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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
65/111

よし、キャンプに行こう

とーっても暑いですねぇ^^ 溶けそうですが、ハロハロやかき氷が美味しくてこの季節ならではですねぇ! と感じてしましますよぅ! もうじきプールに行きますし、今年の8月も皆さん全力で楽しみましょうね^^

「神様、ここはなんなんでしょうか?」



 トトは神様を団扇で仰ぎながら涼しい顔でそう質問する。神様はこのうだるような暑さに死にそうな顔でこう言った。



「来年、こんな状態で本当にオリンピックやりおるのか? 無差別テロくらい熱中症になるぞっ!」



 四本目のスイカバーに齧りつきながらトトの質問に答えない。とある山中の開けた場所。神様は早朝にトトの住むヒルズマンションにやって来た。神様に生み出された中で一番最後に生み出されたトトは一番神様っ子でもあり、まだ暗いのに神様に付き従いここにいる。



「貴様はヒルズマンション。馬鹿のやつは欄の小娘の紐として億ションに住んでおるのに、セシャトはあの母屋の奥の四畳半、あやつは不満はないのかの?」



 トトはクーラーボックスから新しいスイカバーを取り出すと封を破って神様に渡す。



「セシャトさんはオヤツと読書に生活の全てを全振りしてますからねぇ。ところでこんなところに何か用があるのでしょうか?」



 神様は大きく口を開けてスイカバーをパクリと食べるとこう言った。



「昔、ここで怪我した竜に会っての、ダンタリアンの奴と飼う飼わんで喧嘩をした」



 ダンタリアン。元古書店『ふしぎのくに』店主。トトからすれば神様と同じで雲の上のような人。にわかには信じられないが、神様がサラっと言ってしまうこの話は本当なんだろう。



「その竜は?」



 神様は少し切なそうな顔を見せてから、うっとりとするような声で何かを唱える。神様の声を聞くとトトは酔いそうになる。



「ここで、読みたい作品があっての」



 ここには神様とトトしかいない。それ故、トトは少しばかり嬉しい。そして神様が無から精製する。



「『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』ですか……」

「うむ」



 本作は、和ティストの中華ファンタジー。何処か文章も伝記物や歴史小説のような固めで、それでいて癖になりそうなくらいには上手い。



「この叶さんのひそかに笑っている画像がまた美しいんですよね」



 神様はその画像を見ながらスイカバーを齧る。



「序章を丸々三話使って主要キャラクター説明代わりをしておるの」



 web小説において諸刃となりうるキャラクター紹介。それを小説という形で簡単かつ適格に行う手法は読者を飽きさせにくくそして読ませてくれる。

 そして、中々癖の強い配下たちに少し閉口する叶の描写を読んで神様は小さな身体ででっかい態度を前にしてから言う。



「こやつの気持ちは痛く分かるぞぉ! 私もセシャトにトトに……そして馬鹿ぁ! どれだけ手を焼かされたか分からんぞ」



 ここにセシャトがいればどの口がそれを言うのかと思ったかもしれないが、今ここにいるのはトト一人。



「そうですね! この気持ちは神様しかお分かりにならないでしょう」



 等と言ってしまうので神様は調子に乗る。



「うむ、そうだろう。そうだろう」



 神様が食べたスイカバーの棒を回収すると瓶の中に入れる。ゴミは持ち帰って処分するという徹底させた教育の賜物だろう。

 トトは神様と二人っきりのこの環境で、手際よくブルーシートを用意するとバスケットからミントティーを淹れる準備を始める。



「神様、鵺や龍、鬼等この作品における存在って実際どうなんでしょね? 境目といいますか?」



 神様はペラペラと本をめくりながらトトが切ったフルーツを食べさせてもらいながら答える。



「そうだのぉ。私は全書全読の神様だろ? その依り代はジンベイザメだ。鵺は夜に鳴き喚き五月蠅いキメラみたいな神様だ。で龍は川とか雨雲とかの恩恵と死を与える神様だの。鬼は病気をまき散らし、また逆に病気を追い払う神様だの。簡単に言えば神様なんて物は役割の違う責任者みたいなものだ。貴様等今どきの子に分かり易く言えばポケモンみたいなもんだの」



 神様の説明は分かるようで微妙に分からない時がある。そんな神様にミントティーを渡してトトはこういう。



「なるほど!」



 とかいうので、神様は「うむ」と一仕事終えた顔をしてそのミントティーを啜った。パラソルを立てて神様のコーナーを手際よくトトはこしらえると、自身もアイパッドを使って同じ作品を開く。



「十の口と書いて叶。これは数多の者に匹敵するという意味での、まさしく神を意味するのだ。作中にも書いておろう? 魔妖共の神だったとの」



 神様は急造とはいえトトが用意した椅子に座って足をパタパタさせる。小麦色の健康的な神様の足が日焼けしないようにトトは日焼け止めを用意するが神様は手を出してそれを断る。



「しかし神様の綺麗なおみ足が……」

「この前ニュースで見ての、日焼け止めは皮膚から吸収して体内に毒として残るとな……それ故日焼け止めはいかん。私は日光には滅法強いから大丈夫だっ!」



 先ほどまで暑い暑いとスイカバーを五本も平らげた神様が言う事の説得力のない事この上ないのだが、それですらトトは小さく拍手する。



「さすが神様。はい、凍らしたパインですよ! あーん!」



 トトがそう言って神様の口元にパイナップルをもってくるので神様は大きく口を開けて食べる。トトはかなりの女性好きだが、こうやって全身全霊の奉仕をするのは神様にのみである。



「そういえば、バストの奴がトトと打ち合わせをしたいと言っておったぞ、また何かするのか貴様等?」



 実はトトはバストとも相性がいい。二人でお茶をしに行ったり、本屋さん巡りをしたりするくらいには仲良しなのだ。



「えぇはい。11月の選考に関してミーティングをと」



 聞いておいて興味がなそうに神様は「へぇ」と返してから話し出した。



「天に住まうあやかしが何故落ちたか、旅の始まりとは得てして突発的なものよのう」

「人間に狩られてしまうかもしれないって、なんだか鵺とか滅茶苦茶強そうな気がするんですけどね」



 トトの言い分も最もだろう。各種媒体において基本的に魔獣のような存在は滅茶苦茶チート級に強いイメージがある。

 それも天上にいる妖怪である。それを竜紅人達は早く見つけないと人間に襲われてしまうかもしれないという危惧をする。

 そんな状況に対して神様がやや満腹になったのか赤ちゃんみたいなケプっとゲップをすると話し出した。



「そもそも人間は最強クラスの存在だからの、この作中にも書いておろう? 危険だと思えば神でも狩るとな」



 人間は原始の時代から力を合わせて脅威に対して立ち向かい常に勝利を収めてきた。それがマンモスや恐竜だったか、鯨等の海獣に変わったか、はたまた聖書や伝承にあるような終焉で死に絶える人数よりも瞬時に人間を蒸発させてしまうような超兵器を開発してしまったなんていうのが現実の世界でも言える。

 否。

 現実世界において人間は神の力を越えた。そして本作では種族の違いという見方ができる。人間というものは、人間ではない別の知的生命からすればもはや脅威なのだ。鬼が人を攫うというが、その鬼もまた人間に討伐させる事もあるんだろう。



「まぁ、うまい事自然の循環ができておるんだろうな? 一種が飛びぬけておったらその世界の主導権握られてしまうからの」



 神様は半ズボンから伸びる足を組みながら片手で疑似小説文庫を持って楽しそうに彼らの旅立ちを想像する。

 香彩が子供扱いされ、それでも大事に仲良く彼らは行く。否応なしにも読んでいるこちらの表情が優しく緩むのを感じる。

 しばらく読んでいて神様はトトに聞く。



「しかし貴様、この旅立ちはまさに男の子動物園みたいな状態だが、苦痛ではないのか? お前女にしか興味がないであろう?」



 男の子達が仲良く話し絡むこの展開に関して神様がそう言ったが、勘違いを与えかねない言葉にさすがにトトも苦笑する。



「あはは、まぁ僕が女の子が好きなのは認めますけど、物語を楽しむという事に関して甲乙はあまりつけませんよ。ここは、実にほんわかしていて素敵なシーンでもありますからね」



 そんなほのぼのした中にもこの世界感における自然の摂理、命の連鎖について語られる。人減らしである。



「物語は人が増えすぎないように出来ておる。逆に言えば現実世界は人が減らないようになってしまったからの、人類は増えすぎた結果滅ぶかもの」



 人間同士のいざこざやたまに起きる戦争があったとしても人類が増える速度はそれをも軽々と上回る。

 食糧問題、水問題、環境汚染。それらは人口の増加と比例しておきる。子供では分かる足し算の結果なのだ。



「といいますと、神様は人類は減った方がいいと?」

「そこまでは言わんが、増えるなら増えるで増えた時の事をよう考えて行動せいとは思うかの、ゴミ問題しかり、確実に宇宙に捨てだす国が出てくるぞ」



 一般的なゴミであれば最悪、避難程度で済むかもしれないが、放射能物質を宇宙に打ち上げた愚かな国があれば、ロケット事故と共に人類の歴史は幕を下ろすかもしれない。



「まさか、この作品で環境問題のお話に飛ぶとは思わなかったですよ」



 神様はふふんと鼻を鳴らす。



「まぁまだ物語は始まったばかりだからの。今日はここにキャンプし、夜は星を見て、日の出を愉しむ事としよう。準備はよいか?」



 神様と宿泊、飯盒炊爨、キャンプと三本立てに否応なしにトトのテンションも上がって来る。神様が宙に疑似小説文庫を掲げるとそれは今まで存在していなかったかのようにパッと消えていった。



「神様、本日の夕食は何を食べたいですか?」



 定番はカレー。

 されどこの暑さ、神様はまさかのメニューを所望する。



「素麺が食べたいのぉ」



 トトは持ってきた食材に素麺がある事を確認すると片眼鏡のズレを直してからほほ笑んだ。



「かしこまりました」



 神様とトトを見る何かの存在を二人は気づく事もなかった。

さてさて、8月作品『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』となります。本作の楽しみ方は様々あると思いますが、やはり地の文の面白さではないでしょうか? とても分かりやすい言葉選びながら、非常に濃厚に作品の世界観が伝わります。8月は人ならざる方が迷い込む季節です。人外の方々が繰り広げる本作を課題図書に決定しましたよぅ!

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