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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『蛭子神 著・三上米人』
9/111

最終話 神の説教・怪異の正体

1月はお餅やお芋を食べすぎまして、少しウェイトアップしてしまいましたね^^

ですが、冬はダイエットにも適している時期なんですよ! ふふふのふ^^

さて、本日1月作品最終話です。

 セシャトと神様はいつも通り、古書店「ふしぎのくに」へ帰る道を歩いていた。そんな最中、先に話し出したのは神様だった。



「のぉ、私たちは寿司を摘んで酒をたしなんでおったよの?」



 神様はぽち袋を空にかかげて中身を覗きながら言う。

 古典文学、あるいは近代小説にも通じるような『蛭子神 著・三上米人』の作品を考察しながら紹介準備を始めていたハズだった。

 大将の握る絶妙な寿司に舌鼓を打ちながら、神様が玉子のお寿司を食べて……



「えぇ、私はお酒は飲んでいませんが……何か靄がかかっているんですよね」



 随分な量のお酒を飲んでいた神様はひょうひょうと酔った様子もなく歩いている。と、そこでセシャトはおかしい事に気が付いた。



「神様にお酒を出されるお店っておかしくありませんか?」

「は? 何故だ?」



 神様の頭のてっぺんからつま先までセシャトは見て、この日本の何処のおすし屋さんにこんなちんちくりんな神様にお酒を出すお店があるのだろうと思う。



「神様は見た目、子供ですよ? それも十に満たないような……そんな方にお酒を出すお店があるでしょうか?」



 それを聞いて神様は少し考える。そして少しばかりセシャトを馬鹿にするような笑みを浮かべるとこういった。



「私は、少し童顔には見えるが、十分大人であろう? そんなに驚く事ではあるまいよ。どれ、そこの煙草屋でモクをひと箱買って見せよう」



 そう言って神様は、交差点にある五十年以上続く煙草屋に入ると適当な煙草を注文するが、当然と言うべきか、販売できないと言われ、驚愕の表情で店から出て来た。



「なぜだぁ!」



 神様がお店を出て開口一番そう叫ぶ。それに道行く人が神様に注目するのでセシャトは慌てて神様を連れてその場から離れる。



「神様、今はお使いでも煙草は買えないようになってるんですよ! いい加減自覚してください。神様はどう考えても子供です」



 神様はマジかと呟きながら、自分の手足、そして服装を見て唸る。



「まぁモクは吸わんからこの際良いのだがの……子供の姿だと色々と面倒ではないか……いや、ちょっと待てよ。煙草屋の店主の目が悪くて私が……」



 現実を受け入れようとしない。



「もう、神様。私が悲しくなりますので、ヤクルトでも買って帰りましょう」



 ヤクルトは乳酸菌を安定的に摂取する最高の飲料である。神様のストレスも腸内細菌を整えてやれば落ち着くだろうとセシャトは何処かスーパーでも寄ろうと周囲を見渡す。



「おや、神様。三が日とは言え、先ほどと違い人がいませんね」



 セシャトにそう言われて神様はきょろきょろとあたりを見渡した。



「まぁ、さすがに三が日にヤクルトレディーがいるとは思えんが……あのヤクルトレディーからじゃないと買えないヤクルトがあってな……知らんと思うが、私は」

「ヤクルト400ですよね?」



 ヤクルトレデーからのみ買えると言われている乳酸菌含有量三倍のヤクルト、どの程度健康的なのかは分からないが実に美味しい。

 神様はセシャトが知っていた事に口をとがらせてから言う。



「ミルミルSもだ。まぁ、それはいいとして確かに人がおらん。こうして考えると『蛭子神 著・三上米人』の主人公。あやつ。気を失っていたが、よもやとは思うが今の私達のような状態だったのではないのか?」



 神様は至って冷静に腕を組んで目を瞑っている。こんな時ばかりは正に神という威厳を感じさせてくれる。そしてそれは非常に嫌な予感しかしないのである。



「……と言いますと?」



 神様はお寿司を食べるフリをする。それを見てもぐもぐと咀嚼してごくんと飲み込む。そして緑茶、果てはガリまで食べるフリ。



「エアお寿司ですか?」

「馬鹿者! 私達が入ったあのお寿司屋さん。あれ、多分ダメな奴だったんだろうの。あれだ! 死者の国の食べものを食べるとそれらは死者の国の住人となる。ようは黄泉戸喫(よもつえぐい)だな」



 海外の物語で言えばヘンゼルとグレーテルに出てくるお菓子の家。あれが近いだろうか? これらの本流は恐らく阿片等の麻薬を表現しているのではないかと思われる。

 そこに囚われる。中毒、幻覚、そんなところ。

 されど今現実に神様とセシャトは知っている町の知らない世界に迷い込んでいる。となればデットラインはあの寿司屋だったんだろう。



「まぁ、あの寿司屋の大将。『蛭子神 著・三上米人』的に言えばえびす様だったのかもしれんの」



 若い者が意味もなく、海を見に来ると。えびす様に連れていかれるぞ……と本作で出てくる老人はいう。



「……という事は私達連れていかれたって事じゃないですかぁ! あの主人公の方が見られていたのはクジラだったんじゃないでしょうか? もしかして……あれ」



 神様の肩につかまりながらセシャトが全力でビビる。セシャトはホラー小説に対する耐性は恐ろしく強いがリアルホラーに関しては事クソザコナメクジだった。



「よぉ考えてみぃ! クジラだってはじめて見た人は怪物だと思ったのではないか? 魑魅魍魎妖怪の類、それは知らぬ物。そう言ったものだったと思えば、主人公はえびす様を見たのかもしれんし、見てないのかもしれん」



 神様の言う意味がなんとなく分かるセシャト。あの答えがあってないようなクイズのような物。



「今の世の中、あらゆる事が証明されすぎてしまったから、妖怪も神々も姿をめっきり消したが、私達もよく妖怪に会ってるであろう?」



 神様はいい顔で言う。まさか、このロケーションをおかずに『蛭子神 著・三上米人』の考察を続けようというのだ。確かに、作品を心から楽しもうと思えば作品世界に浸り同化するのが一番。

 そういう意味では今現在怪異に見舞われているこの状況は最高なんだろう。



「私達がよく会っている妖怪……一体それは? まさか、不思議なお客様達とかでしょうか? あれは妖怪ではなく……」

「ちーがーう! 私がエアコンのリモコンを使おうと思うとすぐに無くなるだろ? 妖怪リモコン隠しだ」



 セシャトは神様の発言に目が点になり、呆れる。あれは妖怪の仕業ではなく、神様が物を片付けられないという欠点を抱えているから起きる事態であり、必然の現象。

 それにツッコもうとしてセシャトは気づいた。



「そういえば、妖怪とか神様ってそういう物ですよね。人が都合よく決めつけた現象であり伝承であり、その敬称」



 セシャトがようやく気づいた事に神様はにぃと笑う。釣りに来ている老人は否定もしなければ肯定もしない。

 ただし、お前が会ったと言うなら会ったのだろうと、そして忘れるように言う。その正体がもしあるのであれば……



「主人公の方はやはり、自殺をしようとしていたという事なんでしょうか? まだ先があるってお爺さんは仰っていますし」



 カッカッカと神様は笑う。本来読者に紹介を行うセシャトですら、この親とも言える神様の前では一読者に成り代わる。



「セシャト、貴様がそう思うなら、そうなんだろう。だが、それだけだとタダの読者だ。お前はテラー。あらゆる思考を文章から、世界感から、空気感から感じ取れ、必要であれば資料を用意して、作者も作品も超えた視点から見渡すように……それが紹介小説を行う者の義務であり必要な技能だからの」



 唐突な説教を受けるセシャト。一体何なのか、神様は何を言いたいのか全然分からなかった。資料だって本来一般人が閲覧できないレベルの物を見せてもらったし、作品においては十数回は読み込んだ。

 それ故、セシャトもプライドはある。本作を実に楽しみ、そしてセシャト個人の感想を交えながら神様と語ったハズである。



「神様は何が言いたいんでしょうか? 私は一生懸命やってますよ?」



 神様はてくてくと歩く、このマスコットのような神様が今やなんだか腹立たしく思えるのはセシャトがまだ子供だからだろうかと自分を律する。



「貴様、この作品『蛭子神 著・三上米人』、文章力も構成力も中々見どころがある。確かに最後のオチにもう1スパイスあれば間違いなく万人を驚かせるホラーになったかもしれん。故に私達が紹介するに値する名作だ。なのにセシャト貴様、去年の作品群をまだ引きずっておるだろう? 今年は今年、去年の作品はもはや過去、お前の浮ついた心が、私達を変な場所に引き込みおった。何故なら私達は物語に関して奇跡を起こすからの、貴様の未練、あの主人公もそうだの。それがホラーの正体かもの」



 セシャトははっとする。一年が終わった時、達成感と共になんだか物悲しい気持ちになっていた。このまま2018年が続けばいいのにと。それがあのお寿司屋さんに迷い込み今に至るという事。



「私は……」



 セシャトが何か言おうとした時、神様は指を指す。それは何かとセシャトは目を凝らすと赤いコーン。



「この道、工事中で侵入禁止だったようだの。どうだ? 貴様の心情も相まって一月にホラーを紹介するというのは中々に興だったであろ?」



 神様は笑う、そして駆けだす。一連の掛け合いは全て神様の演技だったのだろう。セシャトはそれに気づくと異様に恥ずかしくなった。



「もう! 神様っ!」



 神様を追いかけるセシャト、それに神様はあははと逃げる。夕日に照らされる金髪と銀髪。実にこの日本古書の街には似合わないその二人。

 セシャトが捕まえる瞬間。神様はくるりと振り返る。



「最後に主人公は自由だと言った。妹も母親もみんな自由だとな? だが、こ奴らの自由は自由と書いて勝手と読む。こやつらはそれでいいんだろう。当然だ。人間の人生は自由で勝手にすればいい。だが、私達はそうじゃない。自由と書いて感想、勝手と書いて考察。それが貴様等、古書店『ふしぎのくに』に生きる者だ。心を入れ直し、今年を生きていくのに、実に良い作品であったな?」



 夕日を背にはべらせて神様は気持ちの良い笑顔で言う。これこそが、自分達を生み出した全書全読の神かとセシャトはまだまだ敵わないなと思いながら、あの神様にお酒を出したお寿司屋さんについて聞く。



「あのお寿司屋さんは、一体なんだったんでしょうか? どう考えても普通のお店ではないですよね?」



 セシャトのその言葉に神様は待ってましたと言わんばかりに嗤う。



「貴様がそう思うなら、そうなんだろうの」

なんでしょうね^^

私に去年の未練があった。確かにそうかもしれませんね。それでは2019年の作品や作者様に失礼ですよね!

そんな未練が私と神様を不思議なお寿司屋さんに誘ったのでしょうか?

ということは『蛭子神・著 三上米人』における主人公も色んな未練やストレスを抱えていました。もしかすと、そんな物が具現化したものが彼が見た異形だったのかもしれませんね!

もう一度、読み直して考察してみるのも楽しいと思いますよぅ!

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