冒険者だよ。ちょっとだけ神様のチカラを借りただけだ。」
「そんなこと出来るんすか?」
「まぁ、その辺は少し特殊かもな、私は。メグミが精霊のチカラを借りられる事に近いかもな。」
「そうなんすね……」
「何を心配してるのかわかんないけど、私は私だよ。今までと何も変わらない。(たぶんね。)」
「ほんとっすか?じゃあ俺、ずっと仲間で良いんすか?」
「あぁ。みんな仲間だ。MJ2に変わりはないよ。」
「よかった……よかったっす!安心したら、腹減ったっす!」
「戻るよ。ハンス。」
「はいっす!」
この先どうなるか?なんて、考えてもしょうがない。戦乙女装備も、そうそう使える物でもないし、ぶっちゃけ(おっさんが乙女って……)と、とてつもない違和感を感じるのである。
逃げた司祭の事も気になる。司祭の目的は何なのか?今すぐ追いたい思いもあるが、メグミとエミリオを置いては行けない……
まどかの聖なる力を浴びたジョーカーやメイド達も、回復には時間がかかりそうだ。ひとまずみんなの回復を優先したまどかだった。




