H3-2
「気が、進まないな……」
「言いたいことはわかるわ。でもね、バンパイアにされた人々は、輪廻に還すしか、助ける方法はないの。それも、これ以上罪を重ねて、魂が穢れる前に、なるべく早くね。」
「……」
「今のあなたは、戦乙女(仮)なのよ。修行をすっ飛ばした代わりに、与えられた試練だと思って。」
「もし断ったら?」
「あなたは人間にもなれず、戦乙女にもなれず、輪廻の理から外れた存在になってしまう。誰とも交われず、何も無い亜空間に一人、魂が擦り切れるまで漂う事になるでしょうね。」
「成りたくて(仮)になった訳じゃないんだが?」
「あなたは、イレギュラーを呼び込む体質なのかしらねぇ……まぁ、この件が片付いたら、また自由が戻って来ると思うわ。とにかく現状を乗り越えないと……あなたが思っているより、かなり深刻な問題なのは確かよ!」
「わかったよ。どうせ私が首突っ込んだから招いたイレギュラーなんだろ?なんとかするよ。」
「やはり、たっちゃんならなんとかしてくれる……ってことね!でも任せっきりにはしないわよ。あなたには、戦乙女の聖装をあげる。私の加護の付いた神聖装備よ。」
「おぉ!好きな時に美味しいお茶が飲めるとか?」
「あなた、そのうちバチがあたるわよ。私の。」
「信頼の証ですよ。輪廻の女神様!」
「ほんとかしら……まぁ、一応言っておきますけど、装備の具現化、実体化には、かなりの精神が消耗するわ。無闇に使うと、崩壊するかもよ。」
「ハイリスクって訳か……なるべく使わずに済ませたいもんだね。」
「私もそう願うわ。じゃあ、そろそろ戻すわよ。この世界を頼みますよ……」
-聖なる炎が収束する。凛とした表情を浮かべ、靡く黒髪に羽飾り。純白のドレスに、真珠やダイヤモンドを散りばめたような胸当て。背には6対12枚の羽根があり、手には破邪のガントレットを装備していた。光輪に包まれたその姿は、神の力を宿す。
「聖装、戦乙女。この世の理を乱す者、輪廻に還れ!」
「ま、まどか様が、女神様になったっす……」
「お嬢様の底が知れぬ理由は、こういう事だったのでございますか……」
「聖女と呼ぶのも不敬であるか……」
「ワルキューレと言えば亜神じゃな。まさか生きてるうちに目見えようとは……」
ただただ見蕩れるしか出来なかった。ただ一人を除いて。
「そんな虚仮威し、妾には通じぬぞ!その目障りな羽根も毟り取ってやる!」
魔女王の、密度を増した爪がまどかに襲い掛かる。まどかの周りを 土星の輪のような二重の光輪が角度を変え、爪を尽く弾き返す。
「魔女王、そんな虚仮威しの爪、私には通じないよ。」
「ならば、ならば障壁じゃ!どんな魔術も通さぬ障壁ならば……」
魔女王は掌底に障壁を張り、一気に打ち込んで来る!
「押し潰れてしまえぇぇーーーっ!!」
「魔術じゃないんだよ。【神技】神聖眩輝!」
まどかから離れた光輪が、魔女王との間に並ぶ。まどかの両手から放たれる聖焔が、二重の光輪を潜ると、目を開けて居られないほどの浄化の光となって魔女王を包む!
障壁は消し飛び、闇の衣までが薄紙のように千切れ、消滅する。魔女王のマナは、欠片も残さず浄化され、後には力を失った蝙蝠が地に伏していた。
一応、補足として
戦乙女は、職業では無く、種族ということになります。




