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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第七章 『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 箸・黒崎光』
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知ったかとトラベルワーカー

はじまりました! 7月ですよぅ! 7月と言えば七夕です。七夕と言えばSFと恋愛ですねぇ! という事で今月は数ある素晴らしいSF作品の中から選ばせて頂いた1作をご紹介させていただきますよぅ!


「セシャトさーん、古本の手入れ終わりましたぁ」

「石川さん、休憩行ってくださいね! 冷蔵庫にアイスクリームを入れていますので良ければどうぞ」

「頂きます」



 石川。

 彼はフリーターの男の子。十七歳で色んな世界や町で働きながら生活をしている。所謂トラベルワーカー。

 石川は母屋に入ると一言。



「寒っ!」



 エアコンが最低温度で設定されている。母屋にいるのは不健康そうな少女がコートを着てお汁粉を食べながらノートパソコンの画面を眺めている。



「んまぁいん!」

「こ、こんにちは」

「誰なん? サインならお断りなんよ」

「いえ、アルバイトの休憩中でして……」



 この時期は珍しくセシャトが旅行に行く準備をする頃、その間の研修期間なんだろう。

 また童顔の少年を雇っている事にヘカは鼻で笑う。



「セシャトさんのショタ趣味にも困ったもんなんな。お汁粉食べるん!」



 そう言って石川の手元にお汁粉を出すので「どうも」と受け取る。ヘカが見ている物を横から見ると、いくつかのサイトを開いている。



「何見てるんですか? あっ、初めまして。自分、石川と申します」

「web小説と、ここ最近世間を騒がしてる怪盗の事件なんな。どんどん、北から降りてきて東京にいる可能性が高いらしいん。懸賞金50万欲しいん」



 石川がその記事を見ると、歴史的遺物を盗まれた大富豪が怪盗を捕まえた者に懸賞金を出すと書かれていた。



「そうなんですね。あとWeb小説って?」

「ネット上で、公開されている小説なんよ。ヘカはセシャトさんと違ってクールな作品が好きなん! 石川も読むん?」

「いえ、自分は結構です」

「結構面白いんよ! 科学的に作られた死後の世界があるん。宇宙戦艦も出てきて90年代ラノベの世界感も感じるんな!」



 宇宙戦艦という単語を聞いて石川はヘカに出された汁粉を寒い部屋で食べながら、ヘカの真横に座る。



「続けてください」

「『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 箸・黒崎光』なん」



 虚ろな瞳でヘカは石川を見つめてから話し出した。人は何処まで行っても、どんな形であれ人と戦争をする。そんな、瀕死の妹を助けてくれたのは主人公・響生にしか見えない少女に助けられる。王道、ここまで実に王道のSFである。

 ヒューマンホログラムデバイス、日本の作品には少なからず登場するこれにヘカは楽しそうに、ふと石川を見ると大量の汗、その瞬間ヘカは異様な風景を見た。上空に浮かび上がる、宙船。そして大量に掲げられた桐紋の旗。

 そして煮え立つ巨大な鍋。



「な、今のビジョンなんなん……」

「……ヘカさん。ただの白昼夢ですよ。それより、主人公達が戦艦内で身体を動かす事。意味があるんですよ」

「なんでなん?」



 椅子に座る事と同じく宇宙は身体の老化が早い。よく宇宙にいる方が年を取らないというが、あれは嘘である。重力下に身体を起き、運動をしている方が極めて老化が遅くなる。

 本作の面白い事として、宇宙空間内また、そこからの仮想域の物語を繋げる。科学的に作られた天国。死後の世界というわけだ。



「万能型の量子コンピュータでかつ、星を生成できる程の規模。そうなんね。サハラ砂漠全土に繋げるくらいの量があればこの装置作れるかもしれないんな。現在量子コンピュータはまだマニュアルなん……まぁヘカでも知ってるんけど、居候の女の子がそういうの詳しいんんな」



 知ったかぶったヘカに石川は頷くように補足した。

 その一言にヘカは驚愕する。



「宇宙空間は、電波干渉もなく無重力化によるイレギュラーの振動不良もないので、恐らくこの作品は未来を見据えてますね」



 一つ指摘すると量子コンピュータの概念がリアルと少し違う。

 量子コンピュータとはその時代で言う所の目指すオーバースーパーコンピュータでしかない。本作に記載のあるウィキ情報。現在の技術で数千年かかる計算を数十秒で計算できるとあるが、それはどんなオーバーテクノロジーでも不可能である。それはその計算が回答不能量計算であるからであり、量子コンピュータは瞬時に回答不能を叩きだすだろう。

 古書店『ふしぎのくに』関係者にかなり古いスーパーコンピューター『京』の開発者と縁のある人物よりの情報であり、それが事実かは不明だが、現理論上の量子コンピュータは作れるらしい。

 ヘカは専門用語での会話が出来る程頭がいいわけじゃないので、黙っていると、石川は話をつづけた。



「仮想世界の妹さんを彼はどう思うんでしょうか? 僕等の見ている世界もまたアストラルな方面から見れば仮想視野現実でしかないのに」

「それを考えるのがこの作品なんな? 地味に深いんよ。宇宙戦艦ナデシコにイノセンスの世界感が入った感じなんな」



 残念ながら石川はその両方を知らない。されど、ヘカの言いたい事は少し分かった。今後人間はAI及び仮想世界(通貨等)と対等に付き合っていかなければならない未来が目の前まで来ている。



「そうか、逆なのか……それは作者さんが今の現実を生きるからだ」



 響生の妹は仮想の自分をいつか飽きるのではないかと恐れている。だがしかし、進みすぎた世界。現実を捨てる方が可能性は極めて高いかもしれない。

 それに石川が気づき、ヘカは頬を膨らませた。自分が先に気づきたかった。されど、二人は気づいていない事がある。

 作品にのめり込みすぎている事と、石川の休憩時間が既に終わっている事。



「この作品、内容もしっかりしていて、想像できる未来を感じさせて怖いですね。この世界なら、遺伝子をデータから読み取ってそれを基に生身の身体を……」



 ヘカは石川の唇に指を当てる。それは危うい、作品世界の未来を殺しかねない。代わりにヘカは石川に聞いた。



「自我を持った機械は人だと思うん?」

「人間ではないかもしれないですけど、人です」



 即答した。

 そしてフロンティア側の時間が異常にはやく、現実世界のテクノロジーを越える。これはまた恐ろしくリアルな話である。現実世界において仮想空間による世界の成り立ちを実験しようとした際、現実換算の十数年で仮想世界は人類文明の終焉まで進める事が出来る。但し、それは現実世界が仮想世界を管理した場合である。仮想世界が現実世界に牙を剥いてきた場合。どうなる?

 管理外からの脅威。まさに人類ははじめて未曾有の知的侵略者との戦争を始める事になるだろう。

 以上がかいつまんで説明するフロンティアと現実世界の戦争の成り立ちである。ヘカと石川はより作品世界に没頭する、それを人は同化と言う。



「脳をチップに変えるのは倫理的に問題なん? 人工心臓、義手、義足だって似たようなもんなんよ。倫理的で命を落とすくらいなら、いくらでも倫理を犯すん」

「そうですね。人間を人工的に作る事を世界は禁忌としてますが、人間が交配で生まれない世界がくれば人はその禁忌を犯して人を作るでしょうね。そしてそれはいずれ普通になる。戦争はいつも頭でっかちの許容がない事で起きるんですよ」



 何かに怒っている石川にヘカはうぅむと考え込む。

 これは非常に難しい問題。倫理とは絶対ではない。それは世界も分かっている。それ故、自殺を容認する国家だって現実に現れてきたのだから……



「もし、もし仮想世界のみしか世界が存在しなくなったら、人はどうなると思いますか?」

「難しい話なんな。それはヘカより欄ちゃんとかの方が詳しそうだと思うんけど、多分現実世界に憧れるん。でも故郷は仮想世界なん」



 現実世界からすればフロンティアは死後の世界、所謂異世界かもしれない。されど、フロンティアからしても現実世界はまた似たような位置づけにある。それらの戦いは、どちらかが滅ばない限りは終わらない可能性が高い。

 失って初めてそれが世界に必要であると双方が考えるだろう。

 フロンティア側で生まれた意識プログラムというべきか、これらはやはり人間と呼べるだろう。機械の身体を持とうが、数字の頭脳を持とうが、自ら考えそして人として対話できる存在である以上。読者には強くそう感じさせる。言うなれば異世界の登場人物くらいの感覚である。一つ、フロンティアと現実世界の力の差について石川がヘカに話した。



「ヘカさん、科学力ってどのレベルまでならまだ戦えると思いますか? 三百年差はいかんしがたい差です」



 分かり易く説明しよう。現実世界の最高破壊兵器は核武装した無人爆撃機と原子力潜水艦だろう。それに対して300年前の最強武装は15センチの榴弾砲。ゲリラ戦ですらまず勝ち目がない。



「そうなんな。どう見積もっても七十年くらいなん?」

「さすがですね。勝つ負けるを考えないとしても最悪一時代前までです。三百年の差は下手すれば文明の差くらい開きがありますね」



 実際、七十年前の骨董品ですら今だに使用可能を唱える者もいる。ただし、現在の兵器と混同した場合においてではあるが……

 この物語の現実世界は極めて絶望的な状況に陥ってはいる。強みとしては物理的なサーバー破壊行動を繰り返す事で最悪ドローに持ち込めるかもしれないが、科学力の差三百年は伊達じゃない。正直な話この戦争を終わらせる簡単な方法が一つある。


『現実世界の人間が近づけない場所に、サーバープラント作って、そこに全部イメージバックアップしたらいいんじゃないすか? 宇宙空間は常に太陽光でエネルギーは無限っす。あと、ぶっ壊れたサーバーからでもデータ抜けるかもしれねーっすよ』


 ヘカの居候にヘカがラインで質問した際のなんとも色気のない回答。実際フロンティアは早々に現実世界を斬り捨てて、サーバー(世界)をのせた宙船でも作り、離れる方がはるかに賢い選択ではある。



「欄ちゃんはそう言ってるんな」

「嗚呼、確かにターミネーターみたいな人間を排除する機械と抗争する世界の物語って多いですけど、本来。無意味な事をしない判断をとりますよね」



 納得している石川とヘカは意気投合している中、お店に通じる扉が半分開かれ、そこから死んだような目のセシャトが見つめている事に気づいた。



「あっ、やばい! 休憩時間一時間以上過ぎてる! セシャトさんごめんなさぁい!」



 セシャトは一人だけのけ者にされてWeb小説話に花が咲いていた事に心底悲しそうな顔をしていた。それをどうやって埋め合わせるか困っている石川を見てヘカは面白い臨時バイトが来たなと思いながら、ネットのニュース速報の内容を見た。


”怪盗・五右衛門 次の狙いは重工棚田の保有するオーパーツか?”


 五右衛門、石川五右衛門。セシャトに謝罪しまくっている少年をちらりと見てヘカは再び鼻で笑う。



「まさか、違うなんな」

『Spirit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした 箸・黒崎光』さて、本作ですが正直内容が大分難しいです。当方も専門的な事を勉強しつつ、また専門家を招いて内容を読み解いております。ただし、作品のストーリーや流れはとても分かりやすく、ライトノベルのそれを崩しておりませんよぅ! さて、梅雨明けを待ちながら、今月は夜空を楽しみ本作を一緒に読み解いていきましょう!

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