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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
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神と大妖怪の夜酒

沢山台風さんが来ていますが、いつのまにか台風さんの〇〇号があがっていたりして、時折知られる事もなく消えていく台風さんが可哀そうだなと思ったりしてしまいますね! 台風近辺にお住まいの方はしっかり用心してくださいねぇ!

「よう神様!」

「うむ、大友。久方ぶりだの!」



 大友と談笑する神様、神様の自分専用コーナーを見て呆れながら差し入れを見せる。



「キャンプと言えば吊るしベーコンだろ」



 大分大きな塊を大友は神様に渡すと「夜食にみんなで食おうぜ」だなんて言って神様のコーナーに座るとその膝に神様を乗せた。



「何々? なんか面白そうな作品読んでんな? 女流ファンタジーか、あー分かるわ。何故か旅先で今まで気にもしていなかった事思い出したり、夢みたりするんだよな。これって実は帰巣本能からくるストレスなんだぜ」



 この中で一番、Web小説に関して智識がない大友だが、彼はそれ故に他三人とは違う着眼点から小説を読む。



「大友君は本当に面白い子でありんすな? で? その心は?」



 汐緒はスーパーの袋からチョコビスケットとマシュマロを取り出し、それを神様用の小さな机にそれをポンと置いた。



「記憶喪失も大体大きなストレスを抱えた時に、記憶の遮断をするだろ? それと逆でストレスを感じた時、眠っている記憶が呼び起こされるんだよ」



 神様の癖毛を触りながら、そんな事を話す大友にトトは近寄ると、強張った笑顔。



「大友君、そこは神様の席ですので、大友君の席は別にご用意致しますね?」



 トトは新しい組み立て型の椅子を用意しようとした時、大友はポテトチップスの袋を開けるとそれを食べながら答える。



「いや、俺は別にここでいいよ」

「うむ、大友と私の仲だからの。トトあまり妬くな。可愛い顔が台無しだぞ」



 トトはその言葉にも笑顔を絶やさず、即席の調理場へと戻る。そこで、明日の朝食用のサンドイッチの下ごしらえをはじめる。

 その横にちょこんと立って汐緒がちらちらと横目にトトを見る。



「店長、こうやって並んで料理を作ると夫婦みたいに」

「見えるわけないでしょう。汐緒さん、口を動かさずに手を動かしてください」

「しゃむに、そういうツンとしたところも素敵でありんす」



 今日は仕事じゃないので、タイは外しクールビズ。代わりに汐緒は女郎蜘蛛のヘアピンをつけていた。



「えぇ、美人ばかりこうキャンプに集まられては僕も緊張せざる負えませんね」



 言わずもがな、神様は中性的な存在であり見た目。大友と汐緒は少女と思わしき容姿をしているが、完全なる男。このキャンプに女子と呼べる存在は残念ながらいない。



「それにしても、店長。何故あちきをここな場所へ?」



 汐緒の質問に手際よくホットサンドの準備をしながらトトは答えた。



「分かりません。神様のご指示ですから」



 神様の名前を聞いて汐緒は少し邪悪な顔をする。



「神様でありんすか? あの態度の大きさにはいささかあちきは苛立ちを覚えるでありんすな」



 トトはあとは焼くだけの状態にしたサンドイッチをアルミホイルで包んでいく。神様をディスった汐緒をギロりと少し睨んで。



「……店長の神様フリークは中々頑固でありんすな。いつかあちきに振り向かせてやるかや」



 それは永遠にこない。

 何故なら汐緒は男の子だから……



「汐緒さんはこの作品を読んでどう感じますか?」



 突然のトトの質問。彼ら二人はブックカフェにてWeb小説紹介もしている。いわばベテランの読み手なのだ。大友とは違う意見を聞きたかったが、斜め上の回答が返ってきた。



「そうでありんすな? 魔妖。どちらかといえばあちきはこの魔妖に近いでかや、人を喰わなくてもあちきは構わん。じゃけん、喰えと言われれば喰らうやもしれん。鬼族は約束を守って人里は襲わん。されど、領地に来た人は構わず喰らうというかや。これはあちき達もそうでありんす。人間と違って約束は必ず守るかや」



 トトは一つの考えに行き着いた。



「そういうことですか、人間と妖怪と神の使いと神様」



 本作を大いに読み込む為、本作の環境に合わせた人材を神様はここに集めたのだろう。トトには想像つかない広い視野を持って考えているのだ。

 神様はただの大ぐらいではないのだ。

 但し、物語に関わる事に限る。



「直符でありんすか?」



 香彩の扱う札に関して汐緒は興味を持った。汐緒、彼は数千年生きた女郎蜘蛛の変化、まよひがの最後の主人にして大妖怪 ※去年9月作品より。

 そんな彼だからこそ感じる事もあったのだろう。



「おや? 汐緒さんにご経験が?」

「そうでありんすな。何度か、修験道者があちきを調伏しようと来た事があるかや」

「汐緒さんがここにいるという事はその方々は?」



 汐緒は少しばかり月を眺めてから、煙管を咥える。



「忘れたかや、喰ってしまったか、脅かして逃がしたか、わかりゃせん」



 トトはこの汐緒が人を喰うという事はしそうにないなと思いながら、「そうですか」と返した。



「土の鬼が一番この物語では弱い鬼なんでありんすな? 雷が一番強いと、大体雷を皆最上にするのはなんでかや?」

「人は空に対する恐れみたいなものがあるからじゃないでしょうか?」



 トトの回答に対して、汐緒は笑う。



「土は風に撒かれるでありんす、ただしその風を利用して世界中にその砂を届けるかや、土が風に弱いとは言えん」

「だから、陰陽五行なんでしょうね。どの属性も右や左で繋がっています。それらは人の扱える力ではないから……でしょうか?」



 二人で並んで話している中、神様がとてとてと現れるので、汐緒は邪悪な顔で威嚇する。それをトトに律されトトは神様に頭を下げる。



「神様、どうされました?」

「大友の奴が寝てしまった。悪いがトト、大友をテントに運んでやれ、そしてお前ももう休むといい。私はそこの蜘蛛と少し話がしたい」



 まさかの神様の言葉にトトは空いた口がふさがらない。だが、すぐに「かしこまりました」と大友をお姫様だっこでテントに運び、自らも就寝の準備を始める。



「どういう風の吹き回しかや? あちきは神と名乗る者とは相性が悪すぎるかや」



 そういう汐緒の言葉をスルーして神様は手際悪くブルーシートを引く。そしてそこに日本酒をドンと置いた。



「ケケケ、神、妖怪と名の付くやつはこやつが好きであろう?」

「いさみでありんすか?」

「うむ、特上のな。ほれいっこん」



 神様が酒瓶を向けるので汐緒はグラス一杯の酒をごくごくと水のように飲み干す。神様が手酌で酒を注ごうとした時。



「あちきが注ぐでありんすよ」

「おぉすまんな。夜の眷属たる妖怪。私も初めてその存在を見たが、貴様等と私たちは似たような物であろ? それに酒の席は無礼講だ」

「わかっちう。それより、ここに大友君だけでなく、あちきを呼んだ理由、あるかや? とのさんだけでわいわいがやがやだけじゃなかろうし?」



 神様は大友が持ってきた吊るしベーコンを酒の肴に楽しむ。そして真ん丸な月を見つめながら神様は話し出した。



「あの甘えん坊なトトの所で、世話になっておる。感謝するぞ。大妖怪殿」

「な……何かドッキリ企画でありんすか? ……あちきは」

「あ奴が誰かに好かれるのは、あ奴の親としては嬉しいものだ。これからも宜しく頼むの」



 神様は憂いを帯びた目でそう汐緒に言うので、汐緒は注いでもらった酒を飲みながら汐緒はある事に気づいた。



「神様、何処かに逝くのかや?」

「ふふ、どうだろうの、今宵は月が綺麗で酒が旨い。戯言の一つや二つが出てきてもおかしくはなかろう。そして貴様を呼んだ理由は、保険だの。貴様ほどの大妖怪がおれば、ここにいる弱小妖怪共はちょっかいをかけてこんであろう? ボディガード代わりに面白い物を今回見せてやる。これは約束しよう」



 神様は少し饒舌に語り、そして普段より深酒をしてしまう。汐緒と違いあまり酒に強くない。そんな状態で酒豪汐緒と酒を酌み交わしていたわけだ。



「もし、雷鬼族みたいな者が襲ってきたらどうするかや?」

「勝てんのか?」



 汐緒は考える。作中の雷鬼族がどれほどの豪の者なのかは考えもつかない。少しばかり考える。



「鬼、鬼のぉ。鬼は厄介でありんすよ。人も物も物の怪もこの鬼になるでありんす」



 これは謎かけに近い。それを神様は瞬時に読み解く。



「人は死ぬ。物は人に危害を加える。妖怪はそれそのものが鬼とな? もう一つ言えば、神もまた鬼だの。なんとも自由度の高い言葉よ。そしてその実、掴みどころのない言葉だの。似たような意味を持つ外国の言葉があるんだがの」

「それはなんでありんすか?」



 ケケケと神様は笑う。そしてスマホを取り出して作品を読みだす神様。答えを教えてくれないので汐緒は再び酒を舐める。



「療のとのさんは、妖怪の鑑でありんすな。恩に尽くすのは妖怪の専売特許でありんす。あちきもトトさんにこの御身を一生捧げる所存でありんす」



 そう言って妄想にデレデレする汐緒を赤ら顔で神様はにぃと見つめる。どう考えても児童という見た目と身なりの二人が酒を飲むこの異様な光景。

 だが反面、トトと大友はテントで休みこっそり深酒。修学旅行の学生達が寝静まった後に教師たちが酒盛りをしている光景に似ているのかもしれない。



「竜紅人とその縁者が現れて物語はやっと始まりを見せるのだの。しかし鵺……なんと言ったかの、天妖。貴様、鵺を見た事はあるのかの?」



 平安時代より古くから日本で語られてきたキメラのような妖怪・鵺。数千年生きた汐緒ならその正体を知っているかとわくわくする神様。



「ぬえ……でありんすか」



 ごくりと喉を鳴らす神様。そして酒で喉の渇きを覚えながら汐緒の少し凄みのある表情の中、彼は言った。



「あーあれは作り話でありんすな。そんな妖怪、元はおりゃあせん。ただし、噂が噂で生まれた新参の妖怪でありんす」



 神様は心底ガッカリすると共に寝落ちした。

『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』今回、本作を読む合宿BBQを行ったメンバーさんがいました。その際に今回のストーリーラインを考えたそうですよぅ! 考えれば当方の作品にも宇宙人や妖怪やタイムトラベラー、様々な人外の方が登場していますねぇ。私もですか? 私はどうなんでしょうね? そんな様々な種族がおりなす、今月紹介作品をお楽しみいただければ嬉しいですよぅ!

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