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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
69/111

会話文に重きを置くことのライブ感

さて、10月ころになるんですが、面白いコラボを予定しておりますよぅ! あの方とあの方と私という奇跡的なコラボレーションになりそうですねぇ^^

お楽しみに!

「よっしゃ、朝だ!」



 大友は髪をとくと手鏡を見て化粧水をつける。

 手を洗うともう既にトトが少し不機嫌にバーベキュー台で銀紙に包んだホットサンドを作っているところへ向かう。



「なになに? トトさん、珍しく女の子の日ですか?」

「大友君、ここに女の子と呼べる存在はいませんよ」



 見麗しい四人だが、実際そうなのだ。何やら昨晩より神様と汐緒が仲がいい事。大友は神様の事を気に入っているのでスキンシップが多い事。

 普段の女性客には絶対に見せない膨れっ面のトト。

 歯磨きをしながら大友はトトに聞く。



「この冒頭ってさ鵺なんだろうな? なんかえらく落ち着いているというか、思ってた鵺像とちょっと違うかったわ」



 幕間四における感想を大友が語るので、トトはふむと作りたてのホットサンドを皿にのせると話した。



「僕たち読者の中では妖怪としての鵺のイメージが強すぎたので、ある種虚を突かれましたね。そして次のお話で少しばかりほのぼのとしてしまいます」



 めぇえと鳴く謎の生物。そしてそれは鵺の子供ではないかとそう考えられている。それに大友は突っ込んだ。



「でも、どう考えてもこの鳴き声は羊じゃね?」



 トトは話ながらでも綺麗にサラダを作って神様専用のプレートを作るとクスりと笑う。そしてその大友が羊と呼んだ生き物についても補足をした。



「大友君、この日本でもはじめて羊という名前と容姿を聞いた時、想像が想像を膨らませて、今では信じられない化物として伝わったんですよ」



 事実、羊は人間の子供を浚って喰う等と伝わっている。おそらく、牡牛の悪魔という考え方が海外から入ってきたのかもしれない。



「へぇ、羊可愛いのにな」

「えぇ、羊は可愛い。というのはその存在を知ったから言える事ですからね。この不思議な生き物の鳴き声がめぇええという羊のような鳴き声である事、そう考えると少しばかり深く感じませんか?」



 もちろん意図してそうしたわけではないのだろうが、大友は十分トトの話でまだ寝ぼけている頭のトレーニングになった。



「じゃあガキ共のところいこっか?」

「ガキって……大友君。神様と汐緒さんは随分な年齢を……」

「あぁ、らしいな? でもガキにしかみえねーじゃん」



 そんな会話をしながら、神様と汐緒が待つ簡易式テーブルにホットサンドを運ぶと、汐緒はトトの姿を見て顔を赤らめる。



「店長、朝から決まってるでありんすな?」

「えぇ、ありがとうございます汐緒さん」



 四人分食事を配膳すると手を合わせていただきます。神様は牛乳のお代わりをしながら汐緒に聞く。



「この妖怪より神に昇格するという話はようあるが、実際どうなのだ?」

「難しいでありんすな。あちきのように蟲の変化は百年生きたら妖怪になって、千年生きたら神になるなんて言われてるかや、実際あちきはかわりゃせん」



 九尾狐も十本目の尾が生えたら神になるだなんて言われており、八百万の神々故の考え方か? 鵺もまたそういった出世魚ならぬ出世妖。



「むぅ、しかし鵺の子供。一匹ほしいのぉ」



 神様がそう言うので、トトは青い顔をする。神様はよく犬猫を拾ってきてはトトを困らせる。お次は天妖まで拾いたいという始末。

 竜紅人の言葉一つで曲芸のような動きを見せるコミカルな子鵺も可愛いが、それと飼うはまた別。



「竜がおったり、魔妖の王がおったり、この作品。外さないジャンル妖怪ものなんだが、なんと表現しようかの。線で言えば細いの」



 作品の一話一話を短くしている分、内容がわりと濃い。それを何故か神様は細いと表現した。それはここにいるほか三人も何となく意味を理解した。

 書き手のセンスがシャープに感じさせているんだろうなと……



「おいおい! 叶さん。すごくいいところでよこやりかよぅ」



 心底がっかりする大友はトトお手製のホットサンドにがぶっとかぶりつく。対面で汐緒が大事そうに食べているのとは大違いだった。



「大友君、コーヒーは?」

「いります。ブラックで」



 紅茶がフェイバリットのトトからするとコーヒーを淹れる事に関してはセシャトに一歩届かないが、ダークローストをわざわざ持ってきてこの山の中で封を開封するあたりが、こだわりの強さを感じさせる。



「おぉ! チーズがとろけよるわぁ!」



 三つ目のホットサンドを食べながら神様が喜ぶのでトトは幼い顔で嬉しそうに神様を見つめる。そこで大友が一言。



「ろくな性癖の奴がいねーな」



 少しばかり眠そうに目をこすりながら汐緒はコーヒーを飲む。昨晩、このあたりの妖怪相手に一人で出張ブックカフェを開いていた事を知るのは神様一人。そんな事を知らないトトは汐緒の瞼に触れて言う。



「汐緒さん! 神様とお酒を組み交わすという事に舞い上がるのは分かりますが、夜更かしのしすぎは美容と業務に差し支えますよ」



 トトに触れられて汐緒のアドレナリンは上昇。眠気等吹っ飛び紅潮した顔で頷いた。



「はいでありんす……もっと触って」



 上目遣いに見る汐緒から離れるとトトは汐緒にホットサンドを渡した。遅めの朝食、クリスプスなんかをまた大友が出すので神様がひょいひょいと食べる。



「大友君、朝からポテチは太りますよ?」

「えっ?」



 と大友は自分の頬を抓ってみる。完全に女子のような反応を示す大友だったが、神様はぱくぱくと食べながらこう言った。



「最近の男子も女子も食わしてもらっておらんのか? というくらいひょろひょろしておるからの、少しくらい肥えておった方が愛嬌もあるだろうて」



 だなんて神様が言うので大友は神様のほっぺたを引っ張る。



「なま言ってんじゃねーよ」

「痛い! 放せ! 離さんかばかものぉ!」



 神様が痛がるのですぐにトトは氷嚢をもって神様のところへ、それを受け取ると神様はほっぺたにつけて大友を睨む。



「貴様という奴は、もう少し神に気を遣わんか!」

「なぁな! どうせ昼までまったりするんだろ? 叶が出てくるレベルって事はさ。葵ちゃんって相当ヤバい系なんだろうな? 本気に殺りにきてる感じじゃんか」



 今までひょうひょうとしていた叶が直々にやってきては手を下そうとする。何やら嫌な予感すらする中で、汐緒がもぐもぐとホットサンドを飲み込んでから言う。



「気になるのは、いらないものという表現でありんすな? いらない人とかではないかや、少しばかりの殺意を感じる故、ただごとじゃないでありんす」



 トトはお湯を沸かして皆のお替りのコーヒーを淹れようと思っているが、この四人。集まると想像以上に作品に没頭する性質があるんだなと呆れる。



「あはは、僕のお役目ごめんでしょうか? それとも、セシャトさんならもっと突っ込んで話に入るとか?……なんです」



 トトは神様達の話に入ろうと思った瞬間、視線を感じた。それはまさに、竜紅人が感じたような何やら大いなるものの気配。その気配を感じながら視線を神様達に移す。誰も気づいていない。ならばそれを確かめるのは自分ひとりで構わない。

 トトはゆっくりとその場を後にした。



「あの叶さんが、ここまでして刈り取ろうとするその理由……」



 考察というより、トトが少し興味を持った事があった。本作の文体について、何処か大河ドラマのワンシーンのような。

 迫力、ライブ感という物を感じさせてくれる。単純に作品として上手いという事は分かるのだが、会話文かとトトは気づいた。



「会話文に重きを置くと、深みがでるんですね」



 地の文に脚色をして魅せようという作家と会話文で魅せようとする作家とあるが、本作はどちらかといえばこのライブ感のある会話文により引き込まれやすい。



「1話、1話の文章量も内容や言葉遣いに関してのストレス軽減を考えられているのかもしれませんね。それ故か、非常にしっくりきます」



 トトはスマホを見ながらしばし、考え事をしているとあたりが霧に包まれている事に気がついた。濃霧と言える程の霧、これは大変困ったなと片眼鏡を直しつつトトは周囲を見渡す。



「葵さん、胸中察します」



 もし、神様やセシャト達がトトの事を忘れてしまったとすれば、トトはその空虚感におそらく潰されてしまうかもしれない。

 そもそも、神様は全書全読の神様であり、書物と共にある存在。方や、セシャトやトトはWeb小説に寄り添うテラー。

 何時の世か、Web小説という物がなくなった時、自らの存在も消えていくのだろうかとそう考えると途方もなく寂しい気持ちになった。



「ふふっ、僕としたことが随分ネガティブな思考になってしまいましたね。さて、神様がお選びになったここがまともな場所なハズはないのですが、一体何がお待ちしているのでしょうね」



 8月の太陽の光を遮り、異常なまでの気温の低さをこの濃霧は引き起こしている。これはトトの経験上。

 人外の何かが待ってるんだろうと覚悟を決めて先に進む。そこには自然にできたのか、石の祠のような形をした場所にまあるい、ダチョウの卵よりも大きな卵らしき物が悠然と佇んでした。



「お邪魔しますレディ」



 トトはそう言ってお辞儀をするとそこに入る。卵は割れ、突風。

 いや、あの時の嵐が一瞬巻き起こった。

 目を開けていられないトト、ハンカチーフで顔をふくと、卵の姿がない。



「出迎え御苦労様です」



 振り返ると、そこには肌襦袢のような物を着た十程の童女。トトは童女にかしずくと、手を差し出した。



「僕はトトです。おそらく、全書全読の神様のお客様とお見受けいたします」

『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』皆さん、本作を楽しんでいますか? さてさて、紹介小説でも何やら卵から産まれた方が出てきましたねぇ^^ どんな風に物語に関わるのか、今回はライブ感という物を頑張って表現していきますよぅ!! 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』本編も、再び動き出しましたので同時に楽しんでくださいねぇ^^

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