H1-3
「ガキーン!」
シルバの直前で受け止められる拳。
「うーん。絵に書いたような卑怯だな。お前の相手は私だ。」
ハンスがシルバを抱え、後方へ下がる。それを見届け、まどかは手を離し、構えをとる。
「聖女か。生け捕りのご命令だが、死んでさえいなければいい。俺は手加減などしないぞ。」
「そうだね。こちらも殺す気で来てるし、手加減の余裕は無いと思うよ。」
メグミは、まどかのその言葉を聞いて、驚愕していた。今まで敵であっても、命までは取らなかったまどかが、殺すという言葉を使ったのだ。
いったい何がそう言わせたのか?そしてそこまで言うまどかは、最早手加減などしないだろう。メグミは、まどかと出会って初めての本気を見るであろう事に、驚きと恐怖を感じるのだった。
ジョーカーは転移でメグミの横に現れた。まどかの言葉を聞き、喜びのあまりナイフでバンパイアを微塵に刻み、もう一人の足を切り飛ばして戻ったのだ。
「チェリー、コバルト、交代です。お行きなさい。」
「「よろしいのですか?」」
「お役に立って来なさい。」
「「かしこまりました。」」
ジョーカーがなぜ戻ったのか、それはただ一つ
【まどかの本気を見たかった】
それだけである。
「ジョーカーさん、今日のまどか、怖い。」
「メグミお嬢様、わたくしの推測でございますが、バンパイア達がもし、人間との共存を望んでいたら、まどかお嬢様も命までは取らなかったでしょう。
その様子が無いと判り、人の命を弄ぶバンパイアには、神の慈悲など与えられるものでは無い……という所でしょうか。
元人間とは言え、眷族にされたバンパイア共も、輪廻に戻してやることしか出来ませんので、あるいは殺す事が慈悲なのかもしれませんね。」
理由はどうであれ、まどかが初めて本気を出す。ジョーカーにとって、この戦いだけは誰にも邪魔されず見たかった。
「動くようです。」
ジョーカーの言葉に、メグミは息を飲んだ。
-バンパイアは、ガントレットに鉤爪を取り付ける。以前メイド達が、島影の岩場で見た物だ。どうやらあの場にいたのは、コイツの配下なのだろう。
「タイガーファング!」
具現化した虎がまどかを襲う!子猫でも撫でるように、まどかが虎の首に手を添えると、直ぐに霧散する。
「面白い手品だ。だが手品で私は死なないよ。」
実際は手品などでは無い。闘気を練り上げ、気弾を放ったのだ。しかもそれは達人クラスの奥義。気弾が虎に姿を変え、自在に動くのだ。普通ならば、成すすべもなく噛み殺されている筈だった。
「あれを手品と言えるのは、まどかだけであろうよ……」
シルバがよろよろと起き上がり、胡座をかいて座り直しながら言った。
「何故だ!なぜ無傷で居られる!」
怒りと恐怖で、バンパイアは思わず声に出した。
「やれやれ、手品のタネ明かし程つまらないものは無いぞ……気弾を気弾で相殺した。と言えば理解出来るか?」
「バカな!俺と同じ高みに居ると言うのか!」
「同じじゃ無いな、たぶん。手品のお返しだ。双龍の咆哮!」
まどかの両手から、それぞれ龍が放たれる!再度タイガーファングを放つバンパイアだったが、一体の龍に噛み砕かれ、もう一体がバンパイアの肩を食いちぎった!
「不死なんだろ?再生するまで待ってやる。次は本気で来いよ。」




