S3-4
立入禁止区域の看板。
警備の兵士は居ないが、神官服の人達が巡回している。その巡回の合間を縫って、まどか達は、潜入した。
上空から、魔眼を発動したジョーカーが、武王を探す。教会裏の建物には居ないようだ。そうなると、やはり洞窟であろう。
ハンスを先頭に、洞窟の入口へ向かう。見張りのような者もなく、すんなりと進入出来た。
「そろそろ来る頃だと思ってましたよ。聖女御一行様。」
突如現れた司祭。殺気も敵意も無く、洞窟内部へと招き入れる。
「ささ、こちらへ。」
『罠じゃないっすか?』
『なんか、怪しいよね。』
『こちらの戦意を削ぐつもりでございましょうか……』
『みんな、気を抜くなよ。』
洞窟の中の光景に、まどか達は目を奪われる。
火山の火口だったであろう、その場所からは空が見え、ガラス化した壁が光を乱反射している。
洞窟の中央には、幹周りが5mほどある大樹があり、赤松に似た樹皮だが、水晶のような輝きがあり、生い茂る葉は、深い緑色だ。
その装飾かのようにぶら下がる、白い楕円形の球体。クリスマスツリーのオーナメント……などという甘い物では無い。その球体の中味は、人間である。繭玉のような球体の中に捕えられ、餌として保存されているような……
「ジョーカー!」
まどかの声に反応し、エストックを抜き繭を切り開く。中に居たのは武王だった。ジョーカーは、その場に武王を横たえ、状態を確認する。
「ご無事でございます。」
「よかった……説明してくれるんだろ?蜘蛛の魔蟲さん!」
「ほう、知っておったのか聖女よ。」
岩陰より現れたそれは、蜘蛛の胴体に人の上半身が生えている。黒とピンクの縞模様の体毛が生え、人の顔をしているが、目は黒く、いわゆる複眼というヤツだろう。毒々しいピンクの髪の間から、二本の触覚が覗いている。
「ただ、魔蟲さんはないな。サキュバスだ。そこいらの魔蟲と一緒にするで無い。」
「なるほどな。じゃあ、何故そのサキュバスが、強引なこじつけまでして、武王の身柄を拘束した?」
「武王を守るためじゃよ。」
「なんだと!」
シルバが割って入る。まどかは、薄々気付いていたらしく、ニヤりと笑った。
「その通りだ、シルバ。話を最後まで聞け。」
ゆっくりと身体を起こす武王。
「シンバ!」
武王は側の岩に背をもたれ、一つ息を吐く。
「漁師ギルドには行ったのか?聖女。」
「あぁ。シルバも一緒に。」
「だが法王は……」
シルバの言葉を手で制す武王。
「法王の暗殺を企てたのは、おそらくは魔女王であろう。この島を独り占めしたくなったのじゃろうて。」
「シルバと申したか?私が全てを話す。その後で判断すれば良い。」
シルバを含めまどか達は、近場の適当な岩に腰を降ろす。それを確認するとサキュバスは、事の経緯を語り始めた。
「魔女王の正体は、既に知っているのだろ?ヤツは真祖の吸血鬼だ。お前達は、真祖がどのようにして子孫を増やすのか、知っているか?」
「いや、知らない。それに武王が関係しているの?」
「そういうことだ。そして聖女、お前もな。全ての条件が揃って、行動を開始したと言う訳だな。」
「な!私も?なぜ私が……」
「じゃあまず、真祖吸血鬼の話をするかね。」




