H2-3
剣を打ち合わせる音だけが響く。
リンドーは単眼鏡を覗き、何時ものようにブツブツ言っている。うむ。と頷くと、ローブの下をゴソゴソと探る。バンパイアが使っていた魔法武器を ちゃっかり自分の杖に組み込んでいた。
「なんとか使えるじゃろ。レジストショット。」
リンドーは武王に、魔法効果無効の薬丸を撃ち込む。一瞬怯んだ武王に剣を打ち付け、シルバは鍔迫り合いをする。
「正気に戻ったか?」
「な、何があったのだシルバ。」
「大方司祭の野郎に操られてたんだろ。早いことバンパイアぶっ倒すぞ!その前に、薬だ。」
シルバはリンドーが作った薬を武王に渡すと、剣気を放ち吹き飛ばす。武王は薬を飲むと、ゆっくりと立ち上がり、手にしていた剣を投げ捨てた。
「我が手に戻れ!三叉戟」
武王の意思に反応し、どこからともなく飛来した槍は、武王の足元に突き刺さる。その槍を抜くと、武王は一振りし、隙なく構えた。
「(どうやら戻ったな。)よし。私達も行く。最終決戦だ。ジョーカー、二人を頼むよ。」
「かしこまりました。ご武運を……」
召喚に精神力を使い果たしたメグミとエミリオをジョーカーに預け、まどかはいち早く飛び出す。その後ろにはチェリーとコバルト、おそらく現段階で魔女王に通用するのはこのくらいであろう。他の者達はジョーカーと共にメグミとエミリオを守る。
魔女王は片眉を上げ、ゆっくりと立ち上がる。
(裏切った……か。)
身体から漏れ出ていたマナを吸収し、指先に集める。魔女王の両手の五指に、黒い爪が鋭く伸びた。
「妾の力を結界と障壁だけだと思うなよ。まとめて始末してやる!」
魔女王の姿が一瞬霞んだ。次の瞬間にはシルバの腹を黒い爪が貫き、一瞬光る。シルバはその場で吐血して項垂れる。遅れて気付いた武王が渾身の突きを放つ!だが穂先は魔女王には届かず、もう片方の手の爪が、武王の肩に刺さっていた。魔女王はシルバに突き立てた爪を抜くと、その手を武王の腰にまわし抱き着く。
「魅惑。」
耳元で妖しく囁き、ゆっくりと爪を抜く。
「さぁ武王シンバ、妾の虜となるがよい。」
「……フッ、やなこった。」
武王は槍の柄で魔女王を突き放す。吹き飛ばされ、怯んだ所にメイド二人が攻撃を叩き付けた!
-まどかは攻撃を中断し、シルバの元へ転移する。腹部に手をあて、
「ミドルメディック!」
中位の治癒魔術を使った。傷は塞がったが、シルバはぐったりとしたままだ。
『アプリさん!どうなってる!』
『麻痺、猛毒、回復阻害が付与されています。』
「ちっ!キュアメディケィション!」
『麻痺、猛毒は解除されましたが、回復阻害は解除出来ませんでした。』
「厄介な!」
そこにクリシュナが走り込んで来る。
「まどか、この槍なら出来るかもしれん。」
クリシュナは槍に埋め込まれた宝珠をシルバに翳すと、宝珠の光に包まれたシルバが眼を開けた。すかさずポーションを取り出し、シルバに飲ませる。
「なんとか間に合ったか。しかし一撃でこれ程とは……まぁ、リンドーの薬は効いたらしいが、あのスピードと爪をどうするか……」
「まずは動きを止めるか……」




