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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
34/111

取り違えの親理論と小説作法

最近たまに暑い日がありますね。夏は朝という風に私達古書店『ふしぎのくに』もサマータイムを取り入れようというお話が出ています。気持ちよく活動が出来る方法を色々考えていきたいと思いますよぅ!

「『龍が如く4』なん。さすがにこのタイトルはヘカでも知ってるんな」



 ゲームソフトを拾って適当にその辺にある棚に置くと、ヘカはその場所が何処か考えていた。



「かなめ君の家かな?」

「だろうの。それも私達がこうやって訪れる事を察したかのようだの」



 神様は置いてある写真を見て神様とダンタリアン、そしてかなめの三人が写った写真を見つめる。



「おや、同じ章内で視点移動をしてしまったね」



 それがタブーなわけではないが、一つの章内で視点移動が起きると物語への意識が解けやすい。それをダンタリアンは言葉にしてしまう。



「でも、これが書きたかったんよ。エンディングに向ける為に、書き残しをしたくなかったん。Web小説にはよくある事なんな?」



 編集等に見せると説明が多すぎるという指摘を貰うであろう展開をWeb小説では大抵画かれる。それこそが作者の伝えたい想いなのかもしれない。



「しっかし、幸喜目線で読んでもこの男ストーカー気質が中々にヤバイの。という冗談はさておき、ようやく吉という女の全貌が見えてきたではないか、今まで千鶴と幸喜のイメージの中の吉という存在しか読者は知りえなかったわけだからの」



 そしてこのシーンで読者が感じる事は恐らくこれだろう。



「アタシが思った通り、池谷君。素晴らしくカッコいいじゃないか」

「これはズルいんな」



 さて、ラノベの主人公像が本作にいるとすれば、恐らく名前のあるモブ、池谷氏に一票が入るだろう。彼のイケメン具合は中々どうして評価したくなる。

 クスクスと笑う神様。それはダンタリアンとヘカが同じように同じシーンで悦に入っているから、それにヘカではなくダンタリアンが少し恥ずかしそうにする。



「全く神君もやるようになったもんだ。一つアタシがこの部分で指摘するとすれば小学生が大人すぎるね」

「Web小説は書き手の精神年齢に左右されるからの」

「そうなのかい? そこはアタシの時代のネット小説とは少し違うんだね」



 幸喜と池谷の美しい友情とでもいうべきか、小学生時代の池谷と千鶴、このシーンは中々にキザだが読みごたえがある。キャラクターを無駄にせず、惜しみなく活躍してくれている。言わばこの作品はある種の群像劇なのかもしれない。



「千鶴たん。千円ぽっちのお小遣いって神様と同じなん」



 それに神様は慌てて「あーあー! 黙れヘカ!」

 と言うがダンタリアンはその言葉を聞き逃さない。悪い笑顔を見せてから神様に詰め寄った。



「神君のお小遣いは確か一日三十円程じゃなかったかい? 今は千円も貰っているのか、実に剛毅じゃないか」

「まぁあれだの。貴様がいなくなってからこの国の金の価値が大分かわったのだ」

「へぇ、となると1ドル3円くらいになったのかな? ありえないと思うけどね。ある意味神君も千円ぽっちの命という事だ」



 ぐぬぬと怒る神様とそれを見て腹を抱えるヘカ。『千羽鶴 著・千羽 稲穂』の作品において1日千円の小遣いは千鶴を縛る物だった。神様とはえらい違いなのだ。



「しかし、千鶴君は本当に生きづらいんだろうね。家族を求めすぎた故に、家族という物を理解できなくなっている。そんな彼女でも携帯を捨てる事はなかったんだね」



 図星における図星、それをしっかりと読み取らせる本作の描写が見事である事と、ダンタリアンも同化を始めている事。それに神様はふふんと笑う。



「歪な天ぷらとな。貴様の作る料理のようだの? ダンタリアン」

「おや? それを美味い美味いと食べていたのは誰だったかな?」



 神様は懐かしむように話し出した。



「家庭の味というやつは、めちゃくちゃ美味いハズなんだがの、何故か外食の化学調味料に舌が慣れてしまう。今はダンタリアン、貴様より遥かに上手に料理をする奴がおるわ」

「まさか、そのヘカ君かい?」

「馬鹿が料理なんてできるわけなかろう。セシャトにトトという奴での、実に写真みたいな料理をしよる」



 それは、千鶴の姉が千鶴の為に料理をすると、家庭を基に戻そうとした時の食事風景を神様は夢想していた。ダンタリアンと生活していた頃の食事。



「それは実に嫉妬しそうだ」

「貴様の飯が食いとうなった」



 神様が見つめてそう言うので、ダンタリアンは苦笑する。ここには食糧一つない、神様の願いを叶えてやる事は出来ない。



「よく、自分の気持ちなんて分かる人はいないって言って不貞腐れる子がいるじゃないか? でもさ、この作品みたいに実は兄弟や家族はある程度、胸中を察していたりするんだよね。こういう演出が本当ににくい……そして少しばかり羨ましいじゃないか、この部屋の持ち主。かなめ君も中々に謎の多い人物だったが、彼女も家族と共にありたいと願っていたよね」



 ハイランダー症候群の女性(2018年10月紹介作品登場)、旦那は死に、子供は大人になり年を取っていくのに自分だけは二十代の見た目のまま変わらない。

 そんな彼女は家庭を捨てざる負えなかった。



「成程、それでかなめの部屋か……」



 本作にいくらか救いがあるとすれば、文章作品としては異端の手法、視点移動を繰り返し各種キャラクターの本心を垣間見る事で捩れてしまった糸を真直ぐに戻そうとする構成だろうか?



「人間はどうして失ってから大事な物に気づくん? 馬鹿なん?」

「馬鹿は貴様の事だ」

「馬鹿じゃないんヘカなん。さっきダンタリアンさんは子供の描写がリアルじゃないんって言ったけど、ラーメン喰ってる千鶴たん達は言葉通りガキなんな」



 ヘカの一言にダンタリアンはヘカのパニエスカートから尻を撫でる。それにヘカは何か電気が走ったように痙攣して離れる。



「なんなん? そこセクハラするところじゃないん!」

「いやぁ、中々鋭い一言だったからご褒美にね」

「それヘカじゃなくてダンタリアンさんのご褒美なん! それにしても千鶴たんの母親、結構クズなんな」



 女性は恋多き生き物というが、女性に限りらず不倫を繰り返す者は日本でも後を絶たない。それをヘカが言うようにクズの一言で片づけて言いのかは分からないが、民法として違法行為であるからヘカのように考える人間が多数なんだろう。



「アタシは思うんだよ。男の子も女の子も皆可愛いじゃないか! だから一人に決めず皆を愛せばいい。それ故結婚はしないとね」



 実に悪魔らしい思考。節操がないと言ってもいいかもしれない。そこでヘカは一人の顔を思い浮かんだ。



「神様、女の子に対してはダンタリアンさんはトトさんみたいなんな?」



 ダンタリアンがセシャトのような容姿をして、ヘカやトトのような性質を持っている事に少しばかりヘカも気づき始めていた。



「こやつに比べたらトトはまだ可愛いもんだろうて」



 神様とヘカは、この山岡家の随分特殊というか、闇の深い家族体系に関して若干引いていたが、ダンタリアンは実に面白そうにそこを読んでいた。



「よくさ、取り違えられた子供っているじゃないかい? あれはさ、果たしてどちらの子供だと思う?」



 日本でも海外でも極めて稀に起きてしまうあってはならない事件。赤ちゃんの取違え。まさに人生が変わってしまうその事件において、そう言った子供は親が二人いる事になる。

 育ての親と生みの親。

 ダンタリアンは再び悪魔の証明をふっかけてきた。この質問にも答えはない。もちろん血の話をすれば生みの親となるのだろうが、人間という生き物はそう簡単ではない。



「そんなん育ての親に決まってるん」



 ヘカは当然だろうという顔でそう言うので、神様もうぅむと答えを出しにくそうに「確かにそうかもの」と付け足した。



「ふふふのふ、まぁ正解かどうかはさておき、恵君はそう思っているようだね」



 セシャトの口癖『ふふふのふ』ダンタリアンが言うとなんと邪悪な言葉に早変わりするのだろうかとヘカは閉口する。



「世の中が見えすぎて、絶望した千鶴に対して、同じく見えすぎたからこそ、諦めて、そしてもう一度やり直そうとした恵は天晴だの。大抵、こういう女子は家族とか家とかをおろそかにしたりするもんだが、ただのファッションだったのかの?」



 神様の言葉は中々に重い。恵は家族を優先したのである。それが当然と言えば当然かもしれないが、この年頃の女の子は彼氏や自分の世界を優先する傾向にある。



「そうだよ。恵君は遅すぎた後悔というものに先手を打ったわけだ。一度、母親を失うという事でそれが出来なかった事をバネにしてね。本作において誰よりも尊いとは思わないかい?」



 綺麗な面も汚い部分も平等に楽しむダンタリアン。これに関してはヘカも脱帽だった。ベクトルは全く違うが、あのWeb小説が大好きなセシャト、彼女と寸分狂いのない物語好きである。

 山岡家の団らんに火が灯った。ただそこには母親の姿はない。されど、彼らは皆一様に同じ気持ちでその火を囲む。

 物語終盤で焦らずにゆっくりと、じっくりと読ませてくれるイベントが差し込まれる。そこでダンタリアンが言う。



「ふふ、この視点移動。確かに無ければこの感動は感じれないかもしれないね。作法云々言っている内は素人かな」



 小説においてルールという物は存在しない。但し一般的と言われている記載方法はいくらか存在する。されど、作者の感性がそのルール外にあった場合はいくらでも使えばいい。



「まぁ小説だからの」



 三人はいないハズの山岡家族がぎこちない団らんをしている姿を目の前に夢想しながら、次の扉がお出ましした事にゆっくりと腰を上げる。そして神様は自然にこうダンタリアンに話し出した。



「のぉ、扉の先を今まで見て分かったのだがの、この平成が終わってほしくないと思う気持ち。私かダンタリアン貴様によるものだの」



 それを聞いたダンタリアンは大口を開ける。牙なのか八重歯なのかが覗くのが実にあざとい。



「多分そうだろうね。最後まで行けばわかるんじゃないかい? アタシが神君に依存しているのか、それとも神君がアタシに依存しているのかさ」



 そう言って次の扉を開いた。

さてさて、神様とダンタリアンさん。果たしてどちらが平成が終わってほしくないと願っているんでしょうね^^ 残すところあと2話となりますがその前に『千羽鶴 著・千羽稲穂』を読み直してみてはいかがでしょうか? 非常に面白い手法がいくつか見られますよぅ! 是非一緒に紹介小説の結末と、紹介作品の空気感をお楽しみ頂ければ最高ですねぇ!

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