S1-4
チェリーとコバルトの二人は、島の裏側の、人気のない岩場にいた。魔人形の彼女達には、食事も睡眠も必要無い。
二人は昼夜を問わず、島の外周を調べていた。
きっかけは町で買い物をしていた時、まどかの何気ない一言からであった。
「……そう言えば、なぜジョーカーは、島の結界を素通り出来たのだろう……」
外敵の侵入を防ぐための結界、考えられることはいくつかある。
一、商船の結界に包まれたまま入港したから。
二、偶然港の結界が弱まっていた。
三、初めから結界など無かった。
四、まどか達を引き入れるために、わざと結界を解いた。
五、敵意あるものに対してだけ反応する、特殊な結界だった。
五は考えにくい。そんな不確かな限定結界を、数百年張り続けるのは不可能と言えよう。
三であれば、魔女王が嘘をついていることになる。法王の神託によって、結界の綻びを見つけているという話にも食い違いが出る。両方が嘘を……それも考えにくい。
だがもう一つ、二人が召喚された時も、結界に妨げられること無く辿り着いた。矛盾だらけである。
結界があるのか無いのか……まずはそこから調べることにした。
コバルトは、黒い翼を広げ、岩場から飛び立つ。島を離れようと海に向かって飛ぶと、障壁に阻まれた。
「これは、確かに結界ですわ。でも、何かがおかしい……」
コバルトは岩場に戻り、チェリーと相談する。もしかすると、港にだけゲートのような物があるのか……事実、港の船は自由に出入りしている。障壁に触れることなく……でもそれならば、結界の表裏が逆なのでは?
そこまで思案した時、周囲に気配を感じた。岩陰に同化するような、黒とグレーの斑模様の服、顔を隠し、目だけが出ている。手の甲には、岩場に張り付くための鉤爪を装備し、脛当てにもスパイクのような突起がある。
「結界に触れたな。脱走者か?」
「「脱走者?」」
「おとなしく町へ戻れ。さもなくば、脱走犯として処刑する。」
「「貴方達は、何者?」」
「知る必要は無い。」
「「では、魂に直接聞きます。」」
二人の手から黒いマナが噴き出し、武器の形に変わっていく。チェリーが持つのはデスサイズ、コバルトはスコーピオンテイルである。
「歯向かうか!者共、処刑だ!」
「「参ります。」」
岩を蹴り、回転しながら大鎌を振るうチェリー。貼り付いた者を、岩場ごとバターのように切っていく!コバルトは持ち手の先の鎖に付いた三個の星(棘の付いた鉄球)を振り回し、敵を粉砕している!
「コバルト、どうしましょう、相手が弱すぎて、これでは一方的な蹂躙ですわ。」
「チェリー、このままでは、まどかお嬢様に叱られてしまいますわ。無闇に命を奪うのは、お嬢様は好まれません。」
「そうですねコバルト、武器を収めて、素手の格闘にしましょう。」
「仕方ないですわね、もう少し遊びたかったのですが……チェリー、情報だけ抜いて、海に捨てましょう。」
斑模様の者達は、声を上げる隙も無かった。二人に頭を掴まれ、フムフムと納得すると海へ投げられる。それを数回繰り返すと、岩場には二人以外いなくなった。
「「それでは皆様、海獣にお気を付けくださいませ。ごきげんよう。」」
二人はスカートの裾を摘み、一礼してその場を去った。




