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ハンスは立入禁止の柵を越え、岩山を登って洞窟を見つけた。
「いかにもって感じっすね。」
神官服の人々が、出入りしている。生気の無い表情で、手には血のように赤い実を携えており、その対比が一種異様な雰囲気を漂わせている。
「あの実が多分リュウジュっすね。にしても、あの人たち……一瞬死霊かと思うくらい生気が無いっすね……」
ハンスは、神官服の後をつけた。山道を下り、立入禁止の塀に沿って歩き、しばらくすると建物が見えた。皆ぞろぞろと入って行く。
ハンスは極限まで気配を消し、建物へと潜入する。そこには五つほどの部屋があり、神官服を着た人達が、十名づつ居る。監獄のような造りだが、施錠はしていないようだ。
部屋の先には広間があり、食堂になっている。壁に日程表と書いているのが見えた。
一班、教会雑事
二班、法王邸
三班、修行
四班、休み
五班、事務
『さっきの死霊っぽい人達は、三の部屋に入ったな……まどか様、いいですか?』
『ハンス?どうした?』
ハンスは見たままをまどかに報告した。するとまどかが、
『なるほど。カラクリが見えてきたな。それ以上は危険だ。ハンス、屋敷に戻って。こちらのわかったことも話すから。作戦会議だ。』
『承知。』
ハンスは深入りするのをやめ、屋敷へと戻った。
-屋敷の外。メグミの作った林は、小さな森程度まで広がっていた。その森の中央、まどかが土魔術で小さな祠を作ると、残り一つの魔晶石を土台に埋め込み、祠に結界の印を刻んだ。物理と魔術、二重の複合結界だ。
下級の精霊を放ち、森に定住させる。精霊達は、自分達の住処となった森を管理してくれるだろう。外敵に対する警戒を任せて、メグミに知らせる手筈を整えた。
「これで豊かな森になると思うわ!」
「驚いたよ。まさか本当に森を造るなんて…」
「虫や鳥、小動物の姿も時折見受けられます。」
「となると、水場も必要だな。」
まどかは地形を窪ませ、水魔術で満たした。
「さすがに魚は自然発生しないからな……どうしたものかな……錦鯉とか金魚とか、売ってるわけないし……」
「まどか、そのへんは精霊がなんとかしてくれるよ。」
メグミは水の精霊を呼び出すと、ため池に放つ。仄かに水面が光を放つと、水草が生え、魚が泳ぎ始めた。
「凄いよメグミ!まるで巨大なビオトープだ!」
まどかは森を見て思う。早く問題を片付けて、畑でも耕してのんびりまったりしたいなぁ……と。
「まどか様ぁー!」
(やれやれ……せっかく穏やかな気分に浸っていたのに……騒がしいのが帰ってきたな)
「よし、作戦会議だ……の前に、皆んなでご飯食べるか。」
「賛成!」
「準備は整っております。」
「さっすがー!」
「結構マナも消費したからね。美味しいもの食べて、早めに会議済ませて、ゆっくり休もう。」
その日はゆっくりと食事を摂った。食事中の仕事の話しは厳禁、メリハリを付ける……と言うよりも、メシが不味くなる!という理由だ。
ご飯は楽しく、美味しく。じゃないとご飯に失礼!これがまどかの、元の世界からずっと思っている考えだった。
(メシの席や酒の席で、仕事の事を熱く語るヤツ程、仕事出来ないヤツが多い。経験上、そうなんだよなぁ……)