表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 『放浪聖女の鉄拳制裁 著・ペケさん』
81/111

小説の体をする強み

突然寒くなってきましたね! 最近はホットコーヒーが大変美味しく感じます! 最近は待っているのはミルク珈琲ですよぅ! カフェオレではなくミルクコーヒーが最近の私のフェイバリットですねぇ^^

是非皆さんも一度お試しあれ!

 本日は古書店『おべりすく』での研修最終日。アヌとバストもやってきて、再び焼き肉屋へ。



「レシェフさんのおかげで、二回も焼肉喰えるやなんて、夢みたいやぁ」



 そう言って牛タンをすくうように食べるアヌ。

 ちびちびとビールを飲みながらバストはじっとレシェフの顔を見つめる。イケメンのバストに見つめられ動揺するレシェフ。



「な、なんですか?」

「レシェフさんも顔つきが随分柔らかくなったなと思うっすよ」



 店番にも出て、確かに色々と慣れた。シアは猪口で日本酒を飲むとパンと手をたたく。



「じゃあ、レシェフさんに最後の試験やな。ウチ等の前で、作品紹介してみ。ファンタジー世界においてよく出てくる孤児院回やな」



 レシェフは難しい事を皆に話そうと思ったが辞めた。

 人は人、自分は自分の楽しみ方をしようとそう考えた。



「忘れた頃に、勇者一行と再び出会います。これは伏線と言うよりは、必然ですね。どのキャラクターも使い捨てはされない、ペケさんらしい丁寧なイベントだぎゃ。そして勇者設定もおもしろいですよね。決して勇者という存在が唯一の存在ではない。但し、ロビンさん達は英雄クラスなんでしょう。本来の勇者という言葉としての扱いに非常に近い事も読みどころです」



 大人三人はグラスや猪口を片手に楽しそうにレシェフの話を聞く。物語の楽しみ方をようやくレシェフは自然に語れるようになってきた。



「そうっすね。勇者一行への依頼というのも、なんともありきたりとみせつつ、今のWeb作家はあまり行わないっすね」



 大体の作品において、主人公周辺の人間で完結してしまうパターンが多い。書き分けの難しさや、回収や話数調整が難しくなる為、あるいは単純に作者が自作に完全に酔ってしまっているから等があげられる。



「そやね。作者はあくまで作品の支配者であるべきというところが、大事やな。スレッドで人気がでて小説家したゴブリンスレイヤーなんかもそうやね」



 シアが手を挙げて店員に剣菱のおかわりを所望する。小さな小瓶を受け取るとシアはそれを飲み始めてレシェフの話を聞く。



「アリストの隊長さんが、討伐隊に入ったという情報がどうも不穏ですね。それよりも、本作の世界観に関して大型の魔物を狩る場合の危険度がリアルです。本来魔法がなく、大型種であるドラゴン等と戦おうとした場合、石弓を積んだ大型戦車でも用意して、それでどうにか撃退できるかといったところだと思います。一度怪獣映画を想像してみてください」



 アヌがビールを片手に頷いた。



「おー分かる分かる。自衛隊やら地球防衛軍が簡単に薙ぎ払われてまうもんな。最近の異世界物ってドラゴンとか瞬殺しよるやろ? やや物足りんとは思っとってん。某作品でもドラゴン瞬殺する魔法はあっても高位の存在には通用せーへんという絶望与えてくれとったしな。そこはやっぱ設定云々の作りこみやろうな」



 まだ一杯目、それもバストとビール瓶をシェアしているのに、随分酔いが回っているアヌにレシェフは聞いてみた。



「西の勇者一行に依頼をして、展開をソフィーさん達に戻していますが、ここをどう考えますか?」

「そんなんいくらでも使えるやん。次の頁で場面切り替えしてもええし、なんなら番外編で”西方勇者の大物討伐”とかやったらええねん。でその外伝中に今回の話を濃密にして入れるとかな」



 一応はライターもしているアヌはいい具合に焼けたカルビを美味そうに食べる。アヌの言わんとしている事は、それはそれ、今はこの場面を楽しめばいいんじゃないかという優しいもの。



「この先代を軟禁して権力を振りかざすというのも、ベタのベタですよね? これが中華系ならもう先代殺されていたりするんですけど……黄門様と真逆のところは、先に救いの道を必ず示すところですね」



 水戸の御老公はとにかく、無礼御免を働いた後にこれみよがしに印籠を見せつける。ソフィ達巡礼団はさすがは説法者。先に懺悔を与えてくれるのだが、結局は無礼御免になってしまう。



「まぁ、結局のところ悪人は死ぬまで悪人でしかないんっすよ。残念ですけどね。そういう意味では終わらせてあげるというのもある種の救いっすね。それにしても、ソフィーさんというより、イサラさんが黄門様みてーっすね」



 バストの言わんとする事、イサラの妙案という物の思い付きについてバストは珍しく笑う。そして焼いたカボチャを食べる。



「レシェフさんもどんどん食べてくださいっす」

「あぁ、はい!」



 頼んだウーロン茶の氷は全て溶け、嵩が高くなるも手付かずだった。そしてミノを何となくレシェフは食べる。



「あっ、この白肉美味しいです!」



 ピクリと反応したのはシア。ミノを白肉と呼ぶのは中国地方のごく一部。中京生まれの育ちであるレシェフが言うには珍しい。



「ソフィさん達は、本当に人と人との繋がりを大事にされる方ですね。鉄拳制裁よりも実はこう言った描写が彼女等の勤勉さを感じさせてくれませんか? そして……」



 レシェフはクスクスと笑いながら話を続ける。



「ここまでトントン拍子に物語を構成しているのって凄くないですか? 私は少し感動すら覚えているんですけど」



 以前の盗賊騒動からレオホーン保護に、そしてそのレオホーンが本来渡るところまで一つに繋がった。



「そうやね。殆ど伏線を張らないのが功を奏してるんや。今のところ伏線はキースという男と、ソフィーの帝都追い出しくらいやろ」



 伏線を最小限に抑えて作品を構成する事もまた腕なんだろう。ソフィが変装をして身分を隠し侵入する。次の展開が見えやすく前回の依頼との繋げやすさも抜群。

 構成がいかにしっかりしているかという事がここでもよくわかる。



「ほんまに、ばっすーん! テンプレテンプレ言いさらす連中にみせてやりたいのぉ! これがほんまもんのテンプレじゃあーい!」



 そう言ってバストに抱き着くアヌを面倒くさそうな顔でバストは上カルビに箸を伸ばす。そしてそれを食べようとした時。



「もらいやぁ!」



 酔っ払ったアヌがその肉をぱくりと食べた。それを見てバストはビールを一口飲むとレシェフに言う。



「こんな面倒くさいアヌさんが言うようにテンプレート作品を作る事は本当に難しいんすよね。自分も得意じゃねーんで、ペケさんにはいつも勉強させてもらってるっす」



 バストとアヌがそう言わしめる。バストの膝で眠るアヌを撫でながらバストは実に楽しそうに語った。



「本当にブレねーっすね。ラナさんの恋人を助ける為に西の勇者さんを派遣してる。ここまでくると、読者の思考をジャックしている気分にもなるっすね。自分もここまで予想通りの作品って書こうと思ってかけねーすから。レシェフさん、この西の勇者さんの話、凄さが分かるっすか?」



 分かる。

 レシェフはバストが共有したい事が手に取るようにわかった。なんせ、自分はこの作品の大ファンなのだ。

 聖女たるソフィがいないこの環境において西の勇者一行は強い。というか強すぎる。ソフィがあまりにも圧倒的すぎるが故に霞んで見えていたが、当然の如く。

 彼らは勇者。



「主人公のソフィさんと同等に並び立つ冒険者パーティー、すなわち勇者を使い捨てない丁寧な造形だぎゃ! 逆に言えばここでソフィさんは何処までいっても聖職者であるという事の証明でもあるにゃあ!」



 拳を握りしめてそう言うレシェフに対して、シアはお銚子を引っ繰り返して残りの一滴まで楽しむとシアは片目を開ける。



「せやね。Web小説の特異性として、主人公を中心に物語が展開するという事がメインになりやすいんやね。まぁしゃーない。作者は自分の作品とその主人公の事に恋してるくらい好きやからなぁ。ある意味では一歩、進もうと思えば自分の作品やキャラクターと距離を置くいう事も大事なんやけどな」



 シアは店員にお銚子を見せて同じものをさらに注文する。シアはやや顔を赤くして、バストは顔色を変える事もなく、瓶のビールを喉に流し込んでいく。



「シアさんはもしかして、今のWeb小説に何か思うところがあるんだぎゃ?」



 不安そうにそう聞くレシェフに対してシアは首を横に振った。



「ちゃうで、好きにしたらええねん。でもな? だったら、評価してくれとは言ったらアカンわな? 誉めてくれって素直に言わなな? この作品は、ソフィの規格外性を説明はしているものの、彼女も人間でしかない。できる事とできへん事はしっかり描写されとる。ソフィーがおらんくても作品の世界もストーリーもしっかり自分で進んどる。レシェフさん分かるか? このペケさんが上手いのは絵でも、物語でもないんや」



 先に否定しておくが、ペケさんのイラストは上手いし物語も面白い。シアが言わんとしているところはペケさんの作品における中毒性が何処かという点。



「それはなんでしょうか?」

「なんやと思う?」



 ペロりと舌を出してレシェフを面白そうに見るシア。ちょうどいい感じに油が落ちたハーブ風味のソーセージに八重歯を入れた。

 ポキン!

 いい音と共にそれを咀嚼するシア。



「何日ここにレシェフさんはおった? 最終日やけど、ウチ等を驚かせるような事はあんまあらへんかったな? こんなお手本みたいな作品前にして、普通の紹介やったね。まぁ、作品も普通やもんな?」



 想いより先に身体が動くなんて事をレシェフは生まれて十七年。はじめて経験した。握った拳をテーブルに打ち付けて怒鳴る。



「シアさんのたんちん! なにゃーとね? 私はでりゃああファンだがやぁぁぁぁああ!」



 シアさんの馬鹿、なんでそんな事言うの? 私はこの作品の大ファンなんだから!

 的な事を言っているんだろうなとシアは思いながら、店員が持ってきたお銚子をそのまま一気飲み。



「レシェフさん、気遣って話したらアカンで? それでええねん。じゃあそんなレシェフさんにご褒美や。ペケさんの作品に共通する強み、所謂。小説の体をしているっちゅー話や、だから読みやすく分かりやすいねん。じゃあ、アイスでも食べて帰ろか?」



 シアは店員を呼び止めてアイスクリームを三人分注文した。

今回は『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』に関してというよりペケさんの作品の中毒性に関して、一つの回答を出してみました^^ Web小説媒体にありながら、確かに小説の体をそのまま持っているというところですねぇ! どの作品もしっかりと無駄なく起承転結があり、つじつまが合う。結果としてストレスを感じにくいという事がまた作品作りのテンプレート型でもあるのかもしれませんねぇ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ