S3-1
港のほぼ中心に位置する建物、それが漁師ギルドだ。この島で漁業に携わる人のほとんどが、元をたどれば海賊の血筋であり、気性が荒く、揉め事、争い事の絶えない連中であった。
それらの仲裁と、漁場の管理をしているのが漁師ギルドである。その漁師達も、数代の代替わりを経て、ようやく商売敵から、ギルドの仲間という意識に変わっていった。
協力して漁をしたり、船団を組んで魚を追い込むなど、新しい技術の導入により、それぞれが助け合うようになった。
ギルドのマスターの名はクリシュナ。褐色のハーフエルフ、やや青みがかった銀髪の、見た目は好青年。だが歳は100を超えているらしい。
「なんの用だ?聖女とか言われて調子に乗ってる冒険者がいるって聞いたが、俺達は信じちゃいない。このギルドじゃ、強さが全てだ。女子供は帰んな。」
「武王を助けたい。協力して欲しい。」
「助けたいだと?お前に何が出来る!武王様救出は、我等でやる!足でまといは必要ない!」
「相手の本質や目的は、わかっているの?誰が裏で糸を引いてるとか。」
「そんなの、関係ない!まずは救出だ。そうすりゃ見えてくるだろう。」
「……はぁ……エルフと聞いて、智慧者が出てくると思ったら、とんだ脳筋だな……」
「知恵を巡らすのは弱者のする事よ。我等には今までその必要が無かった。これからもな。」
なるほど。絶対的強者としての自負か。まぁ、やれるって言うのなら、ほっとくか……そうまどかが思った時、シルバが口をはさむ。
「クリシュナと言ったか?今回の相手、人ではないぞ。魔物相手でも勝てると言うのか?」
「何者であろうと関係ない!我等は海に生きる者。魔物との遭遇など、日常茶飯事だ。」
「ほう。そこまで言うなら、今回は見にまわるとしよう。では最後に、お前達の武器を見せてくれぬか?」
ギルドの連中が持ってきたのは、使い込まれた銛だ。良く手入れされているが、所詮は木の棒に鏃が付いただけの物、魔力も感じない、ただの銛だった。
「本気か?」
まどかとシルバは、顔を見合わせて首を横に振る。
「わかった。協力してくれとは言わない。知ってることだけ教えて欲しい。そして、おとなしく待っていて。」
「なんだと!小娘、チヤホヤされ過ぎて調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「たぶん、口で言ってもしょうがない。全員でかかってきて。私一人で相手するから。」
血の気の多い海の男達の、何かがキレる音がした。一斉に銛を持ち、まどかを取り囲む。
「怪我じゃすまねぇぞ!覚悟しろ!」
一人の男が銛を突いてくる!まどかがそれを躱すと、男は銛を引く。鏃の根元部分に反しが付いていて、その穂先がまどかを掠める。紙一重でそれを躱すと、感心したように頷く。
「へぇ、ただの槍術とはわけが違うな。銛の特性を活かしている。」
「初見で躱すか。言うだけのことはあるな。ならば……」
男は銛の柄に付いている紐を使い、打ち出すように投げる。速度は倍化し、まどかの右脇を掠めた!まどかは体をひねり、左手で銛の軌道を変える。紐を引き戻す男。まどかは仰け反ってこれを躱した。
「私は、全員で来いと言っただろう?面白い攻撃だけど、もう通用しないよ。」
「なめやがって!殺れ!」




