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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
32/111

作品は作者を映す鏡か?

お花見も本日くらいで終わりですねぇ^^ さてそろそろ初夏の香りがしてきます。夏は夜ですよぅ! アイスからかき氷に食べたくなる氷菓が変わりますよね^^ 私はパンケーキにカップのハーゲンダッツをのせて頂きますよぅ!!

「『おいでよ 動物の森』……実に微妙なタイトルのゲームだな。さてと、二人が来るまでアタシは『千羽鶴 著・千羽 稲穂』でも読んでおこうかな」



 銀色の鍵を取り出したダンタリアンは宙にそれで円を描くような仕草をする。そこから一冊の本が出てくるではないか……



「おや、第二章は主人公が変わるのかな?そして、女の子だけじゃない。男の子の気持ちまで画けてしまうのか、本物だな」



 一人称で進行する本作、一人称の弱点というべき視点移動、これをうまく逆手にとってある。章の移り変わりで主役を一時的に交代させる事で書きたい視野を自然に進行させている。そしてダンタリアンは二章を読んで一つ気づいた事があった。



「本作の作者君は現実が見えすぎているのかな?」



 一部感じてしまう人間がいる。どうして皆集団行動をしているのだろう? 何が面白いのだろう? 何を言っているのか全然分からない。作品のキャラクターは作者を映す鏡という。それ故ダンタリアンは物語を通して作者を夢想する。

 本作のキャラクター達の多くは、離脱症状を起こしている。何かに対して精神依存を繰り返す。ダンタリアンはゆっくりと口角が緩む自分を感じながら読み進める。

この二章は、一章と作風が変わる。



「おや、こんな手法を使えるのかい、平成最後のネット小説書き達は……」



 あらゆる面においてダンタリアンが読んできたネット小説や携帯小説とは比べ物にならない文章テクニック、そして構成。少し目を閉じて、ダンタリアンはカップを持つようなジェスチャーを取る。

そこにはティーカップ。



「成程、この第二章はディンブラなんだね」



 そう独り言を言ってカップに口をつけた。ダンタリアンは思う。第二章の主人公、彼がやや億劫に感じている池谷という友人。



「池谷君、実に大人だな。こんな友人がいれば学校という場所もさぞかしい楽しいだろう。そして自分を救って欲しいという表現を他者に委ねる。これはもしかすると、この作者独特の表現かもしれないね。まぁアタシは長らく、ネット上やリアルの小説に触れていないからかもしれないけどもしれないけども」



 同時視点移動作品を一つあげるとすれば『グラスホッパー』が恐らく有名だろう。一つの事件に対して被害者、復讐依頼者、殺し屋の目線で同時進行する面白い手法を取られた作品である面白いだけに中々のテクニックを要する。小説家になろう等では中々お目にかかれない。

 そんな中、ダンタリアンは一つのあたりまえに、リアルな思考に至った。これはダンタリアンが一応女性を保っているから感じた事なのかもしれない。



「第二章の主人公君、少しキモいな。どんだけ一人の女子に意識を持っていかれているのだよ」



 が、面白い事に中学、高校の男子なんて大体こんなものだ。行動に出れないかわりに、気になる異性の動向を異常なくらいリサーチしている。草食系男子蔓延時代の賜物なのかはダンタリアンには知るよしもない。



「凄い。ただ凄いぞ」



 先に説明しておくが、第二章の主人公は極めて普通の少年である。この時期特有に起きる専門的な言葉を使えば自己愛性パーソナリティー障害だなんて言われる症状。

 それを、本作は周囲の感情を説明する事で、主人公が追い込まれている事を見事に表現した。空になったカップを振りながらダンタリアンはクックックと笑いが漏れる。



「主人公君が池谷君にイラつく理由、素晴らしいな。主人公君はイラつけばイラつく程、自分が子供であり、周りが見えていない事を否応なしに自覚しなくてはならない。池谷君、アタシより悪魔らしいじゃないか」



 池谷は終始、悪い事は言わない。但し、あらゆる面において的を得た事を冗談交じりに語る。名前のあるモブと古書店『ふしぎのくに』で呼ばれるこのキャラクターの優位性は中々に覆らない。



「あっはっはっは! たまらないよ。いい、実に良いキャラクターをしているね池谷君」



 池谷、彼は馬鹿でも愚かでもない。自分をしっかりと持ち、そして人間組織の中でも生きられる。さらに言えば、視野が広い分、見えている物と自分の感情に折り合いがつけられるんだろう。



「少し、ヘカ君に似てなくもないかな。はて、二人は遅いね」



 友達でありながら、その領分を侵す事を嫌う池谷、なんと面白いキャラクターだろうかとダンタリアンは思う。途中から彼が主人公になっていると読む事すら出来る。

 だが、彼は読者にこう言うかもしれない。



「俺にあんまり期待をするなよ。俺は一モブなんだからな……くすくす。なんちゃって」



 誰もいない広い部屋で、ダンタリアンは疑似小説を読みながら、今だ顔のにやけが収まらない中、もう笑うしかなかった。



「集団シナスタジア、この作品。というよりこの作者はどれだけ引き出しを持っているんだい? さすがのアタシも少しばかり胸やけがしてきたよ」



 千鶴と同じ物を同じ空間内で見た第二章の主人公。これがスピリチュアルな事か、それとも共感覚の暴走かは語られないし、その説明の必要もない。

 小説の展開として、模範解答のような演出である。

 リアリティなストーリーの中で見せたこの不可思議な共感覚、もとい現象。

 これは彼らの依存体質の極みのような演出表現であり、大がかりな比喩表現なのだ。そんなところにそれがいるハズがない。されどそれを目視した彼ら。ダンタリアンの目は遠くを見つめていた。トリップする。

 小説の世界に同化し、心地よい感覚に身を委ねる。

 悪魔の願いとは大抵叶わないようにできている。



「だーかーら、あれはそいう演出で実際に不可思議な事が起きているわけではないだろう!」

「何言ってるん! 語り掛けてきてるんよ? ホラーなん」



 賑やかな二人の帰還にダンタリアンは歓迎の抱きしめ。



「やぁ、二人とも遅かったじゃないか、寂しくて死んでしまうところだったよ。アタシはウサギだからね」

「ウサギは寂しくても死なないん。それはウサギ売るうさんくさい業者の戯言なん」



 そんなヘカを持ち上げてからダンタリアンはほほ笑む。



「まぁでも十年以上一人だと寂しくて死んじゃうかもしれないよ? そうならないようにヘカ君はアタシを監視してくれるかな?」



 千鶴を見守る彼になれるのか? とでも問うたつもりかと神様は無言でヘカの反応をみていたらヘカが虚ろな瞳で言った。



「死ぬなら一人で勝手に死んだらいいん! でもダンタリアンさんは絶対死なないん。顔に書いてあるん」



 持ち上げたヘカをヌイグルミでも抱くようにダンタリアンは頬を寄せる。「いい読みだねヘカ君」耳元でそう言うダンタリアンにヘカも神様も気づいた。彼女はこの物語を体現しようとしている。



「馬鹿な事してないで、作品の話をするん! ダンタリアンさんと長居してるとヘカの貞操が危ないん」

「ヘカ君は見た目と違って貞操観念が強いんだね。驚いたよ。さて、それにしても二章の主人公君、中々に鋭いとは思わないかい? 千羽鶴の意味をおおよそ理解してしまった」



 このシーンは少しばかり力技でそれを知る事になるが、学校生活中千鶴を監視している彼であるからこそ、普段の学校生活中の千鶴と折り紙の鶴をおっている時に様子の違いくらいは把握がついていたんだろう。

 そして、千鶴の状態や学校生活環境、さらには過去の思い出から、彼は千鶴がやろうとしている事の行為も意味もおおよそ理解してしまった。



「後悔先に立たず。決意したコヤツは過去を越えてきよった。もしかすると千鶴を止めるキーパーソンになりえるかもしれんが、本人が言う通り、それが打ち水になる可能性もあると……この第二章は四話編成だが、章というよりは、ながーい閑話休題と言ったところかの、千鶴視点では説明や描写が難しい部分を第三者によって展開させておる」



 小説を書くヘカは驚いた。こんな長い、閑話休題があってなるものかと……



「何言ってるん神様、身体だけじゃなくて頭も子供になったん? まぁ元々神様は子供脳だけどん」

「一章の最後に繋がる物語だ」

「そんなの分かってるん!」

「この第二章、無くても一応物語は進むであろう? それをわざわざこれだけの分量を持って説明しておるのだ。分かるであろ? クライマックス前に深呼吸させてくれておるんだ」



 神様の言葉にダンタリアンは真顔になる。そしてヘカは意味を理解して頭を掻きむしった。使い捨てるには勿体ない池谷、そして第二章主人公の生活、第一章はあれで終わり、第二章は全然違うお話の短編集でも読んでいるような気分になっていたヘカ。

 よく物語の最後に入る前、一旦読むの止めたり、休憩してから読書に戻る人間が一定数存在する。それを休ませる事なくこの『ヒーロー』と冠した第二章をやってくれる。

 ダンタリアンはやはり何も言わない。それなので、今この場の主導権は神様が握る事にした。むぅと唸ってから語る。



「千鶴の行動をあえて客観的に読ませてくれる。ここで達成感と諦めを千鶴が抱いていた事を初めて知るわけだの。ノベルズゲームなら中々の高演出ではないか」



 いくつかの伏線を回収しないまま終えていた第一章、これを長い閑話休題。もとい外伝のような第二章にて回収しつつ最終の第三章へとつなげる。

 丁寧なカタルシス。



「それにしても、吉たんは何故こんなにも二人から魅力的に感じるん? 今だに分からないん。終末思想厨のアイドルなん?」



 ヘカの言う造語は存在しないが故、神様もダンタリアンもスルーしようとしたが、ヘカが虚ろな瞳をより虚ろにする。



「まともに語った事もない子を宗教的に信仰するのは意外と気持ち悪いんな。一つヘカが知ってる事は、サイコパスは男女問わず魅力的に見えるんって話は聞いた事があるん」



 本作第二章は『家族狂』という小説作品を思い出させてくれる。

 現実か妄想か、結局分からないのだが……人の妄想や夢は十中八九その人間の思考を越えるようにはできていない。



「神君、ヘカ君。少しは分かってきたかな? というより、もう分かってると思うんだよね。どうすればこの世界から抜け出せるのか……でもまだその時じゃないよね? アタシ達はこの『千羽鶴 著・千羽 稲穂』を読み終える義務があるわけだ。正直びっくりしているよ。アタシが寝ている間にただの素人がこんな小説を書いてしまう時代なんだとね。そりゃ年号くらい変わるさ」



 ダンタリアンは思い出したように、最初拾ったゲームソフトを神様に渡す。



「うおっ! 懐かしいの! 動物の森ではないか、今私はスマホアプリでプレイしておるぞ!」



 神様の話を無視して次の扉に向かってヘカとダンタリアンは向かう。その様子を見て神様は震えると叫んだ。



「貴様等! 私の話をきけぇ!」

本日は『千羽鶴 著・千羽 稲穂』をダンタリアンさんがほぼ一人で考察する回となりました。わりと専門用語を多発されたかと思いますが、昔のダンタリアンさんはそんな方だったそうです。今現在の古書店『ふしぎのくに』も負けてませんよぅ! 思春期の子供達の精神状況を表現するにあたり本作大変勉強になるんじゃないでしょうか? 半分が終わりましたが、さてさて三人はこの空間から脱出できるのでしょうか?

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