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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第五章 『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』
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恋愛は最大の麻薬ですか?ーーはい/いいえ

さて、気が付けばもう5月も終わりますねぇ^^ ほぼ年の半分に来ています。1年が本当に速いですね! 来年は東京オリンピックですよぅ。当方もそれに合わせて何か新しい事を考えているとかいないとか^^

 あの後の事はあまり覚えていない。

 ヨミの手の中にはセシャトが首からぶらさげている金色の鍵。

 そして今はヨミの自宅。『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』の第三章、あらすじをぼーっと眺めていた。

 呑気にメアリが今までを簡潔に語っている文章を流し見しながら次のページを開いた。冒頭でモラリストの言葉を見てヨミは鼻で笑った。



「自分を偽らない人間なんているわけないじゃん。それにしてもラムズって石油の国の成金みたいよね」



 海に生きる者は潮で喉がやられる。

 港につくやいなやワインで喉を潤し、自前のジョッキで新鮮なビールを浴びる。腐らないが度数の高いラムや腐ったビールで喉を焼いた船員達の楽しみは陸酔いする事だなんて言われている。

 この作品でも垣間見る世の中の強さ、それは『金』これを越える力はそうそう存在しえない。

 メアリに服を上から下まで揃えてくれるラムズの描写を読んでいると、ふと先輩。棚田クリスを思い出した、高価なドレスをこの前用意し、プレゼントしてくれた。

 何となく彼らは似ている。



「でも、先輩は興味を持っている物がなさそうだよね」



 ラムズは宝石狂いというアイデンティティがあるのに対して、棚田クリスは何にも興味を持っていない。しいて言うならセシャトの持つの金色の鍵。今ヨミの手の中にあるこれに関しては異常な執着を持っている。

 本来あってはならない神の使いを殺した何者か……この構図はなんだか今の自分のような気がして少し心音が高鳴るのを感じていた。

 メアリにお洒落をさせるラムズ、彼は人として案外優しい。

 恐らくはブランドのような物だろう。



「自分の手元にある物は美しくって事かな?」



 ラムズ・シャークが予約している宿はあらゆる種族を受け入れる珍しい場所だった。船員達、もといメアリへの配慮だろう。

 ここまで来るとラムズは海賊の船長ではなく、従業員への配慮が出来る雇用主、社長だ。彼は残酷なシーンもいくらかあるが、この社長らしい立ち振る舞いの方が目立つ。

 実際、紳士的であり、模範的なのだ。

 それ故、やはりあの少しネジが飛んでいる先輩を思い出す。彼もまた重工棚田という会社の組織における総帥。経営を船旅と言うなら、先の見えない海域を先陣を切って舵を切っている事になる。そんな彼の事を慕っているであろうメジェド、彼女はメアリとは違い、相当に乙女だ。



「この宿って、防犯はしっかりしてるのかな?」



 十三も種族を受け入れている。差別をしない姿勢は脱帽ものかもしれないが、人間以外の種族は総じて人間よりも危険。ならそれらが暴れた際の抑止力があってしかるべきだろうとヨミはリアルな事を考えている。

 そんな折、ヨミの家に訪問者。

 弟セカイが亡くなってから両親はこの家に帰って来なくなったこの家に訪れる者は少ない。居留守を決めようかと思ったが、相手に悪いのでヨミは扉を開けた。



「……メジェドさん?」

「はい、メジェドです」



 棚田クリス曰く、彼女はアンドロイドらしいが、どう考えてもそうは見えない。そんなメジェドが一人でやってきた事にヨミは招き入れた。



「狭い家だけどどうぞ」

「御意」



 ヨミは少し良い銘柄の紅茶を持って自分の部屋へと案内する。

 ティファールの電源を入れて湯を温める。

 そこでパソコンを開いて『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』を読んでいた事をメジェドに見られた。



「使族。オニに関して、海外ではオグレス、オーガ等と言われ、最弱のモンスターとして扱われる事が多いです。角の生えた奇形の人間であります。否、日本においては神として鬼のイメージが強い為、こう言った特別視される傾向にあります」



 物語調に使族、ようは種族説明が続くのでメジェドは知識上の補足をヨミにしてくれる。そんな中メジェドがある項を読んで固まる。



「ヨミさん、お金儲けを喜びとする女の子は可愛いですか?」

「えっ?」



 どちらかといえば引くが、期待を帯びた瞳でヨミを見ている。その瞳の先には重工棚田の総帥クリスを見ているに違いない。



「……どうかな、可愛いかな? 多分」

「記録しました。ヨミさんはアーキエンジェルに関してご存知ですか?」



 アークエンジェル、大天使の事。本作においては一種族の一つでしかないらしい。もちろん知らないと意思表示をするとメジェドは少し目を瞑る。



「天使の設定は非常に曖昧であります。神が作った使徒でありますが、大天使と言うわりに、その役職は会社で言うところの係長であります。悲しい中間管理職。されど、大天使ミカエルは部長クラスの熾天使と同等の力を持ち、大天使ガブリエルは神を直視できる唯一の天使であります。故に、天使という元々の種族が依授(いじゅ)されたから、アークエンジェルなのかもしれないであります」



 確かに、本作の使族の中で、何故かアークエンジェルのみ、エンジェルではない。それはメジェドによる見解でしかないのだが……



「セラフィック(熾天使)にまでなると、世界感的に神や創造神に匹敵してしまうからと考えます」



 メジェドはヨミが出した紅茶をじっと見つめ、口にはつけない。ヨミとしてはやはり良い物を飲食している彼女には口に合わなかったのかなくらいで考えていた。

 そんな中、ヨミは盛大に紅茶を噴き出す。



「ヨミさんは、男女の性行は経験済みでありますか?」



 上品なお嬢さん、棚田クリスの秘書である彼女からまさかこんな言葉が出てくるとは思わなかった。



「なななな。あるわけないじゃないですかぁ!」

「記録しました。残念であります」

「記録しないでください! メジェドさんは棚田先輩の事が好きなんですよね?」



 それを聞いてメジェドはフリーズする。人間と違い使族は性行を行い種を増やす者はいないらしい。逆にそんな事に興味を持つメジェドが何だか可愛く思えてきた。さらにメジェドの猛攻は続く。



「ラムズとロゼリィの話す愛について、理解に苦しみます。ヨミさんの意見を賜りたく願う」



 愛を語れと言う。

 ヨミは色恋沙汰の経験もないし、どうしようかと少し考える。



「二人の会話は合っているかもしれないけど、間違ってもいるかな? 宝石に狂うのもまた一つの愛だと思うし、ロゼリィの意見も間違ってはいない。だって受け入れるのが愛なら、引き離すのだって愛でしょ? 愛って心を受けるって書くじゃない。優しさや厳しさ、辛さや狂気。そのどれもが愛なんじゃないかな? それにこのシーンのラムズって今のメジェドさんに少し似てるよね?」



 そう言われ目を丸くするメジェド。猪突猛進、なり振り構わないそぶり、恋や愛は人間の持つ最大の麻薬の一つなのだ。



「メジェドさん、ここに来たのって物語を一緒に読む為じゃないですよね? でも今は愛について一生懸命悩んでる。ほら、今もレオンの恋の落とし方をじっくり読んでるよね?」



 メジェドは恥ずかしがるわけでもなく、否定するわけでもなく、コクコクと頷く。レオンの説明は実にありきたりで、分かり易い。まさに人間の好意を知る入門編といったような講義をラムズを前に教鞭をとり、そしてラムズもしっかりとその話を聞きほれる。

 難しい顔をしてそのページを読み込むメジェドにヨミは笑った。



「何だかメジェドさんもラムズ達みたいな使族の一人みたいだね! 恋愛に関しての知識の探求に興味が尽きないとことか」



 ある意味ヨミはリアルに使族の反応に近い物を目の前で見ている事を知らない。重工棚田が生み出した機械のセシャト。

 ノベラロイド、メジェドの存在。



「ヨミさん。この作者は女性です。それ故、女性的な視野の想像に関しては勉強に足りうると記録しますが、男性目線としては、少々難を感じます」



 ラムズは人間的な反応に乏しいが……故これで構わないかもしれないが、レオンに関しては少々違和感を覚える。キャラが変わってしまったのか? というくらいに人生相談を始めてしまうのだ。右も左も分からないハズの子供が……



「う~ん、ここは説明役としてしかたがないのかな? 私はあんまり小説って読まないから気にしなかったけど、メジェドさん棚田先輩にボディタッチしてみたり、自分からモーションかけてみたらどうかな?」



 じっとヨミを見つめるメジェド。

 メジェドはヨミの頬に手を触れた。瞬間、ヨミは金属に触れてられているのかというくらいの冷たさを感じ、そして人の体温がメジェドの手を温める。



「人魚が魚類なら、人の体温で火傷してしまうでしょう。でもラムズは冷たい。私は睡眠という行為を行えないですが、このラムズとメアリのかけあいはとても美しい物に想えます」



 人ではない生き物たちのぎこちない会話、されど彼らは真直ぐな言葉で語り理解しあおうとする。メアリは人魚の呪いでサフィアを殺さなければ人間になる。

 人間になるのは嫌だと告白する。そんな文をメジェドは口の端を噛んで呟いた。



「メジェドは、人間になりたい。であります。その為に金の鍵を回収にきました……ですが、セシャト女史はそれが無ければ悲しみます。ヨミさん、どうかそれをセシャト女史にお返しください。マスターには奪還失敗をお伝えします」

「うん、そだね。こんな事しちゃダメだ」



 ヨミはメジェドに怒られたようで反省してそう言うが、突如メジェドの様子がおかしい、小刻みに震え、そして俯く。



「……ヨミさ……ヨミさん、金の鍵を使うコードとそれを録音したデバイスをお渡しします。メジェドはマスターからの帰還命令に従い退散します」



 そう言って今までとは違い素っ気なく、メジェドは帰っていく。

 セシャトの金の鍵の使い方を遺して。

 ヨミは弟セカイの書いた小説から彼のメッセージを読み解かなければならない。それはメアリがサフィアを殺さねばならない呪いのように、ヨミの心に絡みつく。そしてそこでふと気づいた。スマホを取り出すとヨミは調べる。



「サフィア。サファイアの別名。アルストロメリアに属する植物にも同名在り。寒冷地の植物で……ユリ、ヒガンバナ科等に分かれる」



 ラムズという名前、牡羊の角。それが複数形、ラムズの体温は低い。表裏逆のように思えるが、いくつか共通点がある。むしろ、それ故。ほぼ確信してしまった。ヨミはドクンと心音が響く。



「サフィアが何かで裏返った姿が多分ラムズなんだ。だから彼の最高の宝石がメアリ……」



 ヨミはメジェドが置いて行った再生デバイスを手に取り、金の鍵を取り出した。ヨミの部屋にある電機ケトルのプラグがショートし始めている事に気づかずに……

本日は愛について女子会が行われましたよぅ。そして、私の金の鍵がいつのまにか盗られてしまったようです。あの金の鍵は普通の方には使えません。はて? どういう事なんでしょうか? クラマックスまであと2話ですねぇ! どうでしょうか? 

『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』をまだ読まれていない方はこの週末に一気読み等いかがでしょう?

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