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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『蛭子神 著・三上米人』
7/111

心の荒む作品のお供に変わり種

なんと、5月作品の募集ジャンルが決まりました。”異世界”です。Web小説一大ジャンルであり、数が恐ろしく多い為準備期間を得て二度目の募集です。さて、どんな作品が選ばれるのでしょうね!

「しかし、この高校生の男の子、刺身定食とは渋いですな」



 いつのまにやら寿司屋の大将も一緒になって『蛭子神 著・三上米人』を読んでいた。寿司を握る大将がスマホに触れるわけにもいかないので、神様のタブレットを立てて大将に見えるように読ませる。

 主人公に給料が入ったので、少し贅沢をしようかというシーン。

 こればかりは作者の年齢に左右されるのかもしれない。本作者は主人公の年齢に合わせた発言や行動を大変意識している。

 が、食の趣味は中々難しいのだろう。ステーキや刺身定食をチョイスする高校生男子はやや少ないかもしれない。

 それ故、大将は渋いなと感じる。統計をとったわけではないが、SNS等で贅沢をと公開している高校生男子は刺身なら海鮮丼等のどんぶり飯、肉ならベターに焼肉を公開している男の子が多かった。

 本作の主人公はそう言ったベターな男子高校生よりやや感覚が大人なのかもしれない。



「まぁそうだの。というか、微妙に昭和か田舎を感じるの、ただこういう街の飯屋は美味かったりするんだがの」



 観光地でもないやや田舎の食事処は案外美味しくて、お値段もまぁまぁ張るところが多い、そう言った場所が主人公の住まう場所なのか、このあたりの描写は一切されていない為、想像にお任せというところなのだろうか。

 春休みが始まり、そこそこ解放感を持って自宅に戻った主人公は本来であればあたりまえの、彼にとっては異常な風景が広がる。

 崩壊したハズの家族、妹と母親が自宅で団らんしているのだ。

 セシャトはエビの握りを頂きながら、食事風景について突っ込んだ。



「なんとうか、これは三月なんですが、正月前に売ってそうなオードブルを頂いてますね。もしかするとこのあたりから場所の特定ができるかもしれませんね!」



 基本的にスーパーで売られているオードブルは日本全国大体、フライドチキン、ソーセージ、ポテトにあとは大体中華の物がベターである。これは大体イオン系列のお店が統一を図っているからである。

 ただし、県民性というものが食にはよく出る。紅白かまぼこが入ったオードブル。もしかするとそこから何処か……とセシャトが思っていると大将が突っ込んだ。



「仕出し弁当屋等だと紅白かまぼこを入れている事がありやすね。それ故、ここから県民性は難しいかもしれません。それに、このオードブルはスーパーで売っていると記載がありますね」



 大将は神様が頼んだゲソをさっと出す。物語を一緒に楽しんではいるが、大将は板前として客に対するサービスも当然忘れない。

 大将は一息つくと盲点というべきか、セシャトと神様が気にも留めていない事を言ってのけた。



「この作品、ホラー小説なんですよね? 主人公の男の子のお母さんに赤ちゃんが出来てハッピーな空気ですが……」



 全編を通してはじめて分かるホラーというものがあるが、この作品はそれだろう。テレブルという恐怖ではない。



「そうだの、ホラーと言っても化物が出てくる。猟奇殺人者が出てくる。そんな物だけがホラーではないぞ。読んでみろ。全て終わったと思っていたのに、それは自分の中だけ。母親も妹も当たり前のように家族の関係を瞬時に修復しよった。それを受け入れられないのは自分だけ、どう思うかの? それは別の世界に迷い込んだように主人公は恐怖したろうの」



 そして訳の分からない状態に対して人間は攻撃的になる。それは主人公もまた同じであった。心の中にため込んでいたストレスを開放するように、それは言葉のナイフとして母親、そして妹に襲い掛かる。

 主人公は容赦なく母親を、そして母親の恋人を蔑む。はっきり言って読者からすれば主人公に不快感を感じるかもしれないレベルの言葉を並べる。

 だがここは実に素晴らしい。少々、高校生男子が使うかは難しい言葉を使うが、血のつながった親にだからこそ、このキツいあたりは実にリアルである。

 そして母親は無言の報復。

 この描写に対して神様は普通の顔でこう言った。



「ぶっちゃけ、こいつらこの親あってこの子ありだの。まぁまぁ救いようがないレベル。どちらも養護できん。そんな小説のキャラクター中々Web小説ではおらんよな」



 セシャトはワサビ醤油にエビをつけてからポイと口の中に入れる。



「なんというか、デンジャラスファミリーですねぇ。実際、本当の家族というものはこんな感じなんでしょうか?」



 セシャトは数々のWeb小説を読んできた中で、このタイプの小説はWeb小説ではなく本来の公募等を意識した作品である事は重々に理解し、それ故のキャラクター造形である事もある程度承知していたが、どうしても家族というものに関して知りえない事がいくつかあった。人間ではない自分、何処まで行ってもその人間故の部分は分からない

 家族だからこそ、ここまでの醜い争いが出来るものなのか、神様はセシャトの生みの親ではあるが、家族というものを教えてやれるような事はしてきていない。割りばしに醤油をつけてペロリと舐める。

 そんな様子を見て大将はグラスに入れた水を飲むと語り始めた。



「この家族は普通ではないですが、異常でもないですね。母親は、子供達に迷惑をかけてきた。だからこそ幸せになり、今度は子供達に寂しい想いをさせたくはない。逆に主人公の男の子は、今まで自分達に我慢をさせておいて、自分だけ幸せになるのかというイラ立ちですね。歯車がかみ合わなかった悲劇でしょう」



 大将が物思いにふけっている事から何か大将も神様やセシャトには理解できないような深い事情があるんだろうと納得。



「大将さん、お母さんは全部やり直したいとそういう気持ちだったんですよね。それなのに、主人公の男の子は酷すぎはしませんでしょうか?」



 本来、小説紹介をするハズのセシャトが大将に質問する。人間の気持ち的な事は何処まで行っても分からない。

 それ程までにこの主人公は意志が強い。と言えば体がいいが、生活環境からひねくれてしまっている。



「そうですな。人間関係というものは修復が非常に難しい。そういう意味ではこの作品は実に的を得ていて読むと疲れますね」



 主人公は壊れてはいない。壊れてはいないが、確実に諦めている。あらゆる事を、家族という物の信用を諦めている。自分の幸福を諦めている。そして、諦めていない家族が許せなのだろう、この執拗なまでの宗教観が絶望的にリアルであり、本作の見どころ、人間の闇を上手く表現している。

 このシーンでの鳥肌的名言はあれだろう。


”……そうしてると、母親っぽいね”


 これは暴力よりも暴言よりも彼女、主人公の母親に対して大きな心の傷を残すに十分だろう。この言葉を思い出す度に、事情があったにせよ、中絶したという事を常に思い出す事になるだろう。それは主人公である息子、その妹。

 そして、次生まれてくる子の顔を見るたびにその事を思い出すだろう。それは母親の精神に異常をきたすかもしれないし、最悪虐待に走るかもしれない。



「この作品、心が荒みそうになるの。寿司でも喰いながらでないとまぁまぁきつい。大将の握る寿司を喰ってはじめて相殺できるレベルだぞっ! 大将、そろそろ変わり種を頂こうかの!」



 寿司の変わり種。

 回転ずし等には沢山あるので想像しやすいだろう。ハンバーグ巻きや天ぷら寿司等、所謂ゲテモノと珍味の境目にありそうな冒険系の寿司。



「お任せで?」

「嗚呼構わん。大将のお任せでいただこう」



 神様がそう言って楽しみにしているので、セシャトも少しばかり鬱々としてきた気持ちをリフレッシュしようとこういった。



「大将さん、私にも同じ物をお願いします」



 コクンと頷く対象は冷蔵庫から何かの塊を取り出した。

 それを見てセシャトと神様は大丈夫かなと顔を見合わせる。それもそうである。大将が取り出した物は何かの生肉。



「時に大将。それはなんぞ?」



 眼光を光らせてからこう言った。



「パンチェッタです」



 それは豚肉の塩漬け。豚肉の質量に対して三分の一の塩。それもアンデスの岩塩でしめた無菌豚。一か月冷乾燥した物をスライスし、水で塩抜きし細かく切っていく。



「もしかしてユッケ的な?」



 豚の生肉で作ったユッケ軍艦巻き。それをセシャトと神様の前にポンと出される。二人共豚の生肉は食べた事がない。

 それ故、躊躇する。

 この微妙さ。



「主人公と妹のやりとりみたいだの……」

「そ、そうですね。奈菜美さんは一番、諦めてなかったように感じますよね! お兄ちゃんと一緒がいいという事ですから」



 だが、この物語の真骨頂というべきか、その妹の昔の言葉から物語が変わる事はなかった。兄はどうすればよかったのか? 奈菜美はどうしてほしかったのか? それすらも今となっては分からない。それ故か主人公の心をつなぎとめる事は出来なかった。

 そして神様は目の前のパンチェッタ軍艦を前にこう言った。



「セシャト、ちょっとこれ食べてみろ」



 セシャトに毒見をしろという神様に対してセシャトは上目遣いに大将を見る。大将はこの変わり種寿司を出してからじっと二人を見つめていた。



「では、僭越ながら」



 セシャトは醤油をかけようとして大将に止められた。



「お嬢さん、紅葉おろしを溶かしたポン酢で頂いてください」



 そう言われて真っ赤なポン酢を垂らしてセシャトはそれを勇気を出して一口。

 咀嚼。

 もぐもぐと上品に味わって飲み込んだ。そしてバンとセシャトは割りばしをテーブルに力強く置く。



「お、おおぅ! セシャト、大丈夫か? ぺっしていいんだぞ? 私の手にぺって」



 親らしい事をしようとする神様。こういったまともな家族の営みが主人公やその母親には無かったんだろうなとセシャトは思いながらパンチェッタ軍艦巻きの味の感想を述べた。



「……実に、美味しいです」

さて、大分鬱々としてくる部分がありますが、それがまたミソである『蛭子神 著・三上米人』もう読まれましたか? 神様は自ら頼んでおいて私に毒見をさせようとしますが、あんな微妙な気分になります。

今回登場したパンチェッタ軍艦は決してご自宅で作らないでくださいね^^

お店で出してもらうものを食べましょう!

いよいよ前半戦が終わりましたが、私達どれだけ長い時間お寿司屋さんにいるんでしょうね^^

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