S3-3
「だった?」
「あぁ、クシナは、俺の目の前で、死んだ。」
「え!だって今……」
「そうだな。だがな、俺が死を看取って、埋葬までしたんだ。これは紛れもない事実だ。」
「つまり、今のクシナは、偽物だと。」
「あぁ、この事実を知っているのは俺だけだった。そして、偽クシナも俺が事実を知っているとは知らない。だから俺は偽クシナの正体と、その目的を探るために、事実を隠した。」
「それで、わかったの?正体。」
「あぁ。ヤツの正体は……バンパイアだ!この島の昔話に出てくる吸血鬼、それがヤツの正体だ!」
「!確かなのか!」
「間違い無い。しかもアイツは、真祖だ。」
真祖吸血鬼。
バンパイアを大別すると、真祖と眷族に分けられる。真祖とは、バンパイアより産まれた血族、眷族とは、契約によりバンパイア化したものを指す。
元の世界の映画などに出てくるドラキュラ。処女の生き血を啜り、不死の力を持つが、本来の目的は違う。相手に牙をたて、生き血を啜る行為は、契約の儀式なのだ。
ゾンビのように、噛まれたら感染するようにバンパイア化する訳では無い。見た目は似ているが、誰彼構わず噛み付く訳では無いのだ。眷族とする者にだけ、その牙を穿つ。血を吸うのが目的ではない。
真祖のバンパイアは、人間のマナを直接抜き取ることが出来る。ゆえに血を吸う必要が無いのだ。一方眷族には、それが出来ない。人間の血を吸い、その中からマナを吸収する。
「うむ……となると、蜘蛛の魔蟲とは別物か……」
「蜘蛛?なんだそれ?」
「あ、いや、気にするな。私の推論がはずれただけだから。」
(どういうことだ?魔女王と魔蟲が別物となると……)
まどかは思考をフル回転させる。残された可能性、杜氏の家族から聞いた昔話……倒されたと思っていたバンパイアが生きている……だが魔蟲とは別物……
バンパイアは、どうやって生きていた?その時から既に互いの存在を知らないわけがない。となると……魔蟲はバンパイアを利用したのか?或いは共存……有り得るのか?
「まどか、如何した?」
「いや、すまない、考えている場合じゃないな。一つづつ片付けるしかない。まずは武王を救い出す。話はそれからだ。クリシュナ、武王救出は、私達でやる。それまでは動くな。」
「しかし!」
「待つんだ。私達が武王を救出したら、偽クシナも何等かの動きを見せるはず。それを見極めてからでも遅くはないだろう?姉の仇を討ちたい気持ちはわかる。だが焦るな。今は任せて欲しい。」
「……わかった。だがバンパイアは、俺が討ち取る。それだけは譲らん!いいな。」
「あぁ、それでいい。」
おそらく、クシナの正体がバンパイアなら、クリシュナでは勝てないだろう。今動くのは、はっきりいって無駄死にだ。
眷族の数もわからない。魔蟲とバンパイアを同時に叩ける程の戦力もない。叩く順番を間違えても駄目だろう。もし、まどかの推理が正しければ、やり方次第ではどちらも叩ける筈だ。ここは慎重に、事を運ばなければならない。
「武王が囚われている場所、たぶんあそこだろうな……ハンス!」
「まどか様、ご案内するっす!」
「よし。MJ2、行くよ!」




