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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
36/111

『平』たく言えば別れは出会いを『成』すにあり

GWは皆さんいかがお過ごしでしょうか? なんと私セシャトですが、1日と本日お休みを頂きました。去年はGWは全て紹介小説の読み込みやミーティングだったんですが、まさかの古書店『ふしぎのくに』も働き方改革がはじまったんでしょうか^^


「やぁ、いらっしゃい!」



 ダンタリアンはそう言ってヘカと神様を母屋の席に案内する。テーブルに乗っているゲームのタイトルをヘカと神様は見る。『戦場のヴァルキュリア4』。テーブルにダンタリアンはポンと何かを置いた。



「コンビニスイーツと珈琲なん」



 どこのコンビニでも売ってそうなプリンとシュークリーム、そしてコンビニ販売のドトールやスターバックスのコーヒーを二人の前に差し出す。確かに古書店『ふしぎのくに』はオヤツと共にweb小説を愉しむのが一般的ではある。



「これは適当すぎるんよ!」



 ヘカの不平。セシャトが店主をする古書店『ふしぎのくに』では、セシャトの手作りのお菓子だったり、有名なお店のスイーツが並ぶ。

 が、ダンタリアンが用意したものはどちらかといえばジャンクなスイーツ。なんだかこれじゃない気がしていたが、神様はそんなシュークリームをパクリと食べながら言う。



「池谷、やってしもーたの」



 千鶴達のクラスで横行している葬式ごっこの発端者はなんと彼だった。それにダンタリアンは嬉しそうに笑う。



「だから彼なりの地味なけじめをつけてみせたじゃないか。カッコいいよ。実にかっこいいじゃないか、そうは思わないかいヘカ君?」



 ヘカはちゅーとドトールタイアップの甘すぎる珈琲を飲みながら片目をつぶる。そして正直な気持ちを言ってのけた。



「カッコ悪いんな。くだらない悪戯をエスカレートさせて、返り討ちにあうん。ダサいん。主役級なら一撃で相手をノックアウトなん!」



 そう言ってシャドーボクシングをするヘカにダンタリアンは噴出した。そして指を一本上げてみせた。



「友恵君は、菊を置いた犯人を殴れと言ったんだ。池谷君は殴った。そして返り討ちにあった。よく考えれば、池谷君はこの葬式ごっこの発端である自分を完膚なきままに殴ったんだよ。そう思えば中々に胸が熱いじゃないかい?」



 成程、そういう考えがあるかとヘカは案外美味しいコンビニスイーツを大口をあけてはむ。その仕草を見てダンタリアンはウィンクをした。



「おや、ヘカ君実に可愛い姿だ」

「知ってるん。ヘカはいつだって可愛いん!」

「そうだね。君は実に可愛いよ。生きている。それだけでね」



 ははっと笑うダンタリアン。インスタントのコーヒーを淹れるとその香りをダンタリアンは嗅ぐ。そして「実にチープで美味いな」とインスタントコーヒーを堪能する。ダンタリアンはあまり味という物に固執するタイプではないのだろうとヘカは分かった。



「お腹が空く、ご飯を食べる。もよおす、排泄する。眠たくなるから寝る。転ぶ、痛い。小説を読む。楽しい、悲しい、辛い。怖い。生きるという事は実に難儀だ。そして実に面白い」



 ゆっくりと本作『千羽鶴 著・千羽 稲穂』を読み終える。それはヘカと神様も同じだった。ダンタリアンは適当に紙を取り出すと、折り紙を始める。鶴を折るのだろうと二人ともが思っていたが、丸い何か、それは折り鶴のようにも見えるがそれを神様が手に取る。



「ふくら雀か」



 帯の結び方としても有名な昔の可愛いの定義。それをつつきながら神様は言う。



「千羽鶴、千鶴の奴はその理由、意味。それらを理解しよった。何のために最後の一羽を折るのか語られる事はないが、どちらにしても依存を止めるという事だの」



 神様とダンタリアンは見つめ合う。ダンタリアンは少し悪戯っぽく、神様は今にも泣きそうだ。



「二人とも……なんなん?」



 ヘカは全然今の状況が分からないので素直に聞いてみるが、ヘカの方を二人とも見ない。それにヘカは頬を膨らませる。ヘカは蚊帳の外に置かれる事を良しとしない。地団駄を踏もうとした時ダンタリアンは語る。



「人は苦しい時、辛い時。幻想に逃げる事で自分を守る事が出来る。そう、海外の有名な作家が話していたね。指輪物語だったか、ナルニア国物語だったか覚えてはいないけどさ。そういう意味では私はそうかもしれない。本来平成の中期に消えたハズだった」

「何言ってるん?」



 やっぱりヘカは意味が理解できない。はじめてダンタリアンがヘカを見て優しく笑った。それにヘカはドキンと心臓が鳴る。なんだか、今まで感じた事のない温かみ。



「ダンタリアンさん、もしかしてヘカの……ヘカ達の」

「違うよヘカ君。アタシはアタシだ。君とは初対面だし関係性はないよ。さて、そんな事よりもそろそろ読了といこうか? 千鶴君は大地に足をつけて立ち、明日に向かう事にした。素晴らしいね! 賛辞を贈りたいよ。そこでだ」



 ダンタリアンは席から立つと仮眠室へと続く扉に触れた。そしてダンタリアンはわざとらしく右手を胸に左手を背中にまわすとお辞儀した。



「ではではこれにて本日限りの営業を終了致します。お帰りはそちらの扉から、平成最後の数日をお過ごしください」



 よくセシャトが行うあのお辞儀。それの元はこのダンタリアンだったのかとヘカは思いながら、言われた通り仮眠室への扉をヘカは開いて入った。するとヘカの姿が消える。それを見た神様は服の端を掴んで俯いた。



「成程の。これは私が生み出した事だったか……」

「おや神君。もしかしてアタシ原因だと思ったのかい?」



 ダンタリアンは神様の頭を優しく撫でる。そしてこの古書店『ふしぎのくに』母屋を見渡してから懐かしむ。



「ここは実にいい場所だったね。色んな客がやってきたね。あの頃は自作小説を書くなんて恥ずかしい趣味と思って、みんなこっそり書いていて、それを思いっきり酷評するアタシのところに持ってきて、感想を述べるんだ」

「あぁ」



 ダンタリアンは神様が呼び出した疑似小説『千羽鶴 著・千羽稲穂』に優しく触れると遠い目をして話し出した。



「この作品は凄いね。非の打ちどころがないよ。文章も物語もキャラクターも実に面白い。今のネット、いいやWeb小説はどの小説もこんなレベルなんだろう? 今の時代はいいね。羨ましいよ。でもシンデレラは十二時の鐘が鳴ったら魔法が解けるものさ」



 そう言ってダンタリアンは指をパチンと鳴らす。するとそこにあったハズの疑似小説は元々無かったように消えた。



「ダンタリアン、貴様。私と一緒に来ないか?」



 俯く神様の言葉にダンタリアンは笑う。



「行かないね。というかいけないだろう。アタシはもう神君達の時代にはいないんだよ。優秀な二代目がいるんだろう? その子やヘカ君で我慢しなよ」



 神様は手を差し出す。

 神様のパープルアイが潤み始めるのをダンタリアンは見守るように見つめてその神様の手をゆっくりと降ろさせる。



「君は、そうやってアタシをあの暗い屋敷から見つけ出してくれたね。感謝してるよ。君との日々は実に楽しかった。悪魔と神様がこんなに相性がいいとはアタシも思わなかったさ。ネットで小説が公開されはじめた時はあの下手クソな小説達を読んで笑って、でも感動もしたね? 販売物にはない斬新な作品達だった」



 神様は唇を尖らせ、拗ねた子供みたいな態度をとる。ダンタリアンはそんな神様の頬を両手で触れると元気よく笑う。



「かなめとアタシと神様でよく酒盛りをしたね。そしてクリス、あの子を救ってはやれなかった事だけがアタシの後悔かな? クリスの事。神君に任せちゃうけどお願いね」

「ダンタリアン、貴様を私は救い出す。どれだけ時間がかかっても、私のこの姿を保てなくなっても、絶対だ!」



 小岩井かなめと棚田クリスに対しては『君』という敬称をつけない事。それだけダンタリアンが心を許した存在。それを神様は思い出して瞳から涙が零れ頬を伝った。



「神君、嘘はよくない。アタシがそちらに渡る事は絶対に出来ない。分かるだろう? 君は無能な神かもしれないけど、理くらいは理解しているハズさ。もうそちらの世界にアタシを知る人物は殆どいない。アタシと次の時代との縁はできない。違うかい?」



 インターネット黎明期に自作のホームページで公開されていたネット小説紹介サイト、古書店『ふしぎのくに』そしてその管理人ダンタリアンの事を知る人物をツイッターを使い探してみたがマイナーサイトだった事もあり、その記憶を保有している人物は今のところ見つかっていない。



「それだと貴様があまりにも不憫ではないかぁ!」

「そうでもないよ。神君が覚えていてくれた。平成が終わる時、いの一番にアタシの事を想ってくれた。そして『千羽鶴 著・千羽稲穂』だなんて素敵な物語を教えてくれた。アタシは幸せ一杯だよ」

「でもっ!」



 神様をあやすようにダンタリアンは少し考えるとある事を思いついた。そしてそれを提案する。



「神君、じゃあさ一つアタシのお願いを聞いてくれるかい?」

「おぉ! なんでも良いぞ」

「じゃあ目を瞑って」



 言われるがままに神様は目を瞑った。神様の頬に触れているダンタリアンの手の力がやや強くなる。そして神様の唇に何かが触れた。

 それは数分程の事だったかもしれない。十年程の時間を取り戻すようにダンタリアンは求め、神様に何かを渡すと、突然神様の小さな身体をドンと押した。

 仮眠室、もとい元の世界へと続く扉。その瞬間神様は目を開ける。ダンタリアンは悪戯っぽく笑い軍人みたいな敬礼をするとこう言った。



「御馳走様、神君。また会おう! なんちって」



 神様が目を開けた時、そこにはヘカが横になって毛布がかけられていた。そして神様にも毛布がかけられている。



「あら、起きましたか神様」

「ダンタリアン……ではなくセシャトか……」

「ゲームをしながら寝落ちして、もう夜ですよぅ! ご飯できてますから、ヘカさんを起こしてくださいね!」



 神様はヘカを揺さぶろうとした時、掌に何かを感じる。その中を見ると潰れたふくら雀の折り紙。



「……ばかものめが」



 そう言って神様は自分の唇にそっと触れた。

今回の紹介小説はいかがだったでしょうか? 平成最後の紹介作品『千羽鶴 著・千羽稲穂』の世界感に合わせて作られたちょっとセンチな物語でしたね^^ 家族の大切さ、命の尊さ、人の心の不屈さ。そんな物を『千羽鶴 著・千羽稲穂』からは感じ楽しめるのではないでしょうか? GW初期あるいはGW終わりに一度平成を思い出しながら読まれてみてはいかがでしょうか? この場を借りて素敵な作品の紹介をさせて頂いた事、お礼申し上げますよぅ!

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