S4-1
「真祖吸血鬼には、雌雄がない。まぁ、無いと言うより、どちらにもなれるのだ。だが、真祖どうしで交わっても、子を成すことは出来ん。そこで、どうするかと言うと……」
一度ぐるりとまどか達を見回すサキュバス。
「まず女の姿になり、人間の男を誑かす。より強い個体を求め、コレと見定めるまでな。そして目を付けたのが武王だ。」
「なるほど。」
「真祖吸血鬼は、魅惑という魔術を使う。相手を魅了し、交われば無限の快楽を与えるというものだ。それを使って人間の精子を吸い尽くす。吸われた人間は、快楽のまま命を落とす。」
「悪いような、良いような……いや、けしからんな!」
一瞬まどかとメグミにジト目で見られて、武王は慌てて訂正した。
「吸われた人間の精子は、体内で真祖の精子へと変換される。と同時に、姿も男へと変えるのだ。変換された精子は、いつまでも使える訳では無い。男の姿となった真祖吸血鬼は、その精子を聖女の身体へと受精するのだ。魅惑を使い、聖女を快楽の虜にしてな。」
「なっ!わ、私?!ダメダメダメダメ……」
「そして聖女の身体から、新たな真祖吸血鬼が産まれるのだ。ヤツの狙いは子孫を増やし、この島を吸血鬼の島にする事なのだよ!」
「なんという……」
「そんなヤツにまどか様は渡さないっす!」
「それがまことならば、吸血鬼の欲する二人が、ここに揃っている訳じゃな。ヤツは動くと思うか?」
「そうだな。このような機会、逃すはずが無いだろう。何かしら動きがあるはずだ。聖女よ、吸血鬼の討伐、力を貸さんか?」
「いいだろう。ただし条件がある。」
「ちょっと、いいのまどか!罠かもしんないよ?」
「メグミ、私はこの話、乗る事にするよ。」
「そうか!して、条件とは?」
「エミリオを渡して欲しい。」
「エミリオ?誰だ?」
「リュウジュの根元にいる、竜の島最後の生き残りだ。」
「な!なぜそれを知っている!……まぁいい、だが何百年も前の話だぞ。生きておるかもわからん。それに、リュウジュがその根を開放するとは思えんが……出来るものなら連れて行け!私はもう、なんの執着もない。」
「……」
まどかは、司祭をチラりと見る。そのままリュウジュへと向かって進み、根元で足を止めた。リュウジュに手を触れ、そっと目を閉じる……
(エミリオ、迎えに来たよ。もう大丈夫。おいで……)
ゴゴゴゴ……という地鳴りと共に、一本一本解ける根。ゆっくりと左右に開き、まるで胎児のように身を縮めた少年が横たわっている。
「エミリオ、エミリオ、目を開けて。」
「まど、か……なの?……」
「あぁ。そうだよエミリオ。立てる?」
ハンスが収納から自分の服を取り出す。
「と、とりあえず、これ着るっす!」
その少年、見た目は人間の14、5歳くらい、金色の瞳に、赤い髪の美少年である。肩から背中、足の一部に鱗のようなものがあり、リュウジュの幹と同じように輝いて見える。
ハンスが服を着せ、ゆっくりと立ち上がらせる。横でメグミが支え、一歩、また一歩と足を運ぶ。するとリュウジュがカサカサと揺れ、実を一つ落とした。
血のように赤い実、エミリオはそれを拾い上げると、一口かじる。そしてもう一口、全て食べ終えると、しっかりと自分の足で立った。




