異世界社会見学は好きですか? ーーはい/いいえ
実は50万円という寄付を頂きましたよぅ。びっくりですねぇ^^ 最近は各種小説投稿サイトで投げ銭システムのような物が増えてきましたが、人気作品の方はこのくらい貰っているのでしょうか? Web小説を投稿して生活が出来る日がくるんでしょうかね^^
「こんにちは」
よく手入れされた古書の香りと共に、甘いバターが香る店内。
その店内の主、褐色に銀色の髪をした店主が出迎える。
「いらっしゃいま、せヨミさん!本日も『愛する人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』のお話でしょうか?」
ヨミは先日の棚田邸の事を思い出しながら頷いた。
「海賊島の話まで読んで、神様? が言っていた事思い出しちゃったよ」
ヨミは神様に言われたパイレーツとバイキングがごっちゃになった世界感が日本における海賊物の造形という事を再認識していた。
「ふふふのふ、では少しだけ海賊島にお邪魔してみましょうか?」
「えっ?」
「少し待っててくださいね!」
よいしょっと、セシャトは何やらコスプレ道具を持って来る。そしてそれに着替えるセシャト。どうやら海賊の恰好に変わると眼帯をつける。
「どうです? よーそろー! 面舵いっぱーい。です! ほらほらヨミさんも着替えて着替えて」
半ば無理やり着替えたヨミ。セシャトは豪華な船長服に玩具の大剣。ヨミはバンダナをつけた船員風コスプレ。セシャトは金色の鍵を取り出し、王子様のように膝をつき手を差し出した。
「ヨミさん、お手を」
「えっ?」
”хуxоториxтупунобеннсённзу(Web小説世界疑似転生)”
ヨミが目を開けるとそこはガヤガヤ、わいわいと大変賑やかで、盛り場らしい香りがした。分かり易く言えばお祭りの匂い。
「本来物語のキャラクターに関わるのはご法度なんですが、こういう場であれば安全かつ問題にならないんですよぅ!」
ヨミが感じた事。
凄いや、驚いたではなく……クリスが言った事が事実だった。あの金色の鍵で小説の世界に入れる。
「ほらほら、ヨミさん! ラムズさんが宝石を修理に、メアリさんの治療をエルフさんに看てもらいにきた場所ですよぅ!」
セシャトは先ほどから話しかけられる海賊相手に「よーそろー! よーそろー!」と全部返していく。それにヨミは指摘した。
「それ宜しく候の略で日本語だよ」
「えっ? そうなんですか……だって洋画とかもでも……あれ吹替ですもんね」
べろべろに酔った女海賊がやってきてセシャト達に酒瓶を差し出す。
「これ、奢りなの!」
「あらあら、リンゴジュースに変えていただきますか?」
海賊は航海中に腐りやすいビールと腐りにくいラムを飲む機会が多い。それで喉が焼ける為、丘にあがると一般的にはワインで喉を治すという。渡されたワインの瓶をリンゴジュースに変えてもらい、それを飲みながらセシャトは楽しそうに歩む。
セシャトに渡された質の悪いリンゴジュースをちびちび舐めながら、ヨミは物語の世界の食べものを口にしている事を今になって驚く。
「おわっ!」
「あら、すみません!」
お祭り気分にテンションを上げたセシャトが誰かとぶつかった。その人物をじーっと見ている。するのその人物、もとい少年が名乗る。
「俺はラムズだ」
「違いますよねぇ……」
違う……このラムズを名乗る少年、ヨミがじっと見ているとボタンをはずして渡してくる。
「ほらよ。これで黙っててくれ」
「学ランのボタンなんていらないわよ。ゴミ以外の何でもないじゃない」
少年は驚愕する「アンタ等……」と喋る瞬間、セシャトが少年の口元を指で押さえてふふふのふと笑う。
少年から逃げるとセシャトは青い顔をしていた。
「物語の中の異世界転生者さんと出会うとは思いもしませんでしたね……しかも時系列がおかしくなってま……せんね。やっぱり、ラムズさんに会ってますね」
物陰から転生者の少年を見てセシャトは一人で納得する。そこでセシャトはポンと手を叩く。
「私達のステータスも見てみましょうか?」
「ステータスですか?」
”
名前:
セシャト
使族:
※※※※(閲覧権限がかかっています)
魔法属性:
無し
神力:
無し
”
”
名前:
佐倉ヨミ
使族:
人間
魔法属性:
炎・闇
神力:
怨嗟・呪い
”
二人は自分達のステータスを見て釈然としない表情をしていた。
「なんなのこの作品、なんで私がこんな邪悪な感じなんだろう」
「ふふふのふ、私なんてなんの能力もないですよぅ……ヨミさんは炎の魔法が使えるんですねぇ!」
「いえ、使えませんよ!」
とは言うものの、この世界感においては元々持っている属性の魔法は使えるという事になる。ラムズがレオンに言ったようにセシャトも言ってみる。
「ヨミさんも使ってみたらどうでしょう?」
そう言われて、ヨミもテーマパークの気分で言ってみた。それも結構気合を入れてである。索引は故人である弟セカイが作った物語の魔法。
「【来よ茨の太陽、希望と共に散れ ── Prominence プロミネンス Goosebumps グースパンプス】」
ヨミが適当に放った魔法は空に火柱を立て、空間を焼き犯した。ヨミはてへっと照れてセシャトを見ると、セシャトは大量の冷や汗をかく。
「これは不味いですよぅ! 私達モブがこんな事したら絶対色んな人が来ます。一旦逃げましょう」
母屋に戻るセシャトとヨミ。ハァハァと息を切らしながらセシャトが語る。
「本来、『愛する人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』に俺TUEEEEはいないんですが、ヨミさんはそれをやっちゃってます。恐らく、弟さんの作品の魔法がそういった物なんでしょうね。魔法はもう使ってはダメですよぅ」
セシャトが使ってみろと言ったのに、次は使うなと言う。それに苦笑しながらセシャトに水を飲ませた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。とりあえずお茶にしましょうか?」
セシャトが珈琲を淹れてくれるので、その間にヨミは作品を読みながらふと気になった事を言ってみた。
「このレオンって人。別世界に慣れすぎじゃないですか? ちょっと違和感感じますね」
これは異世界転生における常だろう。何故か異様に達観している子供。それにセシャトは珈琲をすすりながら答える。
「逆に言えば、そんな特殊な方だからこそ、特異な世界に飛ばされるのかもしれませんねぇ。見た目が変わってもそこまで驚かないですからねぇ、そういう意味ではヨミさんも同じくweb小説世界に入っても驚かなかったですねぇ」
ニコニコと笑うセシャト。
これに関してはヨミは信用してはいなかったが、予備知識を持っていた。
「ロゼリィは私達の世界は愛に溢れているって言ってるけど、本当にそうかな?」
愛を語れない世界がいるという部位に関してヨミは難色を示すのでセシャトは目を瞑って語る。
「どうでしょう。不倫や浮気も愛が溢れているから起きるんじゃないでしょうか? ストーカーだって愛憎の結果じゃないでしょうか? この世界は愛に溢れています。それも狂おしい程に……」
セシャトの言わんとしている事をヨミは理解してしまった。この世界は愛に溢れすぎている。戦争も宗教も、差別や大量殺人ですら、それは愛のなせる業である。
人は時として、信じられない物を愛する。
それ故にヨミは思った。
愛した人を殺せますか? なんて可愛いタイトルなのか……この世界においては愛した物を殺せますか? ではないかと……
「ねぇ、セシャトさん。私達の世界の人間は異世界に行けばあんまり役に立たないのかな?」
「ふぅむ、それは難しい質問ですねぇ。そうとも言えますし、そうではないとも言えますね。本作のように魔法の世界であればそれなりになんとかなるかもしれません。逆に科学力が私達の世界を凌駕している世界においてはまさに無能かもしれません」
「魔法の世界では無能じゃないの?」
「これも一概には言えませんが、私達は科学の教養がありますよね? それはある程度、支えになるんじゃないでしょうか? 魔法というのは異世界物世界でいうところの、錬金術、まさに化学ですから」
ふふふのふとセシャトは笑う。そんな中、ヨミは思う。
この少女、セシャトはどうなのか?
「セシャトさんって殊人みたいですよね」
「ふむ、それも半分当たりで半分間違いですねぇ……私は確かに神様に作られた存在ですが、別段特異な力は持ってませんしね」
嘘だ。
web小説に関与する力を持っている。それは特殊能力以外の何ものでもない。それを察したようにセシャトは笑う。
「私は普段web小説に関与する事はないんですよ。ここに物語を楽しみに来られた方へのおもてなしですねぇ、特に本作は情報量が多いのですから、作品世界を垣間見た方が理解しやすい側面がございます。専門用語の多い作品は読み疲れも中々凄いですしね」
本作にもやはり感じる、作品の独自用語。
これが沢山並ぶと大きく疲れる。作品の登場人物、物語、専門用語と、同時理解をしようとする為、ふと疲れる。
「確かに、弟の小説でもそうだけど登場人物紹介とか用語集とかは正直読み飛ばしてるかな……」
「あらあら、そうですねぇ。これがメディアミックス化されるような作品であれば、ファンは隅から隅まで読むんですけどね。web作家さんはファンタジーを書かれる時、高確率で作品用語集を作るんですが、これを読まれるのは私達のような特異な人間だけでしょうね」
セシャトの出してくれたチョコレートを一粒食べながら、ヨミは尋ねた。
「メアリはなんとか助かりましたね。ドラゴンは時間を逆行させられる。それって神様みたいじゃないですか?」
ドラゴンという空想生物について、あらゆる作品において地上最強の生物、あるいは怪物として登場する事が多い。
「そうですねぇ、ここ最近では作品のキャラクターの力がインフレしすぎて指一本でドラゴンが倒されてしまうような描写が多いですが、本来ドラゴンは神としての側面が大きいです。世界一つ冬眠させるドラゴンという方もいらっしゃいましたね。寿命を半分程使ってしまうという制約がありましたが……本作では神様は別にいらっしゃいますので、よりそれらに近い眷属としてドラゴンは存在しているんでしょうね」
ドラゴンの姿、羽の生えた蜥蜴、あれは実は新しい。
姿形の分からない怪物の総称をドラゴンと言う。それは災害が神々や悪魔が行っていると信じられていた時代の産物のように……
「あっそろそろ帰らないと、一つセシャトさんに聞いていいですか?」
「はいどうぞ」
「あの金色の鍵はなんですか?」
セシャトは首からぶら下げている鍵を見せるとウィンクした。
「これは、神様が私に与えてくれた物です。神様の持つ財宝の一つですね」
その話を聞いてヨミはやはり、セシャトからこの金の鍵を奪うなんて事はできないなと手を振って古書店を出た。
『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』本作の感想やメッセージをちょくちょく頂きますよぅ。紹介作品の選定基準について聞かれるのですが、これは大変難しいですね。出来る事なら募集を頂いた方全てを紹介させて頂きたいなと思ってます。沢山の作品の中で選考から落ちたのではなく、今回は順番が後ろに回ったと思っていただければ安心頂けるでしょうか? 当然ですが、ストックさせて頂いているので、忘れた頃にアポイントにいかせていただく事もあるかと思いますよぅ。