作品のキャラクターに嫉妬する読者
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いつもの夜、いつものコンビニのいつものフードコートでムゥはお湯を入れていないカップ麺を二つ用意してちょこんと待っていた。
大分古いスマートフォン、ブラックベリーの画面を見つめる。そして『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』の画面を開く。
「この殺し屋は三流か? 目撃者はバラす。これは殺し屋だろうと、人殺しだろうと同じなのに」
ガラスに映る自分を見てムゥは少し自分の服の臭いをかぐ。ここに来る前にシャワーを浴びて来た。服も新しい物を着ている。臭いもおかしくない。
店内に変なメロディが流れる。誰かが入店した音である。ムゥは入り口を見るとそこには水玉のようなパーカーを着た子供。
本人曰く神様がやってきた。
「おぉ、ムゥ! 来ておったか! ほうほう読んでおるのぉ!」
ムゥは下唇を噛みながら、神様にカップ麺を一つ差し出す。それに神様はう~んと考えてから聞いた。
「私にくれるのか?」
「うん」
「おぉ! 貴様、やはり良い奴だのぉ」
二人で仲良く並んでお湯を入れる。神様が楽しそうにカップ麺の三分を待っているのをムゥも嬉しそうに見つめる。
「カバン持たされてパシリっぽい感じになっておるけど、一人より安心できるというのは助かるものよの」
「そうでもない。人殺しは襲ってこないけど、殺し屋はどんな状況でも殺しに来る」
殺し屋のなんたるかを知っているかのようなムゥの言葉に神様は割りばしを割ると貰ったカップ麺をずるずると食べる。
「うむ美味い! まぁ、殺し屋も人の子だからの。一番厄介なのは小遣いを渡して関係ない奴に殺しをさせる連中かの」
神様がそう言ってスープまで飲み干すのをムゥは瞳孔の開いた目で見つめる。何か恐ろしい物でも見たかのように……
「どうした? 和子が校門で殺し屋を見た時みたいな顔をしておるぞ?」
神様は固まるムゥをそのままにコンビニの売り場に行くと雪印の牛乳を二つ買い戻ってくる。
「ほれ、牛乳は鎮静効果があると言うからの。私の奢りだ! ありがたく飲むといいぞっ!」
「……甘い。そして美味い」
ムゥが気に入ったようなので神様は目を瞑ってから語る。殺し屋の男は和子を訓練する。それがなんの為なのか分からないがムゥは呟く。
「本当の殺し屋の訓練なんて肥溜めの害虫みたいなもんだょ」
「まぁ確かにこの訓練は、米国海軍の訓練みたいだもんの。私は殺し屋の訓練なんぞ知らんがの」
殺し屋の訓練というわけではないが、消し屋の訓練は確実に相手を殺す事ではなく自分の身元が割れない事、逃げる事。生き延びる事。この三拍子が揃った者をいう。相手をどんな形であれ殺す事を目的とした存在はただの人殺し。
「言葉のナイフなんて痛くも痒くもない、死なないじゃないか」
「そうでもないぞ。言葉は生きながらに人を殺すからの」
神様の言葉は重かった。ムゥは思い出したくない事を思い出して瞬間頭を抱える。そんなムゥの頭に神様が手を乗せる。「全く騒動の多い奴だのぉ」と神様が言うのでムゥは少し据わった目で神様に撫でられた頭に触れてから語る。
「ナイフは使いにくい。刺すんじゃない。触れればいい。殺す時は喉か腹に突き刺して回す。だけど一度使ったナイフは処分する。だから使いにくい」
和子は銃に対してPTSDを持っている。ゴム弾の銃だけでもこの具合。和子は獲物として銃は下手だという情報にムゥは一言。
「銃は至近距離で頭を抜く時に使う。こっちは使いやすい。だけどナイフで確実にやれる喉や腹を撃っても死なない事が多いから厄介」
自分で使った事があるようにムゥは語る。神様は残りの牛乳をちゅーっと飲み干しながらスマホを見つめる。
「和子を殺し屋にしたいらしいぞ。貴様はどう思う?」
「知らない。人殺しは誰にでもなれるから、でも絶対いい死に方はしない。保良が殺されたように、結局恨みを買う事になる。殺して、殺されて、それを繰り返して……でも殺し屋も人殺しもいつも世界は必要としてる」
和子には居場所がない、死のうと考えたくらいの彼女だ。そんな彼女に殺し屋は居場所を与えてくれた。
事実、ストックホルム症候群というものが存在するし、本作の和子と同様の反応を見せた某国の少女がいた。
結局彼女は警察に保護され、被疑者射殺という事で事件は終了するのだが……
「そういえば、さに過去にもおったの、両方警察と銃撃戦の末死亡したんだったかの」
こちらは、超有名な英雄的犯罪者。
「ボニーとクライド?」
「うむ。警官隊も100発近い銃弾を叩き込みよったからの、どっちが人殺しかは分からんがな。和子はここから自分というものを見つけてきたようだの。教師の本質も理解しつつ、自分のやるべきことを優先するとな」
ムゥは段々と暗くなる。確かに大人の男と一緒にいるところを見かけられれば援助交際の一つや二つは噂が立つだろう。意外な事に援助交際は裕福な家庭の子で、親からの愛情を受けない子の割合も多い。ある意味上手く表現してあるのかもしれない。
「金にもならないで春を売る奴の事を知らないんだろうな。この国は嫌いだ」
「まぁ、そう言うでない。ソープランドとはまたどストレートな店が出てきよったの、だいたい微妙に街から少し離れた歓楽街にあったりするらしいの、この歓楽街が寂れるのもまた時代的なものかもしれん。ここでいう七区、何処にでもあるような場所だが、和子からすればまさに未開の地なんだろうの」
俗にいうゴージャスタウン歌舞伎町。神様は一人でうろつくと、意外にも風俗営業をしている男性や女性に警察へと通報された事がしばしあり、別の意味であまり近寄らない歓楽街。スマホでその画像をムゥに見せてからこういった。
「盛り場は盛り場で面白いのだがの、案外こういうところにあるラーメン屋が美味かったりするのだ」
神様がどこぞのラーメン屋を思い出してよだれを垂らしているのを見てムゥは落ち着きを取り戻す。
「こういう街の方が白黒がはっきりしていたりするものな。己もこういう街で生きられたら少しは違ったかもな」
今も昔も風俗というものはある種の別世界、言ってしまえば治外法権のような場所であり、そこで働く人々は何処かプライドのような物を持っている。野心に野望、欲望に情欲、カオスという物の姿があるとすればこういった場所なんだろう。
「まぁ、どうだろうの。人間というものが案外変わらん。本質はそもそも悪だからの人間という奴は」
負の感情を持たない人間はいない。特に日本人は世界で優秀なレベルで不安に陥りやすい人種である事が証明されている。
「だとしても、己が過ごしてきた世界より考えられないくらい光に満ちた世界だと思う」
「全くひねくれた奴だのぉ、貴様にはこれからがあろう? まぁ悩むも後悔するもそれは人間が成長するのに必要不可欠なものかもしれんがの」
成長という言葉を聞いてムゥはあからさまに嫌な顔をする。神様に何か文句の一つでも言わんとするムゥに神様は察する。
「成長という言葉が嫌いか?」
「嫌いだ。赤子から十数年で人間の成長は終わる。あとは変化だ」
学校社会においても、会社社会においても、異常なくらい使われる謎多き言葉『成長』これを好んで使う連中はあまり物を知らないかもしれない。あらゆる努力や結果、仮定、それらを総称して『成長』と言っているのかもしれないが、その本質は変化した事への直接的な事象に対して成長したと言えるんだろう。
その一歩を踏み出した、それだけで和子は成長したと言える。ムゥはくすぶっている自分を置いて和子が先に行った事が気に入らないんだろうと神様はきづいていた。
「情報屋って実際どんな事しておるか知っとるか?」
ザ・情報屋という如月を読みながら神様はムゥにそう聞いてみる。神様を見てムゥは目を瞑ってから答える。
「見た事がない。誰か伝書鳩を使うか、電話ボックスに指示書があるか、誰の名義か分からない番号から連絡がくる。殺し屋にオオカミを冠する事はあまりない。犬とか、蛇とかそいう呼称が多い」
神様が初めて気になった。何故オオカミがいないのか……それに察したムゥは少しだけ楽しそうに続ける。
「オオカミは誰かれ構わず殺しまくる人殺しによく使われる。手負いの獅子みたいなもんだ」
「成程の。オオカミは確かに家畜を皆殺しにしよるからの、それでいて人を殺したという話を聞いた事がない。確かにオオカミは人殺しには不似合いな名かもの。勉強になったぞ。殺し屋も人殺しの心理も別段知りとうないが、それが生業だから殺すんだろうな」
ムゥは立ち上がる。神様は時計を見ると前と同じくそろそろお開きの時間。そんなムゥに神様は聞いてみた。
「今回、お主は私を殺しに来たのか?」
「……! 違っ」
「そうか、なら安心した。私は書物に関わる以外は実に無能な神だからの、ちょっと転んだだけ死ぬ」
カッカッカと笑う神様にムゥはゆっくりと言った。
「この辺りに潜伏している狐を殺すように指示されている」
「狐か」
「うん、烏と住んでいる裏切り者」
ん? 神様は妙にその人物に心当たりがあった。それ故神様はムゥに聞いてみる。
「その狐に名前はあるのかの?」
「色んな名前を使って、色んな国籍を持ってる女。欄」
神様が唖然とした顔で見ているのでムゥは静かに言う。
「神様。もしかして居場所を知っているのか?」
「ううん、知らんよ。私はなーんも知らん。さて、余も明けそうだしの、安売りのおにぎりでも買って帰るかの」
神様の挙動不審さが気になりながらもムゥは欠伸をしてコンビニを後にした。
『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』、本作は物語らしい部分とよく読めばリアルな部分が沢山ありますよぅ! そんな中で今回オオカミさんは何故オオカミを冠する殺し屋なのか? まだ読んでいない方はぜひとも本作読んで頂きたいと思いますよぅ! またムゥさんも殺し屋かそういった生業をする存在である事はわかりましたね!今回はダーク調で紹介は進行します。




