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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 『放浪聖女の鉄拳制裁 著・ペケさん』
79/111

神様のテラー研修

いきなり寒くなってきました。東電さんの停電対応ですが極力はやくしてあげて欲しいですね。

暑さよりも寒さの方が人は耐えられないものです。もう一度だけ暑い日がきそうですが、今年は珍しく秋のある年になりそうです!

「留守番頼んでええかなぁ?」

「留守番ですか? 構いませんけど」



 シアは少しおしゃれをしてスキップなんかをしながら古書店『おべりすく』を後にした。何か良い事でもあるのかなと思いながらレシェフは店のカウンターに出る。客がほとんど来ないらしいのでやる事もない。レシェフは『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』を開く。



「この作品って、場面の舞台が極端に狭いから分かりやすいんだぎゃ」



 独り言をつい言ってしまった。誰もいない店内故、どうって事ないのだが、まさかその独り言に対して声が返ってくるとは思わなかった。



「よう気づいたの」

「だ、誰? 神様?」



 そこには、レシェフのよく知る金髪の小さな子供が金太郎飴を齧りながら立っていた。ちんちくりんだが、レシェフ達を生み出した。否、レシェフは女子高生の体に降ろしてしまった全書全読の神様。



「加減はどうだ? ここの連中は中々面白い読書をするだろう? そこで貴様の感性を磨いてやろうと思っての」



 神様は図々しくカウンターの椅子に腰かけるとレシェフと同じ作品を開いた。



「この作者、次から次によぅ作品を書きよるの。幼女王も面白かったが、これもなかなかであろ? 毎話基本完結型式を取るのもまた読者をよう考えておる。幻獣が懐く、ライオンみたいな姿というのも中々面白いの」



 神様がヘッと笑う。こういったマスコット的なモンスターが懐くというのは、こう言った作品においてはいささかベタな展開であり、神様が面白いという程斬新でもないように思えた。



「その顔、神様何訳の分からない事言ってるんですか? 馬鹿なんですか? とでも言いたいような顔だのぉ」

「いえ、そんな事はないだぎゃ」

「だぎゃ?」

「違います違います! そんな事ないです」

「まぁよい。基本猛獣は懐かないと言われておる。熊しかり、虎しかりの……だがの、この日本で何十年か前、ライオンが首輪だけつけて放し飼いにされとったのを知っとるか? それもこの大阪という地域での」



 今は猛獣を買うには特殊な免許が必要だったが、少し前はそう言った物は必要ではなく、象だろうとライオン、虎と猛獣を飼えた。とある個人で飼ってた虎が数頭逃げ出し、射殺という悲しい結末を迎えた大事件以降一般的に猛獣は飼えなくなるのだが……



「そんな。嘘ですよね?」

「ライオン通りとかそんな地名が残っておるはずだぞ。まぁ、そのライオンに抱き着いても撫でても誰も引っ掻かず噛みつかず、人間に懐いておったらしくての……それを知ってか知らずか、人間に懐く可能性がある猛獣はライオンとな。でこの幻獣を読んで面白いと感じたわけだ」



 いくらなんでもそんな深読み……ありえない。



「そうだの。これは私の妄想に等しい。だが、そう思って楽しめるというのは実に興な作品だとは思わんか? それにこのレオホーンの登場で、山賊ルートへの話を繋げよったの」



 約束を破ったわけではないが、どうしても作品作りとしてはこのルートはどうしても進めたいだろう。



「神様、傭兵が食い扶持を失って山賊になるって結構生々しいですよね?」

「おぉ、そうか? そもそも、中世の傭兵なんて戦働きがなければ基本的に山賊や海賊みたいな事をしておった。というか、昔の山賊や海賊の稼ぎは戦傭兵だからの」

「えっ、そうなんだぎゃ?」

「あたりまえだの。略奪ばかりして生業になるわけなかろう。戦行軍している最中の村々襲って空腹やらを満たすのが奴らのやり方だの」



 神様の豆知識を聞きながらレシェフはふむふむとメモを取る。そんなレシェフの反応に神様は気分を良くしてから話し出した。



「この山賊の首領。ジョッキを叩きつけたの」

「それが何か?」

「海賊はの、木のジョッキを持っておるんだ。潮風で喉が焼かれたものを、岡に上がると、自分の自慢のジョッキでワインやらを飲んで喉を治すとな。自慢のジョッキを海賊は投げん。山賊はそういう物を大事にする価値観はない。面白い、これも私の勝手な妄想だがの」



 どれだけこの神様は一つの物語で楽しむ事ができるのか、レシェフは見た目の愛らしさに反して神様を尊敬した。



「私の傭兵のイメージが随分崩れました」

「まぁ、今の時代も昔の時代も傭兵なんていう連中はろくでもない奴らだからの、日本人の傭兵も中東の武装集団相手に派手にやりよっただろ? この国は報道規制をかけておるからの、カッコいい傭兵なんてものは物語の中だけだの、しかしソフィ達は圧倒的だのぉ、一話完結型とはいえ、レリックと同じレベルの道具が出てこないと長編にはなりえんの」



 現時点でも、巡礼団の三人は気持ちいいくらいに圧倒的な力を持っている。というか、この世界の山賊、魔法くらい使えないと無理ゲーだろうと思える程には……可哀そうなのである。



「昔の異世界物での、金が無くなったら山賊襲って金を補充する魔法使いがおっての……それをドラ股系と言うのだが、それに近い感じだの」



 残念ながらレシェフの知らない時代の作品の為、なんとなくしか言っている意味は分からないが、確かにこの手のキャラクターの爽快感は凄い。



「でも少しだけピンチになりましたね」

「爺が勧善懲悪をする時代劇でも、たまにはピンチに陥るであろ? だいたいあの爺。それも余興くらいにしてお付きの者に迷惑をかけまくるのだがの。ソフィを少しは見習えてと思うな」



 あの国民的時代劇に神様は喧嘩を売る。



「えぇっと、確かに実際八兵衛の方がまともですもんね。マリアちゃんは強い八兵衛みたいだぎゃ」

「おおぅ、じゃあイサラは弥七かの」



 助さんと格さんはいないなと思いながら二人は彼女等と山賊たちの交戦をしばし楽しむ。ようやくここいらで一つ伏線が張られる事になるのだが、これを読んだレシェフは神様に言った。



「伏線張るタイミングが上手ですね!」



 レシェフの発言に神様は片目をつぶってレシェフの発言を肯定する。神様的にはようやく、テラーらしくなってきたかといったところである。



「そうだの、ここまで話を展開させれば読者もついてくるだろうし、逆にここからの伏線の方がファンも楽しめるだろうの」



 これは賛否両論あるだろうが、Web系の小説は重厚すぎる話で大成させるのが難しい、最初から伏線を張り続けると、読者が離れやすい。

 もちろん、本を読むという事に慣れた読者であればそういうわけでもないのだが、紙媒体の読書とWeb小説の読書は似て非ざるものであると断言してもいい。



「では、神様としてはWeb小説は伏線はあまり最初に張らない方がいいと仰るんですか?」

「そうでもないぞ、伏線は使いようによっては物語に深みを与えるからの、むしろ文芸部のガキ共にはよく使うように言い聞かせておるわ」



 アプローチの仕方である為ここも何とも言えない。但し、書き手に言いたい事は、自らが書きたい物を書く為にリサーチをせよと伝えておきたい。



「ペケさんは、ベタベタの作品を書きよるが、その分リサーチ力も極めて高いからの、一つのweb小説完成形態の一つだからの」



 何度も言うが、失礼を承知でペケさんの作品はあまり真新しい物はない。されど、今までありとあらゆる作品においての伝統を今風に昇華している。テンプレートという物を起用できている珍しい作品。



「貴様がペケさんの作品を選んだのは実に運命じみたものを感じるの」

「運命?」



 神様は、発声練習をするように声を出してからレシェフに言う。



「喉が渇いた」

「えっ? 何か飲み物を冷蔵庫から」

「ならん、貴様が淹れろ。私はソフィの殺戮ショーでも映像で楽しんでおるわ」



 そう言ってパチンと指を鳴らすと売り場の風景が変わる。ソリッドビジョンの映像のように作品が再生されていた。



「なんだぎゃそりゃ! でりゃたまげ」

「はよう茶を淹れんか」



 神様にそう言われるのでレシェフは母屋にあるシアのお茶コレクションの中から、抹茶を見つけたので、牛乳を温めて抹茶ミルクを作ると売り場に戻った。



「神様、抹茶ミルクを作ってみました」

「おぉ! 中々気が利くのぉ」



 神様がやや光り輝いているのを見て、レシェフは二度見してみたが、やっぱり光り輝いている。



「神様、お体が発光しているようなんですが」

「これかの? まぁ私は読み物の神だからの、時折こういう事になるのだ。本を読む人間が多いとの。どれ、強化した時のソフィーやギルースのようであろ?」



 そう言ってない力こぶを作ってみせる。

 レシェフがそんな神様を見て思った事。



「神様は可愛いですね!」

「いや、貴様。私がこの子供の姿なのは色々あってだな。実際の私はもう、驚く程に神々しいぞ!」



 そういう神様はどうもレオホーン的な、動物的な可愛さがあるとレシェフは思う。セシャトやトト、シア達と違ってレシェフは元々人間の女子高生。可愛いものに弱かったりするのである。



「幻獣って干し肉食べるんでしょうか?」

「普通の動物なら塩分が強すぎてまず喰わんだろうな。あるいは喰った後に体内の塩分濃度が上がりすぎて苦しみだすであろう。モンスターだから大丈夫なだけで、絶対に貴様は動物に塩分の高い食い物を与えるなよ」

「与えませんよぅ! 私実家では犬飼ってるんですから、だから気になったんですよ」



 神様は赤い伊達メガネをかけると美味しそうに抹茶ミルクを飲む。そして実に満足した顔で「うまい!」

 というのでレシェフは可愛いなと思っていたら、ギィと古書店『おべりすく』の扉が開かれる。そしてレシェフは背筋の寒気を感じた。



「なぁ、小娘……やなくてレシェフさん、神様とイチャイチャ、イチャイチャ、羨ましいなぁ!」



 レシェフは生まれてはじめて死を覚悟した。これは殺される。そう思った時、神様が言った。



「来たか、じゃあシア。貴様のオススメの小料理屋とやらにつれていくがいい」



 そう言って神様はレシェフにウィンクをした。シアは神様にそう言われるとクネクネと身体をクネらせてから目をハートにする。



「はぁい、行きますぅ! レシェフさんは悪いけどまた留守番お願いなぁ~!」



 そう言って神様を連れてシアは店を出た。

『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』皆さん、楽しんでいますか? 私達は楽しんでいますよぅ! こういうとアレですが、そろそろペケさんの作品群もスターシステムが導入されそうですね^^ 丁度半分を紹介小説は迎えましたが、レシェフさんはしっかりと店主になれるんでしょうか? 実に楽しみですね!

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