ダンタリアンの4月1日
本来ないハズの意識、本来無くしたはずの体、そしてあの頃に置いてきた心まである。
これはありえない、夢・幻。明日の天気予報は? と聞かれて槍が降るなんて事を的中させる程度にはおかしな事。
これはもしかすると微睡の中なのかもしれない、であれば合点がいく。暗い部屋でパソコンの画面の光に照らされながら、自分が運営していたハズのホームページは存在しないのに、自分は存在している。パソコンに表示された日付を見て女性は考える。
「おや、えらく近い未来にやってきたものだ。アタシが消えてからどうやら二十数年、それでもこの古書店『ふしぎのくに』はいまだに健在ときた」
クスクスと笑う女性。
そして古書店『ふしぎのくに』の香りを吸って懐かしんだ表情を見せる。服をがさごそとさぐるが目当ての物は見つからない。
「う~ん、PHSはさすがにないか……さてアタシが呼び出された理由はなんだろうね。老害に今更何をさせたいのか、実に興味深く度し難い」
パソコンを見ると、興味深い物を見つけた。ツイッター、女性が限界していた時代にはなかったコミュニケーションツール。それが一体何を示すところか、彼女は瞬時に理解した。
「掲示板、チャットツールの進化系サイトかな? 成程、成程。アタシ色に染めてあげよう」
鏡を取り出すと笑ってみたり表情を作る。
ふと女性は今が何月何日かふと思い出した。
2019年4月1日、午前零時。
「あぁ、アタシは虚構の存在として現輪したわけか……いやはや、ならば消えるまで霞は肌を潤わせ、いきとし生ける者に恵みを与える。一日限りの店長業務を楽しませて貰おうかな! 何々? 煽られたり人募集。とんだマゾヒストが多いようだね。この時代は」
悪魔は歌う。宵闇と共に在りしレジナを称えるように、短い宿命をあざ笑うように、制服をキチンと着こなし、光明に歯向かうように、真っ黒なブラックコーヒーの香りに酔う。そこにブランデーを入れて飲むや否や、彼女に色が灯った。
淫猥な桃色の御髪に、陶器のような白い肌、そして全書全読なる神と同じ色の瞳、彼女は娼婦のような怪しげな色気を誰もいない古書店『ふしぎのくに』母屋で醸し出し、そして半目になると何かを考える。
「さぁ、平成最後の子羊達、アタシと遊ぼうか?」




