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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第十一章『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』
92/111

本年度最後の紹介作品

数か月に渡る11月の大賞コンペでしたが、厳選なるミーティングの結果。

今回の作品に決まりました。出版作品としては量が足りないかもしれませんが。Web小説として楽しむには程よい分量とまとまりのある本作に関しては、まさにWeb小説のお手本とも言えるかもしれません。さらに、作者さんと作品との距離感。付き合い方に関しても逸品である事が大きなポイントでした

「いらっしゃいませ」



 古書店『ふしぎのくに』今年も残すところあと二か月、今日は冬休み前にこの店の常連客である秋文がやってくる事になっていた。



「今月は11月の小説コンペの大賞作品ですからねぇ、楽しんで頂けそうです!」



 母屋からはくつくつとカレーが煮込まれている。からがらんと店の扉が開かれる音が鳴った。秋文が来たのかとセシャトは出迎えに行くと、そこには目の隈がチャームポイント(?)の少女ヘカがやってきた。



「あらヘカさん、いらっしゃいませ。どうされたんですか?」

「どうされたんですか? じゃないん! 今日はコンペの作品を読むんな?」



 そんな約束をしただろうかと思ったが、ヘカはエナジードリンクとジャンクフードを見せるとそれをお土産に持ってきたんだろう。



「時間は解決してくれるというけど本当にそうなん? ヘカはいくら時間が経っても忘れないん。欄ちゃんに食べられたアイスの件はいまだに忘れないん!」

「それはちょっと、あまりにも小さすぎですよぅ! それにしてもホワイトチョコレートはチョコレートじゃないんですが、なぜチョコレートというんでしょうね? 不思議です。おっと、こんなところで立ち話もあれですから母屋でお待ちしていただけますか?」

「そうさせてもらうん! 今日はカレーなんな? 二升はお米を炊いていた方がいいんよ!」



 冗談抜きでそのくらい食べるだろうなと苦笑しながらセシャトはお客さんがこない事を確認すると母屋へと向かう。



「さて、ヘカさん。11月紹介作品『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』本作は、当方古書店『ふしぎのくに』にて推させていただきました! これに関してはヘカさん、トトさん、神様、そして私の作品オススメが良かったんじゃないでしょうか!」



 ヘカはポテチを割りばしで食べながらニヤリと笑う。ヘカはセシャトにモンスターエナジーを差し出す。



「おべりすくの西の三狂と文芸部の三馬鹿学生と、ブログ担当の悔しがる顔に乾杯なん! でもノミネートからエントリー作品も全て甲乙つけがたかったのは確かなんな?」

「あらあら、今回は受賞作品の紹介兼宣伝になりますよぅ! さて、本作は導入と実際作品の全容のギャップ、この文章力の高さと発展力、あえての落としどころが光りましたね。ではヘカさん、本作の序章に関してはどう思いますか?」



 ヘカは複数のジャンクスナックを割りばしでポイポイと食べながら一本目のエナジードリンクを飲み干す。



「そうなんな。正直、ヘカは最初の冒頭は好きじゃないん! これはセシャトさんやトトさんは好きなんな。何処か悲壮感ただよう過去追想、そこからはじまるまさかの展開なん。もっと評価されるべきなんな!」



 ヘカをしてそう言わしめる作品、よく作品は第三話まで読んでくださいと言ったような謳い文句があるのだが、本作は頭から最後まで読んで楽しめる作品である。



「そうですねぇ、まさに小説の体をした作品という点が全てのチームにて評価された大きな部分でした!」



 からがらん!

 話している最中に店内に入店する誰か、ついに秋文がやってきたかと思ってセシャトは店に出るとそこには金髪の子供。セシャト達を生み出した神様。



「出迎えご苦労、これは土産だの! ほれ遠慮するな」



 千円分、駄菓子が買われている。この駄菓子を購入したお金はセシャトがあげたお小遣いなわけなのだが……その中に……



「これは、三重奏じゃないですか! 本来販売されていないお菓子ですねぇ」

「馬鹿者めが、私は全書全読の神様だぞっ! 作品のお菓子を召喚するくらい容易いわ!」



 胸を張ってどや顔の神様、今日のジンベイザメのヘアピンはウィンクしている。いつもとは違うお祝いバージョンなんだろう。



「今日は酒も買ってきたからの! ビールとワインだの。これがチョコレートにも意外とあいよる! 言の葉の庭でも女教師がチョコレートで第三のビールを飲んでおったろ? そう、この作品映像化したとすれば新海誠調だよの、整った顔のパーツとしてアーモンド型の瞳、なかなかに渋みがあるよの」

「そうですね。そこからの、少しばかり古めな会話分も随分刺さります! 時に神様、私の手作りのチョコレートとお店売られているチョコレート、どちらがよいですか?」



 神様はカウンターのセシャトのPCチェアーに座るとくるくると回る。そして目をつぶってから答えた。



「どっちもだの! 貴様はそこそこお菓子作りが美味いが、やはり店で売られているチョコレートも捨てがたいしの」

「神様、ひどいですよぅ!」

「まぁ聞け! 基本的に女子の手作りチョコレートはクソ不味い。不味くなくても、あっ! 普通というチョコレートが多いの。そういう面から無難にその辺で売っている物の方が確実だの!」



 なかなかに酷い事を言う神様だが、神様はその愛らしさ故、バレンタインともなれば老若男女問わず沢山のチョコレートを貰って帰ってくる。そんな中で手作りのはずれに数多く当たったことをセシャトもまだ記憶に新しかった。



「ですが、花蓮さんの作られるチョコレートはきっとおいしいですよぅ! それにしてもお綺麗で大人で可愛らしいですねぇ!」

「貴様はあざといが、小悪魔ではないしの、ヘカのやつは馬鹿ではあるが、小悪魔ではない! シアの奴も病んでおるが、小悪魔ではないな」



 うんうんと神様は『ふしぎのくに』ガールズを考えてからそう言ってのける。そんな神様にセシャトは聞いた。



「では小悪魔とはどのような方を仰るのでしょうか?」

「そうだのぉ! ダンタリアン……あやつは大悪魔だしの、まぁ欄あたりかの、それにしても数々の魅力を書き込んであるのだが、何故か可愛らしさを感じてしまうのは、この会話文だろの」



 本作は少々、言葉選びは古い。そして、文章表現のレベルは総じて地の文も会話文も上手い。また、この少々古いという点がキャラクターさしては作者の年齢と作品の過去追想のマッチ具合が半端ない。



「とりあえず神様も母屋の方へ来られてはいかがでしょうか?」



 神様はうまい棒をぱくぱく、サクサクと食べながらPCチェアよりぴょーんと飛び降りた。古書店『ふしぎのくに』におけるマスコット的存在の神様。

 その依り代やジンベイザメを使ってこの世界に顕現しているというのだからセシャトも笑うしかない。



「では、一番乗りで母屋にて寛がせてもらおうかの!」



 そう言って神様が靴をポーン! と脱ぎ捨てて母屋に入る神様。冷蔵庫でも開けて牛乳でも飲もうかとした時、神様が叫ぶ。



「貴様! 馬鹿ではないかっ!」

「馬鹿じゃないん、ヘカなん!」

「何をしにここにきておるのだっ!」

「11月紹介作品コンペ大賞のお祝いなん! 各種ライターが各作品を書き下ろした没四作品があるんな! 今回は古書店『ふしぎのくに』だったん。だからオールスター集合! みたいな感じになっていくんよ」



 というヘカの話はホラである。神様はヘカが買ってきたスナック菓子をサクサク食べながら神様は聞く。



「のぉ、馬鹿よ」

「馬鹿じゃなくてヘカなんな? なんなん? 神様」

「貴様、前からおもっておったが、なん使いすぎであろう? 五段階活用とかあるのではないのか? まぁそんなことはどうでも良いが、貴様は花蓮との会話どう思う?」



 神様はサクサク、パクパク駄菓子を平らげて行く中でヘカも負けじと同じように食べながらついでという形で答えた。



「やや、恥ずかしいんな?」



 ヘカがそういう点に関して、エロさや卑猥さを使わずに、本作は大人感とでもいえばいいだろうか? そのこっぱずかしさを感じさせる。



「この作品における驚異的なポイントの一つだの! まぁさすがに貴様も穴が開く程にはこの作品を読んだであろう? だから分かるのではないか?」



 本作はあらゆるところに仕掛けが施してある。ネタバレを控えさせて頂きたいが、章タイトルにもなっている程度にはチョコレートは重要である。



「まぁ、ヘカ程じゃないにしてもこの作者はストーリ作りと結の作りに関してはかなりの定評があると言えるんな」



 からがらんと入店する音が聞こえる。誰かがやってきた。

 そして店内から「はっひゃああ!」というセシャトの叫び声が聞こえた。これはいよいよあの少年がやってきたのかと神様とヘカは想像する。

 そしてそれはセシャトも同じ考えだった。

 が……小倉秋文君のご入店ではない。

 セシャトは入口に向かうと心底、がっかりした顔をしてみせる。そしてがっかりされた方は苦笑して挨拶をする。



「こんにちわぁ~、セシャトさん」



 セシャトに瓜二つの少年。方眼鏡にタキシードを着たトト。その手にはお店で出していたであろうトトの手作りケーキ達。



「トトさん、いらっしゃいませ!」

「えっと、なんか本当にごめんなさい。これ、お土産です!」



 セシャトもあからさまな態度は悪かったなと思っていつもの営業スマイルに戻る。このトトはセシャトと同じテラー。神様のような読み専でもなく、ヘカのような書き手でもなく、紹介をする事に特化した存在。



「トトさん、本作の読みどころとしてオススメポイントは何処にありますか?」



 セシャトとトトがこうして読みあう事は中々ない。たまにはじっくり読みあいをしたいところだが、二人は忙しく中々時間が合わない。

 今回は時間が取れたのでじっくりと楽しめるなとセシャトは期待する。う~んとトトは考えると話す。



「本作は実際のところ、序章と第一章を含めた大きな序章、そして二章と三章を足した本編。そして終章として楽しむこともできます。そんな中で大きな序章は、人を選ぶ作品となります。違いますか?」



 むむむっ! とセシャトはうなる。



「お話の続きをどうぞ!」



 本作の面白いところとして、序章から第一章にあたるビターを読むと、この時点で二パターンの読者がいる。



「そうですねぇ! これはミステリアスで面白そうですよぅ! とこれからを読もうと思われる読者さん。そしてもう一つはこれは自分の読みたいジャンルではないので読むのをやめようかなぁと考える読者さんですねぇ!」



 この有名なパターンが公開されたアニメーションが十年程前にあった。三話目程までは、女児向けアニメのようにうだつのあがらない展開を進め、突如としてその雰囲気のまま先輩の首がぱくりと食べられるシーン。



「そうですね! 作風や作品は違いますが、まどマギに通じる面白さがありますね! ですからそれ以降を読んだ読者さんもそこからさらに分岐が二パターン生まれます。最低でも8パターンの読者の傾向がありそうですね」



 トトとセシャトは並びながらそう話している。セシャトの腕につけているアップルウオッチがツイッターの通知を知らせるのでついでに時間を確認する。



「あら、もう11時ですねぇ! こんなところに立たせてすみません。トトさんも是非母屋の方へ! ヘカさんと神様も揃っていますよぅ!」



 その話を聞いてトトは突如として母屋を熱いまなざしで見つめる。トトは三人の中でも大の神様好きである。



「そうでしたか、では僕も母屋の方へ……今日はカレーですね」

「はい! そうですよぅ!」

「神様とヘカさんがいらっしゃいますから五升程のご飯を炊かれた方がいいかもしれませんよ!」



 そんな、ご飯食べ放題系の定食屋程のご飯はいらないだろうと思ったが、ヘカと神様はよく食べる。がその量はいくらなんでも……



「さすがにお二人でも……」

「僕が言うのも野暮ですが、今月はコンペの作品紹介ですからね! 誰がいらっしゃるかわかりませんよ? 今回はなんだか不思議な空気を感じます」



 トトに言われるように今回は、確かに何が起きてもおかしくはない。もう既に古書店『ふしぎのくに』ファミリーが全員集合してしまっている。

 年末、年始くらいしかこんなことはなかった。



「そうだ! セシャトさん、この作品は章と同じくようにほろ苦く、そして展開がかわり、まとまる味がします。説明が難しいですが、僕たちは書物にかかわる存在です。この展開に合わして何かが起きると考えてまずいいんじゃないでしょうか? それでは僕は母屋へと」



 意味深な事を言ってトトは片眼鏡を直しながら母屋へと入っていく。

 一向に来る事のない秋文を待ちながらセシャトは作品を開く。


『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』という作品を……

『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』

今月の作品はこちらになります。12月で忙しくなる前に、まったりと本作を読み、どのようなお気持ちになられるのか? 是非楽しんんで頂きたいと思いますよぅ! 当方でも感想が両極端に分かれた本作です。きっと読者さんの数だけ感じる感想があるのではないでしょうか?

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