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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 箸・黒崎光』
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オカルトは迷信を生み出し、科学はオカルトを生み出す

七夕ですね! 最近、お昼はワッフルをやめてガレットに変えています。もうじき夏休みですねぇ……私に夏休みはありませんけど^^ でも1日だけ『ふしぎのくに』『おべりすく』『文芸部』『ブログ担当』の四部署でプールに行きますよぅ! あきる野のサマーランド、楽しみですねぇ! 水着も新調しないとですね^^

 セシャトが旅に出た。

 いつも通り、ご当地古書店探索。今回は東北の方に行っているので一週間程店を開けている。



「いらっしゃいまっせぇー」



 アルバイトの石川が嘘っぽい営業スマイルでそう客を迎えるが、これはこれで数日経つと古書店『ふしぎのくに』の新しい名物となった。あまり来ないお客さんを捌いていると、ばかうけを持った少女が自分の家のように母屋へと入って行く。

 古書店『ふしぎのくに』には食事以外にオヤツ休憩というものがある。その時間に母屋に入ると、件の少女がタブレットを開いてばかうけを齧る。



「こんにちは、えっとヘカさん?」

「しっかり働いてるんな? ヘカは『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』を読みながら石川を監視するんな」



 それを聞いて苦笑する石川は、上からヘカが読むその小説の一節に突っ込んでみた。



「これだけ、技術が進んで、剣って必要だと思いますかねヘカさん?」



 近接戦闘の必要性の有無。現実世界でも地上部隊の強さを誇示する国はあるが、それより今は長距離ミサイルの広域殲滅で勝負が決する。そんな思考の中でヘカはポキンとばかうけを齧った。



「技術が進めば進む程、単純な武器は必要になるんな。武器の原則は誰でも使える。壊れない。安価の三拍子が基本なん。どれだけ有用な光学兵器、長距離高射兵器でも故障やジャミングでゴミになるん」



 脳に直結したデバイスを使ってしまう世界だ。一つの不具合で戦闘不能に陥る可能性もあるだろう。次々にばかうけを口の中に運ぶヘカに石川は聞いてみた。



「この世界の戦闘方法ですが、ニューロデバイスを使って短期記憶から攻撃方法をマクロ化する事で、恐らく僕達の知りえない領域の戦争ができるでしょうね。これはホーキング博士等が危惧している未来なんですけどね」



 AIというと人工知能の事を思いがちだが、このニューロデバイス。生態コンピュータシステムもまた同一視される。

 倫理的な問題。というより、局所的被害は核兵器を越える非道な物がスマートフォンでソシャゲでもするように行えてしまう。

 作中でも語られるように、響生の脳細胞に大きくダメージを与えている。

 既に70年前に我が日本が行った。人間を兵器の部品に組み込んでしまうという倫理の部分の事が一番の問題なのだが……

 物語。ただの物語であるハズなのに、石川は心底疲れたような顔でヘカが読んでいる項目を見つめていた。幼少の頃の幼馴染、その変わり果てた姿、何があったのか容易には想像できないが、一つだけ分かる事としては良くない事があったんだろう。



「ニューロデバイスを通せば、アイを感じる事はできるんな? 果たしてその五感は偽物なのか、それとも本物と呼べるのか、この世界感では難しいところなんね」



 石川はヘカを諭そうとした。アイは実態を持っていないかもしれない。だが、人間としての意識を間違いなく持っている。

 そんなアイの感触や温もりは幻ではないハズだと、だが喉から出そうになった言葉を石川は閉じ込める。このヘカという人物、ただの馬鹿のように思えるが、何処かつかみどころがない。自分が変な事を言って警戒されるのもまた面白くはないかと。



「でも、アイの想いや考えは本物ですよね?」

「そうなんな。だから怖いんな。ヘカや石川はどちらかと言えば、フロンティア側じゃないんよ。なら、実体を持たないで意思を持つアイの事は恐ろしいと思ってしまうんな?」



 ヘカは同時に二枚のばかうけをサクサクと食べる。ヘカの手元にはポメラがあり、本作を読みながら何か執筆をしていた。



「……胸糞悪いですね」



 主人公、響生は幼馴染、さらには自分までも書き換えてしまう。本作世界感の倫理は少々信じられない物で、さらに言えば科学力は少しばかり笑える程遠い差がある。



「ヘカさん、実は眼球一つとっても人類は未知の領域が多くて、殆ど進んでないと言われています」



 実はそうなのだ。眼科医が眼鏡をかけている理由はなんだろう。外科手術で治る目の病は沢山あるが、視力回復や視力矯正を眼鏡以外で行っている医者は妙に少ない。

 その反面、視神経縫合に成功しただなんて、眉唾な話も耳にするが、実際は人類の身体は未知の部分が多い。脳に至ってはまさに神の領域だろう。

 それを本作『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』では脳の領域はおろか、アストラルな領域の解明にまで成功しているように思える。それは作中のキャラクター達のテンションからもやや感じ取れる。



「生死というものがひどく軽く感じますね……ちょっとキツイです」



 石川は青い顔をしてそう言うので、ヘカは逆に興味深そうに石川を見る。そして、残り一つのばかうけをガン見してからそれを石川にくれた。



「やるんよ!」

「えっ?」

「さすがはセシャトさんの選んだバイトなんな? こんな数分で同化してるん」



 石川はいつしか、ヘカのタブレットを受け取り内容を読み進める。人類の数値化、現実世界でもアメリカの大学で初音ミクの遺伝子を作り出したという話は少し前に話題を呼んだが、本作ではそのさらに先、データより、遺伝子情報の実体変換。これを行った作品が一つ存在する。あの井戸から女性の物の怪が出てくる小説。『リング』その完結編にあたる『ループ』



「知ってるん? 昔、電子空間の情報を遺伝子情報に変換して、それを母体に入れて電子の存在を生むという小説があったん。それをこの作品はオーバーテクノロジーで電子変換してるん。そうなんな。ヘカやセシャトさんみたいなもんなんな?」



 ヘカの話す意味を石川は理解できなかったが、神様の奇跡で産み落とされたヘカやセシャト。それを超越しすぎた科学力は並び立つという事にヘカは物語である事を忘れて、ややニューロデバイスという物に嫉妬していた。



「ヘカさん、この世界。天国の証明をしてしまったのであれば、これは生まれ変わりの証明を同時にしてしまったという事ですよね」



 今の所、死者が行く地獄や天国は見つかっていないし、生まれ変わりという物ない。というか、生物の増加に対して計算が合わない。オカルトを信じている方には申し訳ないが、現時点では100%確実に死者の国も生まれ変わりもありえない。

 だがしかし……



「そうなんな、科学は恐ろしいん。ニューロデバイスがあれば、作れてしまうん。本来ありえない理を越えた天国と生まれ変わりをなん」



 オカルトは100%ありえないと言ったが、科学はオカルトを生み出す可能性は十分にありえる。

 本作の擬態という人体錬成、これはかの有名なホーエンハイムが到達したかった答えなのかもしれない。そして、どれだけ科学が進歩しても命を完全に飼いならす事はできないという証明。が響生は目の当たりにする。

 石川は胃の中の物が逆流する感覚を覚えた。同化の行き過ぎた先、映画を見て感情移入して泣き出すアレに近い状態。



「トイレは奥なんよ。汚したらちゃんと掃除するん!」

「……うっ!」



 走り出す石川。ヘカの虚ろな瞳は石川の思考。想像力は、伊織の姿をリアルに想像し造形してみせたのだろう。

 それはあまりにもグロテスクで一般的な感性を持つ石川にはキャパオーバーだったのだろう。



「脳が犯されてても石川も響生もまだまだ人間なんな。ヘカ達はそういう感覚が乏しいんな? 少しだけ、羨ましいん……少しだけなんな?」



 青い顔をした石川はお手洗いから戻ると、ヘカに小さく会釈して店番に戻る。



「仮想世界、2000年頃には既に構想され、今だにフルダイブは実現してないん。そして今後も1000年以上は無理なんな」



 澄ました顔でそう言うヘカだが、これは欄の考えをそのまま言っただけであり、彼女の頭の中にはそれら難しい理論は全くない。



「伊織は、『おべりすく』の連中みたいな喋り方なんな」



 所謂関西弁、ヘカはそれらを話す連中にいいイメージを持っていない。何かにかけてヘカに喧嘩を売って来るシア。ヘカより質も量も多く執筆するバスト。そして軽々しくなれなれしいアヌ。

 少し意識が別の方向に行ったが、響生はリアルとヴァーチャルの世界で二重生活をしている。それは一体どういう感覚なのかヘカは考えて、そして空しくなった。

 プシュ。

 銘柄不明の近所のスーパーで売られているオリジナルモデルのエナジードリンクを飲みながら、次は自分を響生に置き換えて考えてみた。



「ある種の救いなんな?」



 人である響生と人とはいいがたい美鈴のかけあい。ここは実に興が深い。やや偏屈な上官とその部下の掛け合いのようであるが、実際全く違う種族間の掛け合いなのだ。

 仮想世界。

 まさに天国の住人と、現実を生きる地上の人間。そこでヘカは少しだけ作品外の思考に自分の考えを遊ばせた。



「天使って人間を異常に蔑むんな。確かそんな設定だったん」



 ヘカには宗教感は一切ない。故に天使なんてものも神も設定でしかないのだ。そう、美鈴は天国の住人。

 所謂天使。

 それ故、人間である響生をやたらとディスるのは実は上手いんじゃないかとそんな事を考えて一人で笑った。



「ヘカさん、ちょっといいですか? あっ、笑うと可愛いですね」

「なんっ! なんなん? いきなり入ってくるなん!」



 ヘカがわめくが、石川は本をメンテナンスする為の燃料用アルコールの場所が分からなくなって聞きに来た。

 ヘカは頬を膨らませながら嫌々、古本メンテナンス用の道具が置いてある場所から燃料用アルコールを石川に手渡した。



「これなん!」

「ありがとうございます」



 じっとヘカを見つめる石川。それにヘカは意味が分からず聞き返す。



「次はなんなん?」

「今度の休みにデートでもしますか?」



 ヘカは空いた口が塞がらない。神様にセシャトが見たら驚いた事だろう。あのヘカが完全にペースを失っているのだ。

『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 著・黒崎 光』本作を楽しむ為に、色々なSF映画やアニメをみんなで見るようにしてますよぅ! 本作は夏休み中などに一気読みをしながら内容を調べて楽しむのに適しているのではないでしょうか? 本作の一つのテーマでもある命の意味について、『ふしぎのくに』メンバーでミュウツーの逆襲evolutionを見に来ますよぅ!

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