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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 箸・黒崎光』
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この世界は、君の知らない事で満ちている

この前ですが、古書店『ふしぎのくに』メンバーでホットプレートでホームパーティーをしましたよぅ!

焼きそばを作ったり、オムライスを作ったり、私はふふふのふ^^ 城西石井さんと紀伊国屋さんで買ったホットケーキミックスでホットケーキを作りましたよぅ^^ なんだか、自家製で作るとパンケーキではなく、ホットケーキという方がしっくりきますよねぇ^^

「この保養施設動いたりしねーっすよね? あの社長ならやりかねないんで怖いんすよね」



 『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』を読みながら、欄が少し青い顔でそう言うので、ヘカは「さすがに大丈夫なんよ」

 と言ってオーパーツが展示されている部屋の前まで到達したところで、欄は石川とヘカを引っ張って物陰に隠れた。



「なんなん欄ちゃん?」

「デジャブしたっすよ。荒木の異常性。何処かで感じた事があると思ってたんすよね。世界そのものを実験場とする考え方っす。まさにこの施設の総帥、棚田クリスっすよ」



 荒木は現実世界において珍しい思考回路を持っている。現実の人とフロンティアの人とを区別しない……言葉はよく聞こえるが、彼にとっては生身であろうと電子の世界であろうとそこはモルモットの種類が違う程度で考えているのだろう。



「人間の意識を持った無人殺戮兵器、世界の終わる鐘が聞こえてきそうっすね」



 石川が恐る恐る欄に話を聞く。



「その棚田クリスさんって?」

「そうっすね……ありとあらゆる面で天才っすよ。この自分が何一つ勝てる気がしないマジもんの化物っすね。十三歳頃からの経歴が全くないんすよ。突如十九になって日本に戻ってきたんす。そして彼は人造人間であるノベラロイドを作ったっす。科学力は雲泥の差があるっすけど、彼はニューロデバイスに近いシステム構築、スピーダーの開発に成功してるっす。その彼がオーパーツを集めているとすればっすよ? 自分には理解できない量子コンピューターの操作が出来るかもしれねーっすね」



 作中の荒木に感性が近いというだけでも石川は恐怖した。圧倒的な水準を持つフロンティアの響生達を完全に手玉にとってしまうその技能と知略、それはもう人の持つ行動原理ではないように思えた。



「欄さんはこれからの事、どう予想しますか?」

「多分、オーパーツは簡単に石川さんが手に入れれるっす……でも、全てが集まったところで総取りをされるんじゃないかと」



 先の見えない未来の事に不安がっている欄と石川を横目にヘカは、てくてくとオーパーツが展示されている部屋の前まできてその扉を開けた。



「とりあえず後の事はその時、考えるん! 早くオーパーツを取り返して帰るん。石川、これで怪盗業は廃業なんよ?」



 そう、ヘカは石川が隠れて怪盗を行っていた事に関してそれを止めさせる為に今日ここで手伝いに来たのだ。



「ここの人間が荒木みたいに誰かを人質にするような事があったら、考えがあるん!」



 まさか、ヘカが何かを考えていた。その答えを待つ欄と石川。



「警察に通報するんよ!」



 物凄く普通で、そしてこういった企業にはあまり痛痒を与える事が不可能な考えに聞いた事が馬鹿らしくなった。



「とりあえずオーパーツを盗ったら何処かに身を隠して……」



 作戦を提案中に欄だったが、突然けたたましくサイレンが鳴り響く。今まで侵入者を完全無視していたハズのこの施設がである。

 何が起きたのか一同は分からないでいたが、目の前の扉がガンと開かれた。



「罠かもしれねーっすけど、今っす! 最悪社長はオーパーツを手放しても痛くないと考えているのかもしれねーっすね」



 そそくさとオーパーツを確保して脱出、欄が待たせていた運び屋の車でとりあえず遠くに離れる。今だ保養施設のサイレンは鳴り響き、ヘカや石川、欄達ではない何かの始末に重工棚田は動いていた模様。



「たはは! これっすよこれ!」


 ”怪盗スーパーセシャト、日本一の警備システムを掻い潜り、世界一の洋生を奪取。棚田クリス氏は苦笑で降参宣言!”


 トップニュースになっていた。やや重工棚田の株価が下落していたらしいが、棚田クリスは世界一の怪盗に賛辞を贈るとそう書かれていた。

 石川達の事には一切触れていない。

 どっと疲れた三人は車のシートを背にスマホを取り出した。ヘカは既にレッドブルを飲み祝杯ムード。



「アマテラスにツクヨミ、このネーミングが厨二臭くていいんな」

「そうっすね。量子コンピュータをアマテラスというのは結構色んなところで使われてるっすよね? それだけ、最上神というイメージが強いんすかね。自分ならイザナミあたりにするっすかね? 人を恨み、神を生み続けたまさにモンスターマシーンっす」



 イザナミの話をすると石川がそれに突っ込んだ。



「それはどうでしょうか? イザナミとイザナギは性別を持ち、仕事を与えられた神々ですよね? それはその子等三神もそうです。後に生まれる八岐大蛇も光を羨み、恨む悪神です。それらは所詮プログラムでしかないんですよ。日本神話にはさらに上位神。始祖神が五神います。僕なら……」



 石川が言う前にヘカが虚ろな瞳である神様の名前を呼んだ。



「天之常立神なんな? 天津神最後にして天の存在意味を証明する神様なんな? ヘカのところの神様とは位が違いすぎるん」



 その名前に石川が頷いて答える。



「そうです。そしてその名前、どうしてそんな名前がついたんだと思いますか? そんな古来の時代になんでそんな凝った名称があったのか……」



 石川の話す内容を何となく理解しつつも、先が気になったところ、ヘカ達が乗る車は重工棚田製の戦闘装甲車両に囲まれていた。それらは象でも殺すつもりだろうか? と言わんばかりの大型重機関銃を一台の黒いセダンに向けている。



「自動操縦の車をよこしてきたと思えば、あの運び屋グルだったんすね……どうするっす? これはさすがにどうしょうもないと思うんすけど?」



 ヘカは何も焦っていない、それどころかこの状況でこんな事を言い出した。



「石川、『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』は全部読んだん? これは参考書なんよ?」

「ヘカさん、貴女は一体どこまで知っているんですか?」

「ヘカには知らない事なんてないん」



 だなんて適当な事を言うヘカだが、石川はニヤりと笑ってカバンの中にある全てのオーパーツを取り出した。そして起動コードを詠む。



「ネス、デイレ、キガキ……ツ!」



 一体どんな事が起きるのかと欄は呆れながら待っていると、夜だと言うのに突如空が明るくなりだした。

 そして……



「まじっすか……」



 巨大な円盤、それも一つや二つじゃない。それが大量に現れる。


”おぉ! 我らが盟友、石川五右衛門よ。約束を守ってくれた事、感謝の言葉もない! ワイ イ モデ シン!”


 空飛ぶ円盤の群れはヘカ達の乗る車を謎の浮力で上がらせていく。そして円盤内へとヘカ達は招かれた。



「ディズールの中みたいな感じなんな? 探索するん!」



 と言って飛び出そうとするヘカを止める女性。それも日本人のようだ。



「あら、君が神様のところのやんちゃ娘かしら?」



 欄より少し年上に思える女性。されど、その態度やしぐさは異常なくらい年配に感じる。



「あんた誰なん?」

「はじめまして、私は小岩井かなめ。この地球と他知的宇宙との通訳といったところかしら? 神様とダンタリアンさんとは古いお友達、あら? 貴女何を読んでいるの?」



 ヘカのスマホを見て、「何するん!」というヘカを無視してかなめはその内容をすらすらと読んだ。



「面白いわね。でもフロンティアは現実世界と本当に共存したいのであれば、現実世界が数百年、あるいは千年以上かけて技術と心をもっと育ててから接触しないと、私たちと地球みたいになるわね」



 そう言って外の風景をここにいる全員に見せた。重工棚田の戦闘用装甲車両はその砲台を全てこの円盤に向けている。



「どうするんすか?」



 欄の質問にニヤリと笑うとかなめは手を挙げる。すると円盤から大型戦闘機のような物が現れる。その数おおよそ五百。



「この地球がアップデートできないのは、使えもしない武力を持つ事なの。だからこうするのよ!」



 欄は止めろと言う事もできなかった。圧倒的な科学力。いや、これは神の逆さ鱗に触れてしまったイカロスの末路みたいな物。

 町は焦土と化す。

 強烈な光が放たれた。

 が、町は焦土とは化す事はなかった。



「……何をやったんすか?」



 そこら中にいた戦闘走行車両は消え、そこには一人の青年とその青年を守る為に立つ幼い少女と、メイド服を着た人型読了端末ノベラロイド。



「それは、秘密よ! 貴女なら一生かければその答えにたどり着くかもしれないわね! ほら、地上ではクリスちゃんが、観測と計算を始めてるわよ。本当にあの子は動じないわね。ところでオーパーツを集めてくれた彼」



 石川は自分の事かと返事を返した。



「石川です」

「あら、すごい偶然。それとも、当時の宇宙(ソラ)人が貴方という存在を残したのかしら? 貴方には現在のソラ人。というより宇宙人と言えばわかりやすいわね? からお礼が払われるわ。私たちと来て人類が見れない高みを見に行くか、それとも記憶を消して莫大な報酬を支払わせてもらうか、決めてもらっていいかしら? 量子コンピューターは返してね」



 かなめの言葉を聞いて石川はオーパーツを全てかなめに返す。するとかなめはそれを魔法のように消してみせた。ヘカが頭の羽ペンを取り出そうとするが間に合わない。



「僕の気持ちは決まっています。僕は……」



 石川が何かを言った時、ヘカと欄は光を見た。そして気が付くと、そこは古書店『ふしぎのくに』のカウンターで居眠りをしている二人。

 ヘカと欄は顔を見合わせてから欄が話し出す。



「ヘカ先生、変な事聞いていいすか?」

「許可するん」

「自分達、宇宙人に会いませんでしたか?」

「……置いていかれたん。ヘカ達の意見も聞かずに……」



 なんとも消化不良。二人は最後の結末を知る事なく終わってしまった。それ故ヘカはヘソを曲げたように言う。



「今日はマラソンで『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』を読むん」



 一方宇宙(ソラ)



「正直、驚いたわ。まさか、Web小説を使って。『葛城智也』先生が、今の人類にこんな事を残してたなんて……今の世界で共有意識の研究が飛躍的に進んだ事も、アンドロイドの開発が急がれているのも……貴方の陰ながらの助力じゃないでしょうね……そしてクリスちゃんに、ニューロデバイスの情報を少し流した……何故?」



 かなめは石川の隣で、Web小説『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』を読みながらそうぶつぶつと呟く。そんなかなめを見て石川は尋ねた。



「小岩井さん、これってただのWeb小説じゃないんですか?」

「そうね。ただのWeb小説よ。世界に変革をもたらせたのは全てそのただの〇〇なの。ただの壁画、ただの地面に刺さった剣、ただの王冠、ただの血筋。そして、いまはただの数字の羅列、いえ机上の空論かしら?」



 石川は小さな言葉でとあるコードを呟く。そして森羅万象というには多すぎる情報網からとある一つのアンサーを抜き出した。



「イマジンディスタントメモリー……そんな、多次元配列世界は存在しても、それはいくらなんでも……」



 石川は宇宙の真理の一つに触れて恐怖した。誰かが想像した物は前世の記憶なんてものではない、それは次元を超えた、経験した記憶であるという事象。



「この物語の加速時間、これは宇宙の膨張速度に到底おいつけない。何故だか分かるわよね? 貴方なら」



 石川は言わされているように言葉を放った。



「宇宙の膨張速度は、全ての想像を許容する速度だから……」



 この宇宙という物がフロンティアのような巨大どころではない、神域サーバーとでもいえるような動きをしている。



「ニューロデバイスは、人類を幸せにするシステムだと私は思うわ。でも、それは同時に人類を滅ぼす可能性があるという事ね。それを響生君はこの第一部という名前の時間で気づいたのかもしれないし、いきなりハーレムになって、そんな考えが追い付かないか、彼はこの世界の在り方とどう決着をつけるのか、実に楽しみね! ちなみに、私たちの距離だと、『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』の更新が届くのは一話1年以上はかかるから覚悟して頂戴ね」



 そんな事を言って、梅干しや沢庵などを持ってきてお茶の時間を始めようとするかなめに付き合おうかと石川は遠く離れていく小さな点みたいな地球を見ながらこう言った。



「ヘカさん、欄さんありがとうございました。僕は遅れてになりますけど、これからも一緒に『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』読みましょうね」

早いものですねぇ。本日をもって『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』の紹介を一旦終了致します。さて、宇宙の彼方にいらっしゃるお二人は、何十年越しで作品を読み終えるんでしょうね? 今回、本格的なSFという事で選ばせて頂いた本作ですが、どちらかといえば現実的な側面も持った作品だったのではないでしょうか? ややSFジャンルはWeb小説界隈では人気がいまいちですが、SFを書かれている方はどの方も素晴らしい作品を挙げられています。ぜひぜひ、夏の星座が楽しいこれからはSFに挑戦してみてはいかがでしょうか?

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