M1-2
アスピドケロンの死骸に巻き付く白い物体。硬い鱗をものともせず、バキバキと締め上げて海中に引きずり込む。それは紛れもないイカの足。鞭のように海面を叩くと、漁師達の船は木の葉のように翻弄される。
「デカいにも程があるぞ……皆の者!退避!巻き込まれるぞ!」
体長100〜120m、時折赤褐色に身体の色を変え、バリバリとアスピドケロンを貪る巨大なイカが姿を現した。
「「クラーケンだぁ!!」」
転移で武王の船に現れるまどか。
「来たか!だが予想以上だ。まどか、やれるか?」
「わからない。でも、やるしかないでしょ?」
最初にコバルトが飛ぶ。上空よりの落下の勢いと、回転を加えてスコーピオンテイルを打ち込んだ!だがクラーケンのゴムのような弾力に阻まれ、鉄球が弾き返される。
「なっ!」
体制の崩れたコバルトに、横薙ぎの足が襲い掛かる。
「させません!」
チェリーがデスサイズを振り、足を切り飛ばした!船上に落ちてきた足で大きく揺れ、みんなは投げ出されぬように周りのものにつかまる。足はうにょうにょと蠢き、船上をのたうち回る。
まどかは解体ナイフを抜き、足を薄く削り取ると、一口食べた。
「モムモム……うーん、コリコリだ。甘みもある。ただ少しかたいかな……」
呆気にとられる武王。まどかはもう一枚削ぎ落とすと武王に突き出す。
「ん。」
それをつまみ上げ、口に入れる武王。
「ほう。美味いもんだな。しかしまどか、お前はなんでも食うのか?」
「なんでもじゃないよ。食べれる物だけ。よし!やる気出た。食材確保!」
まどかは甲板でグッと身を屈める。猫科の獣のような、しなやかで力強く、獲物を狙う獰猛な殺気を放つ。
「少し離れて!」
風魔術を噴射し、甲板を蹴ってクラーケンへと飛ぶ!拳に雷をまとい、一気に飛び込んだ!
「ズドォーン!!」
胴をくの字に曲げるクラーケン。しかし、
「撃ち抜けんかぁ……」
まどかは、弾き返されてしまった。甲板に戻り、チェリー、コバルトと合流する。
「ふむ、手応えはどうだ?」
「はい。打撃系の攻撃は、あまり効果が無いようです。チェリーは?」
「切ることは出来ますが、問題があります。」
「問題?」
「はい。体表が赤褐色の時には急に刃がたたなくなるのです。」
「なるほど……その法則が見極められたら、解体出来そうだな。よし!色々試すか。」
まどかはまず、魔術をまとわない打撃を加える。すると、打撃を加えた箇所が数秒間だけは体表が白くなった。
「ふむ、次。」
続いて魔術を試す。炎、水、風、雷、氷……さすがに死毒は使えない。魔術を当てると、当てた部分が集中して赤褐色になるようだ。風魔術による鎌鼬も、身を切るに至らず防がれてしまう。
「なるほど。武王!小船をクラーケンの周りに乗り捨てて、大船でみんな避難して!」
「まどか!やれるのだな。よし!皆の者!まどかの指示に従え!」
『メグミ、ハンス、港に来て。』
『来てるわよ!』
『漁師ギルドの前っす!』
「チェリー、コバルト、転移で二人を連れて来て!」
「「かしこまりました。」」
武王の船に、ジョーカー以外の全員が揃った。まどかは全員の役割りを伝える。皆は一様に頷いた。
「よし!食材確保だ。みんな行くよ!」




