M2-3
武王邸。
救出後、連絡を一切していなかったので、武王の帰宅は大騒ぎになった。ここには錬金術師を紹介してもらう予定で来たのだが、まどかにはもう一つの理由があった。道中でまどかは武王に、
「屋敷内にバンパイアの密偵がいると見て間違いないだろう。」
と告げる。家人を疑う事を良しとしない武王は最初、まどかの意見を否定したが、
「家人とは限らない。出入りの者に密偵が居て、家人が騙されてる可能性もある。」
という意見に、不承不承諾の意を示した。今回の一連の流れの手際の良さ、内通者がいると見て間違いないだろう。
現在、武王邸の周りを ハンス、チェリー、コバルトで見張り、邸内にはまどか、メグミ、ジョーカー、エミリオが、武王と共に入った。ジョーカーは家人の手伝いをしながら、不審な者が居ないか探っている。
『武王が屋敷に戻ったとなれば、必ず連絡をとるはず。不審者を見逃すなよ。』
『承知!』『『かしこまりました。』』
(さてと……後は錬金術師を待つだけか……変わり者って、どっち方面なんだろ……)
暫し家人との雑談で時を稼ぐ。
「ん、来たか!リンドー。まどかが相談があるらしい。聞いてやれ。」
見た目年齢60代、常に思考しているのだろうか、何やらブツブツと独り言を言っている。時折顎髭を触り、ふむ……と納得していた。黒い眼で常に観察しているように視線は鋭く、青い導師服は何かの魔法効果があるらしい。
「君は、いい頭蓋骨をしておるな。一度中身を見せてくれんかの?」
第一声がコレだった。マッドサイエンティストなのか?確かに変わり者……いや、変わり者という言葉で片付けていいのか?
「私、褒められたんですかね?中身は……嫌です。」
「そうか……痛く無いようにするし、ちゃんと元に戻すから、なんなら活性化させてやってもいいんじゃが、ダメかの?」
「……武王、他には居ないんですか?」
「うむ。こやつほどの優れた術師はおらぬ。」
「武王、じゃから私が使えぬ術師を活性化させると言うておるのに……」
「おぬしが手を出すと、3日ともたぬではないか。」
「2日で5日分の仕事をこなせるのですぞ!」
「代わりに2日は使い物にならなくなるではないか。」
「ふむ……脳だけでなく肉体改造も必要か……いっそ人形に脳だけ移植してみるか?ブツブツ……」
この男には、王の言葉も通じないらしい。ダメ元で聞いてみるか……とまどかが、
「バンパイアの魅惑の術を知ってますか?」
と切り出す。するとリンドーは興味を持ったらしく、
「ほう。原初の術じゃな。アレはマナを消費して現象を起こす魔術と違って、一種の呪いのようなものじゃ。」
「呪い?」
「そうじゃ。今ある呪印魔術の元となった術じゃな。魔術であればレジストも可能じゃが、原初の術はレジストは効かぬ。」
「そうか……」
「……がじゃ、方法が無いわけではない。私の叡智と材料があればな。」
(コイツ、自分で叡智って言っちゃったよ……でもあるんだな、方法が。ここは褒めておくか……)
「さすがは武王をして、これ以上の者は居ないと言わしめる錬金術師。その方法とは、何ですか?」
「うむ。いいじゃろ。特別に教えてやろう。誇りに思うがいいゾ!」
(調子に乗るの早いな……おだてに弱いタイプか?チョロいな……)
「お願いいたします!」




