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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第十章 『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』
83/111

神無月のコンビニに神様がいた時

さて、10月です。残すところ今年もあと三か月ですね!今月は島根以外は神様がロングバケーションに出かける時期ですので、皆さんいつも以上に色んな事に注意して生活していきましょうね!

当方の神様ですか? 当然10月も神保町にいらっしゃいますよぅ!

 土曜日の深夜、いつもの時間。いつものフードコートに彼女はやってくる。スカジャンを羽織って何処か同じ国の人間とは思えない遠くを見つめる瞳。

 彼女はいつも一番安いカップ麺を無造作に取ってレジへ来る。



「百二十円です」

「亜……」



 何かを言おうとした彼女はポケットに手を入れくしゃくしゃになったお札と小銭を取り出すと、千円札で支払う。



「八百八十円のお返しです」

「……」



 少女はいつものフードコートのいつもの席に座る……ハズだった。



「駕っ!」

「なんじゃ貴様は? 騒がしいのぉ」



 その日は、いやその日からの数日間はコンビニアルバイトは忘れる事が出来ない思い出として残る事になる。少女は席に指を指した後に自分に指を指す。そこは自分の縄張り、もとい席であると言うように……

 かたや、噂には聞いていた深夜のうまい棒童がむしゃむしゃとうまい棒を齧りながら言う。



「ここは公共の場であって貴様の所有物ではあるまい。恥を知れっ! 私はここでWeb小説を読むと決めておったのだ。この馬鹿者が」



 少女は怒って何かを言おうとした時、妖怪・うまい棒童はタブレットの画面を見始めた。もちろん、店のフリーWi-Fiにつないで……

 少女の存在を無視してうまい棒童はタブレット画面を見つめている。



你在读什么(何を読んでる)?」



 少女ははじめてまともにしゃべった。全く他の事に興味を持っていないと思われていた少女がうまい棒童に何処かの国の言葉で話す。



「これか? 気になるのか?」



 うまい棒童の質問に少女は首をかしげる。言葉がどうやら通じていないようだった。



「なんだ貴様、言葉が通じんのか、なら……なんと言ったか、你在乎嗎(気になるかの)? だったかの?」



 まさかのうまい棒童が発した言葉を聞いて少女はうんうんと頷く。

 それは神無月の物語、全ての神様が島根に行くから島根だけ神在月と暦に記載される次期、東京は神保町の小さなコンビニでは神が保たれていた。

 神様と異国の少女が語り合う一か月間。

 コンビニ店員は、聞きなれない外国の言葉で話し合う二人をただただ見守るように、意味の分からない会話を聞く。

 神無月のコンビニに神様がいた時。



                      ★



 神様は金魚の形をしたがま口の中身を見て100円に満たない持ち金でうまい棒を買っていた。

 神様が座る席を自分の席だと主張する謎の少女と口論になりかけたが、神様の持つタブレットを見て興味深そうにしていた事から話に花が咲いた。



「貴様、名前は? 私は神様だっ!」

「……神様? 神様なんていない。(おれ)はムゥェレン。それ物語か?」



 神様のタブレットを指さして言うので、神様は胸を張って頷いた。



「そうだこれはのぉ。『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』という作品だの」

「読め」



 神様は、偉そうだのぉと独り言を言うと、作品を綺麗な声で朗読する。同時翻訳しているわけではないのに、ムゥェレンにも内容が綺麗に入ってくる。



「胸糞悪い。面白いのか?(おれ)なら、すぐにその一条とかいうビッチを殺す」

「物語だ。落ち着け、がしかし作品に没頭するその態度は中々にいい物を持っておるな、本作はやや、作り物としての現実の暗黒を強調しすぎだが、それでも世の闇をよく描けておる」



 ムゥェレンは片目を開けながら安いカップ麺をずるずると食べる。そしてそのスープまで飲み干すと皮肉を言った。



「リーベンの人間はみんな、馬鹿面、阿保面で日々を生きている。だから物語くらいは理不尽な物を描くのか?」



 神様は牛タン味とたこ焼き味のうまい棒を見比べて、ムゥェレンに牛タン味を渡す。



「なんだ? くれるのか?」

「貴様があまりにもねじ曲がった事をいいよるからの、とりあえず喰え。私のお小遣いで購入したものだからありがたく食べるのだぞ」



 そう言って神様はサクサクとうまい棒を食べる。元気よく駄菓子を食べる神様を見て、ムゥェレンはぎこちなく笑った。



「……多謝(ありがと)。うまいなこれ」

「うむ、うまい棒を作るやおきんは恐らく三ツ星シェフを雇っておるんじゃないかと私は睨んでおるからの」

「お前、名前は?」

「さっきも言ったろうが? 私は神様だっ!」

「ふふっ、そうか。神様か、(おれ)はムゥでいい」

「まぁなんで貴様が木人(ムゥエレン)だなんて名乗っておるか知らんが、私を呼んだのだ。貴様も読書が好きなのであろ?」



 はんとムゥは鼻で笑う。



「マフィアの抗争相手に流れ弾で死ぬとか、間抜けな公僕だな」

「まぁ、海外でも夫婦喧嘩の仲裁で警察が射殺されとるし、案外殺したい奴より、どうでもいい被害者の方が多いのも現実であろ、この作品の日本はどちらかといえば、暗黒時代の香港くらいの治安みたいだからの」



 作中の街の治安は大分悪い。幸福な事に現在日本にここのモデルケースになりえる街はない。



「星空が好きねぇ」



 作品内の明星市は名前にあって星見が有名な街らしい、明けの明星か宵の明星か、あるいはどちらもなのか、治安の悪さをカバーできる程ではないしにしろ名物らしい。



「神様、お前は何も見えない中。星の光を頼りに森をさまよった事があるか?」

「あるわけなかろう。川口ひろしの探検隊でももう少しマシだのぉ。しかし、バレーボールで痛い目にあったのにドッチボール指示とかこやつ、本当に教員か?」



 普通に考えれば二次災害を抑えて、そのまま簡単な指示をしていたりもするが、びっくり教師である。ただそれにムゥは終始無表情で語る。



「この国の人間はみんなお花畑か? ボールが顔にあたったくらいで大騒ぎ、だから(おれ)達みたいなのが呼ばれるわけか、動物に近いんだろう。秋月って女は」



 動物の反応はおおよそ人間の十倍近い速さである。まさにこのタイトルの指すところとしてはぴったりか? それに気が付いた神様はうむと頷く。



「貴様、案外いい線をつくの?」

「なぁ、神様。なんでホームレスに関わっちゃいけない? ホームレスなんざ今時分珍しくもないだろう」



 ホームレスは大きく二つわけると二パターン。単純に家がない就労者、そしてもう一つはやや心の病を患い世捨て人になった人。実のところ、仕事をしているホームレスの割合の方が多い。社会復帰プログラムに参加している謎の雑誌を販売するホームレス等もよく駅周辺で見かけるだろう。



「まぁ、基本的に落伍者である事には違わんからな。子供は関わらん方がよかろう。よく作品なんかでこの保良みたいな奴が出てくるが、言ってる事が全て事実パターンとかよくあるのぉ」



 神様の言わんとしている事、異世界に行って戻って来た者は廃人エンド、あまりにも衝撃的な人生を送って社会復帰できず浮浪者として時折周囲に事実を話すも頭がおかしいと思われるエンド。案外、このホームレス達の人生は壮絶なものが多かったりする。



「おい神様、殺し屋と人殺しの違い知ってるか?」

「む、いや知らんの?」

「社会人か、奴隷かの違いだ。やりたくなければやらなければいいのが殺し屋で、やりたくなくてもやらないといけないのが人殺し、胸糞悪い」

「うむ、この保良、やたらと死亡フラグをまき散らしよるからの。知ってるかの? 基本的に昔語りと調子にのるキャラクターは突然次回あたりで死にやすいという物語の鉄板法則があるのだ」



 ムゥは空になったカップ麺の容器を見ながら答える。



「作者の声を聴けというやつか?」

「貴様、面白い事を言うな」



 大抵の作品は作者の内面、あるいは深層心理の気持ちを造形している事が多いだろう。言葉を返せば命を塗り込む等と表現される。



「神様、自殺する気持ちがあれば相手を殺せばいいんじゃないか?」



 よく考えられる。イジメられたら命がけで仕返しをすればいいんじゃないだろうか? そもそも、それが出来たらイジメられない。一般の精神状況と同じであると考えられるのは一般人か、異常者かのどちらかなのだ。



「難しい話だの。イジメられている側からすればイジメをしている連中はある意味のルールとなっておる。自分の思考以上に優先させるような何かだの。悪い言葉を使えば奴隷意識というやつかの」



 神様はこのムゥは笑うかと思いきや、突如として深刻な顔をする。この反応に関しては神様は少しばかり予想外だった。

 だが、ムゥの恰好。手足の状況を見てうぅむと目を瞑る。



「貴様が何処の誰で、何をしてきたか知らんが、その手。一度医者に見せた方がよいぞ?」

「ッ!」



 掌を見られてムゥはそれを慌てて隠す。両掌の中心が黒く変色している手。

 そして日本語ではない言語を語る少女、これはある意味事案なんだろう。神様は成りは子供でも実際数万という時を物語と共にした神様。

 所謂大人であり、おとんであり、おかんなのだ。



「チッ、しかたがないのぉ。少し見せてみろ」

(おれ)に触るな!」

「だまらんか、阿呆が」



 神様はムゥの両手を見て中心部が壊疽しかかっている状況を確認した。それに自らの手を当てる。



「知っとるか? 手当てという言葉が治療にある。あれはの? 母親に触れられているだけでも子供が安心して具合がよくなる。れっきとした治療の事なのだ」



 神様の体温は高い。ムゥの体温は逆に低い。ムゥは少しばかり負けた気になった。少しだけ、ほんの少しだけ心地よいと思ってしまった。



「やめろっ!」

「手を見てみろ」



 ムゥは自分の手を見ると黒く壊疽しかかっていた手が茶がかり、症状がマシになっている。代わりに神様の掌も同じように変色していた。



「神様、何をした?」

「手当てだの」

「……お母さん」



 ムゥが神様にそう言うので、神様は話をつづけた。



「貴様も、和子も、恐らくはイジメの中心人物である一条も家族関係、あるいは家庭環境に問題があるのだろうな。大人が思う以上に子供の心は歪みやすい。子供が純真だ、無垢だ等というのは大人のエゴだからの。知らぬから、知っている事しか子供はできんのだ」



 神様の言葉を拒絶するようにムゥは呟く。



「これは物語だ。それにこの国はどれだけクソったれでも腹がすけば食べ物が食べられて安心して眠れる場所がある(おれ)は違う。親も知らない、友人も知らない、クソったれしか(おれ)の世界にはない」

「だが、貴様は自死しなかった。貴様は、生きる目的があるのだろう? 和子はそれが無かった。だから和子は心のより何処を求め、そこで見たくない物を見る代わりにオオカミにあったのであろうな」



 本作は四話目迄を序章と捉えていいだろう。はじめて物語が始まる。タイトルを回収するには遅すぎず、速すぎない。

 じっくりと読者を楽しませてから、どーんと上げるわけでもなく、扉を開かせてくれるようなそんな盛り上がり。



「ムゥ、貴様は猫か? それともオオカミか? いずれにせよ貴様は私というジンベイザメに出会ったわけだがの」



 カンラカンラと神様は笑う。時間は日の出前、未成年らしき二人が注意を受けないのも夜勤アルバイトの怠慢が許したリアルなのか……



「神様、また会えるか?」



 神様はフードコートのガラスを指さすと外の暗がりの空を指さした。そこに輝く金星を見ながら神様は言う。



「やや時季外れだが、ここからは明けの明星がよう見える。私はこのひと月、ここで『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』を読んで過ごすからの、来たくなればいつでも来るがよい」



 そう言って神様は手に持っていたipadを手品みたいに消すと欠伸をしながら店を出る。それにムゥも並んで店を出た。



「貴様、『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』を読んでどう思った? 面白かったかの?」

「超棒的」

「ちょー楽しかったって、貴様。それをさっき言わんか! 馬鹿者目が」



 神様は気が付かなかったが、ずっとムスっとしていたムゥがほんの少し笑った。

ついに始まりました10月作品『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』、今回は読者さんによるオススメ作品の中から選ばせて頂きました。陰鬱とした世界観かと思いきや案外救いあり、感情移入ができる部分や笑えたり優しい気持ちになったり、でも根底は殺し屋の物語であり、そして過去形なんですよね。

どんな表情を本作が見せてくれるのか、当方が少し皆さんの背中を押していければ嬉しいですよぅ!

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