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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第一章 『蛭子神 著・三上米人』
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本日は十日蛭子

さて、私はテレビ等で副男レースを見て知りましたが、西の方では1月10日はえびす様をお祭りするようですね^^ 副男さん達には怪我をしないように頑張って頂きたいと思いますよぅ!

「大将、この馬鹿娘にお冷を」



 大将に出された水を飲むセシャト、梅酒の梅を食べて酔っぱらったあげく激しい頭痛がセシャトを襲う。



「うぅ……痛いですぅ」



 くぴくぴと水を飲むセシャト。そんなセシャトに神様は寿司を差し出した。頭が痛くて目が回るので寿司なんてとてもじゃない。そんなセシャトの口の中に神様は無理やり巻物のお寿司を放り込んだ。



「っ! か、辛いっ!」



 神様がセシャトに食べさせたのはワサビ巻き。セシャトの二日酔いにも似た症状をワサビの刺激が吹っ飛ばした。

 熱いお茶で口の中を戻すとセシャトは怒るどころか神様にお礼を言った。



「助かりました。しかしこれはなんだったんでしょうか?」

「ワサビ巻きだの、中々に刺激的であったろ?」



 ふむと、神様が一口食べては涙を流し、そして美味しそうな顔をする。セシャトにはこの美味しさは分かりそうにないが……思い出した事を言う。



「辛い物が好きな人は痛みを楽しんでいるそうですよ」



 神様はお茶をずずっと飲む。



「主人公は海辺で黄昏ているところ、浮浪者みたいな奴に会うであろ? そやつが『えびす様」なる者の話をはじめよる。海で黄昏ていると海の向こうに連れていかれる……とな? 知っておるか? 黄昏と海の向こう。それはどちらも黄泉平坂を指しておったりするからの……この小汚いじじいは中々鋭いの」



 片目を開けて言う神様にセシャトは問う。



「『えびす様』って恵比寿様じゃないんですか? あの優しい笑顔をえびす顔、なんて言いますよね?」



 神様は次はかっぱ巻きを食べて少し考えると大将にこういった。



「マヨネーズはないのかの?」



 セシャトはこんなしっかりしたお寿司屋さんでマヨネーズを所望したら怒られるんじゃないかとそう思ったが、大将は神様にマヨネーズの乗った小皿を差し出した。



「やはり、きゅうりはマヨネーズだのぉ!」



 しゃくしゃくとかっぱ巻きを食べて行く神様。口のまわりにおべんとうをつけながら巻物のお寿司を堪能すると神様は再び挑発的な瞳でセシャトを見る。



「この主人公もセシャトと同じ事を言っておるの? まぁあれだ日の本の最上神に異常に嫉妬深い女の神と異常にペット好きの男の神がおっての、そいつら最初の子供が奇形児だったわけだ。それ故、船にのして流した! それが蛭子ひるこ、蛭の子という事で手だか、足だかがないのだ。それが蛭子えびす神のはじまりだの」



 腑に落ちないセシャトは神様に問う。



「それがどうして恵比寿様になったんですか?」



 あのタイを持って物凄い笑っている福の神。神様の話を聞いた限りでは全然理解できないでいた。そんな中、赤貝の握りを準備している大将が補足しだした。



「ちっこい旦那さんの言う男と女の神様はイザナミとイザナギでさぁな? はじめて国を生み、神を生む。創生の神様でさぁ。最初にぐるぐる回して琵琶湖を作ったんですわな? その地面がぽろっと落ちたのが淡路島。これがイザナミ、イザナギが初めて生んだ物。その出来に感動したそうで、次に産んだのは不気味な姿をした蛭子様だったんで、気味悪くて今の兵庫県は淡路島から流したんです。すると丁度すぐ近くの大地、西宮市に蛭子様はたどり着くんです」



 ここからは賛否両論がある為か、作品内ではさらっと大漁祈願を願う信仰とまとめられている為、少し補足しておこう。

 蛭子様が恵比寿信仰になる事に関して、地元の人はよく西宮戎神社にて耳にする、恵比寿様の別の顔、荒ぶる神の信仰という物がある。

 有名な福男レース等が開催される十日えびす等のイベントでその放送は聞く事が出来る。興味があれば一度聖地巡礼してみるのも悪くないかもしれない。


 話は脱線したが、その荒ぶる神からいくつかの連想ができる。

 元々、捨てられた蛭子は荒ぶる厄災の神、戒めの化身であった。それらを人々は訳が分からないが恐ろしい物として祀りたてる。すると戒めは払われ、戎と変わる。人間の手厚い信仰から、人間に富みと福を齎す恵比寿之神となったのかもしれない。

 何故なら、恵比寿とは度座衛門に対しても使われる。そして祀らなければ厄災を起こすと言われている。

 この西宮では1995年にとある行事が行われた、それはもしかすると恵比寿さんが戒めていた物を解き放ち、荒ぶる神。蛭子としての顔を出したのかもしれない。その時、蛭子が流されたという淡路島を震源地として阪神淡路大震災が起きているのである。



「えっ、なんだかいきなり物凄い怖い話になってるじゃないですかっ!」

「元々、訳の分からない物を祀ってるんでさぁ、お嬢さん赤貝。これも昔は訳の分からない食べものとして扱われていたんですぜ」



 赤貝。今としては平然と食べられている食材となるが、昔はあらゆる物が匂いや見た目との闘い、そして毒があるのかも分からず口に入れる事すら勇気が必要であった。



「あら、おいしいですねぇ! 歯ごたえがあって、実に上品です」



 ふぅと赤貝に舌鼓を打っているセシャトに神様は聞く。



「のぉ、この主人公のアルバイト先の主任とやら、中々今の働き方改革にのっとっておるのぉ!」



 そこかとセシャトはツッコみたくなる。なんせ、アルバイトの高校生に仕事を押し付ける形で帰る社員というのはどうなのか……と思うところかもしれないが神様は違った。



「本来であれば行ってくれる仕事ですから意地悪じゃないですかっ!」

「いや、定時で上がるのには問題なかろう? そして時間給の主人公は働いた分だけ給料になる。もちろん、契約上の時間外であれば帰ればよいではないか? はっきり言って今の時代、バイトやパートの方が身分が強いからの? 気に入らなければ労基でもなんでも刺せばよいのだ」



 とんでもない事をさらりと言う神様に大将はアナゴの握りをすっと差し出す。



「おぉ! 私はこの甘いタレのかかった魚が超好きだぞっ!」



 二貫同時にぱくりと食べる神様、獣の耳みたいな髪がピコピコと動く。実に美味いというのを身体全体で表していた。

 お茶とガリで口の中をリセットすると神様は一言言った。



「この主人公、蛭子の色んな読み方や名前を検索しておるが、西宮大明神は引っかからなかったんだの、私も神様大明神とかそういう名前に戒名しようか?」



 セシャトはジンベイザメの尊とかそんな名前が思い浮かんだが、それを言うと癇癪を起しそうなのでガリを一欠けら頂く事にした。



「うぅ、すっぱおいしいですねぇ」



 大将はお茶を出すタイミングが実に素晴らしい。必要以上に前に出てくる事もないし、かといって箸が止まる時間も極力作らない。



「神様、民俗学の勉強をしても就職やその他にあまり役に立たないものなんでしょうか? 非常に楽しそうな学問ですけどねぇ」



 そもそもが大学は就職する為に行く場所ではない。自ら進んで勉強する為に叩く学校であり、極論を述べると道楽の延長線に近い。

 勉強している最中、その分野を極めようと学芸員になり、研究員の道に入る者もいるだろうが、たいていは大学で学んだ事を使う就職先は望めない。例えば、民俗学を学んだとしてその土地土地で博物館の説明係や、風土史のコミュニティー等の仕事があるかもしれないが、大抵はこれらはボランティアワークスに落ち着く事が多い。



「まぁ、楽しいぞ。だが、楽しい事が全部仕事にできるなら、病む人間なんて生まれんだろうな」



 言葉通り、神様の一撃。

現実と理想はいつも対極のところにある。そういう意味では『蛭子神 著・三上米人』の主人公は中々に合理的だが、イフの未来を夢想する。



「まぁ、本作の主人公は子供、まぁガキというにはやや達観しており、されど大人かと言われれば大人にもなり切れていない……まぁ上手く表現しているのではないか? そしてそれだからそう言った物を引き寄せているのやもしれんの」



 神様は随分温くなった梅酒を含むと口の中で転がすようにそれを飲む。それはそれは美味しそうに飲む神様は大将に注文する。



「プチプチしたいくらが食べたいのぉ」

「へい」



 セシャトはふと気になった事がある。大国主の子供である事代主神が恵比寿様であるという事だが、このルーツは実は少し面白い見方が出来るのではないかと……



「神様、大黒様と恵比寿様って大体二個一で並んでますよねぇ!」

「おまっ! バチ当たりだのぅ。七福神をセット物のようにしよって……あーでもあいつらセットみたいな物だの。宝船とかいうゴージャスなクルーザーに乗り回して贅沢三昧だからの」



 神様の知る七福神とはどんな連中なのか実に気になるが、今その話を聞くと『蛭子神 著・三上米人』の紹介ミーティングが全く進まなくなるので疑問を投げかけた。



「大国主である大黒様は、島根は出雲大社の神様ですよね?」

「うむ、そうだの。一応社では最上級の地位にあるのが出雲大社だの」

「社という意味では、西宮戎神社は出雲大社の下に位置するので子供と言えば子供ですよね?」



 そこでセシャトが言わんとしている意味が理解できた。出雲の大黒と西宮の恵比寿。この関係性は神社間の交流から神話が少しばかり見えてくる。



「実際、西宮戎神社は別名、大国主西神社というから、その解釈でよかろう……あー成程の、後付けか……ややこし事に、この戎神社より上位の神社がさらに近所にあるからの……いずれにしても出雲も戎も創建がよく分からない事になっておるが、その古来から交流があったのは確か、その頃から子として対応しておったから……の。後付けの神話か……まぁ物語なんてものは大体そうなのやもしれんがの」



 事実がどうあれ、一つだけ覆らない真実がある。今の時代の技術を持ってしても難しかったであろう建造物が存在していた証拠が存在している。出雲大社の超巨大柱、あれを生で見た時、そこには確かに神の伊吹を感じる。

 少し、尖った話になるが、この日本には実際存在する神がいる。深くは語らないが、そこから連想するに、もしかすると……大国主に相当する、誰かがいたのかもしれないし、アダムとイブのような者がいたのかもしれない。

 そして、農耕狩猟等ができず役に立たないと判断し自らの子、蛭子を船に乗せ海に流したのかもしれない。



「確かに、火のないところに煙は立たぬというしの……でもこれ実際にあった話だったら、中々に悲劇的だのぉ」

「私の仕事は色んな表情から作品を楽しんでもらう事ですからねぇ! 出し惜しみはしませんよぅ!」

『蛭子神 著・三上米人』本作を切り込んでいくために調べれば調べる程、恵比寿様はどうも中々私達が触れて良い物ではないかもしれないなと感じております。それはオカルト的にもある理由的にもです。

こういいますよね? 触らぬ神に祟りなし。なんでも踏み込みすぎるのはよくないですが、本作はどんどん深みにハマってもらえると嬉しいですよぅ!

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