S1-2
「なぜ人形に?」
「実は、帝国を離れます折り、姉上様方は主を庇い、追手に捕えられ、処刑されたのでございます。事実を聞かされた主は、受け止める事が出来ず、心の病にて倒れられました。
そこで仕方無く御二方に似せた人形を作り、よく子守唄として歌われていた曲を オルゴールにしました。少しでも心の安寧を求めるために……」
「そうだったか……」
「もし主が存命の時に、まどか様の術で御二方を生き返らせて頂けていたら……」
「メイさん、それは違う。二人の姿は、その御二方に似ているかもしれない。けど、中身は全く別の魂なんだよ。きっと貴方の主人に、良くない影響を与えていたと思う。」
「左様でございましょうか……いや、でしょうな。」
「何時までも過去に囚われて生活するのは、辛すぎると思います。今を支えてくれる人が居るなら、なおのこと。メイさん、貴方も今を生きてください。せっかく屋敷から解放されたのですから。」
「……」
メイは静かに涙を流す。カフェを出したのも、忙しくしていれば、主の事を考えなくて済むのでは……と思ったからだった。
「メイさんは、執事として優秀なのだと思います。全身全霊を掛けて、主人に尽くしたのでしょう。ならばこれからは、ここに来るお客さんを主と仰ぎ、御奉仕してください。」
「!かしこまりました。誠心誠意、お仕えさせていただきます。」
まどかの言葉で、メイは新たなスタートが切れた。目的も目標も無く、ただ忙しくしていればいいと言うもんじゃない。何かに向かって働くからこそ、生きる喜びを感じる事が出来る。
まどかはそう思った。期せずしてまどかは、この世界に初めての執事カフェを誕生させてしまった。
(これ、女の子雇ったらメイドカフェになるな……)
と思ったが、それは言わなかった。まぁ、お客さんが増えたら、自然とそうなりそうだし……チェリーとコバルトに手伝わせるのも考えたが、メイには心の負担になるだろう。そう思って言わなかった。
カフェを出て教会へ向かう。本来の目的を見失ってはいけない。メイドカフェの事は忘れて、二人の登録と、潜り込む隙を探す事に集中しなければ。
「新しい住人の登録に来ました。二人のギルドカードです。」
「承ります。少々お待ち下さいませ。」
まどかは、周りの神官服の人達を見回す。最初に来た時、無表情な彼等を 事務的に仕事をしていると見ていた。だが、今見ると、それ以上の異様さを感じる。
(洗脳か。)
「これはこれは、聖女様、よくぞおいでくださいました。」
司祭がやって来た。変わりは無いですか?などと、当たり障りのない話しをする。多少のやり取りをしたあと、
「それにしても、ここの方達はよく働きますね。何か修行でもなさっているのですか?」
「はい。心の修練と言いますか、皆が神託を受け、神の導きの元、喜んで仕事に励んでおります。」
「そうですか。冒険者の私なんかじゃ、中々務まらないでしょうね。」
「何をおっしゃいます!神託の聖女様と言えば、神の代行者のような存在。良き導きがあるでしょう。いかがでしょう。一度修行に参加されてみては?」
「私達に出来るでしょうか?」
「出来ますとも。ぜひ。」




