怪盗の予告状
今年の夏は少し涼しいですねぇ^^ まだまだプールが楽しくなるにはもう少し暑くなるといいですねぇ!
夏といえば皆さんはどんなお飲み物を飲まれますか? 私はアイスティーです! 珈琲じゃないんですか? と思われそうですが、私は珈琲はホット派なんですよぅ!
「要するに、魔王になろうとして散った元君主の信長にも成しえなかった神になろうとして秀吉は散ったと?」
「はい、その量子コンピューターの部品がオーパーツとして各地で富豪や博物館に飾られている。それを僕は回収しているんです。これは人の手に渡ってはいけない代物です」
スマホを凝視しているヘカは語る。
「で、石川はなんなん? 荒木が作った2122みたいな存在なん?」
ネメシスと同程度の戦闘力を誇る荒木の作品というべきか、それを響生は鬼人のごとき戦闘で倒しきる。されど、荒木はそれになんの痛痒も感じない事柄として処理される。
「いえ、どちらかといえばこのメルちゃんに近いかもしれませんね」
石川の言う言葉は意味深に感じるかと思いきや、欄もヘカもふーんといった風にあまり興味がなさそうだった。
「もしかして、今までの僕の話、信じてません?」
少しばかり石川が不機嫌な顔をする。それに気づいた欄はすぐにフォローしてみせた。
「いやぁ、違うんすよ! 自分達。結構不思議な事に巻き込まれてるっすから、もうそういうのは慣れたかなって」
欄達は信じる信じない以前に、既に受け入れているという事実に次は石川が呆気にとられた。そんな石川と欄を見てヘカが言う。
「この作品、特別閉鎖領域の部分がどれも分かりにくいんな? でもこのやり方非常にうまいん。ヘカの言いたい事分かるん?」
欄は分かっているのだろうが、分からないフリ、石川は本当に分からないという顔をする。それに大変満足したヘカはふんと鼻息を荒くしてから語りだした。
「二人は小説に関してはド素人なん! ヘカくらい人気の作家ならすぐに分かる事なんな?」
ヘカは人気作家なのかと石川は欄に耳打ちすると欄は、ヘカに聞こえない声で「自称」と返した。
それにヘカの態度を見て納得する石川はヘカの言葉を待つ。
「突然の場面移動は、小説を書き始めた頃にやらかす失敗の一つなんな? 誰が喋っているのか? 今何処にいるのか? ストレスが溜まりやすいん。でもこれはその盲点をついてるんよ。仮想領域がある世界感なんな! この設定があるので、最悪いくらでも突然の場面移動ができてしまうん。逆にいえばストレスを満足に変える事が出来る可能性まで見えてくるん」
ヘカは虚ろな目でやや興奮気味にそう語るので、欄は「お疲れ様でした」と言ってレッドブルをヘカに渡した。
「気が利くんな!」
片手でプルトップを外しそれを飲み始める。
「石川は、どちらかと言えばアイなんな? でも、アイとは違うん。石川という一人がいるん」
意外とまともな事を言い出したヘカに石川は固まる。そして鞄を取り出すとその中にある物を並べた。
「それが秀吉の時代のオーパーツっすか!」
スマホで怪盗 五右衛門が盗んだ物の写真と見比べて石川が持つ物がそれらであると一致した事を確認した。
「一つ手に入れる事に、一人の記憶が僕の中に混同しています。空に還りたいと」
「マジっすか?」
このオーバーテクノロジーに興味を示した欄は色んな機材を持ってきてそれらを解析してニッコリと笑う。
「これ本物っすね。何がなんだか、自分には理解できねーっすよ。手術もせずにニューロデバイス的な事ができるんすか?」
コクりと頷くと、欄のスマホに触れ、欄が自身で組んだ最高難度のセキュリティロックをいとも簡単に突破した。
「たはは! そのセキュリティ。コープス・タンクと言って自分が作った数世代上の壁だったんすけどね。この作品、2000年代に詐欺として処理されてしまった話に近い事が書いてるっすね」
とある出資詐欺事件にて結末を迎えたあるベンチャー企業が、ヴァーチャル空間内に日本の領土を作り、そこに市民税、住民税、仕事を割り当てヴァーチャル世界にて現実に衣食住ができる商品を考えた者がいた。彼らは単純に詐欺をしたかっただけなのかは分からないが、当時には早すぎてその有用性を考えた者はいなかった。
「この作品の世界なら、フロンティアさえあれば事実上孤児はいなくなるんすよ。それだけは自分は肯定できるシステムだと思うんすよね」
それはアイのように……両親のいない子供は両親のいる子供より精神的飢餓が大きい事は言わずもがなだが、ヴァーチャル空間にて両親と関わり、現実では一人で生きる。少なくとも心の癒しという意味では欄が言った通り、素晴らしいシステムである。
「良い事ばかりじゃないん。人間の脳は、楽な方を選んでしまうん。逆に言えばないものねだりをするんよ」
お前が言うかと欄はドン引きしていたが、それこそが、現実とフロンティアとの塞がる事のない確執にも似た泥沼の関係。
大きすぎる力はいずれ歪むという現れ、それは石川が盗んで回っているオーパーツにも言える。
本作においても『葛城愛』の十年分の記憶をロードすれば寿命が縮むと言われている。当然、人間が認識、把握できる記憶がいきなり十年分増えればその処理に心拍数が上がり、理解しようと脳細胞を殺し、寿命が減るだろう。
それと同じ事をしている人物が今、目の前にいる。石川、宇宙人の謎の装置により、過去の人々の記憶を複数人分保有しているのである。
「しかし、現実の石川さんは、他者の記憶を受け入れて、仮想世界に生きるアイさんは、記憶の上乗せを拒否したっすね。なんというか……おもしれーっすね」
事実は小説より奇なりとでも欄は言いたかったのかもしれない。アイと石川の違いは、自分という命の尊さを知っているアイと、自らの命を投げ出しても守りたい石川五右衛門達への誇りの差だろう。
「しかし荒木はいいキャラしてるんな!」
敵らしい敵として響生達の前に立ちふさがる彼は、中々に読み応えがある。正直よくいるキャラクターなんだろうが、ここに来てフロンティアの脅威を感じさせてくれる彼は、主要メンバー並みに人気を博す可能性を秘めているとヘカは考えていた。
「ヘカ先生と並べばヴィラン連合ができそうっすね」
「欄ちゃんも荒木とマッドサイエンティスト対決ができるんよ!」
「自分は……正義の? 科学者的な? 自分なら強制リフレッシュよりも、荒木さんが作るマルウェアに対して、ヒューステリックをひっかけて連鎖消去していくっすけどね」
ここからいよいよインプットが多すぎて理解がしにくくなる。映像作品を意識した作りなのかもしれないが、ここ最近では例を見ないレベルでの視覚変更が繰り返される。
ネットワークで構築された世界感を上手く表現していると言えるのだが、同時に小説としては少々、独自路線を歩みすぎて読者がついてこれない可能性が極めて高い。
三人の中で空間認識をしながら内容まで読み込めているのは欄ただ一人、小説を自らも執筆するヘカは本作を愉しみながら言う。
「読者がストレスを溜めやすい作りが全て使われてるんな」
専門用語による応酬、そして目まぐるしい視点移動、それを受け入れた先に初めて本作を楽しめる物が待っている。
要するに……
「この作品は読む人を選びますね?」
そう、本作は実に珍しい空想科学、SF作品の王道と言えるのではないだろうか?
この作品はところどころにリアルを散りばめられている、それ故説得力もあり、深い。
「この研究の為なら何でも犠牲にするのは、科学者であれば皆そういう一面があるんすよね。戦争がはじまったりすると、生き生きとしてるでしょ? 合法的に人体実験も……これはここではやめておくっすね」
長い睫毛でウィンクする欄。それに石川はドンびいているのに対して、ヘカは母屋に行って冷凍のたこ焼きを解凍してもってきた。
「腹が減ったん。難しい話は腹が減るんよ! 悪夢の名を持つ人型兵器、そそるんな! 悪を殺すには悪の力が必要なん」
目には目を、ヘカは虚ろな瞳でスマホを眺める。仮想世界より、現実世界に話は戻される。
「この世界の面白いところは、生身の体を欲する半面、生身の体をみんなあまり大事にしないところなんな。ヘカは、この胴体から手足が離れた人間の姿は好きなん。だから、大事に使ってるん」
それは、ヘカは人間ではないと言っているように聞こえなくもないが、そもそも厨二病を発症して完治しそうにないヘカ故に、欄も石川も話をスルーする。
「美鈴もアイも響生も自分の仕事を全うしようとしてるんな? これは絆が成せる業なのか、ヘカにはよく分からないん。ところで石川はいつまで怪盗を続けるん?」
作品を読みながらヘカの気配が変わった事を石川は気づいた。石川の胸くらいまでの高さしかないハズのヘカから異様なまでの威圧感を感じる。
「……警察に突き出すつもりですか?」
石川は隠し持っているピッキング道具に手をやる。その挙動を見て欄は石川に分かるように足のデリンジャーを抜いた。
「なんなんですかこの古書店、僕を殺すんですか?」
ヘカは大きく口を開けてたこ焼きを全部食べる。もふもふと咀嚼してごくんと飲み込むと再び言った。
「あと何回、怪盗をするん?」
「……一回。あと一回です。重工棚田の保養施設に展示されているオーパーツで全てが揃います」
石川の話を聞いてヘカは口をぱかっと開けると嬉しそうに笑った。
「善は急げなん! 欄ちゃん、レオタードに着替えてヘカ達も参戦するん!」
「ヘカ先生、いくつですか? キャッツアイとか最近の子知らねーっすよ?」
そう言いながら、欄はスーツケースからヘカのサイズ、そして自分のサイズのレオタードを用意、さらには何やら物騒な道具を持ってきた。
「石川、喜ぶん! 響生達の緊張感のあるミッションを読み、楽しみながらヘカ達も石川五右衛門のオーパーツを取り戻すんよ! 早く予告状出すん!」
石川は、この思考の読めないヘカにただただ驚きながら、言われた通り、最後の予告上を出そうとしていた時、緊急速報が入る。
重工棚田の保養所に怪盗からの予告状が届いたという事。
「石川なん?」
「このとおり、まだ僕は動いていないです」
欄がツイッターニュースを見せて苦笑する。
「これヤバくないっすか?」
そこには、”怪盗スーパーセシャト 高級スイーツを頂きに参りますよぅ”と書かれていた。
『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』
さて、物語が面白い方向に動いてきましたねぇ^^ 残すところあと数話ですが、どのように回収するんでしょうか? 本作のようにSFという物を紹介するのは月間でも難しいところがありますねぇ!
夏休みに入りました。課題図書に本作を選んでみてはいかがですか?




