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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第五章 『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』
42/111

作品評価の正体を知っていますか?ーーはい/いいえ

さて、あと二週間程で実験の半分が終わります。「おべりすく」の反乱と言われているこの実験。大変私も気になりますよぅ! 是非、web小説のアプローチの違いでどれほどの変化が出るのか皆さんに共有できる事を楽しみにしています!

「こんにちは」



 ヨミが手土産を持って古書店『ふしぎのくに』へとやってくる。セシャトがいつも通り優しい笑顔でヨミを迎えると、ヨミの持っている手土産を見て言った。



「あら、ホレンデッシェのバウムシュピッツじゃないですか!」

「これ、いつもお菓子を頂いているので、良ければお口汚しに」



 セシャトはそれを受け取ってから少し考える。



「本日はミルクティーにしましょう」



 母屋に入ると、セシャトがロイヤルコペンハーゲンの茶器を用意して、紅茶を淹れてくれていた。



「可愛いですね!」

「ふふふのふ、私の趣味の一つがティーカップコレクションなんですよぅ! 珈琲党なのであまり使う事がないんですが」



 現実の話、セシャトは十数万するロイヤルコペンハーゲンのティーカップセットを所有しているが、言葉通り猫の図柄の入ったマグで飲むエスプレッソが多い為、活躍の場は少ない。



「さて、ではこの前の続きをお話しましょうか?」

「うん、ラムズってさ。結構紳士だよね? 海賊同士の抗争後に三日分の食料残してくれてるじゃない。私が海賊なら全部持って行っちゃうけどな」

「ヨミさん結構酷いですねぇ、ラムズさんの場合は世界が世界なだけあって規律を重んじているんでしょうね。シャーク号は一つの国なんですよ。色んな宗教感を持つ種族がいるじゃないですか、それらを統率する為にはしっかりとした法律が必要です。ですので、宝石だってしっかり皆で分けてますもんね」



 読者がラムズというキャラクターをどう見るか、これも物語を楽しむ方法なのだが、どうも彼は残虐性や狂気性より、本作において一番の常識人に感じる。

 それは法の番人(船長)だからなのかもしれない。



「あー、確かにラムズって普通に接してくる人には普通だもんね。メアリを含めて他の皆の方がちょっと異常というか……シャーク海賊団、もしセシャトさんの言う言葉通りなら海賊団の名前もぴったりだね?」

「といいますと?」

「シャーク、鮫ってこの言葉。善行の意味があるんだよ」



 英語の意味は表裏あり、善行、また蛮行・詐欺等の意味もあるので、裏の意味で海賊、表の意味で海の秩序者としての隠語が読み取れなくもない。

 そしてそれらしき光景として、報酬分与に関して全員での決を取る行為、ラムズは海賊だからと言うが、これはまさしく経済のある社会的な行為に他ならない。

 セシャトはヨミが持ってきてくれた細かく切ったバウムクーヘンにチョコレートがコーティングされたバウムシュピッツを一つ食べてほぉに触れる。



「はっひゃあああ!」

「お、美味しそうでなによりです」

「このレオンさんが、人魚の悪評を口コミで変えようと考えるシーン素敵ですねぇ! これは実に素晴らしくないですか? 私達の世界から異世界旅行しているから考えられる事ですよぅ!」



 彼は異世界に流されなかった。

 自分の考えをしっかりと異世界でも持ってそして目標というべきか、しっかりと地に足をつけて立ちあがって見せた。中々に名シーンだがヨミは少しセシャトに物申した。



「セシャトさんは、この作品の構成どう思いますか?」

「構成ですか?」

「視点移動がちょっとしんどいなって私は思うんです」



 web小説ならでのは多視点移動。もちろん出版されている作品でも極まれにこう言った書き方は見られるが、ヨミは少しばかり違和感を感じていた。

 こう言った作品構成のメリットは広い視野を情報として得る事ができる反面、感情移入がしにくい。それ故、好きな人は好きで苦手な人は苦手なんだろう。これはあらゆるジャンルに言える事だが、これが作品評価の正体。

 自分の持つ作品傾向に近いかどうかなのだ。



「ふふふのふ、では一つお聞きします。運命(うんめい)運命(さだめ)の違いってなんでしょうか?」

「いくらか、考え付くものはあるけど、分かりません」



 一般的には、元より決まっている理を運命(うんめ)、生まれた時に決まった条理を運命(さだめ)と解くらしいがこの両者はイコールにもなる。



「ここで、ラムズさんの真意が一つ明らかになりますよね? 使族の条件付け。いえ、もはや呪いですね。あのラムズさんをして変われないと仰います」



「うん、ここってさラムズにちょっとガッカリする半面、この世界を構成する見えざる何かに対して一個人の限界を感じさせる自然なシーンでもありますよね。セシャトさん、運命は本当に変えられないんでしょうか?」



 ヨミは、ラムズの言葉を重く感じながらも、この場所は物語に対して奇跡を起こす場所。であれば、弟の運命だって変えられるんじゃないかと仮説を立てていた。



「セシャトさん、レオンが船に乗っている人達と話すシーン、あれら全てはレオンが一番年下のように感じます。前項でも表現されていたように、それはレオンが平和なこの世界の人だからなんですか?」

「ふむ、言及されていませんが、近からずとも遠からずと言ったところでしょうか? 恐らくこのレオンさんのモデルの世界は……やめておきましょう。彼は作品の中でのこちらの世界からの転生者というだけです」



 セシャトは恐らく核心めいたレオンというキャラクターについての仮説を立てていたが、それを読者であるヨミに言うのは反則。

 さらにヨミはこのレオンに自分の弟・セカイを見ていた。物語の中に自分を書き込んだ弟、そして意味不明な遺書も残し、この世界から消えた。

 それ故、メアリをデレさせようとする話、単純にサービス回のようなこの話を読むとヨミは胸が痛くなる。

 なんと異世界をレオンは楽しんでいるのだろうと……そこでヨミはセシャトに聞いた。

 


「ラムズをデレさせる方法ってなんでしょうね」

「そうですねぇ、当方の神様やヘカさんあたりを総動員すれば何か一つくらい思いつくかもしれませんが……いえ、一度メアリさんに鱗をもらうシーンあそこは中々に可愛いシーンでしたね」



 あぁ、確かにあのシーンのラムズは確かに少しいつも違った。そのシーンを思い出しながらヨミはセシャトが淹れたロイヤルミルクティーを飲み、自分が持ってきたお菓子を一つ摘まんで食べた。



「おいしい」

「ふふふのふ、読書と甘いお菓子の組み合わせは、控え目に言って最強ですよぅ! ラムズさんが宝石狂いなら私はweb小説とお菓子狂いかもしれませんねぇ!」



 かもしれない。

 ではなく、こればかりは周知の事実である。彼女、セシャトは妖怪甘味狂いと古書店『ふしぎのくに』関連の人々から呼ばれている。ヨミはこのテンションでセシャトにお願いをしようかと思った。

 弟の作品に金の鍵の力で入れてもらえないかと……



「あの、セシャトさん……」

「魔法には種族によって限界値がある。ではヨミさんに質問します。この世界設定でレオンさんがメアリさんと同等の魔法を使うにはどうすればいいでしょうか?」



 セシャトは普段古書店『ふしぎのくに』でたまに行う。その世界設定を崩さずに設定内で勝手に作品世界のクイズを出す。それをヨミに出してみた。

 ヨミはweb小説はおろか、こういったファンタジー作品を読む事はあまりないのでお手上げ。



「全然分からないです。そもそも無理って書いてあるじゃないですか」



 セシャトは人差し指を自分の鼻につけて不敵に笑う。なんだかその仕草があざといなとヨミは思っていたらセシャトは話し出した。



「魔法を使う際にアレンジをするんです。どうしても人間は他の種族に劣るのであれば、一つの魔法に対して、ユニークアレンジをして、疑似的に同じかそれ以上の威力を出してしまうんですよ」



 そんなのアリかとヨミは思うが、種族に対して神々が付加価値を与える世界、それであれば魔法その物に術者が別の魔法をアレンジするという裏技はまかり通る可能性は極めて高い。

 そしてそれに一番最初に気づくのは他でもない……



「レオンならありえるという事ですね」



 セシャトはふふんと笑う。

 本作は忘れがちだが、主人公メアリありきの世界であり、異世界転生の主人公らしいレオンも、この作品の代名詞たらんラムズ・シャークもレギュラーであって主役じゃない。

 作者の寵愛をどう受けているかによって今後その立ち位置が変わるかは不明だが、大筋はメアリとその呪いへの物語。



「そういう事です。レオンさんはある意味、チート持ちです。チートというのは言葉として欺くという意味です。ですが、この場合のチートは異世界転生、それも私達の世界からやってきているというアドバンテージをお持ちです」



 『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』の世界。大きく評価したいところは、作中のキャラクター達は非常に偏った考えを持っている。そしてそれは彼ら種族の固有のものである事も各々が理解している点。

 もれなくラムズ一味は強いが、彼らのその強さも前述した偏った考えという制約がある。自己の否定が出来ない為、どれだけ走り回っても広い鳥籠のような世界感の中にいるのだ。その中で自然に異端な考えや行動がとれるキャラクターはレオン以外に他ならない。



「魔法という物は確かに便利ですよねぇ! 私も思いっきり色々使ってみたいものですよぅ! 私はこの作品の中だとどの種族になるんでしょうね……閲覧不可でしたけど、さて物語は一段落といったところでしたが……あのラムズさん一味ですが、逃げの一手を取らざる負えなかったクラーケン、何者かによって倒されてしまいましたね。次章に繋げる非常に綺麗な落としどころに思えます」



 やや残酷なシーンも点々とあるが、本作は海賊系のファンタジーとして非情に魅力的なところはキャラクター一人一人を主人公格を持たせているところだろうか? これの有名な作品を一つあげたいところだが、少しばかり戦争になりかねない為、断念させてもらおうと思う。



「セシャトさん、この作品。主要なキャラクターが命のやりとりをしていて誰も死にませんね」



 ヨミのふと思った疑問。本作に限らず、なろう連載作品は基本的に主要キャラクターはドロップアウトしにくい、というよりほぼしない。



「そうですねぇ、例えばどんな魔物でも倒してしまう方が、町の喧嘩を止めている最中に刺されて死んでしまった。という風にドロップアウトさせる場合、かなりの技術を要します。むしろ、成功しさえすれば読者はこぞって考察と興奮を覚えるかもしれません。ですがリスクが高すぎるんですよね」



 少なからず作品にファンがいると、キャラクターへの愛着が読者はまた作者とは違ったベクトルで持っている事がある。漫画の作者にファンからカミソリが送られてくるような物である。

 自分のポリシーと、愛着とさらには読者への気遣いとを天秤に乗せてそれに釣り合う羽をのせるように物語を組み立てていく。

 その際に冒険は少々リスクが高いという事だろう。



「ふふふのふ、昔はあったんですけどねぇ。まさか、この人がこんなところで! みたいな作品、今はどうもあまり好まれない傾向にありますねぇ」



 セシャトが再びチョコバームをフォークに刺して食べる様子を眺めながら、ヨミはまたしても自分がセシャトのペースに落ちていた事に気づく。

 そしてもう今回は物怖じせずにセシャトにお願いをした。



「セシャトさん、貴女のその金色の鍵で、私の弟。セカイが作った小説の中に入れてもらえませんか!」



 この突然の提案にはセシャトは大きく口を開けて固まった。何故その事を知っているのか……静かに咀嚼してミルクティーを一口含むとセシャトは笑顔でこう返した。



「お断りします」

『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』読んでいて、レオンさんが主人公に感じるお話がいくつかありますよね! キャラクターが多い小説は、推しを作って楽しむのもまた一つの読み方でしょうか? さて、ヨミさん。何やら一線を越えようとされておりますねぇ……そろそろクライマックスどうなるんでしょうね!

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