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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第三章 『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』
26/111

狂気の考察、狂気のはじまり

杉花粉が終わったと思ったら次はヒノキが始まったらしいですね!

私は甘いスイーツと珈琲を飲んで予防をしていますので、花粉症にはまだなっていないんですよぅ!

でも大変みたいですね! 我慢せずに病菌でお薬をしっかりもらって花粉症の季節を乗り切りましょうね^^

 早朝、まだ太陽は目覚めず辺りは暗い。

 そんな中で目を覚ました夏南はスマホを開き、『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を読み始める。

 狂気、いや悲劇の双子は絆を愛を深める。

 彼女達は血塗られる程にドレスが彩られ、美しくなっていく。



「これってなんだか悲しいな」



 彼女等の決意は止まる事を想定されていない。いや、もはや許されていないと表現する方がいいのだろう。破滅の道を共に歩む事しか考えていない。それは第三者からすればなんとおぞましい事か……その瞬間、なんとも上品な香りが夏南の鼻をつく。

 音があればツンとした。



「早起きっすね」



 すぐに横に欄がいる。遠目にはヘカがあおむけに大口を開けて寝ている。夏南が目覚めたのは十分程前、その前から欄が起きていた事になるのか……



「悪魔である陽葵さんは天使である紗雪さんを求めてるらしいっすけど、おかしくねーすか?」

「どうして?」

「悪魔は神のやり方が気に入らなくて天使から堕天してるんすよ。そしてその悪魔に事ある毎に粘着するのが天使っす。だから陽葵さんと紗雪さんは逆じゃねーすか?」



 欄のこの質問は所謂、悪魔の証明。どっちとも取れる質問を夏南に仕向けている。早朝で糖分が回っていない夏南だったが、ヘカと欄と一緒にいる時間が長かったからか彼女等と話すだけの頭の柔軟性は訓練されていた。



「そうかな? 私は文章通りだと思うよ」



 今まで欄やヘカの言葉に負けっぱなしだった夏南がそう言うので欄は面白そうにその話の続きを聞いた。



「天使と悪魔、人を沢山殺しているのは天使じゃない。なら、紗雪は天使でおかしくないと思う」



 元来、神。

 そしてその使いである天使はことある毎に人間を殺す。それはそれは恐ろしいくらいに、片や悪魔はどうだろう? 契約の元魂を奪うかもしれないが、約束を守り人間と共にある。悪魔とは人間らしい陽葵にぴったりなのだ。これは簡単には欄も否定できないような一手を指した自信があった。



「成程っすね」



 納得してくれた。それになんだか夏南は嬉しくなる。そして欄の息遣いが耳元から聞こえ、囁かれる言葉を聞いた。



「少し出ねーすか?」



 ガーガーとイビキをかきながら寝るヘカ。半ば強引に欄に外に連れ出された夏南はまだ吐く息白い朝方、自分の手を引き先導する欄に何だか少し恐怖を感じていた。



「乗ってくださいっす」



 二人乗りの丸みを帯びた古い車。夏南は車の知識はないので何となく欄に聞いてみる。



「ポルシェですか?」

「ミウラっす」



 そうなんだ。全然分からないというのが夏南の正直な気持ち、言われるがままに車に乗ると、今まで味わった事のないエンジンの振動音。そして荒々しくそれは走り出した。欄から手わたされたのはインカム。それを取り付けると欄の声が聞こえる。



「エンジン音うるせーので、これ無いと隣り合わせてても会話できねーんすよ。すみませんっす」



 とんでもない車に乗ってしまったのかもしれないと夏南は思う。そんな夏南の手にそっと触れて欄は夏南を見つめる。



「えっと……欄さん?」

「陽葵さんは穢れているって言ってるっすけど、自分もまぁまぁ穢れてるっすよ。知りたいっすか?」



 また自分をからかっているのか、欄は夏南の手に重ねている自分の手を離すと運転に集中する。しばらく会話がないので、夏南はスマホのゲームを起動、ログインボーナスを受けている画面で欄は運転しながら言う。



「なんのゲームすか?」

「えっと……バンドリってゲームで……」

「あぁ、良い歌あるっすよね」



 欄は何でも知っているかのように答えるが、話が続かない。そんな中、ギアチェンジをした欄は首都高に入った。



「欄さん、何処に行くんですか?」

「リドルって作品構成を知ってるっすか?」



 夏南は、今まで読んできた小説作品数百冊の中でそう言った作品もいくつかはあった。当然理解している。



「結末を読者にゆだねるタイプの作品ですよね?」

「まぁそうっすね。自分はヘカ先生がいる建前あまり言わなかったんすけど、『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』この作品。陽葵さんがうだうだグチグチ言ってるだけじゃねーすか? 少なくとも、自分はそう思うっすよ」



 各項において陽葵の葛藤というべきか、深層心理の描写を含めて物語の半分くらいは彼女の視点で話は進むが、彼女は一貫してはじまりから現在公開されているところまで言っている事は変わらない。



「それって……」

「紗雪さんは変わっていく、変わろうとしている努力を感じるんすけど、陽葵さんはそうじゃないんすよ。彼女のコンプレックスは相当に根が深いんすね。自分を排する事で、自分を保とうとするタイプなんすよ。多分、陽葵さんは作者さんのアバターっすね」



 セシャトでもヘカでもない。テラーでも書き手でもない欄の率直な意見。それになんと返していいのか夏南は分からない。

 いや、夏南には分かっていた。

 何を言いたいのか……さすがにそれはいけない。欄にこれ以上口を開かせてはいけない。それを夏南は何となく理解していた。

 双子、自分と、なりたかった自分。なりたかった自分は自分を慰めてくれる。これは大いなる、自己摘発をしているのだと、そう欄は突飛した事を言おうとしている。確かに、実のところ陽葵は延々と同じ事を繰り返している。

 ある種、宗教的に決意をして病み、自分の価値について再確認し紗雪に必要とされる言葉を聞いて再度決意。その繰り返し……

 もはや、病的と言えるレベルで彼女はそれを生活の一部にしている。



「紗雪に依存してもいいじゃない。人を殺した罪悪感で心労が絶えないんだから、私はリアルに思うよ」

「本当にサイコホラーを書きたくて、バットエンドにしたければ、ここいらで妹を殺してしまえばいいんすよ。この二人は作者の犯してはならない領域。そう思って読むと今までの考察とは違う物が見えねーすか?」



 ダメ。それ以上話してはいけないと夏南は思う。どうかしている欄は淡々と話しながら、ある手巻きの煙草を咥え、それに高価なターボライターで火をつけた。異様な匂いが車内をつつむ。それは双子の母が吸っていたガラムの煙草なんじゃないかと……なんとなく分かってしまった。



「もしかして欄さんは……」

「そうっすよ。紗雪なんていねーんじゃねーすかねとずっと思ってるっす」



 ダブルキャストである可能性を欄は考えている。ここまで紗雪に依存する陽葵の行動と思考からして欄は分裂症を今だに疑っている。

 明け方の首都高を抜けて、欄の車は山の方へと向かう。欄と夏南、若い女性が乗っている事を見てから車で遊んでいる男性が欄の車に絡んだりしたが、欄が少し粗い運転を見せると食い下がってはこない。



「自分、この小説の鼻につく表現。嫌いじゃねーんすよ。気持ち分からなくはねーんす。自分も全うな生活をしていたら女子中学生くらいにはこんな文章書いてたかもしれねーっすね」

「欄さんはどんな生活をしていたんですか?」



 話す事もなく、目で追っていた『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』は実家の焼失と両親の死を知った陽葵が一つ悩みのタネが無くなった事に安堵する取り調べシーン。

 警察は二点、陽葵の薬物使用、実家の火事と両親の死について疑っているような反応を示す。いよいよ物語も大詰めだろうか?

 陽葵は退院してから、紗雪は只今より取り調べが始まる。夏南も二人はどうなってしまうのかドキドキしながら次のページを開こうとした時。



「着いたっすよ」



 そこは東京の街を展望できるような場所。もうじき日の入りなんだなと夏南はその夜の闇が払われる今際の時間をしばし楽しんだ。



「欄さん、紗雪だけなら取り調べで色々ボロが出ちゃうんじゃないかな?」

「大丈夫っすよ。紗雪は壊れてるんす。事件につながるような事は言えねーっすよ。それより弁護士の家っす。抱えている案件によっては命が狙われる事の一つや二つはあるっすよ。ある事件を担った弁護士一家がみんな殺された事件ありましたよね……嗚呼、さすがに知らねーっすか」



 実のところ、陽葵と紗雪が疑われるというよりは、二人を保護する方向に動く方が可能性が極めて高い。陽葵のカルテに至っても薬物反応の有無に関しては既に見知っている事だろう。



「彼女等は、容疑者より、擁護対象の方が確率が高いんすよ」



 成程確かに、場合によっては弁護士は恨みを買う職業のように夏南も思えた。やはりこの欄達と話すのは楽しい。



「確か、夏南さんはあのショタ……秋文君でしたっけ? あの子にこの作品を読ませたくないから自分達と考察をしてるんすよね?」



 忘れていた。

 確かに、最初はそんな理由だったかもしれない。内容的に少しショッキングな部分が多いので今だに小学生の秋文には読ませてはいけないんじゃないかとは思うが、そんな事より、自分が本作を愉しむ事を優先していた。



「うん、でもヘカと欄さんと一緒に『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』を読む事に夢中になっちゃってたよ! だって、凄く続きが気になるじゃない。二人と違って、私はこの作品の独特の表現も好きだし……」

「そうっすか」



 欄は隣に立って明けようとしている町の光を見下ろしながら、夏南の背中をドンと押した。最初、何が起きたのか分からなかった。



「えっ!」

「……さよならっす。ヘカ先生に友達はいらねーんすよ」



 あの嫌な目をしている欄を見上げながら夏南は落ちていく。先ほど町の光を見ていた場所だ。これは多分助からない。そんな事を他人事みたいに夏南は思って我に返った。



「きゃああああああ!」

さてさて『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』に合わせた紹介小説ですが、180度物語の表情が変わりましたねぇ^^ 一体何が起きたんでしょうか……次回で最終回となりますが、今一度『Snow White Lunatic 著・天童美智佳』と本作紹介小説で復習してみてくださいねぇ!

今回はタブーについてのお話でしたよぅ^^

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