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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第十章 『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』
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オオカミとネコはそれでも生きていく

さて、東京オリンピックはどうなるんでしょうねぇ! 随分秋っぽい気候になってきましたが、冬が早いのか、暖冬なのか気になるところです。私達、古書店『ふしぎのくに』でも色々動きが変わってきましたよぅ! 文芸部さんが100作書きという物に挑戦しています。何も考えずに、毎日1作品送るという皆さん、三度の飯やオヤツより書く事が好きですねぇ。

「のぉ、貴様。随分サボっておるがよいのか?」



 神様はかっぱえびせんを食べながら、フードコートに座っているコンビニ店員光岡にそう話しかける。



「えっと君は眠くないの?」

「君ではなく私は神様だがな。私が眠いとは馬鹿も休み休み言え! 寝たい時に寝て食べたい時に食べる。それが神様ではないか、それにしても貴様。理由はどうあれ、随分読んでおるではないか『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』」



 スマホを持ちながら光岡は頷く。



「うん、これさ。物語の内容が面白いなっていうところもいいんだけど、変なところリアルじゃん。本当に必要な人が活躍できないとかさ」



 世の中面白い事に世渡り上手な連中が世界を回している事は間違いないだろう。今のところはと言っておくが、いずれ外資資本社会に突入した時、今の日本の社会事情がついていけるかは分からない。



「貴様、サボり学生の癖になにやら悟った事を言い寄るの、落ちこぼれくさそうなのにの!」



 光岡は苦笑しながら神様に話した。



「俺は、落ちこぼれだな。でも俺には優秀な兄がいてさ、いい学校出ていい会社に入って、でもそこが合わなくて死んじゃった。それもあって両親は俺に何も言わなくなってこのザマさ。まぁでもそのおかげで、君たちに会えたんだけどね」



 そう言ってウィンクをする光岡に神様は大きな口を開けて笑う。ゲラゲラと大笑い。そして神様は言った。



「貴様、中々面白いの。Web小説でも書いてみたらどうだ?」



 神様に面白い事を言われ、光岡は何かを言おうとしたが、神様は続きの話を始めた。かっぱえびせんを光岡に食べるように促す。



「爆弾の解除方法で一番たやすい方法は何か知っておるか?」

「液体質素に沈める?」

「おぉ、貴様馬鹿ではないのだな。そうだの、だからこそ殺し屋に任せた事でこうなってしまった。奴らは人を殺す事はプロだが、爆弾の事なんて分からんだろ」



 神様は光岡にそう言ってから、光岡の反応を見る。よく分かっていないようだったので、神様は一掴みかっぱえびせんをむしゃむしゃと食べる。



「この作品世界、犯人のデットオアアライブをあまり気にせん、そんな世界で和子は少し異常なのかもしれんな。それは私達と同じ感覚で生きている」

「それって、作品や主人公は作者の写し鏡だからじゃないの?」



 光岡の言う事も半分正解だろう。どんな作品でもどうしても作者の心情や世界が反映されるように出来ている。



「私はこうも思うぞ。和子は、境界に立っておるとな。東雲や、太陽、あざみは何処か吹っ切れたところがあるのにも関わらずだの。和子は誰かを殺めるか殺めないかが、その境界を越えるか越えないかと言ったところかの」



 光岡はレギュラー珈琲とカフェオレを作って持ってくる。それに神様はウィンクしてから「気が利くのぉ」とそれを受け取った。



「和子ちゃんの両親とかさ、結構リアルだよね。父親も母親も子供の前だと何故か親の顔をするんだよな。それ以外の事は何一つ親らしくないのにさ」

「貴様の親も離婚してるのか?」

「いや、友達とか知り合いとかさ、一番言って欲しい言葉を親は言ってくれないんだよ。それって辛くないか? 大人って勝手だよな」



 和子の父と母を思ってそう言った。神様が共感してくれるとそう思っての発言だったのだが、神様にそれを余裕で否定された。



「親も人間だからの。大人と子供。その境界は年齢か? 人間の本質なんてものは対して生まれてから変わらん。和子も十六であろ? もう親を見限る年でもあると私は思うぞ、和子にはもう居場所があるんだからの、何でもかんでも親のせいにするのは、いい加減甘えを捨てよと私は思うの」



 神様は見た目に反して大人だった。人間は二十歳という成人を迎えるが、場合によってはまだ親の脛をかじり大学を出る。

 そんな事をぶつぶつと神様は言いながら、和子の両親の事に関してもある程度の理解をしていた。その在り方があまりにも身勝手である事も当然理解しながら……



「私はの思うのだ。熱が出て辛い時。それを助けてくれない身内より、心配してくれる他人だとの、人は一人では生きられん。まぁ貴様も夢からそろそろ醒めてもいいかもしれんな」

「え?」

「私は、この作品。この『風邪』という話が好きでの、一つの中編が終わり、そしてその緩急で入れた閑話なのかもしれんが、ここでこの物語は完結でもよかったのと……思うのだ」



 誰一人主要人物が死ぬ事もなく、一番きれいな気持ちで終えれるようなそんな演出を持ってくる。だが、そうは終わらない。

 恋愛の駆け引きのように、これから、東雲や和子にはもっと非情な運命が降り注ぐ。いや、彼らだけじゃないんだろう。

 この明星市に住まう人々に架せられた呪いのように、この歪み、異常すぎる日常の世界で彼らは……



「どうしたの神様ちゃん!」

「いや、貴様は興味半分で境界線に立ったが、和子のように黒い方に進まん事だの。中々面白いコンビニであったぞ! これからは夕方勤務をマジメにの」



 光岡はこのコンビニが深夜営業を止める事を何故この神様が知っているのか……八重歯を覗かせ神様は興だったとカラカラ笑ってコンビニを後にした。



「もしかして、オーナーの子供だったのか?」



 様々な謎を残し、光岡は何一つ謎を回収する事もなく、このぬるま湯みたいな深夜バイトでなくなるコンビニのバイトを辞める事を決意した。

 ネットカフェの深夜勤、そして彼は何か小説を書いてみようかと、違う意味で深淵に足を踏み入れる事になる。



                      ★



 カチカチと音のしない公園の時計を眺めながらムゥエレンは人を待っていた。やや腐った木の臭いがするベンチ。腐葉土、湿気の混じった異様な香りがするその空間内でムゥエレンはスマホを見つめていた。内容は『風邪』の頁。



「神様が風邪を引いたら己が看病をしてやろう。ふふっ」

「いい顔をするようになったっすね? 木人」

「欄姐姐」



 ムゥは呼び出した相手、欄がやってきた事にゆっくりと振り返る。そして袖から細いガラスのように透き通ったナイフを取り出す。



「雇われたんすか? クリス総帥に」

「違う。飼われたんだ。姐姐を殺せば(おれ)は自由になる。自由になったら図書館へ行くんだ。あの人と……だから、姐姐はここで死んでもらう」



 じりじりと近づくムゥを前にして欄はスマホを取り出した。そしてその画面を見ながら話す。



「明星市はこんな感じなんすかね?」



 ムゥは自分と神様が読んでいた作品の話を欄が突如話し出したので、驚く。それはたんなる偶然だったが、ムゥは焦る。



「神様に何をした?」

「は? 木人。何を言ってるんすか? あぁ、もしかして木人も『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』読んでたんすか? そういえば、小説好きだったっすよね?」

「五月蠅い! 姐姐、覚悟!」



 透明なナイフで斬りかかるムゥに対して欄はいつものニヤケ顔を止めて、冷静に、そして静かに言う。



「自分を殺せなかったら、木人もクリス総帥に命狙われるっすからね。でも、自分を殺せたら確実に自由にしてくれるっすからね。あの人、そういうところが本当にややこしい人っすね」



 欄は話ながら片手に持っているスマホで作品を読む。必死にムゥは欄を殺す為に透明なナイフを振るっているのに、欄は子供と戯れるようにそれらを捌きそしてこう言った。



「そういえば、自分の名前っすけど、ラン。これの音って漢字にすると狼にもなるんすよね。分かるすか? 人になれなかった人形。木人じゃ、自由に生きるオオカミには勝てねーっすよ。木人なら分かるっすよね? 小説とリアルは違うという事」



 ケンとムゥの足を引っかけて転がす。顔に泥をつけ、手に持っていた透明なナイフを落としたムゥ。

 ガチャ。

 それは命を奪う音である事にムゥは気づく。欄の服の袖のレールから降りて来た小さな銃。なんとか反撃をとムゥは透明なナイフに手を伸ばす。それに頭の上から舌打ちが聞こえた。そして欄は呟くように言う。



「不想活了、猫美」



 ムゥは、悪魔に願った。あと少しでいい。あの金髪の子供と図書館に行く瞬間だけでいい。生きながらえさせてください。

 ムゥは、神に祈った。

 どうか、この銃が不発し、自分に起死回生の瞬間を……

 ガチッ。

 それは、祈りが届いた音。

 ムゥは猫のように体を翻して透明なナイフを拾いそれを投げる。そのナイフは欄の額にバン! と突き刺さり、彼女を殺せた。そうムゥは思っていた。



「……やった」



 それはムゥが死の間際に見た幻覚だったのか、彼女は本来の事実とは違う未来を見た。図書館で、神様と手を繋ぎ、そして何か一緒に本を読む。



「もしもし、ヘカ先生っすか? 用事は終わったので、プリン買って帰るっすね? はい、えぇ」



 電話を切ると欄はもう一度だけ自分が殺した教え子を見た。もはや彼女の身体には命が宿っているハズはないのに、その瞳から涙を流していた。

 欄は公園にやってきた水玉のパーカーを来た少女とも少年とも思える子供が近づいてくる事に手に隠し持った銃を握る。



「恨んでくれていいっすよ」



 欄は何度かしか会った事がないが、セシャトにヘカが神様と呼ぶ子供。ただの子供じゃないんだろうが、大ぐらいでワガママであるという事しか知らない。

 が、この神様が欄を見る瞳はカタギのそれではない。

 そんな神様の真横を通りすれ違う。神様は何も語らず、珍しい者でも見るようにムゥの亡骸を覗いて……「愚か者が」と小さく呟いた




                     ★




 その数日後、欄は図書館に向かった。ムゥが見られなかったこの光景を見て帰ろうと思った時、自分の目を疑った。金髪の子供とムゥの姿を見つけたのである。

 確かに殺したハズの彼女とあの神様と呼ばれるふざけた子供。

 ムゥが本を選んでいる間に欄は神様の横に立つと聞いた。



「何したんすか? 魔法とかっすか?」

「全く、死んでおったらこの方法は取れんかったのだぞっ、貴様の豆鉄砲が頭蓋骨で止まったから良かったものを」



 欄は驚く。ムゥがまだ死んでいない。確かに小径の弾丸だか、確実に近距離で頭を撃ったハズだった。



「気圧や、貴様の銃の整備状態。色んな条件が揃って貴様の銃の威力は馬鹿みたいに落ちたとしたら、貴様が知らず知らずに物語の世界に足を踏み入れていたとすれば……そういう奇跡も起きるかもしれんの? そしてあのクリスの小僧は貴様が撃ち抜いた瞬間を見ておる。この娘は奴の中で死んだ。もう手を引け」



 神様にそう言われても欄は銃をムゥに向ける。それに神様はため息をつくと欄の銃口の前に立つと口をパクパクと動かして見せた。

 その口の動きを読む欄は驚愕する。



「ずるいっすねあなた」

「まぁ、神様だからの。ずるの専売特許だの。あやつは私がつれていく。よいな?」



 楽しそうに本を選んでいるムゥに優しい表情を見せ、欄に一度振り返りこう言った。



「貴様も、『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』の最後は貴様とムゥのようにはなって欲しくないと思っておろう?」

「……」

「隠さなくてもよい。私は物語に関わる神だぞっ。なんだって分かるのだ。あのバカの下に戻って馬鹿の振りをしておる方が貴様には似合うわ」



 欄は気が付けば閉館まで図書館にいた。スマホにヘカからの連絡が来てそれに気づく。星の見えにくい神保町の空を欄は見上げ、巨大な月が放つ光に少しまぶしそうに瞬きをした。

 この事をヘカに言うべきか、考えたあげく黙っている事にした。

 そんなある日、とあるブックカフェの横を欄は通ったところ、ムゥが接客に出ていた。



「いらっしゃいませ……アルだっけ?」

 なんすかその出来上がってないキャラ付け? なんて思ったりもしたが、何だか嬉しくなった。

 髪の色を変え、瞳の色も変わっている。

 そんなムゥはインカムに手を当てた。



「お待たせ。ブックカフェ『ふしぎのくに』、テラーは店主のトトさん。本日の課題図書は『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』、少しダークでそれでも空に恋焦がれた殺し屋と少女の物語だな。盛大な拍手をお願いする……アルよ」


 物凄い低いテンションでそう案内するムゥだったが、女子の客達に思いのほか人気があった。

 店内の隅に座る神様が欄にウィンクする。彼女は……いや、猫もまた自由を手に入れた。それに欄は口元のみ緩ませると呟いた。



「ハッピーバースデー、マオメイ」

お分かりかと思いますが、本日を持ちまして『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』のご紹介を一旦終了とさせていただきたいと思います。今回も大変反響を頂きまして、誠にありがとうございます。今回実はムゥさんは死んでしまうエンドだったんですが、今現在連載中の『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』のいつか訪れるエンディングに対して当方の希望的観測を乗せた意見が多く、ムゥさん生存エンドに急遽変わりました^^ さてまだまだ『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』は続きます。オオカミとネコの行く末を皆さんで一緒に楽しみましょうね!

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