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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第四章 『千羽鶴 著・千羽 稲穂』
29/111

初代古書店『ふしぎのくに』店主登場

さて、お花見シーズン到来です。4月、進学、就職、出会いに別れですねぇ! 皆さんはどんな出会いがありますでしょうか? こっそり私に教えてくださいねぇ! 私もこれからどんな物語と出会えるのか楽しみでしかたがありませんよぅ!

「貴様っ! ペットショップは卑怯ではないかの? ペットショップはのぉ!」

「神様だってディオを使ってるん。人の事を言えないん!」



 神様とヘカは古書店『ふしぎのくに』母屋にて随分古い、テレビゲーム、初代プレイステーションの対戦ゲームを行っていた。

 4月の紹介作品に関して話し合うハズが、セシャトが断捨離中に神様が初代プレステを見つけて今に至る。ヘカの嫌らしいハメコンボの前に神様が連敗に比例してオヤツを総取りされた中、セシャトの気配が消えた事を二人は知らない。



「もうよい! 貴様とはゲームを二度とせん」



 コントローラーを投げつけ神様は「セシャト、茶だ!」と呼ぶもセシャトからの返答はない。



「何をしておるんだセシャトのやつは」



 そう言って神様は仮眠室から出ると扉を閉めて戻って来る。



「おい、馬鹿ぁ! ばかぁー」

「馬鹿じゃないんヘカなん。神様いちいち五月蠅いんよ」

「いいから外を覗いてみろ」



 ハァとため息をついたヘカは扉をガチャりと開ける。そこは二人の知っている古書店『ふしぎのくに』母屋ではなかった。神様とヘカがその謎の場所に入った時、床に落ちている銀色の鍵を見つけた。



「セシャトさんが首から下げてるやつの色違いなん」



 そう言ってヘカが拾おうとした時。


『I want to be reborn』


 声が聞こえた。それはやや低めの声だったように思えた。その場にいなかったハズの三人目の人物。



「セシャトさん……なん?」



 目の前にはセシャトらしき人物。いつもの制服に露出が増えたような衣装をきて羽のような上着を着ている。



「だーんたりあーん!」

「なんっ!」



 謎の奇声と共にセシャトらしき人物はヘカを抱きしめると身体のあちこちを触る。



「やめるん! ヘカは百合っ子じゃないん!」



 嫌がるヘカにセシャトらしき人物は口づけをしそうになる中、それを制止したのは他でもない。神様だった。



「まさかな、ダンタリアン。貴様なのか?」



 ヘカにキスするのを止めて、ダンタリアンと呼ばれた女性は神様を見る。片手でヘカを抱き寄せながら不適に笑った。



「そういう、君は神君か? 随分可愛らしくなったじゃないか」



 神様の知り合い。それに神様は今にも泣きそうな顔をしてからこう言った。



「会いたかった」



 取り残されたヘカは頬を膨らませて怒る。



「誰なん! この節操のないセシャトさんの偽物は」

「アタシか? アタシは古書店『ふしぎのくに』店主のダンタリアンだよ。本来はここにいるハズのない存在だね。まぁ大体君達がここにいる理由は分かる。平成が終わるんだね?」



 ダンタリアンが言うには、平成が終わる。その歪が、終わってほしくないと思う誰かの願いが、この異次元を作り出した。



「どうすればいいん?」

「そうだな。どうするもこうするもないけど、アタシ等はネット小説を読み込んでいくのが仕事じゃないのかい? なら、読み合おうじゃないか! ネット小説を」

「ネット小説って言い方古いん! 今はweb小説なん!」



 そう言うヘカの小さな胸を突然ダンタリアンは握る。



「ななんっ!」

「小さいなりに、悪くない手触りだな。気に入ったぞヘカ君。アタシを古い存在だと思わない事だよ」

「手癖が悪すぎなん!」

「戯れはそのくらいにしておけ、ようは月間考察を行う事がこの空間からの脱出に繋がるのだな?」

「そういう事だよ。過去よりも今を願えば、蜃気楼は消えるものさ。時を越えた作品考察、実に楽しそうじゃないか、教えておくれよ。君達は今どんな物語を楽しんでいるのか」



 ヘカがスマホ、神様がタブレットを取り出すのでダンタリアンは目を丸くする。見た事もない道具にそれが平成最後の携帯電話であると知ると感慨深そうにため息をついた。



「たかだが二十年そこらで時代は変わるものだね」



 スマホを持っていないダンタリアンの為に、神様は何もないところから一冊の本を取り出した。そのタイトルをダンタリアンが読む。


『千羽鶴 著・千羽 稲穂』


「ふぅん、アタシの時代とタイトル的なところは変わらないじゃないか……文章も非常に上手いじゃないか、私の知っている時代では中々見れない文才だ」



 ネット小説という時代、本当に殺人的な文章で書かれた小説が多かった。そんな中でオススメの作品を探すのはまず文章が上手い事ありきである。が、今のWeb小説はどの作者もしっかりとした文章を書き起こす為、ダンタリアンとヘカ達はちょっとしたジェネレーションギャップを感じる。

 突如主人公に自殺を促す吉との会話を読んでダンタリアンは口角が緩む。



「へぇ、この作品面白いね。人はガンで死ぬのが綺麗に死ぬ。人類、いや生物はガンで滅ぶと昔学者が言ったものね」



 ダンタリアンのその発言に神様とヘカは呆れる。それは平成初期のお話。今や、ガンは治る病気なのだ。



「それがの……状況次第では今の技術なら深度の深い肺癌でも治りよる」

「神君、それマヂ?」

「おおマジだの」



 それを聞いてダンタリアンは無邪気に笑う。



「じゃあ、人間は飢えて滅ぶね。飢えと渇きは一番醜い死に方だよ。アタシは死ぬならそうだな、銀の弾丸で撃ち抜かれて死にたいかな」



 自分の指を眉間に当ててケラケラと笑うので神様は「やめい」と止める。それが面白くないのはやはりヘカ、神様とダンタリアンは見知った仲、お互いの心を理解しているように語る。



「千羽折ったら死ぬん。気が遠くなる話なん。そもそも、死にたいなんて誰でも一度は思うもんなんよ」



 ヘカが物語に物申すような事を言うのでダンタリアンは神様の方からヘカを見て嬉しそうに笑う。



「ならヘカ君、アタシと一緒に死ぬかい?」

「死なないん!」



 即答。それにクスクスと笑うダンタリアン。ヘカは自分が会話でマウントを取れない相手、というより思考回路が全く読めない存在に初めて出会った。



「ヘカ君は生きる理由があるんだね。この千鶴君は思うに、生きる理由付けとこの世代特有の病的な思考に支配されているのかもしれないね」



 物語を楽しそうに読むダンタリアンにヘカはセシャトを重ねて見る。神様はというと、何とも懐かしそうな表情をしていた。



「そもそも、生きるのに理由なんてないからの、生まれて来たからしかたない。生きるしかないんだ」



 神様までも、当たり前の事を言ってのける。それは老婆心から来るもの、千鶴がもう少し大人になれば嫌でも分かるその感覚。物語のキャラクターである千鶴に神様とヘカは、さも彼女の声を聞いたかのような態度を見せた。



「神君とヘカ君は、ゾーンに入るのが早いね。確かにこの作品は千鶴君が本当にいるような気持ちになるよね……あるいは、作者君のかつての心情だったりするのかな?」



 実に感慨深いフレーズがある。自殺は悪でも善でもないと、法の下であれば自殺は何の罪にも問われないが、関係者に大きな迷惑がかかる事を鑑みればどちらかといえば悪なのかもしれない。



「そうだの、作品の地の文というより千鶴の思考が実にしっくりくるの、頭の良い子程喋らないという人物像を文章でしっかり表現しておる。恐るべきところは吉だな」



 それに関してヘカも頷き、ダンタリアンは実に面白そうに笑う。そして意味深な言葉。



「悪魔としては見習いたいくらいの話術だと思うよ。実に吉君は、中毒的な話をするね。その実あまり正しいとは言い難いのに、なんともそれっぽく感じてしまう。千鶴君みたいな女の子はコロっと騙されちゃうくらいにはさ」



 そう言いながらダンタリアンは神様の頭を撫で、肩、尻と触り「悪くないな」とこれまた意味深な事を呟く。神様はそういった行動に対してヘカと違い反応しない。



「ふふっ、そうだの。誰だって理想の自分でありたいと思うからの、その理想にかけ離れている事に絶望し、そして選択肢として死ぬという事が考えられるようになってきた頃でもある。これは成長している少女を垣間見るといえば少しは美談かの?」



 神様とダンタリアンは見つめ合い。そして大きな口をあけてワハハと笑い合う。馬鹿笑い。それにダンタリアンは涙まで流す。それをこすると不敵な笑みを見せる。



「腐ってはないようだね神君」

「貴様もな」



 なんだか、大人の会話に入れない子供の気分であるヘカはエナジードリンクでも飲もうかと鞄からそれを取りだすとめざとくそれをダンタリアンに取り上げられる。



「何をするん!」

「これは、ヘカ君にはまだ早そうだ。牛乳を飲みたまえ」



 そう言って何処から出したのか、瓶の牛乳をヘカに手渡す。それに怒ろうとしたが、怒っても目の前のダンタリアンは喜ぶ事にヘカは黙ってそれを一気飲み。そしてその瓶をダンタリアンに返すと手品でも見せるようにその瓶を消してみせた。



「神君を取られて大嫉妬のヘカ君に質問しよう。友達は必要かい?」



 二話の枠外の質問。この答はあってないようなものだ。悪魔の証明をもってくる事で物語へ深みと興味を飽きさせない手法であるともいえる。それにヘカは腕を組んで口をへの字にしながら考える。



「必要なんな? 誰だっていないより、いるほうがいいん。千鶴は自分が意外と救われている事に気づけてないん。ヘカは友達は来る者拒まず、去る者追わずなん!」



 ヘカがどや顔でそんな事を言うのでダンタリアンは嬉しそうにヘカにこう言った。



「じゃあこの場にいないセシャト君という子はもうどうでもいいのかい?」

「は? 馬鹿なん? セシャトさんはヘカの前から去ったんじゃないん。ヘカと神様が変なところに迷い込んだん!」



 千鶴とは真逆の考えを持つヘカ、それに神様とダンタリアンは神経が図太い、ダンタリアンは心臓に毛が生えている少女達がどう『千羽鶴 著・千羽 稲穂』を読むのやら楽しみで仕方がなかった。



「おや? 扉だ。先に進んでみようか」

はじまりましたねぇ! 平成最後の紹介小説『千羽鶴 著・千羽 稲穂』。これは人間をテーマにした物語です。私小説のようで、もちろん創作物であり、実に引き込まれます。それ故、本来存在しない初代さんが現れたんでしょうか? また私はお留守番なんですねぇ……・もしかして、私人気ないんでしょうか?

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