心の病気と梅酒の話
ご存知かもしれませんが、ツイッターのアカウントロックをしてしまいました。私の場合は当方で対処を行ったので1日たたないくらいで解除頂きましたが、長い時は一か月程かかるようですよぅ!
皆さん、お気をつけくださいね!
神様はガリを食べながら、セシャトをまじまじと見つめる。
神様は九カンのお寿司を既に食べている。
(やっぱりジンベイザメさんを依り代にしているので御魚が好きなんでしょうか?)
セシャトはまだ一つ鰯のお寿司が残っている。そんな中、セシャトは神様に聞いてみた。
「心の病気というものは一体なんなんでしょうね? 『蛭子神 著・三上米人』における主人公のお父さん。病んでしまいました。それは治るものなんでしょうか?」
セシャトは見た目に対して精神年齢は非常に高い……が、知らない事に関しては非常に知識は幼い。
自分の子供を殴って黙らせる父親というものが病気だなんて簡単な事で片付けられてしまっていいのか?
「そうだのぉ……例えば、代理ミュンヒハウゼン症候群。これ何かがこの主人公の父親の病気に近いかもしれんの」
俗にいう精神病、精神疾患と呼ばれている症状に関して、自傷行為というのが有名なのだが、それが自分ではなく、他者や物に当たるという物である。
覚えがないだろうか? 自分自身、あるいは周りに幼少期時代、異様に物を壊したりしてしまう衝動を起こす人物。
あれらはまだ自制心が育ち切っていないが為の反応ではあるが、この衝動がストレスにより大人でも引き起こされる症状がこれらに近い。
ちなみに、幼児虐待の数パーセントも代理ミュンヒハウゼン症候群であるという統計が出ている。
「悲しすぎます……」
「まぁ、ストレスで子殺しをするのは人間だけではないからの、ほ乳類の育児放棄も別段自然界でも珍しい話ではない……まぁ、あれだ。この世は地獄。あの世は極楽浄土、仏門の考えは強ち間違ってはいないのかもしれんの」
神様が宗教を語るというのは非常に滑稽な話だなと本来のセシャトなら思うかもしれないが、中々にショッキングで鰯のお寿司をお箸で転がしていた。
「セシャト、行儀が悪い。はよう食べんか」
「は、はい!」
まさに、ファミレスに来た親子のようだった。子供が食べ物で遊ぶのでそれを叱る母親、そんな様子に一呼吸入れたのは大将だった。
「何か、焼き物でも出しましょうか?」
「うむ、気が利くの大将! 私はサザエのツボ焼き等が大好きだぞっ! あのグロテスクな触手みたいなのが出てくるのがまたたまらんのっ!」
そう神様が言うので大将はサザエを二つ、網にのせて焼き始める。しばらく神様とセシャトはそれを眺めていると塩がぶくぶくと鳴りだす。そして中の身、そして内臓が飛び出してきた。それを見てセシャトは目を背ける。
そして神様は嬉しそうに吠える。
「おおぅ! 上手そうな臓物がでてきよったわ! この臓物を咥えて噛み切るのがまたオツなんだよのぉ!」
スプラッターにしか聞こえない事を神様は言って目を輝かせる。セシャトは少しばかりこの見た目が強烈な食べ物は苦手な節があった。
そこで話を変えてみることにする。
「神様、その代理ミュンヒハウゼン症候群というのは妹さん、奈菜美さんに対しては起こらなかったのは何故でしょうか? 本来であれば自分以外に対して発症するんですよね?」
セシャトの真剣な質問に対して、神様は醤油とレモンを垂らして、サザエの内臓にかぶりついた。磯の香が店内に広がる。
見た目のエグさに対してなんとかぐわしい香りを放つのかと……セシャトも喉がごくりと鳴った。
「それはあれだの、この父親の症状が代理ミュンヒハウゼンだった場合と仮定して答えるけどの、妹の奈菜美は父親のストレスギミックにはなりえなかったという事ではないのか? 同じ泣きわめき、我儘を言ったとしても、息子は殺意が湧くが、娘には父性がめばておったとかの」
神様がちゅぽんとサザエを食べ、その汁も美味しそうに飲むので、セシャトも勇気を出してサザエのつぼ焼きを自分の小皿に取る。
「そこが分からないんです。なんで、主人公の息子さんにはそこまで酷い仕打ちをしたのかなって……」
セシャトはレモンをかけると器用にお箸で中身をくりぬく。内臓を外して身を食べる。
「あっ、これおいひぃ!」
ハフハフと熱いサザエを食べるセシャトに、神様と大将がギロリとにらむ。セシャトの小皿には緑色のこの世の物とは思えない内臓を食べろとそう視線で指示される。
セシャトは拒める空気ではないかと内臓を箸でつまむと目を瞑ってそれを食べる。咀嚼してそれが非常に美味しい事に改めて驚いた。
「お、おいしいですよ! 大将さん」
大将はセシャトと目を合わさずに手元のまな板を見ながらぎこちなく笑った。なんだか、このお寿司屋さんとセシャトの距離はやや縮まったようにも思えた。
「母親が息子を、父親が娘を溺愛するというのはよくある話だの……まぁそれは単に異性だからという意味合いもあるかもしれんが、よく言われている事として、本能的に自分の遺伝子に近い子供を溺愛する傾向にある……と言われておるの」
実際、娘は父親に、息子は母親に似るというのは根拠がない……その為、神様が言うように遺伝子が似ているから溺愛しているのか、あるいは遺伝子が似ているが故に同族嫌悪で虐待をしているのか……そういった事も考えられなくはない。
「本作は正直、短編と呼べる長さだと思うのですが、主人公の名前が第一話において全く分からないというのは画期的ですねぇ」
俺という主人公、作者曰く書く小説は一人称視点で展開していくのだと言う。そのポリシーと意義は簡単に言えば同化現象。
主人公というテラーによって作品に引き込みたい。あるいは引き込んでもらう。そのため、この一人称の主人公に関しては年齢、精神、教育を受けた環境。彼は知っている事は知っている。知らない事は知らない。
そう言ったリアルな存在を小説の世界感に造形しているのである。
「一人称の同化のぉ……これはバイノーラルを使えば、実に入りやすいんだがの」
少し前から流行っている聞くお化け屋敷等をご存知だろうか? ヘッドフォン等を用いて両方の耳で聞こえ方を変え、臨場感と想像の立体感を出すもの。
「あぁ、確かにこの作品は音声作品としても面白いかもしれませんね!」
ちゃぷちゃぷと神様は焼酎を再びお湯で割る。梅干しを少し香るとそれを放り込む。セシャトはお酒を飲む事が出来ないので、神様が口にしては目を瞑り美味しいという事を身体全体で表現しているのを見てやや閉口する。
「……神様ずるいです」
神様は片目を開けると、大将に言う。
「大将。かっぱ巻きにワサビ巻きを頂こうかの」
「へい、ただいま」
神様は大将が巻物を用意している間に小さな焼酎の瓶を空にする。そして、セシャトを見て見ぬふり、さらに大将に注文した。
「大将、梅酒は飲めるかの? 梅入りでの」
「へい」
奥から年季の入ったカメを取り出すと柄杓で一杯。「飲み方は?」と大将が聞くので神様は「でっかい氷を入れとくれ」
と返した。
それに眼光を光らせる大将。それを受け流す神様。二人の間で何かが意思疎通され、コトンと大きなグラスに入れられた梅酒が差し出される。
甘く、そして梅の香りが店内を包む。これはセシャトも美味しそうだなと正直思った。自分が下戸でなければこういう甘いお酒を嗜んだのだろうかとセシャトは思う。
「ほれ、セシャト。この梅をやろう。甘くて酒の味がついてうまいぞぅ! 本来、私が食べたいところなんだがの、そんな指を咥えてみられたらしかたがないであろう?」
セシャトは神様に貰った梅酒の梅を食べて、少しお酒が香る事に大丈夫かなと思いながらもそれを咀嚼する。
「梅酒は昔。女子供の酒なんて言われておってな。子供でも飲んでいた時代があったそうなの……梅酒という果実酒は日本独自のもので、最近はバーのカクテルベースに海外でもよう使われておる。シアの奴が異常なくらい好きで沢山つけておるの」
言われてみればシアは果実酒作りが趣味だったなと思い出した。漬け込んだ果実をくれるのでよくジャムを作ってこの目の前の神様に振る舞った事もある。
「神様、これすっごく美味しいです! あと身体が温まりますねぇ!」
梅酒は基本的に焼いたお酒、蒸留酒で作られる為高い度数のお酒である。案外、普通に子供の頃から飲んでいる。咳止めとして服用なんて家も珍しくはないが、お酒である以上二十歳になってから飲むように心がけて頂きたい。
ただし、セシャトが食べた梅酒の梅、これは火を通して梅ジャム等を作る際はアルコールが飛ぶので未成年でも安心して食せる為、こちらを選ぶようにして頂ければよからぬ事故は免れるだろう。
コトンと神様は梅酒を飲んで気持ちよさそうな顔をする。やはり、神と名乗るだけあってお酒には目がない。
「神様、子供が突然、身内に対して傍若無人な態度を取るようになった時は一体何があったんでしょうね?」
主人公の妹、奈菜美。彼女は病んだ父親の寵愛を受けて育ってきた。されど、ほぼ家庭崩壊している現在においてなんとも酷い態度をとる。
「うむ、それなんだがの。私の生み出した子等の中でも一人おるであろ? あやつ、生まれた瞬間は確かもう少し可愛かったような気がしたんだがの」
そう、古書店『ふしぎのくに』人気投票第二位、ヘカ。今だ彼女のファンが増えていくのもナンセンスではあるが、神様の記憶の中ではヒヨコのように神様について来て、愛らしい姿。
「あれかの? ジャンクフードの食べ過ぎて今のあ奴になったのかの?」
「知りませんよぉ! 神様、全然『蛭子神 著・三上米人』のお話まださわりですよぅ! なんだか諦めてしまった主人公の後悔してる部分です……ここから面白くなるんですからねぇ!」
ややテンションの高いセシャト。それを見て神様は少しばかり上目遣いに聞いた。
「御主、もしかして酔っておらんか?」
「酔ってませんよぅ!」
「うむ、酔っておる奴の常套句だの……この第一話、しっかり覚えておくと見えてくる世界が違うからの!」
『蛭子神 著・三上米人』本作は短編ですので、1話1話を結構深く紹介できますねぇ^^
導入部は主人公の生活環境や性格形成に関しての物語が続きます。主人公を取り巻く世界感とそれに関わる人物が限定されているので、一人称で書かれるスタイルが非常に分かり易いですね!
最後のお正月休みに一気読みされてみてはいかがでしょうか?