表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『蛭子神 著・三上米人』
6/111

神様の作り話と本当の意味で怖い話

一月からホラー作品の紹介ですが、1月だからって浮かれてはいけませんよぅ!

という意味が込められている事はないんですよね^^ チョコレートを食べながらインフルエンザ予防です!

 主人公の風呂掃除、その描写を呼んで神様はセシャトに言う。



「のぉ、セシャトよ。風呂掃除の小遣いだがの、いくらなんでも三十円はせちがらくはないかの? 東京の最低賃金は980円程だから、せめて30分掃除しておるのだし、四百円程くれてもよくはないだろうか?」



 セシャトは普段、絶対お客さんには見せないような微妙な顔をして神様を見つめる。



「いや、せめて三百円。このさい百円でも構わん!」



 そう妥協する神様を無視してセシャトは熱いお茶をすすり、落ち着いてから話す。



「このお風呂掃除の描写、実に上手ですね。神様のお掃除よりも上手な事が目に見えるようですねぇ!」



 ただ風呂掃除をして風呂を沸かすだけの描写。それなのに中々どうして目のつく文章である。少し前に流行った文豪を真似てカップ焼きそば作りを書くというあれに通じる魅力がある。



「あれだの。一人称ここに極まれりというやつだ。一人称での描写はこういう手元で動きがある物には非常に向いておる」



 へぇ~とセシャトは感嘆し、おしながきを見た。やはり気になるのは時価と書かれた関サバであったり、お寿司の王様、大トロだったりするのだが、神様のお年玉をアテにしていたら痛い目を見そうなのでセシャトはサーモンを頼む。



「すみません。炙り鮭をお願いします」

「はいよ」



 サーモンを頼んだハズなのに、半分白い身の寿司がセシャトの手前に置かれる。セシャトは首をかしげながらそれをパクり。



「あっ! これとってお美味しいですよぅ!」



 神様は半目でそれを見てから身を乗り出す。



「セシャト貴様、それは鮭児ではないのかっ!」



 口の中に入れると溶けるその鮭。実に上品なスイーツを食べているようにもう一貫食べるとセシャトは聞いた。



「なんですかそれ?」

「馬鹿者っ! 超高級ネタだっ! そんな事も知らんかのか。私でも喰った事がないのに! 大将。私にも同じ物を」



 神様がそう人差し指を立てて言うが、大将は少し困ったような顔をしてこう言った。



「すいません。今ので最後です」

「ぬぉおおお! 何故だぁ!」



 神様が失意に打ちひしがれていると、外は雪が降りだしていた。心なしか店内も寒くなったよう。大将は客席に出てくると薪を取り出す。



「あら、薪ストーブですか! お洒落ですねぇ! 私も暖炉とか憧れるんですよぅ!」



 手際よく火を起こすとセシャトと神様が寒くないように労う。そんな珍しい薪ストーブを見て神様は機嫌を直した。



「おぉ! 粋だのぉ」

「ふふっ、マッチポンプというんでしょうか? 主人公の男の子がお風呂掃除で冷えた身体をガスストーブで温める。瞬間的に温めて手の先がかゆくなったりするんですよねぇ!」



 実はヒートショックを起こしかねないから、急激な温度変化は避けた方がいい。夏の熱中症の十倍。冬の風呂場でのヒートショック死は年々増えているのだ。



「まぁ、身体に悪い事程気持ちよいからの……ここでこの主人公も幽霊の正体見たり、枯れ尾花と結論付けようとしておるの、確かに主人公の考えている事は妥当だし、安心も出来るものよの……だが妙に老人の言葉が気になる。虫の知らせというやつかの? なんせ、素直に老人の言葉を信じておる」



 神様は食べる物がないので醤油をぺろりと舐める。そのしぐさに大将は箸休めとして稲荷寿司を神様の手前に置く。



「おぉ! 気が利くのぉ、卵焼きでも頼もうかと思っておった」



 お寿司に食べる順番という物は特にないが、江戸前では玉子は最後に頼む物だった。それは今と違い玉子が一番の高級品でデザートとして食べる意味合いがあったとか……



「西方に良き宮地があるというから、西宮なんですねぇ。しかし、どうしてよい宮地があると思ったんでしょうか?」



 それを聞いてしまうかと神様は思ったが、伝承もまた物語かと神様は目を瞑ってこう言った。



「神話や言い伝えの下を考えるとアレな事実が見えてくるんだがの、正直その言い伝えは後付けだろうの。元々、西宮戎神社より上に寛平大社があるのだ」

「寛平大社ですか?」

「うむ、朝廷関係の位の高い神社だの。確か系列は伊勢神宮だったかの? だから、そもそも場所として聖地。神格としても非常に良い場所だったのだ。さらにその前に淡路島で朝廷に反乱した末路わぬ者を寛平大社が女将軍を率いて成敗しておるから、そのあたりもかけておるのかもしれんな」



 神様は、自らを神様というだけあって神様方面に関してはそこそこに詳しい。それであればと核心に迫ってみようかとセシャトは聞いた。



「蛭児神とはなんなんでしょうか? 神様はお会いした事がありましたか?」

「知らん! そもそも『えびす様』とはわけの分からない物、この作品内でも書かれているように海から流れ着いた物をそう呼ぶのだ。だから他国のガラクタだって『えびす様』。海獣の死骸だって『えびす様』……だがの、一つ面白いネタをくれてやろうか?」



 セシャトと大将はゴクりと喉を鳴らした。神様は書に関わる事に関してのみそのスキルを大いに発揮する。

 特にこう言った読み聞かせはお手のもであった。



「麒麟って知っておるか?」



 セシャトはぽかーんとしてまぬけ顔でこう言った。



「あの動物園にいらっしゃる?」

「うむ、名前は一緒だが違うぞ! 聖獣の長と言われておる奴だな。麒は雄、麟は雌。故、麒麟は雄であり雌である。とな? 不思議な事に世界中の神々は基本的に両性の者が多い。そういえばだが、私もそうだの?」



 神様のすごくどうでもいい情報が入ってきたが、セシャトは『えびす様』の話をしていたのに何故『麒麟』の話がはじまったのかは不明だった。



「神様、もったいぶらずに教えてください。全然、分からないですよぅ!」

「全く、月刊ムーならもっと引き延ばすんだからのっ! 人間は昔から、人間で神を創造しようとしておったのを知っておるか? だいたいそれは今の倫理感にはそぐわない物が多い。そして高確率で女に対して行われてきた事だ。纏足しかり、首長しかり、都市伝説じみた話ならダルマなんてものもあるの……ようは女が逃げられないようにする為の口実だったわけだ。島流しなのか、それとも供物なのか……似てはおらんか? 女神からの贈物。『エイジス』と『えびす』」



 エイジス、あるいはアイギス。一般には盾と言われているがシンボル。またはアクセサリー。さて、このエイジスには厄を払う魔除けの羊という意味がある。

 おじいさんの弟が釣り上げたという、毛があり、手足があり尾があった者。『えびす様』それはもしかすると……

 というのが神様の語る話。



「そ、そうなんですか? じゃあ、えびす信仰はギリシャ神話から?」

「そんなわけあるか、うつけもののおっちょこちょいめ! 私が今即興で作った作り話だ。正月休みくらい、少しはボケるのも悪くはなかろうて!」



 カンラカンラと笑う神様。

 即興でそんな風に物語に介入するのも不思議だが、確実に素面ではない。神様はブイサインを大将に向けるとこういった。



「大将、軍艦巻きが喰いたいぞっ!」



 お寿司で安定の高級ネタ。

 軍艦巻き、イクラか、ウニかと思ってみていたら大将が目の前で実演ネギトロを作ってくれた。



「ご自宅でも安価にネギトロが作れる方法です」



 そう言って筋の多いカジキマグロの身を包丁で叩きつぶしていく。そしてそこに投入するのはマヨネーズ。さらに叩いて混ぜ込んでいく。



「しまいの葱です」



 それを綺麗に軍艦に乗せると、ネギトロが出来上がってしまった。



「「おぉ!」」



 セシャトと神様は感嘆し、神様はそのネギトロのレプリカをぱくりと食べる。そして咀嚼。



「なんぞ、これは! 美味すぎるぞっ!」

「マヨネーズに秘密がありますぜ」



 神様はもう一口食べたいと思いながらも、それをセシャトに譲る。



「いいんですか?」

「それを食べて味を盗むのだっ! これなら古書店『ふしぎのくに』でも作れるやもしれんからのっ!」



 そう言う事かとセシャトは「いただきます」と言って軍艦巻きを食べる。ほのかに甘い。マヨネーズはよく味わえば感じる事ができるが、肯定を見ていなければ分からないだろう。



「寿司酢で、作ってるんでしょうか?」



 セシャトの質問に大将は驚く。



「こりゃたまげた……帝国ホテルで働いていた時でも誰にも気づかれなかったんですけどね。お客さん、いい舌をもってますね」



 大将に褒められてセシャトは頭を掻きながら照れる。幼子のように嬉しそうにする中、大将は突如真面目な顔でこう言った。



「よく、市場に出回っているネギトロは、こうじゃないですぜ? よく分からない粉に水を入れてミキサーで混ぜると十分くらいでできちまう。そう、良く分からない物なんですわ」



 大将は、『えびす様』のよく分からない物と、今日本や海外で食べられている実際よく分からないものについて言葉には出さないが警鐘を鳴らした。



「海洋資源は尊いものですよね。でも私等人間は汚しに汚し、汚染された魚や海獣がうようよしていますね。いつか、そのしっぺ返しが人間にくるかもしれませんね。それこそが、蛭子に連れていかれるという隠語かもしれません」



 大将はうまい事言うなとセシャト、そして聞き手に回っていた神様も感じていた。カウンター越しの客商売侮りがたし。

 セシャトと神様が楽しくWeb小説の話をしていて、内容は知らないが、話している情報から大将もお客さんであるセシャトと神様に楽しんでもらう話をちょこちょこと出してきていた。

 だが、それはリアルに怖い話である。本作『蛭子神 著・三上米人』が画こうとしている恐怖とは対極のところにある。

 それを知ってか、知らずか、ややどや顔を見せる大将にセシャトも神様も笑った。

さて、今回の神様の作り話ですが……実はとある文献から予測した事になります。ですので、もしかしたらそうかもしれない! という浪漫がありますよね^^ 本作を紹介するにあたって公開できないような情報も実は閲覧していたりと、私達がホラーに巻き込まれていたりしますねぇ^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ