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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
71/111

ティータイム・ラプソディ

まだまだ暑いですね! 台風11号も発生しましたし、今年は何号まで台風は生まれるんでしょうか? ちなみに大被害をもたらせた台風の名前は使わないようにする暗黙の了解があるみたいです。

世界も世間も配慮が大事ですね^^

 ブルーシートをひいて大友、汐緒と二人がお茶の準備をしていた。神様はティータイムもといオヤツの時間にうるさい。

 ビスケットやここで焼いたスコーンに焼きリンゴと沢山の茶菓子を用意すると神様は中々ご機嫌そうだった。



「トトさんが恋焦がれたように話すから、どれだけと身構えていたかや、蓋を開ければただの煩いガキでありんすな」



 そう言って大友が薄く切ったフルーツを重ねて茶瓶に入れるとそこに冷やしたアイスティーを流し込む。



「そもそも神という物はそんな存在であろう? 余興でも見せてやろうかの」



 そう言って神様がウィンクをすると、周囲の景色が禍々しいものに変わる。それが何なのか、大友と汐緒は理解したが、汐緒はぶるぶると震える。持っていた茶器を落としそうなので、大友が汐緒から茶器を預かり、そして汐緒の肩を優しく抱くと神様を一括。



「おい神様やめろ! なんか汐緒たんビビってるって!」



 大友の腕の中で震える汐緒は今にも気を失いそう。一体何がそこまで彼を怖がらせているのか、女装をした大友とタキシードを着た汐緒の2ショットは中々絵になるなと思いながら神様はビスケットを一枚かじった。



「トトの奴が帰ってくるまでの余興だの。この空気感は汐緒がおってはじめてよくわかると言えよう。これは鵺という存在の空気を現した幕間だろうの、人が読めば何やら暗黒面を感じるという程度かもしれん。だが、同じく闇を生きる妖怪はどう感じておるかの?」



 言伝や口伝、噂等をもって生まれる妖怪。それらは感情という物に対して恐怖する。妖怪は見えないが、そこにある物。対して憎悪、怒り、呪いのような感情は存在しないのに見えている物。

 人一倍そう言ったものに左右される。ガチガチと汐緒が恐怖する。それこそが負の感情をため込んだようなこの幕間の五。

 妖怪や幽霊はいないが、怨念はある。と言うオカルト否定派の人間がいる。ここでいう怨念とは負の感情を向けられた事による動揺や恐怖。もう泡を吹きそうな汐緒を座らせると、大友は据わった目で神様の前までくる。

 それを妖艶な表情で神様は片目を開けて見つめる。



「なんだ大友」



 ゴン!

 大友は思いっきり神様にゲンコツを落とした。それに神様は最初意味が分からないという顔をしてから涙目になる。



「何をする貴様ぁ!」

「やめろって言ってるんだからやめろよ! 汐緒たん可哀そうだろうが!」



 神様が痛がる事で周囲の空間は元に戻る。そして汐緒はいまだ震えているが、だんだんと安定を取り戻す。



「助かったかや大友君……しかし、神様酷いでありんす。この作品、仏教の念仏みたいな物でありんすな……物語が言の葉が力を持っているでありんす」



 念仏と汐緒は例えた。いまいち大友は理解できない。焼きリンゴをフォークで崩してはちみつをつけるとそれを一口。



「で? どういう意味だってばよ?」



 とアニメキャラクターの口調を真似て汐緒に尋ねると神様が横から話しだした。今だ大友に殴られた頭を気にしてさすりながら。



「念仏というより、お経。あれもいわば物語みたいなもんだからの、この作品。面白いところは文章使いだの。汐緒が感じた事はそれ即ち、詩的であり意味を持つ文章からだの」



 やや表現が分かりにくいもの、何となく意味が分かる。そんな作風を本作は上手く使いこなしている。これが、完全詩的表現であれば意味が分からず、かといって固い描写表現のみであれば、内容が深く感じないかもしれない。



「あー、配合がうまいのな?」



 要するにそういう事である。本作の日常シーンのようなところは、案外柔らかい作風であり、ラノベのようだが、ひとたびシリアスがはじまると、実に深みが出てくる。おそらくはセンスでこういう使い分けをしているのかもしれないが、珍しい作品と言えるかもしれない。神様は二人が作ったフルーツティーを飲みながらフンと鼻を鳴らした。



「人間の中に神と命は同位と言う連中がおるな。さてと、竜が顕現したが、これいかに……」



 神様が何を言いたいのか今一、二人には分からない。謳われるものとして真竜が現れた事についてである事までは大友、汐緒共に理解はしたが、一体神様は何を言いたいのか……



「この作品の面白いところの一つだの。竜が謳われておる」



 何を言っているんだと、大友は本気で思った。竜といえばあの日本式の龍や西洋のドラゴンのようなそれは最上の生物であり、人々に……



「あっ、そういう事か」

「大友君、どういう事かや?」

「竜って信仰される事はあっても俺たちの世界においては謳われる事はないんだ。畏怖と敬意の両面を必ず持ち合わせてんだよ」



 どちらかと言えば竜もドラゴンも悪しき者であり、怒らせてはいけない存在。故に称え、畏れる事でそれらの恩恵を承るといった関係を持つ。



「そうだの、いつも逆さ鱗に触れないかと人間はびくびくしているのだ。されど、竜紅人は違うようだの。絶対の存在……とまでは言わんが、それに相当する官位を持っておるんだろう。そのありあまる運命に、竜紅人が耐えられるのかは知らんがの」



 皆一様にスマホやタブレットを持って内容を読んでいる。神妙な顔つき、このロケーションが山の上であるという事。



「……暑いな」



 大友の呟きに同化していたハズの三人は日差しの強さ、そしてのどの渇きを覚える。アイスフルーツティーを飲みながら汐緒は呟く。



「もののあわれは何時の時代も変わらんかや」



 ひと時、いやほんの一瞬だったのかもしれない。竜紅人と葵が交わしたいくつかの言葉、そして二人の永劫の別れをについて汐緒は語る。



「花火しかり、だからこその美しさがあるのかもしれんがの、気づいて遅かった。親の心を知った時にはもう親はなし……色んな形があるがの、成長というこの何気に説明が難しい描写をよく表現しておるだろう?」



覚醒というシーンの表現に遠回し、また逆に手の届く描写を重ねて昇華させてみせた。素直に面白いという言葉がよく映える。



「ふー、でもさ。わざわざこんなクソ暑いところでこれ読まなくてもよくないか? 正直俺暑いの苦手なんだよな」



 そう言って大友は大きく股を開いて、エプロンドレスに風を送る。女の子がはしたない! とでも言えるようなポーズだが残念ながら大友は男の子。



「それにしても店長遅いかや、何処か道に迷ってないか心配でありんす」

「まぁ奴には方位磁石つきの懐中時計を渡しておるから大丈夫であろう」

「……その方位磁針もあちきのマヨヒガでは役に立たなかったでありんす……ここな山にはあちきか、それ以上の何かを感じるかや、さすれば店長は迷っていないかや?」



 何とも聞き捨てならない汐緒の言葉に神様は固まる。どんな場所でも迷子にならないようにと神様が渡した懐中時計の方位が狂った事があるという……

 そして思い当たる節が一つ。



「おぉう! 私のこの身体か? 力が足りんからあ奴に渡した力も存分に振るえんのか……これはまずいのぉ」



 神様が右往左往その辺をうろついて焦る。それはお使いにいかせた子供が突如いなくなって焦る親の反応のようにも見えた。そして雇用主であり、恋焦がれる相手が危険かもしれないという事に汐緒もだんだん顔色が悪くなる。

 そしてそんな二人を一括する大友。



「ばっかじゃねーの! トトさん程しっかりした人が迷子とかありえねーだろ。俺たちはここでゆっくりお茶してたらいんじゃね? なんか面白いお土産持ってきてくれるかもしれねーじゃん」



 そう言ってビスケットに焼きリンゴの果肉を乗せて食べる大友。彼は何も心配した顔をせずに言う。



「竜紅人って、龍より、ドラゴン的な感じなんだなぁ! へぇ、カッコいいじゃん。てっきり東洋系の龍だと思ってたのになぁ」



 中々どういう状況? という環境の香彩の反応は分かりみが深い。なんとも大きく気まずいし、それを悟られるのもまた釈然としない。

 そのくらいの戸惑いを読者もまた感じてしまうところが、面白くもいじらしい。スコーンにも焼きリンゴの果肉を塗りたくると大友は大きく口を開けてそれを食べる。



「うん、これも合うな。リンゴってさ結構フルーツの王様だよな。手頃に買える価格帯だからこそ、色んな調理方法があるしな。その昔、リンゴでパイナップルを作った料理人がいたって聞いた事があったっけ。そのデザートを食べた瀕死の人は奇跡の生還を遂げたっていうじゃんか」



 帝国ホテルのシェフの逸話を大友が話すので、神様が下唇を噛んだ。してやられたと……そしてそれはすぐに汐緒も気づいた。

 天昇を読み終えてからスマートフォンのバッテリー残量を少しばかり大友は気にしている隙に神様は問うた。



「大友、貴様本当に人間か?」

「あぁ、下の弟と妹が二人。上に姉と兄が二人。その中間管理職をしている女よりも可愛いのが俺だ」



 大友はトトが本作をより楽しんでもらう為に、なにか策を講じているのではないかとそう言いたいのである。

 彼の帰りが遅いのも何かサプライズを用意している。でなければ、今ここにあるオヤツはあまりにも質素なのだ。神様という存在がいる中でティータイム一つとってもトトは手を抜かない。

 それ故、この茶菓子はフェイク。それを大友はさぞ美味そうにわざとらしく何度も二人の前で食べてみせた。



「大友君、店長の心でも読めるかや?」



 汐緒のおでこをピンとはねると大友は面白そうに悪戯な笑顔を見せた。



「俺とトトさん? そりゃ相思相愛くらい知った仲だぜ」



 汐緒の瞳が縦割れする。大きすぎる嫉妬。神様と大妖怪がたった一人の少年に手玉に取られてわめいている中、三人が待っていたトトが帰還する。



「遅れてすみません。只今戻りました」



 ずんずんとトトの後ろの巨大な影に三人はごくりと喉を鳴らす。

さて、今月作品の『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』ですが読まれた方なら気づきましたでしょうか? 緩急のつけ方が極めて曖昧で気がつくと読まされていませんか? ここも本作のオススメポイントですが、私は香彩さんの造形がここ最近はお気に入りポイントですよ! 皆さんの面白いなと思う部分を探してみてくださいね^^

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