A4-3
夕食後、思考を整理しているまどかに、メグミが質問する。
「まどか、吸血鬼って……」
「ん?あぁ、多分、血を吸う訳じゃなくて、生命力というか、マナを吸収してたんだと思う。」
「どういうこと?」
「おそらく、バンパイアとかのアンデッドじゃなくて、マナ吸収のスキルがある魔物かな。それも、かなり上位の。」
「なんでわかるの?」
「うん。一気に吸い尽くさないで、術を使って言いなりにする。つまり、エネルギーの安定供給を考えてた……聖騎士が毒蜘蛛で死んだのは、偶然の可能性もあるけど、もしそれが、分身体とか、本当の姿だったとしたら……」
「なるほど。まどかお嬢様は、その魔物が、万が一の備えまで考える程の優れた知能を持つ者と、お思いなのですね。」
「そういう事だジョーカー。精気を吸い取る蜘蛛、竜王に噛み付いたのも蜘蛛なら、同一個体だと考えて間違いないと思う。」
「なるほどー。」
「ただ……気になる点が幾つか……」
「と、申されますと?」
「うーん、まずは竜王の島の住人。火山の噴火はおそらく、竜王の炎によるものだろう。ただ住人を守るべき王が、そんな最終手段を選んだってことは、もしかすると住人は既に蜘蛛の餌食になっていたのかもしれない。
噴火による全滅ではなく、魔物による全滅の可能性……そうなると、かなりのマナを溜め込んでいることになる。」
「ふむ。ありえない話しではごさいませんな。」
「もし住人全てが、竜の血を引く者だったとしたら、あの司祭が持っていた笛で、島ごと操っていたのかもしれない。」
「そっか。それなら最終手段も選ぶわね。」
「もう一つ、この島に来てずっと引っかかってた違和感。平和な島だから必要無いのか?とも思ったけど、騎士という人達が居ない。
法王の元に聖騎士が居たはずなのに、それが昔話にしかないってのが引っ掛かる……ここに来たのも、普通の近衛兵だし。」
「うーん、武王が居るからじゃない?必要が無くなったとか。」
「なるほど。それも一理あるね。でも、魔物の討伐だけならそれでいいけど、他国との戦争となれば、騎士は必要だと思わない?武王の戦力に頼りっきりなんて、明らかにおかしいと思う。」
「左様でございますな。三人の王が仲違いする恐れも、無いとは言いきれませぬ。それぞれの王が、戦力を持つのが道理かと。」
「そうなんだ。魔女王の結界も、人間に上陸されたら意味が無い。」
「三人の王は、その辺の危機感って、ないのかしらね?」
「普通なら、あるだろう。つまりは、三人の王は、」
「普通では無い。でございますな。」
「司祭の言っていた、洗脳ってヤツ……結構根深いかもしれないな……」
まどかは思う。住民のレベルまで洗脳が成されていたとすれば、もう手の施しようがない。エミリオ救出の後、速やかに島を脱出しなければならない。
思考の操作くらいなら、大元を倒せばなんとかなるだろうが……どちらにせよ、住民の被害は避けたい。
「周りは全員敵だと思った方がいいのかな……この丘全体の結界の構築、戦力分析、洗脳レベルの調査、情報収集……キリがない、人手も足りない。どうすりゃいいんだよ……」
まどかはこの日、眠れぬ夜を迎えることとなった。この島で行われるであろう戦闘を思い、また穏やかな生活から遠のく自分の現状に溜息を洩らし、憂鬱になるのだった。
「めんどくせぇ……」