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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 『放浪聖女の鉄拳制裁 著・ペケさん』
76/111

緩急と固定概念を使った仕掛け

風邪をひいてしまいました。毎日トマトスープばかり飲んでいますよぅ。

この時期の風邪は中々治りにくいです。困りましたねぇ。ですが私は風邪くらいでは業務を辞めませんよぅ! 皆さんも風邪には気を付けてくださいね^^

「しっかし、この水着回というか、温泉回というか、これに関しては水浴び回? みんなひとくくりの物語が終わったらなんでこの緩急入れるんやろな? なんでや? ばっすん!」



 客のこない古書店『おべりすく』のカウンターで頬杖をつきながらアヌが店内の掃除をしているバストに質問する。



「そうっすねぇ。大体水着回とかを使う時は、人気を集めやすいとか、逆に人気低迷におけるテコ入れ回とか、今回みたいに一回肩の力を抜いてもらう時とかじゃねーんすか?」

「へぇ~……バスケもラグビーも日本頑張ってるやん。あ~、そこの淀川もめっちゃ綺麗やったら女の子が水浴びに来たりするんやろか?」



 バストはアヌがまた迷走した事を発言するのでなんと返せばいいかと考えていた。



「放浪聖女達、ほんと自由気ままっすね? そんな神様なら信仰してもいいかもしれねーっすよ」



 バストがモップをごしごしとかけながらそう話すと、アヌはバストに真剣な顔で質問した。



「なぁ、バッすん。このソフィ達みたいな子等、シスターと合コンセッティングできへんやろか?」

「シスターは、神に仕える女性ですよ? そんな不純な事に付き合うわけねーっすよ」



 ぐるるるるとアヌはバストを威嚇する。それを面倒くさそうにバストは見つめる。次は何を言ってくるんだろうと胃が痛くなってきた。



「エテ公ってさ、何しても許されるんやろか? 犬はアカンのか? なぁ犬は従順でええぞバッすん!」

「はぁ……それよりレリックについてアヌさんはどう考えますか?」

「そんなもんあれやろ、古代種一択や、ウチの鬼店長もそうちゃうかとワシは考えとるけどな! 何が甲子園に連れて行くから店番しとけやあのどアホウが」



 古書店『おべりすく』店主のシアをディスりまくる。本人がいないからアヌの態度も比例して大きくなる。

 トゥルルルル!

 珍しく、古書店『おべりすく』の電話が鳴り響く、バストはフラグだなと察知する。それをアヌはガチャンと力強く取ると電話に出た。



「おかけになった電話番号はぁ、現在使われておりません! せやから、番号を……は? シア姉さん? いやぁ、これは喉の調子がな? そんなん姐さんの文句なんて言うてませんて! えっ? 録音してた? ……ははっ、そんな殺生な」



 段々と青い顔をするアヌ、掃除が終わり団扇でぱたぱたと自らを仰ぎながら、バストは『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケ』を読みながら口角が緩む。



「こういうほのぼの回もいいっすね」

「せやな、イサラってリアルやと思わへんか? 世間知らずの嬢ちゃん二人の保護者しとるやろ? 役職的に上やからて猊下ってソフィの事を呼び、自分との身分差に関しても十分理解しとるしさ、おるよな? こういう人。しっかしのぉ、干し肉あるんやったらそれでスープ作ればええのにのぉ」



 そう言ってアヌは母屋へと消える。そして「ばっすーん! ちょぉ休憩しよーや!」

 と聞こえてきたので、バストはハァとため息をついて、母屋へと向かう。そこではすでに缶ビールを開けて出来上がっているアヌの姿。ビーフジャーキーを咥えながらバストにも缶ビールを手渡す。



「ゴールドラベルやでぇ!」

「アヌさん、仕事中に飲んだら店長に怒られますよ?」

「もう、こんな辛気臭い店に客なんてこーへんて! 看板なおしてきいや! んで、『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケ』でも読みながら一杯やろうーや」



 シアがいない店内ではアヌは店長代理であり、アヌがそう言うならそうなのだろうとバストは看板を片付けるとアヌの待つ母屋へと戻る。



「この行商人、えらいはぶりええのぉ! わしに金貨くれんかなぁ? もぐもぐ」



 ジャーキーにピーナッツとツマミになる物を食べながらグイグイとアヌはビールを胃に収めていく、ちびちびと飲んでいるバストを見て吼える。



「ほんまぁに、ばっすんは女々しい飲み方しよるのぉー! 男やったらがーっと飲まんかい!」

「それ、パワハラにモラハラっすよ」

「じゃかあしい! マリアちゃん、わしの膝の上きたらいっくらでも麒麟ビール飲ましたるのにのぉ! いっちょ作品世界に入るか?」

「店長いないから無理ですよ」



 アヌは完全に泥酔しはじめているので、バストは水を飲ませる。少し落ち着いたのか、アヌは独り言みたいに語る。



「この、行商人と出会って話を進めるっていうのもベタやんな? せやけどすんなり話が入ってくるし、やっぱええのぉペケさん。あぁ、わしもペケさんの図書館で働きたいのぉ」

「アヌさん、司書資格持ってるんすか?」

「アホか! リアルに国家司書の資格持っとるわボケぇ! ど田舎の図書館実習年末にされて、わし一人や! 買い物行くとこもないし、何も売っとらへんし、地獄やったのぉ!」



 アヌがそんな資格を持っていた事にバストは心底、驚くと共にこの酔っ払いに対して尊敬のまなざしを送る。



「アヌさんすげぇ!」

「せやろせやろ!」



 気分をよくしたアヌは冷蔵庫からさらに缶ビールをロング缶で二本もってきた。それをプッシュといい音を出して開けると、「ばっすん! なんかアテ」と言うのでバストは母屋からピーナッツを皿に入れるとそれを出した。



「この作品って、一つの大きな章わけはされてますけど、一話完結型っすよね? これはWeb小説読者が好む形態っすよね」

「せやのぉ、さすがはペケ姐さんちゅーこっちゃー、それにして土下座か、こらおもろいの」



 少女が土下座をというシーンにおいて、アヌが赤い顔でそう呟く。バストは目を丸くしてからアヌに聞いてみた。



「理解できる言葉に当てはめてるって事っすよね?」

「そや」



 土下座、という言葉と意味は日本にしか存在しえない。が、跪いて助を媚うという姿は世界各国でみられる。それらを表現する言葉として一番分かりやすいのが土下座という言葉。



「世界は日本と違って言葉にできん言葉もあるからの、これは一見するとおかしい言葉に見えるけど、日本人が読む為に翻訳されとると思うとやっぱり、上手いの」

「えぇ、ソフィさんの聖女っぷりが、大衆的聖女って感じなのもいいですよね」

「せやな! トロールか、日本人にはなじみ深い化物やな。しいて言えば、Web小説界隈にもようおるバケモンかもの」



 アヌがやや、グレーな話をはじめた。トロールとは北欧の化物。それをモチーフにしたアニメや漫画のキャラクター。ムーミンやトトロ等が有名だろう。彼らの造形は非常に人に近しい存在として扱われる。そして、所謂『荒らし』。インターネットトロール。それらは悪戯をする者と言った存在。



「ファンタジーの世界においてはトロールは中々死なない単細胞な怪力の怪物。北欧伝承の巨人の設定を踏まれる場合が多いっすよね。何でこんな存在なのか設定づける人ってあんまりいねーっすよね」

「まぁ、そやな。ゴブリンスレイヤーとかはその一つの常識を破った例かもしれへんけど、異世界物の敵って何故? みたいな奴が多いよな。それって、元々の神話とか伝承設定がマジで適当やねんけど、それを誰も不思議に思わず起用してるからやろ。別にそれが悪いわけでもないしな? 妖怪っておるやん。あれって全部作り物んやん? なのに、新しい妖怪を考えたとするやろ? すると、妖怪オタクとかは”実際の妖怪って”みたいな意味不明な事言うねん。お前の知識の妖怪もまた誰かが創作したもんやからな? みたいなツッコミしてやりたくなんな」



 ロング缶を開けて熱い息を吐くアヌ。



「ペケさんは、そんなトロールの設定も、一番分かりやすい物を選んでるって事っすよね? 分かりやすい内容という物を徹底して作る事で、その”なんで”を感じさせないと言いたいんすよね?」



 そう、アヌは思いっきり酔って饒舌に語っている。言わんとしたい事が遠く、遠回しで分かりにくい。



「アヌさん的には、トロールってどうやって討伐しますか? 普通にやったら倒せないですよね?」

「そんなもん、鉛つこうたらええやろ。ようは自己治癒が異常に速い生き物なんやろ? せやったらダムダム弾みたいなもんで自己治癒による自爆してもろたらええねん」

「アヌさん、えげつないっすね」

「いや、お前、相手はほぼ不死身の化物やぞ。頭つこうてやらなすぐお陀仏やろ」

「でも、本作のトロールはゾンビみたいっすよ。それもダムダム弾っすか?」

「そんなもん火炎放射器やボケぇ!」

「どっちも条約違反の武器っすね」



 本作はここから、魔物。所謂モンスターが登場し盛り上がりをみせる。不死の魔物は白魔法、神や聖なる力による魔法が一般的に効果的とされる。その対抗呪文を施されたアンデットモンスター。まさに、人狩り用にチューニングされた怪物なんだろう。

 一般的な神職者の魔法を無効化、あるいは軽減させるその不死なる怪物に対して、レリックを持つソフィはその対抗呪文の上から無理くり打ち抜くという読者が想像し、そして望んでいる展開へと盛り上げる。



「正直、ソフィさんってチートじゃないっすか? でもチートっぽくなく感じるのはなんでなんすかね?」

「それは、タイトルが結論設定やからやろ? 時代劇はかならず悪人が成敗されて終わるのと同じやの、筋書きはある程度読めるんやけど、それを楽しみにしてるから時代劇はじじいとばばあが見よるやろ? Web小説の読者も全てとは言わんけどそれがあてはまんねん」



 このアヌさんのお年を召した方への言葉の暴力に関してバストは少しばかり閉口するが、ビールを飲み干してから手をポンと叩く。



「アヌさん、自分映画の予約してるんで、このあたりでおいとまするっすね?」

「は? 何処行くねん」

「TOHOシネマズっす。天気の子観に行こうと思ってるんすよ」

「ヘップの横の本館かいな? しょーもないやっちゃーのぉ。これから夜になって、考察も楽しなんのに」



 苦笑しながらバストが帰っていくので、アヌはスマホで『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケ』を読み返しながら呟く。



「ソフィみたいな子にやったら殴られてもええけどのぉ」

「そうか、ならウチが変わりに鉄拳制裁したるわ! 昼間から店しめて、夜までなに酒舐めとんじゃワレはぁ? ええ身分ですねぇ?」



 その日、二度ほど警察が確認しに来る程度にはアヌの絶叫が町内に響き渡った。

『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケ』この前、本作を当方の皆と読み話し合いをしたんですが、安心して読める作品という大きな位置づけがあります。例えば極大長編化した際にダレてくるときがいずれでてきます。そこをどうやって楽しませてくれるのかというのが楽しみでありつつ、完結がある程度用意されている作品である事もなんだか感じます。出来る限り長く続いて欲しいですねぇ^^

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