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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
33/111

悪魔と神

皆さん、学校や会社と新しい生活にはなじめてきましたでしょうか? 私はいつも通り、沢山の方々がお見えになる古書店『ふしぎのくに』で変わらない時間の中、刺激的な日々を過ごしていますよぅ!

  次に訪れた部屋は何かの研究施設のような場所だった。そこでヘカが地面に落ちているゲームを拾う。



「ウイイレなん。これはヘカも知ってるん。後でヨーロッパのクラブチーム縛りで勝負するんよ!」



 そのゲームには『ウィンイングイレブン2008』と表記されていた。十年程前にまで戻ってきたらしい。



「あーあ、千鶴ちゃん死ねなかったねぇ。残念だねぇ」



 疑似小説を持ってプププと笑うダンタリアン。第三章の始まりは第一章の終わりに繋がる物語。



「ここは、あれだの。二人の事を読んでいる読者だから、繋がる物語であって千鶴からすれば自分の目的が妨害された意味が全く分からんかったろうの、悪魔に気に入られたと書かれておるぞ」



 小説の一節を読んで神様がニヤリと笑うのでダンタリアンもまたクスりと笑う。それは否定でもなんでもない当然の言葉。



「なんでもかんでも悪魔のせいにされてもねぇ。そんな事より、神君は意地悪だって書かれているよ」



 小学生並みの言葉の応酬、それが面白いのは二人だけでヘカはまたしても面白くない。というより二人が段々老害に見えて来た。

 ヘカは、研究所らしき場所にある机の紙を一枚拝借してそれを折る。意外と器用な事に神様とダンタリアンがその様子を見ているとヘカは一羽の鶴を折って見せた。



「おぉ、貴様そんな事できたのだな」

「上手いもんじゃないかヘカ君」



 ヘカは虚ろな瞳でこの部屋ではない違う場所を見ていた。それは千鶴が飛び降りようとしたあの場所。



「中々に痺れる言葉なんな。鶴はここにある」



 お前はまだ死ねない。

 あるいは、死んじゃいけないという言葉の代弁。いや、千鶴の意識の矛盾の賜物と言っても過言ではない。



「あはは、そうだね。ただの折り紙だ。それに千鶴君は異常なまでに固執している。生きる意味がないから死ぬという人間が、ただかが紙きれ一枚で作られた鳥一つで生にすがるんだ。なんというドラマなんだいこれは?」



 今までにないテンションでダンタリアンが嗤う。貶しているのか、評価しているのか、それともそのどちらもなのかダンタリアンの興奮は冷めない。



「こやつが千鶴を助ける動機もまた、生への縋りからの延長線だからの、貴様が興奮するのも無理はないの、至って狭い世界で起承転結に伏線とオチ付けを行い制御できる範囲内で作品を研磨すればこうなるんだろうの」



 第二章の主人公、目片幸喜のフルネームがここで始めお披露目となるわけだが、彼は千鶴達に負けず劣らずの現実理解者であった。

 一歩踏み出し、その現実に立ち向かった事になる。理由はどうあれ彼は千鶴が思い描いていた理想の人間の姿を少しばかり体現していたに違いない。



「おやおや、千鶴君。意気地が折れちゃったよ。あれだけ環境に心を折られて死を決意していたのにね……目片幸喜君。こういう人間が本当に世の中には存在しちゃうから、アタシ達悪魔も大変困っちゃうんだよね」



 皮肉っぽく言うがダンタリアンはこの展開が嫌いではなさそうだった。それより、楽しんでいる。



「千鶴の心をころっと持っていったんな。目片幸喜、こいつややポッチャリ系男子というところがミソなんな」



 彼が目を見張るような美少年だったり、何処か一目置かれるような存在だったら、作品に没頭している魔法は解けたかもしれない。

 至って普通の少女千鶴が死を望んだ。そんな何処にでもいる普通の少女千鶴はこれまたクラスに一人はいるであろうぱっとしない少年幸喜によって命を助けられる。



「劇的な事件に見えないものね。実に興味深い演出だよね」



 何かが起きるわけでもない、千鶴は死ななかった。死ねなかった。さらに言えば死ぬ意気地を折られた。



「まぁ、この後の千鶴の態度もまぁまぁリアルだの。ガキっぽい返答とな。読ませよるわ」



 神様は動物の耳みたいに刎ねたくせ毛をダンタリアンにとかれながらスマホを見つめている。大円団で物語が終わったくらいのテンションとなっているがまだ第三章の導入でしかない。 神様の髪を丁寧にブラッシングしながらダンタリアンはジンベイザメの髪留めを取ろうととして神様に怒られる。



「貴様、それは私のアイデンティティだの」

「全く君は趣味が悪いね。しかし、拗ねている千鶴君も中々可愛いじゃないか、そうは思わないかい? 焼きもち焼きのヘカ君」



 ヘカはサッカーゲームで遊んでいる中突然そう言われたので怒る。



「焼きもちなんて焼いてないんよっ! ダンタリアンさんは言葉責めも好きすぎなドエスなん!」



 ヘカのその反応を見て上気したような表情を浮かべるダンタリアン。そしてペロりと舌を出した。



「悪魔は大体ドエスと相場が決まっているだろう? たまには受けをしてもいんだよ? ヘカ君さえよければね。悪魔に初めて出会った人間はさ、幸喜君の事を考える千鶴君のようになるんだよ。知っていたかい?」



 悪魔に会った事がある人が果たして世にどれだけいるのかは分からないが、不信感と得も知れぬ期待感を抱いてしまうのだろう。

 幸喜は千鶴に優しい言葉をかけるわけでもない、ただ彼女が死なないように見張り続けた。作中でも表現されているように忠犬の如く。



「まぁここで死ななかったん! じゃあ俺は帰るん! って言って帰っていったらそれはそれで無責任すぎるんな、最後まで見守るのもまた、命を救った者の責任なんよ」



 ヘカが面白い事を言うので神様の綺麗にといたハズの癖毛がピンと再び牛みたいに立つ。神様のその強烈な癖毛にダンタリアンは笑いをこらえきれない。



「くくくく、神君の髪は本当にひねくれているねぇ、ヘカ君、どういう意味か教えはくれないかな? 実に面白そうな考えだよ。神君も聞きたがっているよ」



 神様とダンタリアンはヘカの考えを軽く上を行くので、まさかヘカの意見を聞かれるとは思わなかった。

 それ故、ヘカは頭を掻きながら嬉しそうにする。



「そこまで言うなら教えてやるん。二人ともまだまだなんな。人を殺す事には大きな責任が伴うん。なら生かす事も同じなんよ」



 ヘカは面白い事を言った。それにダンタリアンはニヤニヤと話を聞く。人の命を助けた者。確かにそれは褒められる事だ。良い行いなんだろう。世間的にも評価されるだろうし、いかなる理由があったとしても肯定されるべきかもしれない。

 だが、理由があって死を選んだ人間を助けたのであれば、その人物が二度と死を願わないように手伝う責任が生を与えた人間には生まれるべきである。



「死ぬという自由を奪われた代償かの……貴様も面白い事を言うようになったの」

「当然なん。もっと褒めるん」



 目を瞑ってない胸を突き出して自信満々にそう言うヘカにダンタリアンは唇にキスをした。その感触に目を開けたヘカは慌てて離れる。



「なんなん! ダンタリアンさんはレズっ子なん? ヘカはノーマルなん! ヘカの貞操はイケメンの物なんよっ!」

「御馳走様、その割にはヘカ君は他の女の子の臭いがプンプンするね。君に好意を寄せるのはどうやらややこしい女の子が多いらしい」

「そんな事ないんっ!」



 とは言うものの、目の前のダンタリアン、そして同居の欄、女子高生の夏南。自分に好意をもってくれるイカれた少女達。そして言わずもがな、妖怪甘味狂いのセシャト。彼女もやっぱりおかしい。意外と図星すぎてそれ以上反論できなかった。話を逸らすかわりに物語の考察をする。



「この千鶴の気持ち、読者の代弁なんな。ん……ハンバーガー食べたいん。千鶴は高校生の男女がファストフード店以上のところにデートで行くと思ってるん? ありえないん」



 学校という組織に所属した事がないハズのヘカがそう言う事がおかしかったが、ダンタリアンは何処からともなくビックマックを三つ取り出すとそれをヘカ、神様と渡す。神様とヘカはそのビックマックを大きな口をあけて食べる。その姿や、親子というより姉弟に見えなくもない。



「はむはむ、まぁあれだのぉ……傷をなめ合う事は恥ではないという事だの……組織の中で生きられない生き物も結局は、同じタイプの存在と組織を作るのだなという事を分からせてくれる」



 千鶴と幸喜が食べたポテトの量に相当するポテトをダンタリアンが出してくれるが、それをペロリと食べ終える二人。そんな二人を頬杖をついて楽しそうに見るダンタリアン。



「二人はもう、あの子を卒業できるのかな? 二人はどう思う」

「無理だな」

「無理なん」



 小さい二人は即答する。ダンタリアンは自分の目の前にあるビックマックを差し出すとそれを二人は取り合う喧嘩を始めた。



「はははっ……昔はそのビックマックも袋に包まれていたのにね

驚いたよ」



 喧嘩の末、神様がダンタリアンのビックマックに齧りついているその時、次の扉が現れる。その扉を見てダンタリアンは呟いた。



「ねぇ、次の時代は平成よりもいい時代なのかな? もし、そうならアタシは少し嫉妬してしまうかもしれないよ」



 今まで見せた事のない、なんとも言えない表情をしてダンタリアンはその扉に手を振れた。それに神様が答える。



「良いところもあるだろうし、悪いところもあるかもの、それはその時代を生きて渡った者の特権だの」



 神様はダンタリアンの振れる扉のノブに一緒に手を触れた。それに少しダンタリアンは照れ臭そうにする。それを見たヘカは呟く。



「やっぱ、なんか古いノリなん……年寄なんな、あんな風にはなりたくないん」

神様はダンタリアンさんの事が好きなんでしょうか? そしてダンタリアンさんも……ヘカさんが子供らしく感じる今回は実は『千羽鶴 著・千羽 稲穂』の作品にかけている事をそろそろお気づきかもしれませんねぇ! 命という物への責任。命の意味、果たしてこの答が出る日があるんでしょうか^^

 是非、まだ読まれていない方は楽しんでくださいねぇ!

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