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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
31/111

悪魔の考察・少女達の代弁者

ふふふのふ^^ まさか4月になって雪が降るとは思いませんでしたねぇ!

もう少しだけお花見が出来るシーズンが伸びたと思うとそれはそれで嬉しいでしょうか?

 次の部屋に落ちているゲームを拾うのはダンタリアン。



「ポケットモンスターファイアーレッド、ふむ。アタシは知らないゲームだね」



 その発売時期からして、やはり先ほどの部屋より時間が進んだ。それを横目にヘカはこの部屋の真ん中にあるテーブルに腰掛けて言う。



「千鶴たん、鞄に折り鶴四百匹はやりすぎなんな。しかし、なんで人間は同じ人間をイジメるん?」



 ヘカの質問に神様は「さぁの」とお茶を濁すが、ダンタリアンはそうではなかった。



「良くも悪くも人間は集団生活する生き物だってことだよ」



 イジメという最低の行動。

 実際は、動物の本能的なところがある。集団のボスのいう事を聞き、右に倣えで八つ当たりや嫌がらせを行う。

 人間だけの行動ではない。



「そんなもんなんな。ヘカならやられたら千倍返しなんけど。この作品、抽象表現が多いん。不安定な年齢の子供の精神を表してるん?」



 ヘカは神様やダンタリアンという自分の上位互換者達がいるので珍しく質問を繰り返す。これはヘカなりの甘え方だった。

 それに気づいているダンタリアンは目を瞑る。そしてヘカの頬に触れる。ヘカが払いのけようとした時にダンタリアンは言った。



「千鶴君は、旅をしているんだよ。大人に、いや現実と向き合う為の旅かな? 彼女は自分の記憶をサルベージしているんじゃないかな? その描写がこの抽象表現なんだよ。そう思うと中々に興じゃないか」



 ヘカの頬に触れる手、そしてその人差し指を口内に侵入させようとするのでヘカはすぐに離れる。



「やめるん! さっきからダンタリアンさん、ヘカにエロい事するんわ。作品への同化を邪魔してるんな!」



 ヘカは馬鹿だが愚かではない。本作、『千羽鶴 著・千羽 稲穂』は詩的表現を存分に使われているが、この作品程違和感を感じない作品も珍しいだろう。

 世の全てに不安を感じている少女の心の叫び、これらを抽象的な表現で展開する事のライブ感や見事と言える。



「この作品一つ間違えると危ういの」



 神様が見知らぬ部屋を物色してその中に冷蔵庫を見つけたので、そこから麦茶を取りだして自分のコップにだけそれを入れて持って来るとそう言った。



「おや? 神君、君も同化させたくないという事が分かったのかな」

「まぁの。特にその感受性の強い馬鹿はえらい事になりそうだの、それ程にこの第一章は上手すぎる。上手い小説は危険だからの」



 神様の意味深な言葉にヘカは虚ろな瞳で聞き返した。



「どういう事なん? 全然分からないん」

「貴様は床に落ちていたポケモンでもやっておれ」



 第一章における展開は評価は分かれにくいだろう。王道でありながら、実にその流れまでが美しく、上手い。

 ヘカは部屋に落ちているゲームボーイアドバンスにゲームソフトを差し込むと神様に言われた通り、ポケモンを始める。



「人の目で見えているものなんて案外、不安定でいい加減な物かもしれないんな? それに比べてゲームは分かり易いん」



 ヘカが連れているヒトカゲがリザードに進化する頃、ダンタリアンはその様子を覗き込むようにして話し出した。



「それは、捕まえた怪物と共に旅をするんだね」

「言い方! ポケモンなん」

「まぁいいじゃないか、疑似的にイマジナリーフレンドを作る。そういう意味ではゲームをする事と、千鶴君が鶴を折る事は似ていると思わないかい?」



 イマジナリーフレンド。これは幼少の子供が存在しえない友人を作る反応、人間の集団組織で生きていく為のプラクティス機能に等しいと言われている。人間は生存本能、いやここまで上位の知的生命体故、生存戦略と言った方がいいのかもしれない。千鶴は死ぬ、死なないの天秤の上で生存戦略として折り鶴を折り続ける。



「だが、物事は全て有限だからの。言葉として無限は存在したとしても、いずれ終わる。その時に千鶴はどんな判断を下すのか……何も斬新でないのに先が読めない面白さというのがこの作品のポイントだの」



 二杯、三杯と麦茶を飲む神様。

 そんな様子を見てヘカは神様の前に自分のコップをドンと置いた。嫌そうな顔をしながら神様はヘカのコップに麦茶を注ぐ。



「全く、私に茶を注がせるとは無礼者めがっ」



 コンとダンタリアンはウィスキーグラスを神様の前に置く、それにも神様が麦茶を入れると何処から取り出したのか、焼酎をそれにドバドバ入れた。ヘカがドン引きしている中ダンタリアンはそれをクイっと飲み干した。



「う~ん、酒は命の水だね。そうだろう? 神君」

「まぁその気持ちは分からんでもないが、ヘカが真似する。やめい」



 ダンタリアンは神様のほっぺたをむにぃと引っ張る。神様が痛がらない程度のじゃれつき。



「千鶴君は特別じゃない、他と変わらない少女だ。凄くないかい? 主人公だけど、他の子達と同じく倣う。よく学校という異常な空間に関して観察してある。この作者君も目の前にいればアタシがナデナデしてあげるんだけどね」



 何のことはない展開なのかもしれないが、そこに確かに千鶴という少女を疑似的に体感できる。彼女はあまりにも普通、いや異常すぎる。主人公であるハズなのだが、何ら特別性を感じない代わりに本当にこんな女の子がいるんじゃないか? というリアルさ、彼女は特別死を望んでいるわけじゃない。

 現実世界に五万といる少女達の代弁者のように、読めば読む程に彼女の気配、名残りのような余韻が残る。



「死ぬ事への嫉妬、憧れ、海外では終末思想を抱く連中がいるだろう? アタシ等側に堕ちていく連中だね。それとはこの日本の学生の自殺とは全く違うものなんだよね」



 終末思想と自身が悪魔である事をかけたんだろうが、面白くもなんともないので神様もヘカも無視を決め込む。



「話してみるん。この国の自殺理由をなん」



 ヘカが言うとダンタリアンは神様のほっぺたをぐりんと回して手を離すので「痛いっ!」と神様は悲鳴を上げる。



「知りたいかいヘカ君?」

「知りたいん」

「じゃあアタシとあっちで一緒にお風呂に入ろうか?」

「なんでそうなるん? ダンタリアンさん、頭わいてるん?」



 ヘカの耳元でダンタリアンは呟く。



「この国が地獄よりも地獄らしいからだよ。夢も希望と何処か諦めさせられる教育の賜物さ」



 セシャトに似た顔、そして全然違う声と性格。セシャトは寄り添い作品を楽しませてくれるのに対して、ダンタリアンは煽り、挑発し、作品に引き込ませていく。言葉通り、彼女は悪魔のような小説の考察をする。



「千鶴は踏みとどまったんよ! それはどうなん?」

「大人になったって事かな? この文章の逸品なところは、一票の価値もない子供。この表現には心が騒がなかったかい?」



 神様は無言で頷く、そしてヘカは虚ろな瞳でダンタリアンを小ばかにするような顔で言った。



「何がなん?」



 ヘカは一般人の生活という物をしない。それ故、一般常識も下手すれば法律やルールですら知らない事が多い。



「この日の本ってところは成人すると選挙権があるわけだ。これを今の世は引き下げようとか考えているみたいだけどね。アタシは止めておいた方がいいと思うよ。そう、その成人の権利を持たない子供……という意味と、言葉どおり、何の責任も発言力ももたない子供とも取れるよね? 二つの意味を持たせているという事。これは実に素敵な言葉じゃないか」



 いつもなら否定するハズのヘカが、黙る。確かにいい言葉だと感じたのだろう。



「さて、千鶴の奴、千匹目の鶴を折り切ったようだが、どうなることやら、そこまでして死にたいと思うのもある意味才能だの」



 千匹目を前にした千鶴の行動は実に完璧主義的である。部屋の掃除と断捨離、姉の動向を伺った上での準備。

 そしてそれを躊躇させる学友の言葉。ダンタリアンは目をきらっきら輝かせながらこのシーンに関して語りだす。



「決意した人間の意識をゆさぶるのは悪魔の特権だと思っていたんだけど、この小説を読むと分かるね。遥かに人間の方が上手いじゃないか、千鶴君もイジメにあっている少女を助ける事もない、恐ろしいねぇ、人間って奴はさ」



 言葉とは裏腹にダンタリアンは実に楽しそうにケラケラと笑う。ダンタリアンは大人だ。ヘカは何となく自分やセシャト達とは違うと気づいていたが、千鶴がイジメられている少女に関して無関心で自分の死に関して優先する様を実に楽しそうに読んでいる。

 ヘカの中では悪魔なりの読書の楽しみ方なんだろうかと適当な事を考えていた。一章のオチを知らないダンタリアンは目の色を変えて結末を愉しもうとして、結末を知った瞬間。一瞬だけつまらなさそうにした。



「う~ん、中々に読み応えがあるね。さて、物語は終わったわけだけどこれで神君やヘカ君は元の世界に帰れるのだろうか?」



 わざとらしく首をかしげるダンタリアンからはあの世界中のあざとさを集めてできた少女、セシャトの面影を感じる。



「ヘカ達は何回も読んでるん。ダンタリアンさんは初めてだからオチまで読んで少しがっかりしたんな?」



 ヘカに見透かされていてダンタリアンは手を伸ばすとヘカのほっぺにキスをした。それにヘカは目を回しそうになる。



「なんなん! もうほんとになんなん?」



 手が速すぎるダンタリアンは指を指す。次の部屋に行く扉。それにダンタリアンは目を細くしてから頷くとこう言った。



「じゃあ、次はアタシが先陣切ってみようかなぁ」



 そう言って扉を開けるとダンタリアンはその扉に吸い込まれていく。あっけに取られていた神様とヘカも後を追う。

 その瞬間、神様が呟いた。



「馬鹿、ダンタリアンは何かをしでかすかもしれんの」

「かもじゃなくて、ヘカのほっぺにチューしたん! それ以外もセクハラのオンパレードなんよ!」



 プンプンと怒りながらヘカはダンタリアンが消えた扉を開けた。

『千羽鶴 著・千羽 稲穂』皆さん、読まれましたか? 当方でも大分読み返し、現在だから見えてくる世界感があります。本作における一番のイメージは物語やキャラクター以上に千鶴さんの異常なまでのリアルさでしょうか? 当方の文芸部さんも高校生ですが、やはりこんな女の子がいるらしいですよぅ!

ダンタリアンさん、私の顔でセクハラを働くのは少し閉口してしまいますねぇ^^

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