セカイを知っていますか?ーーはい/いいえ
令和ですねぇ^^ なんだかまだ時代が変わった実感が湧きませんねぇ! 5月より作業分担が変わりました。今まで分業でしたからちょっと仕事がしやすくなりましたよぅ!
あの日、弟が死んだ。理由は分からない。遺書の代わりに残されていたのは自作小説、なんという事はない別の世界に行った主人公の冒険譚。
未完のその作品は書かれている途中で終わっている。
最後にこう一言残されていた。
”ふしぎのくにに行きたい”
「ふしぎのくにって何かしら?」
今回不思議な世界に迷い込む佐倉ヨミは弟・セカイが死んだ理由を知りたくてしかたがなかった。イジメは考えられない、家庭環境だって悪くは無かったハズだった。
そんな時、ヨミの学校の三年生にカッコいい転校生が来たと持ち切りだった。ヨミは興味が全くなかったが、クラスメイトが話す内容によるとあの有名な重工棚田の御曹司。
というか、現代表取締役の棚田クリスらしい。それにも全く興味はなかった。彼が変人揃いの文芸部に入部したというところまで友人達の話で聞いていた。
そんな別世界の人と自分が関わる事はないと思っていたが、早朝学校で勉強をしようとした時、大きな車で登校するクリスと偶然出会った。
「チャオ! こんな朝早くに登校かい?」
貴方もそうでしょう? と言おうとしたが、年上なのに案外人懐っこく話しやすい先輩だった。
「なんだか悩みを抱えている顔だ。良かったら話してくれないかい?」
嗚呼、この人はナチュラルに女性を惚れさせるセンスがあるなとヨミは思った。どうなるわけでもないが、今までの話をするとクリスは悲しそうな顔、驚いた顔、親身になって話を聞いてくれた後にクリスは考え込む。
「棚田先輩、何か?」
「う~ん、ふしぎのくに。聞いた事があるなって思ってね」
それは僥倖だった。
「一体どこですか? 教えてください! 先輩!」
「あはは、慌てないで」
クリスが教えてくれたのは、神保町のとある場所にある古書店『ふしぎのくに』どうやらそこは自作小説を書く人達の隠れた聖地であるという事……
「ここだ!」
それは、ヨミにとって忘れる事が出来ない物語となる。
とてもつまらなく、そして死にたくなるような物語。
★
古書店『ふしぎのくに』はいつもの常連や、たまに来るお客さんが来なければ閑古鳥が鳴いている。店主のセシャトはパソコンの画面と睨めっこをしながら難しい顔をする。
「どうしたセシャト、何やら困っておるの?」
「赤字です。圧倒的に赤字ですよぅ! このままだと神様のお小遣いも無しになります」
神様は笑い顔のまま「ダメであろう。私の小遣いを減らすのはダメであろ?」というのでセシャトはそんな神様に微笑み返した。
何かを言おうとした時、カラガランと音がなる。それは神様としては僥倖。セシャトの話を強制終了できるのだ。
「客だぞ! 私は奥で煎餅でも食べながら店の売り上げを上げる事を考えておる」
等と適当な事を言って逃げた。もうとセシャトは少し怒るが、入店したお客さんをおもてなしすべく入り口に向かう。
「いらっしゃいませ! 古書店『ふしぎのくに』へようこそ」
「ここ不思議の国なんですよね!」
「えぇ、はい」
「私、佐倉ヨミって言います。弟はセカイ、佐倉セカイについて何か知りませんか?」
入店するや否や女子高生らしき客は色々とセシャトに話をした。弟が自殺した事、そしてその弟が”ふしぎのくに”に行きたいと遺書に残した事。
「申し訳ございません。存じ上げませんね」
「そうですか……ごめんなさい」
セシャトは悲しそうにするヨミにこう言った。
「もしよければ弟さんが書かれていた小説読ませて頂けませんか?」
セシャトの提案にヨミは弟セカイが書いた小説を渡した。セシャトはしばらくそれを読み、たまに笑ったり、たまに真剣な顔をしたり、そしてある事を指摘した。
「弟のセカイさん。最後にこの小説の世界にご自身を書き込んだところで書くのを止めていますね」
ヨミの気づかなかった事、読み返してみればそれが確かにそうであるとヨミも理解できた。
「凄い。店員さん」
「店主のセシャトです」
それからヨミは色々とセシャトに話を聞いてもらいセシャトはその一つずつ丁寧に返していく。そんな中でセシャトは鼻に手を当ててこう言った。
「何かオススメのweb小説を御紹介しましょうか? SFなんですが、良ければ母屋で甘いお菓子でも頂きながら」
セシャトに連れられて入った母屋では神様が煎餅にマヨネーズと七味をつけて大きな口を開けて齧る。そして見つめているのはタブレット、何らかのWeb小説を読んでいるのだろう。
「こんにちは」
「おう、セシャトの客か、先ほどは助かったぞ」
だなんて神様が言うのでヨミは不思議そうな顔をしてすすめられる通り、神様の横の席に座る。
「何を読んでいるの?」
金髪にパープルアイの美少年、あるいは美少女。が見ている物を覗き込むとそれは小説だった。
「これかの? 妄想小説だの」
「妄想小説?」
「自分にかかった呪いを解くには愛した人を殺す事、そんなパワーワードから始まる小説だの」
「へぇ、タイトルは?」
「『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』」
そのタイトルを聞いた瞬間、ヨミの顔色が変わる。神様からタブレットを取り上げてそれを読む。
「何をする無礼な! 貴様ぁ!」
「あっ、ごめんね。このお話少し聞かせてくれないかな?」
そう言って神様にタブレットを返すので、神様は抱きかかえるようにタブレットを持つと何もないところに手を伸ばして一冊の本を取り出した。そして神様は「ん!」と言ってヨミにそれを渡す。
「えっ? あー、これ本出てるんだ。今の手品?」
「そんな事より、船の戦。砲撃戦から移乗攻撃、よくある海賊の戦い方だのう。だがの、日本の海賊は面白かったのだぞ」
小説の冒頭を話しながら神様が語る。ヨミは幼い子供がどんな話をしてくれるのか、聞いてみる事にした。外ではセシャトが珍しく沢山の客の相手をしているようで、忙しく働いている。神様はその間くらいこの客の相手をしてやろうかと話し出した。
「無駄な血を流さずに必要な物は奪う、偽装する。だがの、戦う時は侍崩れだ。イギリスのチンピラ海賊とは違うのだ。強すぎる。そして、不思議な事に世界の海を生きる者とまぁまぁ仲が良かったのだぞっ! 授業では習った事がなかろう?」
「ないね! あなたは物知りだね」
「神様だからなっ! さて、この冒頭で主要人物、宝石狂いの船長。ラムズ・シャークが登場しよるな。ここでこの世界感がわりと余裕がある事が分かるの。本来海賊ってのは要はストライキの証だった。が、物語における海賊って連中は大体乱暴な冒険者だの」
確かに言われてみればそうかとヨミも何故か納得する。ヨミのイメージの海賊はお宝や宝石は溢れるばかり身に付けて何個か海に落としてもまた何処からか奪えばいいやみたいな乱暴で下品な男を思い浮かべた。
「ガーネット号。勝利の船かの?」
そう言って神様は手に何もない事を見せてからそれを握る。そして手を開くと勝利の意味を持つ真っ赤な宝石が現れた。
「手品上手だね!」
「手品ではないぞ。これをラムズの奴が見たら私の手首くらい斧で落として持って行くかもの!」
そんな冗談にはははとヨミは笑う。
「まぁまぁリアルなところは、海賊同士の抗争の後に船の人員がごっちゃになる事だの。まぁ下っぱなんて何処の船で働いても大して変わらん。それは社会の縮図かもの」
ケケケと笑いながら神様は煎餅にマヨネーズをこんもりとかける。ヨミはそれを飽きれた顔で見つめてから神様に聞く。
「ガーネット号にしても、オパール号にしても海賊らしくないね。何だかちゃんとしたルールが存在してるんだ」
マヨネーズなのか煎餅なのかを齧りながら神様は答える。
「この作品に限らずだが、パイレーツとバイキングがごっちゃになっておるからの。ガーネット号は多国籍パイレーツといった所かの。亜人が一杯おるしの、何か二心を抱いておるメアリが危険と思いながらもラムズの奴に惹かれとる。そしてそれはアクアマリン(メアリ)に惹かれたラムズもかもの……昔、私にも歌の上手い人魚の知り合いがおっての……まぁこの話は今はよいか」
神様の話す話も気になったが、ラムズの異常な船長室。成金かと言わんばかりに宝石の山、山、山。そしてそこで落ち着き至福に至るラムズをヨミはこう表現してみせた。
「ある意味、日本のオタクの部屋みたいだね。いたるところにオタクグッズ置いてさ」
「ほう、面白い事を言いよるの! それは面白いの。では貴様に面白い宝石を見せてやろうか?」
神様は小さな掌を見せてそれを握る。そしてゆっくりと開くと作り物みたに薄い石の中に赤青黄色、色んな色の鉱石が入ってる宝石。
「オパールだ。ヴァージンレインボー等と言われておるな」
そしてその手をまた握って開くと、次は異様な輝きを持つ青い石。カシミールサファイア。そしてまた握る。次に手を開くと神様は嗤う。
「自然界における最も堅い鉱物。カラパイヤ。くれてやろう」
ピンと小石みたいなそれを神様はヨミに投げる。それがそんな高価な宝石だとはヨミも信じてはいない。
「殊人は神様から力をもらった人なんだよね? じゃあ君もそういう事できるのかな?」
悪戯っぽくヨミがそう言うので、神様は少し考える。本作における亜人。それらは赤髪赤目で筋力も普通の人間よりも強い。
「無理だの。そんな鬼みたいな奴は生み出せん。私が出来るのは物語から一人二人呼び出すくらいかの?」
パチンと指を鳴らす。
そこは船上。誰もいないが海賊船なんだろうという事はヨミも分かる。そして今起きている事に少々の驚きを隠せない。
「何これ? えっ? どういう事」
「まぁ気にするでない。白昼夢と思え。ルテミスって言葉どう思うかの?」
さてこの造語、我らが神様はヨミに聞くがヨミは答えを持ち合わせてはいなかった
その為神様は作者外の考えを述べる。
「ルテミスはこの作品の神から力を授かった者なんだろう? 要は啓示を受けて生まれ変わっておるのだ。お産の神にアルテミスという者がおっての。Aはギリシャの言葉で未知数を意味する。それがない者だの。未知ならぬ者。神ならず。ルテミスとの」
ケケケと笑う神様と手を繋ぎながら看板から船内へ、これはガーネット号なのだろうかと思いながらヨミは神様に手を引かれる。
「メアリはサフィアという男とどんな因縁があるんだろうの? 愛憎か、それともタイトルの象徴かの?」
第一章は丁寧な序章と言えるだろう。世界感とキャラクター、そして物語の大筋を読者に理解させる為に物語を進めつつ何度も反芻している。神様のこの質問もヨミに本作の刷り込みを行う事である。
「ついたの。船長室だの!」
ヨミの心音がドキンと鳴る。ここはあのラムズの城と言っても過言ではない。そして勝手に入る事を彼は良しとしないだろう。
まさか、入るつもりか? それはちょっとした期待と不安が入り混じった何とも言えない気持ちがヨミの中で膨らむ。
「開けるぞ!」
神様がラムズの船長室の扉を開く。そこは光輝く宝石の部屋……ではなく、先ほどまで神様が煎餅をかじっていた母屋。
「えっ!」
気が付けば船なんてどこにもない。まさに白昼夢。狐に抓まれたようなそんな気分の中で神様は言う。
「誰しも、例え人でなかったとしても触れてはいけない領分というものがあるからの、これは私の小遣いの件をうやむやにしてくれた礼だ」
紫の瞳がウィンクをする。
なんと可愛らしい子なんだろうなとヨミは思ってたら神様は上機嫌に語る。
「貴様、ここに迷い込んできた。という事は何か思う事があるのであろう? まさに踏み込んではならんような何かをの、あとはセシャトの奴に話を聞くといい。私は老人会に詩吟を読みに行く」
そう言って最後の一枚の煎餅を咥えて神様は母屋から去って行った。渡された『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』の疑似小説がゆっくり消えて行く。
5月紹介作品。『愛した人を殺しますか?ーーはい/いいえ 著・夢伽 莉斗』始まりましたね! 今回ははじまりの物語として令和を飾ってくれますよぅ! ザ・異世界ファンタジーを展開される本作ですがGWのお供にいかがでしょうか? バランスをしっかりと取られた中で物語の進行も実に自然にクエストが発生しますよぅ^^ さぁ本作とヨミさん、どう繋がっていくのでしょうか!




