愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ
もう半年終わったんですねぇ! 梅雨がきて、夏がきてかき氷が美味しくなる時期がやってきましたねぇ^^
さて、当方でも色んな動きがありますが、皆さん令和は色々チャンスがありそうですねぇ!
遡る事、三時間前。神様は老人会より少し赤い顔をして戻って来る。その手には土産の焼き鳥を持って。
「セシャトぉ~、帰ったぞぉ」
昼間から酒を飲んで帰ってきた神様を怒るわけでもなく、セシャトは慌てて神様に申告する。
「神様、金色の鍵が無くなりました! どうしましょう?」
お土産の焼き鳥を取り出すとそれを咥える神様。
「ただの人間があの鍵を持っていても何の意味もないが、それは不味いの。探してみるか」
神様は指を噛む。血が出る程に見る見る内に子供の姿から大人。二十歳前後に成長し、髪の毛も比例して腰くらいまで伸びた。
「神様、その御姿は?」
「ラムズが貴族に末席を置いておるように、私もこれでも神ぞ? 眷属の気配を探しやすい姿になったまでよ」
外に出て、ポケットから将棋の駒を放り投げるとそこには巨大なジンベイザメが現れた。
「乗れセシャト。金の鍵を探すぞ。なんだか悪い予感がするの。金の鍵が発動しておる気がする。あの小娘と愛殺何処まで読んだ?」
神様はヨミを疑う。そしてセシャトも悲しいが、あの金の鍵が無くなった時に最後に会ったのは彼女で、その後に紛失している事を考えていた。神様に言伝すると神様は考える。
「ラムズはチェスが強い。チェスは勝ち手が無ければ逆駒に持っていくなり引き分けを狙う事を教えてやればよいのにの、王を取る事だけが勝利ではない」
神様はジンベイザメの頭を撫でてから話す。普段みない大人神様にセシャトは何だか話しかけずらい。普段の神様となんら変わらないハズだが、着ている服もなんだか高貴な物に代わり地味に知らない人だ。
「ヴァンパイアって何歳くらい生きている方なんでしょうね?」
「会った事ないから知らんの。私が物語が生まれた頃からだから、四万年くらい生きておるだろ? そう考えるとよくて500.600年というところだろうかの? 千年生きたら大体神と呼ばれておるの。だからラムズは異常だの、世界感的には対して驚く程ではないらしいが、長生きすると飽きるぞ。今の時代はスマホがあるからいいが、昔は石に刻んだ物語を読まねばならんかった。今だと嫌がらせ以外の何ものでもないの」
神もテクノロジーの前には怠惰になるのだろうとセシャトは平成生まれの一歳で良かったなと内心思う。手軽に物語を愉しめない世界は地獄だ。神様はわりとイケている大人の見た目でセシャトにバレないようにあたり目を取り出して咥えている。昔の人はなんでこんなに食い意地が張っているのかとセシャトは考えながら神様に尋ねる。
「海賊が船員を奴隷として引き渡すって事あるんでしょうか?」
「まずないの。ラムズも言っておるだろ? 船が動かんと。ただの? 奴隷商人は貴族崩れの仕事だからの、ラムズもその資格ありだから上手いっちゃ上手いの」
「ですねぇ。そもそもお強いラムズさんですが、こういう形には極めて弱そうですからねぇ」
何度か語ってきたが、ラムズは優しい。それも恐ろしく優しい。船長である自分と名も知らない雑兵の船乗りとをルールさえ従えば対等に扱う。そんな彼が心を許した船員達からの信頼を失えば言わずもがなだろう。皆憤慨している中、ノアは風になり誰にもつかずその場を離れた。凄い力だとセシャトは思った時、気が付いた。
「神様、今。凄いお力を使われていますよね?」
本来、書に関わる事以外は無能な神。それがまさに神様らしい魔法的な事を行使しているのだ。神様は耳に指をつっこんで面倒臭そうな顔をする。
「これ、寿命縮めるんだぞ。私が童の身体をしておるのもそうならんようにしておったのに、この馬鹿者めが」
「……すみません」
「まぁよい。セシャト。ケーキとお萩と苺。どれか一つだけ食べてよいと言われたらどれを選ぶ?」
エルフの判断だろう。まさにセシャトはエルフと同じ答えを持っていた。選べない。それに神様は嗤う。
「神はの。全部喰う。それが特権だの」
「ず、ずるいですよぅ!」
神様はカラカラと笑う。今の大人みたいな姿ですら神様の本当の姿ではないんだろう。神様は語る。
「基本的に神なんて頼んでもいないのに勝手に拝まれて崇められるであろう。そんな勝手な信仰に神が耳を貸すと思うか?」
神様による全宗教の完全否定。聞きたくないなぁとセシャトは思っていたが神様は付け足した。
「でもの、神は大体ワガママだがレオンみたいな奴の事は嫌いじゃない。だから人間には面白い言葉があるであろ? 奇跡とな。ラムズは信仰しすぎたの」
神様の言葉通りならラムズの運命を絶対に信じる考えは、確かに危険だ。かと言って神様と違い作品内の神々はもっと働き者なのかもしれないと同時にセシャトは考える。
「セシャト、貴様。今私を内心ディスったであろ?」
「いえ、ですが神様ならこの状況どうしますか?」
もし神様が宝石狂いの船長なら多分凹まない。大声で叫んでも数秒後には立ち直るだろう。精神構造がそもそもセシャト達とは違うわけで、腐っても神という事だ。
「まぁ、新しい船員を探すかの」
嗚呼、やっぱりなとセシャトは笑った。神様にとって騙されているとか、裏切られるとかそういう事はあまり大した問題ではない。
それ故神様は今直面している現実についても話す。
「もし、金の鍵が使われておったら、私は使用者に罰を与える。ちなみに貴様にもな」
珍しく神様らしい事を言うのでセシャトは静かに「はい」と答えた。
「あの小娘、金の鍵を手に入れる為に近づいたとしたら、とんだ食わせ者だの。ヘカの所におる娘くらいややこしい奴という事だ」
ヨミの家なんて知らないハズなのに神様はぐんぐんと進んで行く。そしてとある一戸建ての前で止まると「とう!」と言いながらセシャトを抱えて飛び降りた。やや焦げ臭い。
「この家、燃えとるの。どうやったか知らんが人間が金の鍵を使ったんだろうの。なかった事にしようとしておるんだろう。行くぞセシャト」
一つ神様に聞いてみたくなった。セシャトですら物語でしか知らない感情。それを神様はどう表現するのか……
「神様、愛ってなんでしょう?」
「生きている時に相手に感じる感情全てだ。この状況でつまらん事を言うな」
心を受ける。受けた心。愛とは何も慈しみの心だけではない。瞬殺で答えられてしまった事でセシャトはヨミの家の扉に触れ火傷した。
「熱っ……」
「どけ!」
神様はドアを蹴り飛ばし、外の空気と触れて爆発したその前に立つも何ともない顔をしてヨミの家に入る。火が燃え移り大分時間が経っている。
「ヨミさんは大丈夫でしょうか?」
「多分物語の世界におるからの、ただ厄介な事に混ざっておるの」
神様は燃え盛る部屋の中で燃えない紙の束を拾うとセシャトに渡した。それはヨミの弟、セカイの書いた小説。
「私が直々に連れ戻してくる。その小説を持って貴様は避難。私の合図と共にその小説を破いて燃やせ」
物語の破棄。それはセシャトにとっては耐え難い所業。それに首を振るセシャトだったが、神様は一言低い声で言った。
「ならん。人の命と物語。どっちが大切かお前でも分かるであろう」
神様はそう言うと普段の子供の姿になり、何かを呟くと消えた。金の鍵無しでも物語に対して奇跡を起こす神様。
★
一人の男が辺りを探し回っている。やや自暴自棄。そんな男に神様は手を上げる。
「小僧、貴様が探しおる女は私が連れ戻してやる。だから大人しく船に帰れ、いい子にしてたらリコリス飴を買ってやろう」
男は神様を見て眼帯を外す。
「お前、何時ぞやの」
「すまん、今回は迷惑をかけた。ジョーカーのせいだとでも思ってくれ」
神様は何もないところから杯を二つ、そしてそこには酒が溢れる。真っ赤なカクテル。それはブラッディマリーではない。
「たまにはこういうのも良かろう? トマトハイボールだの」
「本当に俺の宝石を連れ戻してくれるんだな?」
「私は嘘はつかん。任せろ」
男は杯を神様から受け取るとそれを神様の杯にコツンとあてた。
「友に」
男にそう言われ神様は嬉しそうに口角を緩める。神様は背を向ける。そしてこう言ってみた。
「たまには別の神を信仰してみろ。ジンベイザメの神が良いぞ! 私は運命なんて貴様には与えん」
「ふん、ジンベイザメってなんだ? このちんちくりんの神」
お互い背を向け笑う。男がいなくなると神様は何もないところを見て深呼吸を始めた。
そして神様は目を瞑り、目を開けた先。そこでヨミとイレギュラーを見つける。
「貴様、えらいことをしてくれたの?」
神様を見てセカイは目を細める。そして一言。
「敵か? ラムズは骨抜きになった愛は人を堕落させ弱くする。萎えてた所、別のボスの登場だ」
ラムズはメアリと会って確かに脆くなった。いや元々そうだったのかもしれないが、顕著にそう見えるようになる。それに神様は答える。
「うつけ者がぁ。弱さを見せるのもまた愛。ケソケソ自分の物語の中で英雄やっておればよかったのにの。貴様に私の友はやらせんぞ?」
神様がゆっくりと歩みを進める中、セカイはサーベルを神様に向ける。絶対に死なない。絶対に負けない。誰からも必要とされ、何も通用せず。何の痛痒も与えられない。無敵の存在たるセカイに向けて神様は手を向ける。
「お前のチートは作品世界が混ざった時点で効果を失っておる。とは言えこれは貴様が望んだ事でもない。静かに消えるなら情状酌量を考えてやる」
神様は物語に対して絶対的奇跡を起こす。それ故平等に愛を持って接したが、それをセカイは拒んだ。
「断る! 俺は無敵のヒーローだ」
「そうかの、なら私はダークヒーローかの? 」
セカイはあらゆる者を葬る剣で神様に斬りかかるが、神様は一言。
「誠に愚か者の極みよの? 朝露と共に消えよ」
切っ先を指で止める、そのまま世界は神様の力に包まれた。セカイは理解できない。愛殺の作品世界より神様は佐倉セカイを抹消した。
そしてヨミを見つめる。ヨミは何が起きていたのか分からない。
「貴様、人には越えてはならん一線がある。セシャトから金の鍵を盗みよって、さらには作品世界に入りよった。少なくとも物語に支障が生じた罪、貴様の弟の作品の破棄にて調律を取る」
神様の言ってる言葉を聞いてヨミははじめて意味を理解した。亡くなった弟の作品をこの世から消すという事。
「やめて! お願い、それだけはやめて!」
「ならん。そうしないと貴様は戻れんし、この物語が不安定になる。セシャト、やれ! これは貴様とこの小娘の罪だ」
ヨミの泣き声が響く。
それは消火活動が終わり、真っ黒に燃えた自分の家の前。ヨミが気が付いた時には神様の姿はなく。消防の人間に保護され、茫然と床を眺めていた。
そんな中、ヨミに面会者。それは棚田クリスだった。
「……先輩」
「やぁ、佐倉君。大変な目にあったね。安心してほしい。燃えた家も弟君の作品も我が重工棚田の力を使い復元してみせよう」
クリスの言葉を聞いてヨミは驚く。優しく笑顔を見せ、そしてこう語る。
「そんな事が?」
「あぁ、どうやら君の弟君の作品を破棄したのは古書店『ふしぎのくに』店主のセシャトさんだそうだ。酷い話だね」
ヨミはセシャトの顔を思い出し、あの優しかった彼女がそんな事をしたという事実に自分の行為も忘れ怒りに変わっていく。
「『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』凄い面白い作品だよね? 僕もラムズみたいに色んな仲間と冒険してみたいものさ。どうかな? 僕の船に乗って、彼らに復讐してみないかい? 条件は簡単さ。彼らに宣戦布告してくれればいい」
そう言ってスマホをヨミに渡すクリス。ヨミはボタンを無言で押しスマホを耳に当てた。すぐに明るい声であの優しい店主の声が聞こえる。それにヨミは静かにこう言った。
「セシャトさん、私は貴女を絶対に許さない」
電話の奥で何かを言っているセシャトを無視してヨミはスマホを地面に叩きつけた。その様子を見てクリスは手を差し出した。
「ようこそ、対古書店『ふしぎのくに』対策本部へ」
『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』さて、今回を持ってご紹介を一旦終了させていただきますよぅ! メッセージで沢山素晴らしいご意見やご感想を頂きました。また本作品の作者さんや作品にも還元していただければ嬉しいですよぅ! まさの私に怨恨を持たれたまま終わってしまいましたねぇ。ヨミさん、また何処かで出会う事もあるんでしょうか? 令和最初の作品となります。愛殺、ファンタジー作品としても非常に魅力的で楽しめたのではないでしょうか? 更新を今後は一緒に楽しみましょうね^^