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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
35/111

家族ごっこ

5月からの私達、古書店『ふしぎのくに』運営が少し変わります。一体どんな風に変わるんでしょうか^^

楽しみですねぇ!

「おぉ、『モンスターハンター2G』だの。戦闘街でモンスター狩るところが中々にムネアツでの」



 神様が喜々として語るが、微妙に興味がなさそうな二人に神様はコホンと咳払い。神様はこの部屋を見渡す。



「ここは何処かの? 知らぬ部屋だな」



 ヘカもそしてダンタリアンも知らないという顔をする。そしてダンタリアンはシステムキッチンの前にある大き目のテーブルを見るとその席に座る。



「成程、ここが千鶴君の母君の元席で、現在は恵君の席なのかな? 神君はこの横に座りなよ」

「むぅ、やはりここは作品の世界を模した部屋か」



 そう言いながら神様が千鶴の父親の席に座るので、ヘカは千鶴の席に座った。



「おやおや、千鶴君。だいぶ捻くれているねぇ、このシーンの彼女は中々に可愛いじゃないか、崇高さも失いただの駄々っ子のようだよ」



 実際彼女を保っていた死への羨望、飛躍すれば神格にも似た雰囲気は幸喜との出会いで失われてしまったように思える。あとは自分自身のアイデンティティを守ろうとすればする程、年相応の女の子として心の叫びが読み取れる。

 千鶴が思っている程、姉の恵は悪い人間ではない。それを頭で理解しても心がそれを認められないといったところなんだろう。



「そうだの。その駄々っ子の表現もまたリアルだの。千鶴はもう死ねない。逆に言えば誰かに殺されるとなれば必死で命乞いをするかもしれんの、そのくらいには意気地は折れておるだろう。強すぎる光に慣れていないが故、今だに毒を吐くと言ったところか」



 神様が言う言葉を聞きながらヘカは千鶴の目線で自分が今、千鶴の姉の席にいるダンタリアン、そして父の席にいる神様を見つめてから述べる。



「自分を守る為なんよ。千鶴たんの本質は生かされているという事、自分が操られている事、そして自分だけが何かを知らないという事への恐怖なん。本来は二次成長くらいでこの感覚は終わるんけど、千鶴たんは引っ張ってたんな。だから、思ってもない事をされるのは、重いん」



 突如、死について恐怖する子供がいる。死ぬとどうなるのか? そもそも死とは何なのか? 心の成長とは恐怖する事なのかもしれない。

 千鶴は自分の存在への無価値性、家庭の生きずらさを引っ張った結果、死を選ぶという形をとったのかもしれない。姉はそれら過去も、これからの未来をも謝罪し彼女を選んだ。それすらも重く苦しい物と感じるのだ。



「ふふふ、この歪みきった家庭が元に戻るには、このくらいの事はしなけれならないだろう。そりゃ千鶴君も気味が悪いと思うさ」



 ダンタリアンはそう言うとヘカに手を伸ばして頬に触れる。嫌そうな顔をするヘカだが、このくらいでは何も言わない。



「ヘカ君は処女かい?」

「は? あたりまえなん。恵みたいな貞操観念が薄い女と一緒にしてほしくないん!」

「はははは! その恵。妻に毎回料理のお礼を言う旦那が普通だと思っているからね。神君を見ればわかる。うまい! しか言わないんだ。大抵の褒め言葉なんてそんなものさ」



 恵のセックス依存は温もりを求めてか? やや支離滅裂な考えを持つようになる。性への依存ではなく、どちらかといえば付き合っている男性との生への依存に変わりつつある自分を否定する。



「正直何処まで、計算して作られているんだろうの? 千鶴も恵も家庭環境から依存するものこそ違うが、正真正銘に病んでおる。そして実際にこんな子供は沢山おる。それをようここまで表現しよったの」



 神様は口寂しいのか、大きな飴玉を取り出してそれを口に放り込む。コーラ味とかかれた飴玉を口の中で転がすのでダンタリアンは神様に強請る。



「神君、アタシにもそれ頂戴よ」

「残念だの。これ一個しふぉおあ」



 ヘカの目の前でダンタリアンは神様の唇を自分の唇で塞いだ、神様の舐めている飴玉を奪い去り、神様の唇から離す。



「じゃあこれでいいよ」

「あー貴様、返せー!」



 ダンタリアンは唇に指を当ててウィンクする。



「神君も奪い返してみればいいじゃないか」

「ええい面倒な奴め。そんな事するわけなかろう。ほれ見てみろ! 焦っておったから、考えがおかしかったって恵のやつも言っておろうが、しかし恵の彼氏がカレーを選んだのにそれを拒否するとは、カレーを食わせておけば良い子は大体喜ぶだろうて」



 ご存知、神様の大好きな食べ物。カレーライス。神保町のカレーライスで食べた事のない店は神様にはない。



「おや、神君の舌は変わらないねぇ。アタシは正直二週間ぶっ続けでカレーはキツかったよ」



 二人の話を聞いてヘカの頭のてっぺんの髪の毛がピンと立つ。



「二週間カレー漬けって馬鹿なん?」

「馬鹿は貴様の事だ!」

「馬鹿じゃないんヘカなん」

「神君は、事ある事にカレーカレーってうるさくてね。安く済むからアタシも調子にのって毎日作ってたら栄養失調になったものさ」



 ダンタリアンがウィンクすると各自目の前にカレーライスが現れる。ハンバーガーといい便利なもんだなとヘカは思う。スプーンを持ってそれを食べようとするとダンタリアンが指摘した。



「ヘカ君、食べる前は頂きますだよ」

「い、いただきますなん」

「はいよく出来ました! 恵君は母性というよりは姉としてかな? 一歩を踏み出す事にしたじゃないか、これが意外とできないもんなんだよね。苦手料理を作るなんてアタシにはできないね」



 ダンタリアンは頬杖をついて神様とヘカがカレーライスを食べる様子を楽しそうに見つめている。



「生への依存、恵は妹の千鶴たんにもそれを感じたん。母親へのトラウマを払拭し、全てを良い意味でリセットしようとしてるんな。それで千鶴たんが前を見れるかは分からないん。下手すれば恵の自己満足かもしれないん」



 ぺこぺことカレーライスを食べるヘカ、神様とそろって早食いなのである。ダンタリアンは二人が美味しそうに食べる様子を見て自分も一口カレーを食べた。



「うん、実に美味いね。二人ともおかわりはいるかい?」



 皿を差し出してくるのは神様、そして遅れてヘカも「いるん」と言って皿を持ち上げる。それにダンタリアンは皿を受け取るとぱっと消した。



「カレーはだいたいお替りするよね」



 そう言ったと共にヘカと神様の手元にカレーライスが出現する。一体どんな力なのかヘカは知るよしもないが再びそれを食べ始めた。神様はカレーを食べながらタブレットを見て話し出す。



「千鶴のやつ、いい加減大人になる時かもしれんの。皆の普通とは一緒になれないというのは構わんが、合わせるという事も必要だからの」



 千鶴が思う程、学校の組織体系は単純ではない。というより社会の縮図に近い、久々にきた千鶴にもコミュニケーションを取ろうとするクラスメイト、それがどれだけ有難く救いのある事かという事を彼女は理解できず否定的に受け入れてしまう。

 さすがに読者としてもさすがにその態度はどうなんだね千鶴君と言いたくなるかもしれないが、実際追い詰められている人間の心理は異常な程否定的になる。

 しかし……



「おや、千鶴君が思っているよりもいい学校じゃないか、友恵君と言ったか、人の為に怒る事が出来る人物は強い人間だからね。あれだけ死にたがりの千鶴君もドン引きしちゃっているよ」



 数日學校にこなかった千鶴の席に、花を添える、昔からあるイジメの葬式ごっこ、それを見て怒りを爆発させた友恵。

 されど、その最後の反撃は不発に終わる。当事者千鶴に制止される事で二人は教室を後にして屋上。学校でいう自殺の名所にやってきたのだ。



「嫌だから死ぬ。悪くはないと思うが、死んでどうなる事でもなかろうに、私なら上手い物を喰いにいくがの……まぁ私の座る席に菊の花が添えてあったら喰うてしまうかもしれん」



 食用の菊は存在するが、そうでない物は食べるとお腹を壊すのでオススメしない。ジンベイザメを依り代としている神様だから少々の暴飲暴食は許されるのだろう。



「死にたい死にたい詐欺というのもあるん」



 ツイッターでメンヘラな自分に憧れる子の呟きはことある事に死にたがる。が決して死なない。本当に死んでしまう者は死ぬと言わずにほのめかして自死する傾向が強い。

 屋上に友恵と共に来た千鶴。二人もここで死ぬ事はない。面白いくらいに当然の話をする。自殺をしたとて風化する事。



「ここでまた千鶴たんは生きる意味をまた見つけたかもしれないと思うんな。もうクライマックス間近なん。これでハッピーエンド……とはいかないんな。ほんとに千鶴たん、ややこしい子なんよ」



 とてつもなくややこしいヘカが言うのだから、実際そうなんだろう。さすがのダンタリアンもその発言には苦笑する。



「しかしここまで引っ張ってくれるけど、くどさは感じないよね。一貫して千鶴君がどういう判断をしめすのか、その付加価値に幸喜君がいたり、父君や恵君の存在がアクセントになっているだけだよ。その理由として千鶴君は、この展開でまたも千羽鶴を夢想するんだ」



 本作における千羽鶴は死の象徴である。それは何度となく千鶴に生きる意味を与えるのと同時に死という安楽を与える理想だった。



「何でここで千羽鶴なん? 千鶴たんは生きてみようかと思ったんよ? 全然分からないん。それとも……」



 ヘカが何かを言おうとする。三人が読んでいるこの物語も残す所数話となったところで、再び扉が現れた。それはヘカも神様もよく知る古書店『ふしぎのくに』の母屋と通じる扉。



「戻ってきたという事かの?」



 そう言って神様が扉を開ける。

 そこはヘカの見知らぬ、神様は懐かしいと思う古書店『ふしぎのくに』の母屋だった。そう、この母屋はダンタリアンが店主をしていた頃の母屋。



「一体どういう事だ貴様?」



 神様がそうダンタリアンにいうと、ダンタリアンは不敵な笑みを浮かべてこう言った。



「さて、じゃあ最後はアタシが店主を務める古書店『ふしぎのくに』で最後の作品考察をしていこうか?」



 指を鳴らすと珈琲や紅茶に茶菓子が沢山現れる。クスクスと笑いながら礼をするとダンタリアンは挨拶する。



「本日かぎりの、古書店『ふしぎのくに』へようこそ。アタシは店主のダンタリアンだよ」

さて、残すところあと1話となります。『千羽鶴 著・千羽 稲穂』皆さんはもう読まれたでしょうか? 死は等しくやってくるものです。生き急ぐのも、死に急ぐのも一旦辞めて、まずは甘い物を取りましょうね^^ 次回4月紹介小説最終回となります。平成最後にしてダンタリアンさんの古書店『ふしぎのくに』が開店されましたね! 

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